• 著者: Clair Crewe, Jan-Bernd Funcke, Shujuan Li, Nolwenn Joffin, Christy M. Gliniak, Alexandra L. Ghaben, Yu A. An, Hesham A. Sadek, Ruth Gordillo, Yucel Akgul, Shiuhwei Chen, Dmitri Samovski, Pamela Fischer-Posovszky, Christine M. Kusminski, Samuel Klein, Philipp E. Scherer
  • Corresponding author: Philipp E. Scherer (University of Texas Southwestern Medical Center)
  • 雑誌: Cell Metabolism
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-08-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34418352

背景

肥満は心血管疾患 (CVD) の主要な危険因子として認識されているが、心筋梗塞後の肥満患者が非肥満患者よりも良好な短中期予後を示す「肥満パラドックス」という逆説的な現象も報告されており、その分子メカニズムは未解明であった。肥大した脂肪組織は機能不全に陥り、炎症や線維化を促進し、全身性のリポ毒性やインスリン抵抗性を引き起こし、肥満関連合併症、特にCVDの発生を促進することが知られている。脂肪細胞の機能はミトコンドリア代謝の適切さに大きく依存しており、高脂肪食 (HFD) による初期のミトコンドリアストレスはミトホルメシスによって打ち消されるが、肥満状態ではこの保護経路が圧倒され、ミトコンドリア量の減少、活性酸素種 (ROS) 産生増加、細胞内ATPレベル低下を特徴とする重度のミトコンドリア機能不全が生じる。

先行研究では、脂肪細胞特異的にミトコンドリアフェリチン (FtMT) を過剰発現させたマウス (adipo-FtMTマウス) が、肥満関連のミトコンドリア障害を模倣し、心臓に顕著なミトコンドリア酸化ストレスを誘発することが示されていた (Kusminski et al., 2020)。この観察は、脂肪細胞から心筋へのプロオキシダントシグナルが伝達される可能性を示唆しており、そのメカニズムとして細胞外小胞 (EV) の関与が仮説として立てられた。脂肪細胞は循環小型細胞外小胞 (sEV) の主要な産生細胞であり、そのsEVがmiRNAを介して肝臓の遺伝子発現を制御することが報告されている (Thomou et al)。

ミトコンドリア由来小胞 (MDV) は、ミトコンドリア酸化ストレスに応答してミトコンドリアから出芽し、損傷したミトコンドリア成分をエンドライソソーム系に選択的に送達する品質管理機構として知られている (McLelland et al., 2014; Soubannier et al., 2012a)。このMDV形成はPINK1/Parkin依存的であり、古典的なミトファジー機構とは独立している。MDVが多小胞体 (MVB) を経由してエクソソームとして放出される可能性は理論的に示唆されていたが (Sugiura et al., 2014)、直接的な証明は不足しており、臓器間での機能的なミトコンドリア移送の概念は未開拓であった。本研究は、この臓器間ミトコンドリア移送が脊椎動物において生理的な心保護作用を発揮する「臓器間ミトホルメシス」のメカニズムを解明することを目的とした。これまでの研究では、ミトコンドリアDNA (mtDNA) やミトコンドリアタンパク質がエクソソーム様小胞に存在することが報告されていたが (Sansone et al)、その機能的な臓器間輸送と生理的役割については、さらに詳細な検証が不足していた。また、細胞外小胞の細胞生物学に関する知見は近年大きく進展しているものの (vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018)、ミトコンドリアそのものの臓器間輸送は未解明な点が多かった。

目的

本研究の目的は、肥満などのエネルギーストレス下にある脂肪細胞が、呼吸能を有しつつも酸化的に損傷したミトコンドリア粒子を含む小型細胞外小胞 (sEV) を放出し、それが心筋細胞に取り込まれることで一過性の活性酸素種 (ROS) バーストを誘発し、結果として心臓の代償的抗酸化応答を活性化し、虚血再灌流障害に対する心保護効果(臓器間ミトホルメシス)を発揮するかを検証することである。

