- 著者: Hideki Ikeda, Katsushige Kawase, Tatsuya Nishi, Tomofumi Watanabe, Keizo Takenaga, Takashi Inozume, Takamasa Ishino, Sho Aki, Jason Lin, Shusuke Kawashima, Joji Nagasaki, et al.
- Corresponding author: Yosuke Togashi (Chiba Cancer Center Research Institute / Okayama University / Kindai University, Japan)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2025
- Epub日: 2025-01-22
- Article種別: Original Article (Translational / Basic science)
- PMID: 39843734
背景
腫瘍微小環境 (TME) 内でのT細胞代謝障害はICI耐性の重要な要因として認識されてきたが、その根本原因は不明であった。Scharping ら (Immunity 2016) はTMEがTILのミトコンドリア生合成を抑制して代謝不全・機能不全をもたらすことを報告し、Yu ら (Nat Immunol 2020) はCD8+T細胞のミトコンドリア動態異常が終末疲弊と関連することを示した。また、Bengsch ら (Immunity 2016) はPD-1シグナルによりCD8+T細胞の代謝リプログラミングとミトコンドリア機能障害が生じ、bioenergetic insufficiency が疲弊進行の早期ドライバーとなることを実証した。一方、がん細胞のmtDNA変異が電子伝達系タンパク質の機能障害を通じてOXPHOS (oxidative phosphorylation) 障害・ROS (reactive oxygen species) 産生増大をもたらし腫瘍増殖・転移を促進することは Yuan et al. NatGenet 2020 など複数の研究で示されていたが、これらmtDNA変異が免疫細胞機能に与える影響については知見が手薄であった。さらに、細胞間ミトコンドリア移送現象は adipocyte-to-organ transfer (Crewe et al. CellMetab 2021) などで報告されてきたが、がん細胞からTILへのmtDNA変異ミトコンドリア移送が実際にT細胞機能を障害するかどうか、またその臨床的なICI耐性との関連は gap in knowledge として残されていた。「何が足りなかったか」を端的に言えば、TIL内のmtDNA変異が誰から来るのか・どのようにして均一置換に至るのか・それがICI奏効率に直結するかの三点が不明であった。
目的
(1) がん患者TILにがん細胞と共有するmtDNA変異が存在するかを臨床検体で検証し、(2) がん細胞からTILへのmtDNA変異ミトコンドリア移送機序を同定し、(3) 移送後T細胞の機能障害・老化・メモリー形成不全を in vitro/in vivo で実証し、(4) 腫瘍mtDNA変異とICI臨床転帰の関連をメラノーマ・NSCLCコホートで検証する。
結果
TILとがん細胞間でのmtDNA変異の共有と異常ミトコンドリア形態: コホートA (n=12) のうち5例 (42%) のTILにmtDNA変異が確認された (Fig. 1)。対応がん細胞株が樹立できた7例中4例でTILにmtDNA変異を認め、そのうち3例 (75%) でTILのmtDNA変異はがん細胞と同一の変異を共有していた。PBLは全例野生型であり、変異はgermlineではなく腫瘍内での後天的取得であることを確認した。患者04のFFPE腫瘍組織でも3290T>C変異が確認され、培養過程による artifact を排除した。電子顕微鏡観察では、mtDNA変異TIL (bulk TIL04) およびがん細胞 (MEL04) でクリスタ減少を伴う異常ミトコンドリア形態を確認した一方、野生型のTIL04#9・MEL02・PBL04のミトコンドリア形態は正常であった (n=20ミトコンドリア/細胞でクリスタ数定量)。
TNTと小型EVを介した双経路ミトコンドリア移送とホモプラスミー置換: MEL04-MitoDsRed (変異) とTIL04#9 (野生型) の共培養ではDsRed+TILが24時間以降から時間依存的に増加した (Fig. 2)。移送経路解析 (n=4/群): Cytochalasin B (TNT阻害) とGW4869 (小型EV阻害) は各々単独で移送を有意に抑制した。0.4 µm Transwell insert + GW4869の組み合わせでは単独Transwell条件よりさらに移送が低下し、TNT (直接細胞接触) と小型EV (<200 nm) の双方が移送に独立して寄与することを示した。一方、Y-27632 (microEV阻害) の抑制効果はGW4869より小さく、小型EVが主要経路であることを確認した。精製EV (<200 nm) からはCD9・TSG101 (EVマーカー) とCytochrome c (ミトコンドリアタンパク質) が検出され、小型EVが実際にミトコンドリアを内包することを実証した。シングルセルmtDNA Sanger法では共培養14日後のTIL04#9の一部でホモプラスミー置換 (野生型mtDNA→変異型に完全置換) を確認した。タイムラプスイメージング (30分毎) ではMitoTracker Green (TIL固有) が漸減しMitoDsRed (がん細胞由来) が漸増して最終的にホモプラスミー置換を達成する過程を直接可視化した。In vivo (LLC/A11-MitoDsRed担腫瘍C57BL/6J) でもDsRed+T細胞がday 21からday 42に向けて増加し (n=4/群)、DsRed+T細胞のmtDNA変異をシングルセルレベルで確認した (DsRed-は全例野生型)。
