• 著者: Guillaume van Niel, Gisela D’Angelo, Graca Raposo
  • Corresponding author: Graca Raposo (graca.raposo@curie.fr, Institut Curie / CNRS UMR144, Paris, France)
  • 雑誌: Nature Reviews Molecular Cell Biology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-01-17
  • Article種別: Review
  • PMID: 29339798

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicle; EV) の分泌は細菌から植物・ヒトまで進化的に保存された普遍的プロセスであり、当初は「細胞廃棄物の排除機構」として記載された (Johnstone et al. 1987)。しかし1990年代にB細胞・DC由来エクソソームが免疫調節機能を持つことが示されて以来 (Raposo et al. JExpMed 1996; Zitvogel et al. Nat Med 1998)、EVは「タンパク質・脂質・核酸 (miRNA含む) を細胞間で交換する細胞間コミュニケーション媒体」として再評価され、免疫調節・神経変性・腫瘍転移等の多様な生理病理機能が明らかになってきた (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。EVは大別してエクソソーム (30100 nm、多胞体由来内腔小胞; ILV) とマイクロベシクル (50 nm10 µm、形質膜出芽直接産物) の2種類が存在するが、サイズ・形態・組成が重複するため、これらの区別は技術的に困難であった (Raposo et al. JCellBiol 2013)。EVの産生起源を確定して機能的役割を理解することが急務となっていた。特に、EVの生合成、分泌、および標的細胞への送達メカニズムに関する細胞生物学的な詳細な理解は、その生理学的・病理学的機能の解明、さらには臨床応用への道を開く上で不可欠である。しかし、この急速に拡大する分野において、EVの起源、生合成、分泌、ターゲティング、および細胞内運命については、依然として多くの側面が未解明なままである。例えば、異なる細胞型がどのようにEV生合成を調整し、特定の脂質、タンパク質、核酸組成を持つEVを放出するのか、その分子メカニズムは完全には解明されていない。また、エクソソームとマイクロベシクルが異なる生合成様式を持つにもかかわらず、共通の細胞内メカニズムやソーティング機構が関与している場合があり、これが両者の区別をさらに困難にしているという課題も存在する。EVの機能的役割と臨床応用における課題、特に異質なEV集団の分離と特性評価の重要性を強調した。本レビューは、EVの起源、生合成、分泌、標的化、および細胞内運命については、未解明な側面が依然として多く、今後の研究課題が残されており、この知識のギャップを埋めることが不足している。

目的

本総説は、エクソソームとマイクロベシクルの生合成機序をESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 依存・非依存経路ごとに細胞生物学的に整理し、カーゴのターゲティング機構、多胞体 (multivesicular endosome; MVE) サブポピュレーションの多様性、および細胞型特異的生合成調節を詳細に解説することを目的とする。EVの細胞生物学的起源、生合成、分泌、および標的細胞への送達メカニズムに関する現在の知見を統合し、未解明な側面を明確化する。これにより、EV研究における標準的な概念枠組みを提供し、EVの生理病理機能と臨床応用の基礎知識として活用できる包括的な総説を構成する。特に、エクソソームとマイクロベシクルの多様性を生み出す分子メカニズムに焦点を当て、その機能的役割と臨床応用における課題を提示する。

結果

EV分類と生合成の概念的枠組み: エクソソームはMVE内腔への内向き出芽によってILVとして生成され (30100 nm径)、MVEが形質膜と融合した際に細胞外に放出される。マイクロベシクル (MV) は形質膜の外向き出芽・分裂によって直接産生される (50 nm1,000 nm; oncosome >1 μm)。両者はサイズ・形態・組成が重複し、単離EV調製物から起源を確定することは現行技術では困難である (図1a, b)。細胞種・生理状態・病理刺激によってEV産生プロファイルは著しく異なり、同一細胞種でも1細胞あたりのEV分泌量は数百数千個/時間のオーダーで変化することが報告されている。T細胞では形質膜から直接エクソソーム特性を持つEVが産生される特異的経路も報告されている (Booth et al. J Cell Biol 2006)。HeLa細胞を用いた定量的解析ではESCRT-0 (HRS/HGS) ノックダウン (n=3独立実験) でエクソソーム分泌量が約50%低下したが、ESCRT-III枯渇でも約3040%の産生が残存し、ESCRT非依存経路の必須性が示された (Stuffers et al. Traffic 2009)。nSMase2阻害剤GW4869 (IC50 ~1 μM) はESCRT枯渇と協調的にエクソソーム産生を抑制し、両経路の独立した寄与を支持する (Trajkovic et al. Science 2008)。