具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. 脂肪細胞のミトコンドリア機能不全がsEV放出を促進し、そのsEVがミトコンドリア成分を内包しているか。
  2. 脂肪細胞由来sEVが心筋細胞に取り込まれ、心臓におけるROS産生とミトコンドリア機能に影響を与えるか。
  3. sEVを介したミトコンドリア移送が、虚血再灌流障害に対する心保護効果を発揮するか。
  4. このミトコンドリア移送の分子メカニズムとして、Parkin依存的なミトコンドリア由来小胞 (MDV) のエクソソームへの組み込み経路が関与しているか。
  5. ヒトにおいても、肥満患者の循環sEVにミトコンドリア関連タンパク質や酸化タンパク質が多く含まれるか。

結果

脂肪細胞特異的ミトコンドリア機能不全による心臓酸化ストレスとsEV放出の増加: adipo-FtMTマウス (n=5 mice) にdox-HFDを3週間投与すると、対照群と比較して循環sEV数が有意に増加した (p < 0.05)。Western blotにより、これらのsEV内にVDAC、HSP60、COXIVなどのミトコンドリアマーカーが豊富に含まれることを確認した。OptiPrep密度勾配精製では、ミトコンドリアマーカーとエクソソームマーカー (ALIX、CD63、CD9) が密度1.1〜1.18 g/mLの同一フラクションに共局在した。Seahorse解析では、sEV内に呼吸能を有するミトコンドリア粒子の存在が確認され、ロテノン/アンチマイシンA処理でOCRが低下し、コハク酸でOCRが増加した。adipo-FtMT由来sEVはコントロールより多くのプロテインカルボニル付加体を含み、酸化的損傷を示した。in vivoでは、adipo-FtMTマウスの心臓組織でプロテインカルボニル化 (PC) レベルが有意に高く (p < 0.05)、ミトコンドリア特異的H2O2産生も増加した。GW4869によるsEV産生抑制は、adipo-FtMTマウスの心臓PCおよび脂質過酸化 (TBARS) の上昇を完全に抑制した。これらの結果は、脂肪細胞のミトコンドリア機能不全がsEV放出を促進し、sEVを介して心臓に酸化ストレスが伝達されることを強く示唆している (Fig 1)。

MDV経路を介したsEVへのミトコンドリア内包: 脂肪細胞をアンチマイシンAで処理すると、ミトコンドリアマーカーTOM20とエンドソームマーカーEEA1の共局在が増加し、損傷ミトコンドリア成分のエンドライソソーム系への転送が示唆された。クロロキン (CQ) によるリソソーム分解阻害は、アンチマイシンA処理脂肪細胞由来sEV内のCOXIV量をさらに濃縮させ、MDVがエンドソーム経路を経てエクソソームに取り込まれる可能性を示した。Parkin欠損脂肪細胞ではMDV形成が減少し、Parkin欠損細胞由来のsEVを注射したマウス (n=5 mice) では心臓でのROS産生が誘発されなかった (p < 0.01)。このことは、MDVのParkin依存的エクソソーム組み込みが心保護シグナル伝達に必須であることを示している (Fig 4)。

心筋へのsEV移送と代償的抗酸化応答: パルミテート処理脂肪細胞由来sEV (sEV PA) を静脈内注射したマウスでは、注射1時間後に心臓の一過性ROS産生 (PC増加) が認められ、2時間後には解消した。注射2時間後には心臓カタラーゼ (CAT) タンパクが有意に増加した (p < 0.05)。心臓ミトコンドリアでは、注射1時間後にETC活性が一過性に低下したが、2時間後には回復し、脱共役呼吸がPBS群を上回る水準に増強した。adipo-mitoFlagマウスに11週間dox-HFDを投与すると、心臓組織および単離心臓ミトコンドリアでFlagシグナルが検出され、脂肪細胞由来ミトコンドリアが循環を経て心臓ミトコンドリアネットワークに組み込まれることが証明された。CQ前投与により、心臓におけるFlagタグの蓄積が約2.5-fold増加したことから、取り込まれたミトコンドリアは速やかに分解されることが示唆された (Fig 5)。

