• 著者: Tatyana Vagner, Cristiana Spinelli, Valentina R. Minciacchi, Leonora Balaj, Mandana Zandian, Andrew Conley, Andries Zijlstra, Michael R. Freeman, Francesca Demichelis, Subhajyoti De, Edwin M. Posadas, Hisashi Tanaka, Dolores Di Vizio
  • Corresponding author: Dolores Di Vizio (Department of Biomedical Sciences, Division of Cancer Biology and Therapeutics, Cedars-Sinai Medical Center, Los Angeles, CA, USA)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-07-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30108686

背景

液体生検は、低侵襲ながんゲノムプロファイリング手段として急速に発展しており、循環腫瘍DNA (ctDNA) や循環腫瘍細胞 (CTC) が主要なターゲットとして研究されている。しかし、ctDNAは平均約160 bpと断片化しており、特に早期がんや治療応答中にはがんゲノム情報の感度が低いという問題がある。また、CTCは多くのがん種で希少であるため、検出が困難な場合が多い。これらの課題から、より高感度かつ網羅的に腫瘍由来のゲノム情報を取得できる新たなバイオマーカー源の探索が求められている。

細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle) は、細胞から放出される膜結合性の小胞であり、そのサイズ、生合成経路、膜組成、カーゴ、機能において多様性を示すことが知られている Raposo et al. JCellBiol 2013。EVは、タンパク質、脂質、RNA、DNAなど多様な物質を内包しており、循環分子の貯蔵庫として機能し、バイオマーカーの優れた供給源となる可能性を秘めている Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。特に、大型EV (L-EV: large extracellular vesicle) は、大型オンコソーム (LO: large oncosome) とも呼ばれ、直径1〜10 µmの非常に大きなEVであり、転移性去勢抵抗性前立腺がん (mCRPC: metastatic castration-resistant prostate cancer) 患者の血漿中で増加し、がん非罹患者には存在しないことが先行研究で示されていた DiVizio et al. AmJPathol 2012。L-EVは、小型EV (S-EV: small extracellular vesicle、エクソソーム) と比較して体積が1000倍以上であり、独自の分子カーゴを持つことが報告されている Minciacchi et al. CancerRes 2017

これまでの研究では、EV(主にエクソソーム)にゲノムDNA (gDNA) が含まれることが示されており Thakur et al. CellRes 2014、特定のEVタイプが異なるゲノム断片をパッケージングする可能性も示唆されていた Lazaro et al. Prostate 2014。また、EVがミトコンドリアDNA、レトロトランスポゾン、およびMYCなどの癌遺伝子を運搬することも報告されている Balaj et al. NatCommun 2011。さらに、エクソソームが10,000 bp未満の大きな二本鎖DNA (dsDNA) 断片を含む全ゲノムを内包し、親腫瘍細胞の変異を運ぶことも報告されている Kahlert et al. JBiolChem 2014。これらのデータは、EV DNAが診断および予後予測の価値を持つ可能性を示唆している。しかし、L-EVとS-EVのDNA含有量、分子特性、ゲノム情報の体系的な比較はこれまで行われておらず、どのEV画分が液体生検に最も適しているかについては未解明な点が残されていた。特に、L-EVは体積的にS-EVの1000倍を超え、固有の分子カーゴを持つことから、DNA含有量においても顕著な差異が生じる可能性が仮説として設定されたが、その検証は不足していた。

目的

本研究の目的は、前立腺がん細胞株、マウスモデル、およびmCRPC患者血漿において、L-EVとS-EVのDNA含有量、分子サイズ、クロマチン構造、およびゲノム変異情報を体系的に比較することである。これにより、L-EVが腫瘍DNA液体生検の優位な供給源として機能するかを評価し、その臨床的有用性を確立することを目指した。具体的には、L-EVがS-EVと比較してより多くのDNAを内包するか、そのDNAが高分子量であるか、そしてL-EV DNAが元の腫瘍細胞のゲノム構成を忠実に反映するかを検証することを目的とした。また、mCRPC患者の血漿からL-EV DNAを効率的に回収し、腫瘍特異的な体細胞コピー数変異 (SCNV: somatic copy number variation) を検出できるかを評価することも目的とした。

結果

L-EVのDNA含量優位性: PC3およびU87細胞由来のL-EVは、S-EVと比較して6〜7倍多くのDNAを含有することが示された (Figure 1c)。等量のタンパク質を含むL-EVとS-EVを比較した場合でも、L-EVに顕著に多くのDNAが含まれており、このDNA量の差異がEVのタンパク量に起因するものではないことが確認された (Figure 1e)。mCRPC患者血漿 (n=40 patients) から単離されたL-EVにおいても、DNA量はS-EVを有意に上回ったが、患者間の変動 (inter-patient variability) が認められた (Figure 1d)。一方、がん非罹患者血漿 (n=6 patients) からはL-EVおよびS-EVの双方からDNAがほとんど検出されず、L-EV DNAのがん特異性が強く示唆された。EV内包DNA (DNase耐性) はL-EV、S-EVのいずれにおいても確認され、EVを膜溶解後に完全消化された。また、ssDNAとdsDNAの比率は約5:1であり、全ての条件で共通していた (Figure 1f)。