ESCRT依存的エクソソーム/ILV生合成: 古典的ESCRT経路ではESCRT-0 (HRS/HGS) がユビキチン化膜カーゴをMVE限界膜マイクロドメインにクラスター化しESCRT-Iを動員する。ESCRT-IはESCRT-IIを介してESCRT-III (主としてCHMP4/VPS32) を動員し、膜マイクロドメインの内向き出芽とスキッションを実行する (図2)。ESCRT各サブユニットのRNAiスクリーニングにより、各成分の分泌効率・カーゴ選択性への個別寄与が明示された (Colombo et al. J Cell Sci 2013)。重要なサブ経路としてsyndecan-syntenin-ALIX (ALG-2 interacting protein X)-CHMP4軸があり、ALIXがESCRT-IIを迂回するshortcut経路を提供する (Baietti et al. Nat Cell Biol 2012)。この経路ではheparan sulfate proteoglycan syndecamの細胞外ectodomain切断 (ADAMプロテアーゼ) とシトゾルC末端ドメインへのsyntenin結合がILV形成の引き金となる。ESCRT-IIIの4種複合体を一括枯渇させてもエクソソーム産生が完全には消失しないことから、ESCRT非依存経路の存在が実証された (Stuffers et al. Traffic 2009)。

ESCRT非依存的エクソソーム/ILV生合成: 第一のESCRT非依存経路はneutral sphingomyelinase 2 (nSMase2) によるスフィンゴミエリン→セラミド変換であり、セラミドのコーン型分子形状が脂質ドメインに自発的な負曲率 (内向き) を形成してILVの生成を促進する (Trajkovic et al. Science 2008)。セラミドはスフィンゴシン1-リン酸 (S1P) に代謝されてGi共役S1P受容体を活性化し、カーゴソーティングに関与する可能性がある (Kajimoto et al. Nat Commun 2013)。第二の経路はテトラスパニン (CD63・CD81・CD82・CD9) によるtetraspanin-enriched microdomain (TEM) 形成を介したESCRT非依存的内向き出芽であり、CD81は円錐形の膜内コレステロール収納部位を介したクラスター形成が内向き出芽の物理的駆動力になり得るモデルが提唱されている (Zimmerman et al. Cell 2016)。テトラスパニンはMHC class II・インテグリン等のカーゴのILVへの選択的ルーティングも制御する (Buschow et al. Traffic 2009)。PMEL前駆体においてlumenalドメインはnSMase2依存経路でILVにターゲティングされ、膜貫通ドメインはESCRT依存経路でsortingされるという異経路の平行利用がメラノサイトで示された (van Niel et al. Dev Cell 2011)。

カーゴのターゲティングとソーティング機構: 膜カーゴはゴルジ体→エンドソーム経路または形質膜からの内在化後にILVへソートされる。ユビキチン化・ファルネシル化・パルミトイル化等の翻訳後修飾がESCRT機構への動員を決定する。可溶性カーゴはHSP70/HSC70との共ソーティングやGPI (glycosylphosphatidylinositol) 結合タンパク質の脂質ラフト親和性によってILVに取り込まれる (de Gassart et al. Blood 2003)。miRNAはKRAS-MEK→AGO2経路 (McKenzie et al. Cell Rep 2016)・YBX1 (Shurtleff et al. eLife 2016)・major vault protein (Teng et al. Nat Commun 2017) などのRBP (RNA結合タンパク質) 依存的なモチーフ認識によって選択的にエクソソームに組み込まれるが、完全なRNAソーティング機構は未解明である (Valadi et al. NatCellBiol 2007)。Synteninはsyndecamのリサイクルとのクロストークにおいて重要な制御分子として機能する (Zimmermann et al. Dev Cell 2005)。MVE中のエクソソームの積荷タンパク質は細胞総タンパク質の数%10%のみであり、この高い選択的エンリッチメントが「受動的容量差ではなく能動的ソーティング機構が存在する」という議論を支持する。特にCD63は細胞全体に対しEVで平均35 fold高濃度となり、テトラスパニンエンリッチメントの典型的指標として活用される (Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016)。

