• 著者: Ilija Melentijevic, Marton L. Toth, Meghan L. Arnold (co-first equal), Ryan J. Guasp, Girish Harinath, Ken C. Nguyen, Daniel Taub, J. Alex Parker, Christian Neri, Christopher V. Gabel, David H. Hall & Monica Driscoll
  • Corresponding author: Monica Driscoll (driscoll@dls.rutgers.edu, Rutgers University, Piscataway, NJ, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-02-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28178240

背景

神経変性疾患 (ハンチントン病・アルツハイマー病・パーキンソン病等) の病態の核心は、誤折り畳みタンパク質の細胞内蓄積と毒性である。細胞はオートファジー・プロテアソーム・シャペロンネットワークといった複数のプロテオスタシス系によってこれらの有害物質を処理するが、加齢とともにこれらの能力が低下し神経変性が進行する。また、凝集性タンパク質 (ポリグルタミン・アミロイドβ等) や機能不全ミトコンドリアが隣接細胞へと伝播する現象は多くのモデルで観察され、ミトコンドリアが EV を介して臓器間輸送されうることも後に示されたが (Crewe et al. CellMetab 2021 に相当)、本研究当時その分子メカニズムは未解明であった。特に、細胞が内部処理能力の限界に達した際に「細胞外への排出」というバックアップ機構を持つかどうか、また神経細胞においてその直接的な証拠は得られていなかった。さらに、既知のエクソソーム (約30-100 nm、エンドソーム由来の細胞間伝達体) とは全く異なるスケールの細胞外構造体の存在は報告されておらず、この領域は手薄であった (Thery et al. NatRevImmunol 2002 / Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009 に相当する EV 分類の枠組みでは捉えられない巨大構造体である)。

目的

C. elegans触覚神経細胞がストレス下で産生する大型膜結合性細胞外構造体「エクソファー」を同定・特性化し、その内容物・産生機構・クリアランス経路・神経保護機能を包括的に解析すること。特に、プロテオスタシス負荷とエクソファー産生の相関、タンパク凝集体・ミトコンドリアの選択的搭載、およびエクソファー産生が受容ニューロンの機能に与える影響を検証する。

結果

エクソファーの同定と基本特性:ALMR触覚神経が産生する「エクソファー」は平均直径3.8 μm (最大7.8 μm) の膜結合性球状小胞であり、既知エクソソーム (約30-100 nm) やアポトーシス小体とは生合成形態・サイズ・遺伝的要件の全てで区別される新規の細胞外構造体として同定された。最も産生頻度が高いのはALMR触覚神経 (成体2日後の自然発生頻度約23%) (Fig. 1d) であり、形成はソーマから非対称な風船様突出として始まり、細い管状接続を経て最終的に切断・放出されるプロセス (突出から放出まで約15-100分) として時空間的に観察された。DAPI陽性を示したエクソファーは25例中0例であり、DAPI陽性ソーマが25例中25例であったことと対照的で、エクソファーが核分裂産物ではないことが確認された。電子顕微鏡および膜GFPレポーター (P_mec-4 PH(plcDelta)::GFP) により膜結合性が確認された。

凝集性タンパク質・酸化ミトコンドリアの選択的排出:mCherry-Htt-Q128 (ポリグルタミン凝集体・128リピート毒性フラグメント) とQ19 (非毒性) を発現する株の比較で、Q128発現株がQ19/Q0株より有意に多くのエクソファーを産生した (n>100/株、3試行)。凝集性mCherryとSoluble GFPを共発現する株では、23例中22例のエクソファーでmCherry/GFP比がソーマより有意に高く (mCherry E/S比平均2.2、GFP E/S比平均0.75) (Fig. 2i)、凝集性タンパク質の選択的搭載が実証された。mitoROGFP解析では405 nm (酸化型)/476 nm (還元型) 励起比がエクソファー内ミトコンドリアでソーマより有意に高く (p<0.05、n=10 ペア比較)、酸化・損傷ミトコンドリアが優先的に排出された。MitoTimerレポーター (新合成=緑、酸化=赤) でも同様にエクソファー内ミトコンドリアの赤/緑比がソーマより高いことが確認された。さらに、18/25例 (72%) のエクソファーにリソソームが含まれていた。これらの選択的搭載は各群 n=23 細胞 (E/S 比解析) で再現され、効果量は mCherry E/S 比 2.2 倍 vs GFP 0.75 倍と約 3 fold の差として定量された。

プロテオスタシス負荷とエクソファー産生の相関:hsf-1(sy441) 変異体 (HSF-1欠損によるシャペロン発現不全) では産生が約6倍増加した (n>280/株) (Fig. 3a)。オートファジー阻害 (薬理的spautin-1: n>80・RNAi: lgg-1/atg-7/bec-1 各n>100) およびプロテアソーム阻害 (MG132) でも産生が有意に増加した。逆に、成体でのpod-1/emb-8 RNAi knockdown (エクソファー産生に必要な極性遺伝子) はエクソファー産生を有意に低下させた (n>100、4試行)。成体1日目時点でALMR内に2個以上の凝集体を持つ個体では翌日のエクソファー産生率が1個のみの個体より有意に高かった (n>130/条件、5試行)。