sEVによる虚血再灌流障害に対する心保護効果: sEV PAをLAD閉塞2時間前に前投与したマウス (n=8 mice) では、虚血再灌流24時間後の循環CTNIがPBS群と比較して有意に低下した (p < 0.05)。TTC染色による24時間後梗塞サイズも有意に縮小し (p < 0.01)、Masson三色染色による7日後の瘢痕組織も有意に小さかった (p < 0.05)。7日後の駆出率 (EF) と短縮率 (FS) はsEV PA処理群で有意に高く維持された (p < 0.05)。Parkin欠損脂肪細胞由来のsEV PAではこの心保護効果が消失したことから、sEV内ミトコンドリアが保護効果の主役であることが示された (Fig 7)。

ヒト検体における検証: 不健常肥満 (MUO) 患者の血漿では、代謝的健常痩身 (MHL) 群と比較してsEV数が有意に高く (p < 0.05)、MUO被験者においてのみsEV中のmtDNAが検出された (MHL・MHOでは大半が検出限界以下)。両肥満群のsEVには痩身群と比較して、より多くのミトコンドリアタンパク質および酸化タンパク質が含まれた。ヒトSGBS脂肪細胞も、アンチマイシンA、オリゴマイシン、FCCPによりsEV放出が有意に増加した (p < 0.01)。これらのデータは、肥満ヒトにおいても循環sEVを介したミトコンドリア関連シグナル伝達の生理的役割が存在する可能性を示唆している (Fig 6)。

考察/結論

本研究は、脊椎動物における「臓器間ミトホルメシス」の初の機能的実例を示した。肥満やエネルギーストレス下の脂肪細胞が、呼吸能を有しつつも酸化的に損傷したミトコンドリア断片を小型細胞外小胞 (sEV) に封入し、循環血中に放出する。このsEVが心筋細胞に取り込まれると、一過性の活性酸素種 (ROS) バーストを誘発し、触媒活性の増加、ミトコンドリア脱共役の増強、ピルビン酸酸化の増強といった代償的適応応答が起動される。この応答は、虚血再灌流傷害に対する心臓のプレコンディショニングとして機能し、心保護効果をもたらす。

先行研究との違い: 本研究は、C. elegansにおける細胞非自律的ミトコンドリアストレス応答 (Durieux et al., 2011) の哺乳類版であるが、脳由来のWntリガンドのような「ミトカイン」を介した経路とは異なり、物理的なミトコンドリア移送が必須である点で独自性がある。また、Nikola et al. (2020) が報告した心筋細胞からエクソファーによる損傷ミトコンドリア排出とは対照的に、本研究は脂肪細胞から心筋細胞へのミトコンドリア移送という逆方向のメカニズムを解明した。

新規性: 本研究で初めて、ミトコンドリア由来小胞 (MDV) がParkin依存的にエクソソームに組み込まれ、臓器間を移動するという新規のメカニズムを同定した。この経路は、損傷ミトコンドリアの細胞外への排出と、遠隔臓器における適応応答の誘導という二重の役割を果たす。呼吸能を有しつつも酸化損傷を受けたミトコンドリア粒子がsEVに内包され、それが心筋細胞に取り込まれることで一過性のROSシグナルを誘発し、心保護効果をもたらすという、これまでに報告されていない臓器間クロストークの概念を確立した。

臨床応用: 本知見は、肥満患者が心筋梗塞後に非肥満患者よりも良好な予後を示す「肥満パラドックス」の一端を、脂肪細胞由来sEVを介した心臓プレコンディショニングで説明できる可能性を示唆する。このメカニズムは、肥満に伴うリポ毒性や虚血ストレスに対する強力な心保護の生理的経路を提供する。将来的には、この臓器間ミトホルメシス経路を標的とした新規の心保護戦略や診断バイオマーカーの開発に繋がる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 脂肪細胞からのsEV放出を特異的に抑制する遺伝的ツールが不足しているため、内因性sEVの心血管への寄与を直接評価できていないこと、(2) sEV前投与が初期梗塞サイズを縮小するため、梗塞後リモデリングに対する効果の独立評価が困難であること、(3) 肥満の進行に伴い、この保護機構が病的状態に転換する閾値やメカニズムを解明する必要がある。また、sEV内のミトコンドリア以外の因子が心保護に寄与する可能性も排除できないため、さらなる研究が必要である。