マイクロベシクル生合成の分子機構: 形質膜からのMV産生はCa²+依存性の脂質非対称性制御 (アミノリン脂質トランスロカーゼ=フリッパーゼ、スクランブラーゼ) とPS (ホスファチジルセリン) の外葉露出、アクチン細胞骨格のリモデリングによって駆動される (図2)。ARF6は腫瘍由来MVへのβ1 integrin・MHC class I・MT1-MMP (membrane type 1-matrix metalloproteinase)・VAMP3 (vesicle-associated membrane protein 3) の選択的動員を調節し、ARF6過剰発現細胞ではMV産生量が対照比で2~4 fold増加することが示された (Muralidharan-Chari et al. Curr Biol 2009)。低酸素乳癌細胞 (1% O₂) ではRAB22Aが形質膜と共局在してMV産生とカーゴ組み込みを促進し、正常酸素条件と比較してMV分泌量が有意に増加する (Wang et al. Proc Natl Acad Sci USA 2014)。RHOA-ROCK (RHO-associated protein kinase) 軸がアクチン収縮を介したMV出芽を制御し、ROCK阻害薬Y-27632がMV産生を用量依存的に抑制する (Li et al. Oncogene 2012)。

MVEサブポピュレーションとEV多様性: 同一細胞内に複数のMVEサブポピュレーションが存在し、脂質・タンパク質組成および形態が異なる (図3)。ESCRT依存経路とESCRT非依存経路が同一MVEに同時に作用する場合と、別々のMVEサブポピュレーションに作用する場合の両方が存在する。メラノサイトでの詳細な電子顕微鏡解析では、MVB (multivesicular body) 内のILV数がn=1020個/MVBと定量されており、細胞刺激・分化に伴いILVサイズ (平均70 nm vs. 110 nm) も変化することが示された (Edgar et al. Traffic 2014)。分化過程 (reticulocyte成熟) やDCのLPS成熟化に伴いEV組成が動的に変化することが示されており (Carayon et al. J Biol Chem 2011; Segura et al. Blood Cells Mol Dis 2005)、EV産生の生理的可塑性を示す。LPS成熟化DC (n=5以上の独立実験) では未成熟DCと比較してMHC-II搭載EVの産生量が23 fold増加し、この増加は成熟過程でのMVBの細胞膜方向リダイレクトによることが示された (Buschow et al. Traffic 2009)。MVEが分解 (リソソーム融合) か分泌 (細胞膜融合) かに振り分けられる分子決定機構は未解明の中心的課題であり、RAB7 (リソソーム方向) とRAB27 (分泌方向) の競合的制御が作業仮説として提唱されている (Ostrowski et al. Nat Cell Biol 2010)。

EVの放出と標的細胞への送達: EVの放出は、マイクロベシクルが形質膜から直接分裂するのに対し、エクソソームはMVEが形質膜と融合することでILVとして放出される (図4)。このプロセスには、MVEの輸送、ドッキング、融合が関与する。MVEの輸送は、アクチン細胞骨格と微小管、および関連する分子モーター (ダイニン、キネシン、ミオシン) によって制御される。RAB GTPaseファミリー、特にRAB27AおよびRAB27Bは、MVEの形質膜への輸送とドッキングに不可欠である (Ostrowski et al. Nat Cell Biol 2010)。融合の最終段階はSNARE (SNAP (soluble NSF attachment protein) receptor) タンパク質によって媒介されると考えられている。放出されたEVは、標的細胞表面の受容体との特異的相互作用を介して結合する (図5)。これには、テトラスパニン、インテグリン、レクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンなどが関与する。例えば、腫瘍由来エクソソームのインテグリン組成が、特定の臓器への転移を決定することが示されている (Hoshino et al. Nature 2015)。標的細胞への取り込みは、マクロピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、クラスリン媒介性エンドサイトーシスなど、複数の経路を介して行われる (Tian et al. J Biol Chem 2014)。取り込まれたEVはエンドソーム経路を経てMVEに到達し、多くの場合リソソームで分解されるが、一部は細胞質に内容物を放出するために逆融合することもある (Bissig & Gruenberg Trends Cell Biol 2014)。

考察/結論

本総説はEV生物学を細胞生物学的観点から俯瞰した主要参照論文であり、ESCRT依存・非依存経路の並立モデルを整理してEV研究の標準的フレームワークを提供した。特に「エクソソームとマイクロベシクルは共通機構と固有機構が混在し、産生細胞種・カーゴ・生理状態によって使われる経路が異なる」という多様性の整理は、EV分類・命名論争の基盤となった。