高分子量クロマチン構造DNAの存在: バイオアナライザーを用いた解析では、L-EV DNAは主に約10,000 bp付近に大きなピークを持つラージサイズdsDNAとして検出された。これに対し、S-EVからは微量かつ低分子量のdsDNAしか検出されなかった (Figure 1g)。さらに、PFGE (アガロースプラグ法) を用いた解析により、L-EV DNAは100 kbpから2 Mbpに及ぶ高分子量フラグメントを含有することが明らかになった。S-EVでは700 bpを超えるフラグメントはほとんど検出されなかった (Figure 2a, b)。市販のDNA抽出キットを使用した場合、抽出過程でのせん断によりDNAが約10 kbpに断片化されることが判明し、アガロースプラグ法の優位性が示された (Figure 2c)。U2OS-H2B-GFP細胞由来のL-EV内では、GFP/Hoechst二重陽性クロマチンが検出され、ヒストンH2Bに結合したクロマチンDNAがL-EVに包含されていることが確認された (Figure S1A)。また、BrdU標識実験により、L-EV DNAが細胞複製依存性のゲノムDNAであることが示された (Figure S1B)。

WGSによる全ゲノム情報の忠実な再現: PC3 L-EV DNAの低カバレッジWGS (約1.4倍カバレッジ、83.9Mリード) により、PC3細胞ゲノムの体細胞コピー数変異 (SCNV) とL-EV DNAのSCNVとの間に強い相関 (Spearman r=0.808、0.5 Mbpビンサイズ) が認められた (Figure 2d)。染色体7、8、14、17、20における大型増幅と、染色体4、6、9、21における大型欠失が、PC3細胞とL-EV DNAの両方で確認された。L-EV DNAは参照ゲノム全体 (コーディング領域および非コーディング領域を含む) をカバーしており、150例のmCRPC患者ゲノムデータとも高い重複が確認された (Figure 2d)。これらの結果は、L-EV DNAが元の腫瘍細胞のゲノム構成を忠実に反映していることを強く示唆している。

mCRPC関連遺伝子変異の同定と臨床検体での検証: mCRPCに関連する31遺伝子のうち22遺伝子において、PC3細胞とPC3 L-EVの増幅/欠失パターンが一致した (Table 1)。mCRPCで高頻度に認められるMYC (染色体8、コピー数4.99→L-EV 5.10)、AKT1 (染色体14、3.26→3.33)、KLF10 (染色体8、4.53→4.63)、PTK2 (染色体8、4.77→4.87) の増幅と、PTEN (染色体10、0.43→0.42) の欠失がdPCRにより検証された (Figure 3d)。mCRPC患者6例の血漿L-EV DNAのみでMYC/PTEN比 (コピー数比) を定量した結果、全例で正常DNA (比約1) を上回る比が検出された (p<0.05〜p<0.001) (Figure 5e)。一方、マッチングS-EV DNA (2例で測定可能) では、MYC/PTEN不均衡が検出されない (患者25) か、著明に低い (患者41) という対照的な結果であった (Figure 5f)。患者血漿L-EV (4例) でも100 kbp〜2 MbpのPFGEシグナルが確認され、in vitro試験結果が臨床検体で再現された (Figure 5c)。

スパイクイン回収効率と動物モデル検証: 健常者血漿を用いたスパイクイン実験では、L-EV DNAの回収効率はスパイク量に比例し、total cfDNA抽出効率と同等であることが示された (Figure 4b, d)。PC3細胞を心臓内注射したNOD/SCIDマウス (n=6 mice) の骨転移モデル血漿L-EVでも、dPCRによりMYC、AKT1、PTK2、KLF10の増幅が検出された (Figure 4f)。ただし、PTEN欠失はプローブの非特異性の影響で検出されなかった。これらの結果は、in vivoにおいてもL-EVが腫瘍特異的なSCNVを報告する可能性を示している。

考察/結論

新規性: 本研究は、mCRPC患者血漿において大型細胞外小胞 (L-EV) が循環腫瘍DNAの主要な運搬体であることを初めて実証した。L-EVはS-EVと比較して量的 (6-7倍) かつ質的 (高分子量・クロマチン構造) に優れたDNA源であり、全ゲノムスケールの体細胞コピー数変異 (SCNV) を忠実に反映することが明らかになった。特に、L-EVが最大2 Mbpという桁違いに高分子量のクロマチン構造DNAを包含することを初めて示し、これはcfDNA (約160 bp) やS-EV DNA (約10 kbp未満) を大きく上回る分子量特性である。

先行研究との違い: これまでの研究では、エクソソーム (S-EV) やcfDNAにゲノムDNAが含まれることが示されていたが、そのフラグメントサイズは通常10,000 bp程度であった。本研究の結果は、L-EVがはるかに大きなDNA断片を運搬するという点で、これまでの報告と対照的である。この高分子量DNAは、クロマチンセグメント(例えば、マイクロ核由来やクロモスリプシス由来の染色体外DNA構造)がL-EVに搭載されることで生じると考えられる。