USP30介在ミトファジー抵抗性によるホモプラスミー置換機序の解明: MEL04との共培養でTIL固有ミトコンドリア (MitoTracker Green) が減少するが、NAC (10 mM) 処理でこの減少が阻止されホモプラスミー置換も生じなかった (Fig. 3、n=4/群)。LC3B染色でもNAC処理が共培養によるミトファジー亢進を有意に抑制した。一方、がん細胞から移送されたDsRedミトコンドリアはNAC処理なしでもミトファジーを受けず (DsRedシグナル維持)、DsRed+TILではBNIP3・ATF4 mRNAが高発現していた。この差異の機序として、TCGA melanoma dataでUSP30が高発現するがん細胞からUSP30がミトコンドリアと共にTILへ移送されること (USP30とDsRedの共焦点顕微鏡での共局在、n=4/群) を同定した。USP30はParkin依存的ユビキチン化を阻害することでミトファジーを抑制し、移送ミトコンドリアをミトファジーから保護する。CMPD-39 (USP30阻害薬、20 nM) および siUSP30-1/-2はいずれも移送頻度とホモプラスミー置換を部分的に抑制した (n=4/群)。
mtDNA変異T細胞の代謝障害・老化・エフェクター機能多面的喪失: DsRed+TIL04#9/04 (変異mtDNA保有) は野生型DsRed-TIL04#9/04と比較して多面的な機能障害を示した (Fig. 4、n=4/群、各比較 p<0.001): (1) ミトコンドリア膜電位の顕著な低下;(2) ROS産生の著明な増大;(3) β-ガラクトシダーゼ活性上昇・p16/p53増加 (細胞老化);(4) SASP (Senescence-Associated Secretory Phenotype; IL6/CXCL8/IL1B) mRNA増加;(5) CD27-CD28-老化分画の増大;(6) CFSE希釈法による増殖能低下・Annexin V+アポトーシス増加;(7) CCR7high CD45RAlow 中央記憶分画・KLRG1low 長寿命分画の有意な減少;(8) 抗CD3/CD28刺激後のPD-1・CD69発現低下 (活性化障害)。乳がん細胞 (MCF7 野生型 vs MDA-MB-231 変異) を用いた独立実験でも同様の結果を再現した。EV経由の変異ミトコンドリア移送 (Jurkat/Rho0 + MEL04-EV) でも全機能障害パラメータが同傾向を示し、機序の汎用性を実証した。Jurkat/Rho0へのMitoCeption法による純粋ミトコンドリア移送実験でも変異mtDNA (MEL04-Mito・MDA-MB-231-Mito) 保有Jurkat細胞が野生型と比較して膜電位低下・ROS増大・老化・記憶形成障害・PD-1発現低下を示した。
In vivo抗腫瘍免疫障害とGW4869によるICI耐性解除: LLC/A11-MitoDsRed担腫瘍 (変異mtDNA) のDsRed+CD8+TILはLLC/P29-MitoDsRed (非変異) と比較してβ-ガラクトシダーゼ活性高値・アポトーシス増加・CD127high KLRG1low MPEC (memory precursor effector cell) 分画減少・PD-1発現低下・TIM3high TCF1low 終末疲弊表現型増加を示した (Fig. 5、n=6/群)。OT-1マウス由来DsRed+CD8+T細胞を用いたkilling assayでは、LLC/A11由来変異mtDNA移送が殺傷活性を著明に低下させた (p<0.001)。CD8+T細胞枯渇はLLC/P29腫瘍成長を促進したがLLC/A11では効果なく、変異TILの機能不全を示した。抗PD-1抗体 (200 µg/匹×3回) はLLC/P29腫瘍を縮小させたがLLC/A11腫瘍には無効 (ICI耐性) であった。GW4869腫瘍内局所投与 (60 µg/匹、2日毎) はミトコンドリア移送を抑制し、β-ガラクトシダーゼ活性低下・MPEC増加・PD-1+CD8+T細胞増加・終末疲弊表現型の幹細胞様前駆疲弊状態への逆転をもたらし、LLC/A11腫瘍のPD-1 blockade耐性を解除した (n=4/群)。免疫不全SCIDマウス (severe combined immunodeficiency) ではGW4869がLLC/A11腫瘍成長に影響を与えず、効果がT細胞依存的であることを確認した。