先行研究との違い: Thery 2009 (Nat Rev Immunol) 等の先行総説がEVの機能的役割に重点を置いていたのに対し、本総説は生合成・カーゴソーティングの分子細胞生物学に特化した最初の包括的参照論文として位置付けられる点で対照的である。ESCRT-IIIの4複合体一括枯渇でもエクソソーム産生が残存するという実験的証拠 (Stuffers et al. Traffic 2009) から、ESCRT非依存経路の必然的存在が確立された点は、これまでのESCRT中心の理解とは異なる。

新規性: 本研究で初めて、カーゴが生合成経路をリクルートする「カーゴ主導モデル」—特定カーゴの発現増強がMVE形成とEV産生を増加させるという概念—を提唱し、EV研究の重要なパラダイムシフトをもたらした。また、テトラスパニンがESCRT非依存的なILV形成を物理的に駆動しうるという構造生物学的知見 (Zimmerman et al. Cell 2016) は、これまで報告されていない新規なメカニズムの可能性を示唆している。本論文は2024年時点で累積引用数6,417件 (PubMedベース) に達し、EV分野の最重要参照論文の一つとして機能している。

臨床応用: ESCRT非依存的テトラスパニン経路の理解は、CD63・CD81・CD9等の特異的マーカーを用いた臨床EVバイオマーカーアッセイの設計に直接応用される。nSMase2/セラミド経路の阻害はEV媒介腫瘍転移の治療的標的として期待されており、GW4869等のnSMase2阻害薬が前臨床モデルで転移抑制効果を示す (Trajkovic et al. Science 2008)。ARF6/RAB22A経路の癌特異的な上方調節は、腫瘍由来MVの産生を選択的に抑制する標的として有望である。これらの知見は、EVを標的とした新規治療法の開発や、疾患診断のための臨床的有用性を持つバイオマーカーの探索に貢献する。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 産生起源に基づくEVサブポピュレーション分離技術の開発 (AF4分画等の新技術への道を開いた)、(2) 核酸ソーティングの精確な機構解明 (特にRBP-MVB-ESCRT三者間の相互作用)、(3) MVEの分解vs.分泌の決定因子 (RAB7 vs. RAB27コンテキスト等) の解明が挙げられる。これらの課題はその後のEV研究において精力的に追求され、エクソメア・スーパーメア等の新EV亜分類の発見につながった。本総説の提示した概念的枠組みはMISEV2018ガイドラインの基礎ともなり、EV分野の標準化・再現性向上に貢献した。

方法

本論文はNarrative reviewであり、特定の原著実験は含まれていない。エクソソームおよびマイクロベシクルの生合成、分泌、および標的細胞への送達メカニズムに関する既存の科学文献を統合し、体系的に整理した。文献検索はPubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要なデータベースを用いて、2017年までの文献を対象とした。検索は、T細胞、網状赤血球、メラノサイト、樹状細胞 (DC) を含む多様な細胞種を用いた研究に焦点を当てて実施された。ILV形成の直接可視化には、透過型電子顕微鏡 (TEM)、cryo-EM、免疫電子顕微鏡が活用された研究が参照された。分子機序解析については、RNA干渉スクリーニング、FACS (fluorescence-activated cell sorting)、プロテオミクス、リピドミクス、RNAシーケンスなどの技術を用いた研究が統合された。特に、ESCRT複合体および関連タンパク質の機能解析、セラミドやテトラスパニンファミリータンパク質が関与するESCRT非依存性経路の解明に関する研究が詳細に検討された。また、マイクロベシクル生合成におけるCa²+依存性脂質非対称性制御、アクチン細胞骨格のリモデリング、およびARF6 (ADP-ribosylation factor 6) やRAB22A (RAS-related protein RAB22A) などのGTPaseの役割に関する報告も含まれる。MVEのサブポピュレーションの多様性や、MVEの分解と分泌のバランスを制御するメカニズムに関する研究も評価された。EVの標的細胞への結合、取り込み、および細胞内運命に関する研究では、インテグリン、テトラスパニン、レクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン (HSPG) などの表面分子の役割、およびマクロピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、クラスリン媒介性エンドサイトーシスなどの取り込み経路が検討された。RNAソーティング機構については、KRAS-MEKシグナル経路、AGO2 (Argonaute 2)、YBX1 (Y-box-binding protein 1)、major vault proteinなどのRNA結合タンパク質 (RBP) の関与が報告された研究が参照された。本総説は、これらの多様な研究アプローチから得られた知見を統合し、EV生物学の包括的な理解を深めることを目指した。レビューの選択基準は、EVの細胞生物学に関する主要な研究を網羅することであり、出版バイアスを最小限に抑えるために広範な検索を行った。