臨床応用: L-EV DNAは、がん非罹患者の血漿からは検出されないことから、がん特異的な液体生検ターゲットとして感度・特異度の両面で有望である。MYC/PTEN比という単純なコピー数比は、1 ngという微量入力DNAでも安定して計測可能であり、実臨床への応用可能性を示唆している。これは、限られた量の患者血漿からでも腫瘍特異的なゲノム異常を検出できる可能性を意味し、診断や治療モニタリングにおける臨床的有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、疾患進行とL-EV DNA量の相関関係のさらなる詳細な解析が必要である。本研究ではmCRPC患者 (n=40 patients) において有意な相関は認められなかったが、これは技術的変動や個体間変動、あるいは検討した患者数の少なさに起因する可能性がある。また、早期前立腺がんへのL-EV DNAの適用可能性、治療応答モニタリングへの利用、および他のがん種への外挿性の検証も今後の重要な研究課題である。DNA搭載の分子機構、すなわちどのようにして高分子量クロマチンDNAが形質膜出芽に伴うL-EV形成に際して選択的に包含されるかについては未解明であり、今後の重要な研究課題として残されている。

方法

対象:本研究では、前立腺がん細胞株 (PC3)、神経膠芽腫細胞株 (U87)、ヒストンH2B-GFP安定発現骨肉腫細胞株 (U2OS-H2B-GFP) を用いたin vitro実験を実施した。in vivoモデルとしては、PC3-ルシフェラーゼ発現細胞を免疫不全マウスに心臓内注射した骨転移マウスモデル (n=6 mice) を使用した。臨床検体として、mCRPC患者血漿 (n=40 patients) およびがん非罹患対照血漿 (n=6 patients) を解析した。ヒト検体はCedars Sinai Medical Centerの倫理委員会承認 (IRB study PRO00033050) の下、インフォームドコンセントを得て収集された。

EV単離:細胞培養上清およびヒト・マウス血漿からのEV単離は、差速遠心法により実施された。まず、細胞およびデブリを2,800 gで10分間遠心分離して除去した。次に、L-EVは上清を10,000 gで30分間遠心分離することで単離された。S-EVは、10,000 g遠心後の上清をさらに100,000 gで60分間遠心分離することで単離された。一部の実験では、L-EVおよびS-EVは、以前に報告された方法 Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016 に従い、iodixanol不連続密度勾配遠心法によってさらに精製され、それぞれ大型オンコソーム (LO) およびエクソソーム (Exo) として解析された。

EV特性解析:EVのサイズ分布と粒子数濃度は、TRPS (Tunable Resistive Pulse Sensing、qNano) を用いて測定された。L-EVはNP4000ナノポア膜 (直径1.0-5.5 µm)、S-EVはNP200ナノポア膜 (直径60-400 nm) を用いて測定された。EV画分の特異的マーカーの確認は、ウエスタンブロット法により行われた。L-EV/LO特異的マーカーとしてHSPA5およびCK18、S-EV/ExoマーカーとしてテトラスパニンCD81が用いられた。

DNA定量・品質評価:DNA量は、Qubit蛍光光度計 (High Sensitivity dsDNAおよびssDNAアッセイ、Invitrogen) を用いて定量された。DNAのフラグメント分布は、バイオアナライザー (DNA High Sensitivity Chip Kit、Agilent) を用いたチップベースキャピラリー電気泳動により評価された。高分子量DNA (4 kbp〜2 Mbp) の解析には、パルスフィールドゲル電気泳動 (PFGE: Pulse Field Gel Electrophoresis、CHEF Mapper XA System、BIORAD) が用いられ、EVを直接アガロースプラグに包埋する手法が採用された。EV内包DNAの確認のため、DNase IおよびExonuclease IIIによる膜外DNA消化、ならびにTriton X-100による膜溶解前処理実験が実施された。クロマチン結合DNAの存在は、BrdU標識、Hoechst染色、およびGFP-H2B蛍光顕微鏡観察により確認された。

ゲノム解析:PC3細胞由来L-EV DNAのゲノム構成は、低カバレッジ全ゲノムシーケンシング (WGS: whole genome sequencing、約1.4倍カバレッジ、83.9Mリード) により解析された。体細胞コピー数変異 (SCNV) は、リード深度に基づくアルゴリズムBIC-seqを用いて検出され、PC3細胞ゲノムとの相関が評価された。mCRPC関連遺伝子 (MYC、AKT1、PTEN、PTK2、KLF10) のコピー数変異は、デジタルPCR (dPCR: digital PCR、QuantStudio 3D Digital PCR System、Life Technologies) を用いて検証された。MYC/PTENコピー数不均衡 (比) は、MYCコピー数/PTENコピー数として算出された。統計解析には、Spearmanの相関分析 (r) および二尾性非対t検定が用いられた。

スパイクイン実験:健常者血漿 (1 ml) にPC3 EVを既知量 (50 µgおよび100 µgのEVタンパク質相当) スパイク添加し、L-EV DNAおよびcfDNAの回収効率が評価された。