エクソファー産生による神経機能的保護:Q128-CFP発現株の縦断的盲検試験 (n>100匹、3試行) で、成体2日目にALMRエクソファーを産生した個体は、産生しなかった個体と比較して成体4日目の前方タッチ感度スコアが有意に高かった (p<0.05) (Fig. 3e)。pod-1/emb-8 RNAiでエクソファー産生を阻害すると、L4-成体期の介入でも成体4日目のタッチ感度が低下した (n>130、3試行)。すなわち、エクソファーを産生した神経は産生しなかった神経に比べて機能的に保護されていた。

ESCRT非依存性と遠位コエロモサイトへの伝播:ESCRT関連遺伝子 (vps-4・hgrs-1等) のRNAi/変異体ではエクソファー産生に有意な影響がなく (全p>0.5)、エクソソームとは全く異なる生合成機構であることが確認された。貪食経路では、ced-1/ced-6/ced-7変異体で複数エクソファーを持つALMR神経が有意に増加したが (p<0.05-0.001)、ced-5/ced-10/psr-1並列経路には影響がなく、またエクソファー表面にはアポトーシスシグナルのホスファチジルセリンが検出されなかった (43例中0例)。成体6日目には、触覚神経でのみ発現したmCherryが遠位のコエロモサイト (scavenger cell) に蓄積しており、エクソファー内容物が体腔 (pseudocoelom) を経由して遠位細胞に転送されることが示された。cup-4変異体 (コエロモサイト取り込み阻害) では蛍光粒子が体腔に散在した (200匹中29匹、成体4日目)。

考察/結論

本研究はC. elegans触覚神経細胞に「エクソファー」という全く新規の細胞外構造体産生機構を発見し、これが神経細胞のプロテオスタシスおよびミトコンドリア品質管理の新規経路として機能することを実証した初の研究である。先行研究では、タンパク凝集体や機能不全ミトコンドリアの細胞外伝播現象は観察されていたが、その機構として「神経細胞が自律的に大型巨大小胞を産生して有害物質を排出する」という直接証拠は存在しなかった。本研究の独自性は、(1) 約4 μmという既知EVとは桁違いのスケールの構造体の同定、(2) 凝集性タンパク質・酸化ミトコンドリアの選択的搭載の実証、(3) ESCRT 依存的なエクソソーム形成 (Trajkovic et al. Science 2008 に相当) とは異なり ESCRT 非依存という全く異なる生合成機構、(4) エクソファー産生が神経機能保護に機能する直接証拠、の4点にある。

臨床応用可能性としては、ハンチントン病・アルツハイマー病・パーキンソン病等の神経変性疾患において、エクソファー産生経路の活性化が凝集体蓄積を防ぐ治療戦略になりうる可能性が示唆される。pod-1/emb-8等の産生制御遺伝子、あるいはプロテオスタシス負荷センサーが薬理的標的候補となる。一方で、エクソファー内容物が遠位細胞 (C. elegansではコエロモサイト、哺乳類では隣接神経・グリア) に転送されることは、プリオン様凝集体伝播 (シヌクレイン・タウ等) の基盤メカニズムと関連する可能性がある—エクソファー産生が神経保護か病理的伝播かという二面性は、哺乳類系での検証を必要とする重要課題である。

今後の課題・残された課題として、(1) 哺乳類神経細胞での機能的ホモログ構造の特定 (マウス網膜節細胞でも類似した経細胞的ミトコンドリア分解が報告されている)、(2) エクソファーの膜分子組成と内容物選別の分子機構の解明 (pod-1/emb-8の具体的機能)、(3) 加齢に伴うエクソファー産生能低下の機序と神経変性への寄与、(4) 受容細胞での凝集体の運命 (分解か毒性伝播か) が挙げられる。本研究が確立した「神経細胞は内部処理能力が限界に達すると有害物質を外部排出するバックアップ経路を持つ」というパラダイムは、EV研究のみならず神経変性疾患の基礎研究に広範な影響を与えることが予想される。

方法

C. elegansトランスジェニック株 (mCherry-Htt-Q128・amyloid-β1-42-YFP・MitoGFP・mitoROGFP・MitoTimer等の蛍光レポーター) を用いた蛍光生体顕微鏡観察、エクソファー産生定量 (n>1,000匹)、遺伝学的スクリーニング (RNAiライブラリー・変異体) によるエクソファー制御遺伝子同定、プロテオスタシス阻害実験 (hsf-1変異体・オートファジー阻害:lgg-1/atg-7/bec-1 RNAi・プロテアソーム阻害:MG132処置)、ESCRT経路変異体解析 (vps-4・hgrs-1等)、CED貪食経路変異体解析 (ced-1/ced-6/ced-7/ced-5/ced-10/psr-1)、神経機能試験 (タッチ反応アッセイ:calibrated force probe)、高解像度蛍光顕微鏡 (time-lapse、スピニングディスク共焦点)、透過型電子顕微鏡 (高圧凍結/凍結置換: HPF/FS)。