臨床コホートでの腫瘍mtDNA変異とICI予後の関連: コホートB (メラノーマ n=95、変異陽性率32.6%) およびコホートC1 (NSCLC n=86、変異陽性率51.2%) において、腫瘍mtDNA変異陽性群は陰性群と比較してICI治療開始後の無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) が有意に短縮した (log-rank検定、いずれもp<0.05、拡張データFig. 9d)。一方、白金製剤ベース化学療法のみを受けたコホートC2 (NSCLC n=56、変異陽性率35.7%) ではmtDNA変異はPFS/OSに有意な影響を与えず (拡張データFig. 9e)、ICI依存的な予後影響であることを実証した。慢性日光曝露はメラノーマコホートでのmtDNA変異と有意に関連し (頭頸部・四肢遠位背側部に多い)、病因論的な背景も示された。
考察/結論
本研究は、がん細胞からTILへのmtDNA変異ミトコンドリア移送という、これまで報告されていない免疫回避機序を発見した。USP30を介したミトファジー抵抗性により変異ミトコンドリアがT細胞内でホモプラスミー置換を達成し、OXPHOS障害・ROS増大・T細胞老化・エフェクター機能喪失という一連のカスケードを引き起こすという精緻なメカニズムは、ICI耐性の新たな分子基盤を提供する。
既存知見との違いと本研究の位置付け: 先行研究ではTILのミトコンドリア機能障害はTMEの低酸素・低グルコース環境などによる外的影響として理解されてきたが、本研究はがん細胞自身が変異ミトコンドリアを能動的にTILへ移送することでT細胞機能を直接破壊するという点で先行研究と異なる新規な機序を提示する。Topalian et al. NEnglJMed 2012 や Hodi et al. NEnglJMed 2010 が確立したICI治療の恩恵が不均一である原因として、腫瘍mtDNA変異という新たなバイオマーカー候補を実証した点が本研究の新規な貢献である。また、T細胞老化と腫瘍EVの関連については Ma et al. SciTranslMed 2025 が腫瘍EV由来PD-L1による脂質代謝リプログラミングを介したT細胞老化を示しているが、本研究はミトコンドリア移送というより直接的な機序を提示した点で対照的である。
新規性と機構的意義: 本研究で初めて示された点として: (1) TIL内のmtDNA変異の75%ががん細胞由来であるという高頻度の移送、(2) USP30によるミトファジー抵抗性がホモプラスミー置換の鍵を担うという分子機序、(3) EV阻害 (GW4869) がin vivoでICI耐性を解除するという治療的証拠、の三点が挙げられる。T細胞は通常200-400コピーのmtDNAを持ち完全なホモプラスミー置換は難しいと思われていたが、がん細胞由来ROSによるTIL固有ミトコンドリアのミトファジー促進と移送ミトコンドリアのUSP30介在ミトファジー耐性が組み合わさることで均一置換が可能となるメカニズムは本研究で初めて解明された。
臨床応用と橋渡し研究としての意義: VAF>0.2・z-score>3という判定基準を用いたFFPE腫瘍組織でのmtDNA変異検索は既存の次世代シーケンシングインフラで実施可能であり、ICI適応患者層別化のバイオマーカーとして臨床現場への橋渡し (bench-to-bedside) が現実的である。偽陽性率0%・偽陰性率12.2%の性能は実用的な検査精度として許容可能な範囲である。化学療法ではなくICI治療にのみ予後影響が現れた事実は、mtDNA変異がT細胞依存的な抗腫瘍免疫を特異的に障害することを支持し、バイオマーカーとしての生物学的妥当性を高める。
残された課題と今後の検討: limitation として、本研究のin vivoモデルではミトコンドリア移送の選択的阻害が困難であり、GW4869のEV以外の効果を完全に除外できていない点が挙げられる。USP30以外のミトファジー抑制因子 (USP33・USP35) の寄与や、ミトコンドリア融合・分裂ダイナミクスとの相互作用は future research として残る。mtDNA変異の種類 (truncating vs missense vs tRNA) によるT細胞障害程度の差を系統的に評価する必要もある。T細胞以外のTME内細胞 (NK細胞・マクロファージ・樹状細胞) へのミトコンドリア移送の影響評価も今後の検討課題である。さらに、EV阻害薬・USP30阻害薬のICI併用療法の安全性・有効性を評価する臨床試験の設計が求められ、更なる検討としてメラノーマ・NSCLC以外のmtDNA変異保有がん種へのICI応答改善戦略への展開が期待される。
方法
臨床コホート構成と解析: コホートA (n=12、メラノーマ10例・乳がん1例・皮膚扁平上皮がん1例) からTILおよび対応がん細胞株を樹立し、NGS (Ion Torrent Proton、Precision ID mtDNA Whole Genome Panel 81プライマーペア) + Sanger法でmtDNA全塩基配列を解析した。バリアント呼び出しにはMutect2 (GATK v4.1.8) を用い、EAGLE (Enhanced Allele Frequency Estimation tool, v1.1.1) でアリル頻度を算出した。mtDNA変異の判定基準: VAF>0.2・z-score>3・read depth>100を満たすtruncating/missense/tRNA/rRNA変異を陽性とした。コホートB (メラノーマ n=95、2014-2020年、ICI一次治療) およびコホートC1 (NSCLC n=86、2017-2021年、PD-1阻害薬単剤一次治療) のFFPE (formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍組織からmtDNA変異を同定し、ICI治療転帰との相関を解析した。コホートC2 (NSCLC n=56、2011-2012年、白金製剤ベース化学療法のみ) を対照群として設定した。