方法

本研究では、主にマウスモデルとin vitro細胞培養系、およびヒト検体を用いた。

マウスモデル: ドキシサイクリン (dox) 誘導性・脂肪細胞特異的FtMT過剰発現マウス (adipo-FtMTマウス)、脂肪細胞特異的ミトコンドリア局在Flagタグ発現マウス (adipo-mitoFlagマウス)、およびParkin欠損マウス (Parkin-/-) を使用した。全てのマウスはC57BL/6Jバックグラウンドの雄を用いた。adipo-FtMTマウスでは、dox含有高脂肪食 (HFD) を3週間または11週間投与して脂肪細胞のミトコンドリアストレスを誘導した。GW4869 (中性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤) を急性的に注射し、エクソソーム産生抑制が心臓の酸化ストレスに与える影響を評価した。

sEVの単離と解析: sEVは細胞培養上清およびマウス血清から、差分遠心分離法またはExtraPEG法 (Rider et al., 2016) を用いて単離した。sEVの数とサイズ分布はナノ粒子トラッキング解析 (NTA) (Particle Metrix ZetaView) で定量した。sEV内のミトコンドリアマーカー (VDAC、HSP60、COXIV) およびエクソソームマーカー (ALIX、CD63、CD9) はWestern blotで確認し、OptiPrep密度勾配遠心分離により共局在を検証した。sEV内の呼吸能はSeahorse XFアナライザーを用いて酸素消費速度 (OCR) を測定することで評価した。

ミトコンドリア機能と酸化ストレス評価: 脂肪細胞のミトコンドリアストレスは、FtMT過剰発現、パルミテート処理、および各種電子伝達系 (ETC) 阻害剤 (アンチマイシンA、オリゴマイシン、FCCP) で誘導した。細胞および組織の酸化ストレスは、プロテインカルボニル化 (PC) アッセイ、CellROX酸化感受性色素、およびミトコンドリア標的型H2O2プローブMitoB/MitoP質量分析 (LC-MS/MS) で評価した。心臓ミトコンドリアのETC活性はSeahorse解析および光学酸素呼吸測定で評価した。

MDV経路の解析: MDV形成はin vitro再構成系 (Soubannier et al., 2012b) で検証し、TOM20 (ミトコンドリア) とEEA1 (エンドソーム) の共局在を免疫蛍光染色で評価した。クロロキン (CQ) によるリソソーム分解阻害がsEV内COXIV量に与える影響を解析し、Parkin欠損脂肪細胞由来sEVと比較した。

心筋細胞へのsEV移送と応答: PKH26蛍光色素で標識した脂肪細胞由来sEVをマウスに静脈内注射し、心臓組織への生体内分布を共焦点顕微鏡で確認した。in vitroでは、単離心筋細胞にsEVを処理し、CellROXでROS産生を評価した。adipo-mitoFlagマウスでは、脂肪細胞由来Flagタグ付きミトコンドリアが心臓ミトコンドリアネットワークに組み込まれるかを免疫沈降および免疫蛍光染色で確認した。

心臓虚血再灌流 (IR) モデル: マウスに左冠動脈前下行枝 (LAD) 45分閉塞・再灌流を施行した。心エコー、TTC染色、Masson三色染色、および血漿心筋トロポニンI (CTNI) 測定により、梗塞サイズ、瘢痕組織、心機能 (駆出率 EF、短縮率 FS) を評価した。

ヒト検体での検証: ヒト前脂肪細胞株SGBS細胞を分化させ、ミトコンドリア機能障害誘導時のsEV放出を評価した。代謝的健常痩身 (MHL)、健常肥満 (MHO)、不健常肥満 (MUO) 患者の血漿サンプルからsEVを単離し、sEV数、mtDNA量、ミトコンドリアタンパク質、酸化タンパク質を定量した。統計解析にはGraphPad Prismを使用し、t検定、ANOVAなど適切な手法を用いた。