ミトコンドリア移送実験と経路同定: MitoDsRed (mitochondria-targeted red fluorescent protein) 発現MEL02 (patient-derived melanoma cell line, 野生型mtDNA) およびMEL04 (patient-derived melanoma cell line, 3290T>C変異) をTIL04#9 (patient-04-derived tumor-infiltrating lymphocyte single clone, 野生型mtDNA) と共培養し、フローサイトメトリー・共焦点顕微鏡 (Leica TSC SP8)・デジタルホログラフィック顕微鏡 (Nanolive 3D Cell Explorer、30分毎撮影) で移送を定量化した。移送経路解析: Cytochalasin B (TNT (tunneling nanotube) 阻害、350 nM)・GW4869 (小型EV <200 nm阻害、1 µM)・Y-27632 (microEV >200 nm阻害、5 µM)・Transwell insert (3 µm/0.4 µm) を単独または組み合わせて使用 (n=4/群)。精製EV (<200 nm) はTotal Exosome Isolation試薬 + size-exclusion chromatographyで調製し、western blotting (CD9・TSG101 (tumor susceptibility gene 101, exosome marker)・cytochrome c) で組成を検証した。
USP30阻害実験とミトファジー評価: CMPD-39 (USP30阻害薬、20 nM) および siUSP30-1/-2 (siRNA) 処置下でのミトコンドリア移送頻度とホモプラスミー置換をフローサイトメトリーとシングルセルSanger法で評価 (n=4/群)。NAC (N-acetylcysteine) 処理 (10 mM) でROS依存性ミトファジーへの寄与を評価し、LC3B蛍光染色 (Proteintech 18725-1-AP) で共焦点顕微鏡定量を実施した。
T細胞多面的機能評価: DsRed発現によりミトコンドリア移送の有無で分別したTIL (DsRed+/DsRed-) について: ミトコンドリア膜電位 (MitoTracker Deep Red/Green ratio)・ROS産生 (DCFDA: 2’,7’-dichlorofluorescein diacetate)・β-ガラクトシダーゼ (Cellular Senescence Detection kit, SPiDER-β-Gal)・p16/p53発現・SASP (IL6/CXCL8/IL1B リアルタイムPCR)・増殖能 (CFSE (carboxyfluorescein succinimidyl ester) 希釈法)・アポトーシス (Annexin V)・記憶分画 (CCR7high CD45RAlow 中央記憶・KLRG1low 長寿命)・エフェクター活性 (PD-1/CD69 抗CD3/CD28刺激後) を網羅的に評価した (n=4/群)。Jurkat/Rho0細胞 (Rho0: mtDNA-depleted cell generated by ethidium bromide 200 ng/mL treatment for 6 weeks) へのMitoCeption法 (2000×g、15 min×4回/週) を用いた純粋ミトコンドリア移送実験でも同一評価を実施した。
In vivo腫瘍免疫実験: LLC/A11-MitoDsRed (Nd6 13997G>A変異、1×10^5個) またはLLC/P29-MitoDsRed (非変異、5×10^4個) をC57BL/6Jマウスに皮下接種し、day 14から抗PD-1抗体 (RMP1-14、200 µg/匹×3回、3日毎) を投与した (n=6/群)。GW4869 (60 µg/匹) を2日毎に腫瘍内局所投与した (n=4/群)。Tfam fl/fl Cd4creマウス (T細胞選択的Tfam欠損によるミトコンドリア機能障害モデル) でICI効果を独立検証した。OT-1マウスからのDsRed+CD8+T細胞を用いたkilling assay (effector:target比を変量) でmtDNA変異の殺傷活性への影響を評価した。統計: t検定・one-way ANOVA・two-way ANOVA (Bonferroni補正)・Kaplan-Meier法・log-rank検定を使用 (両側検定、P<0.05)。各in vitro実験は少なくとも3回の独立した生物学的反復実験 (biological replicates, n≥3) で再現性を確認し、代表的な結果を示した。