• 著者: Mario Leonardo Squadrito, Caroline Baer, Frederic Burdet, Claudio Maderna, Gregor D. Gilfillan, Robert Lyle, Mark Ibberson, Michele De Palma
  • Corresponding author: Michele De Palma (Swiss Institute for Experimental Cancer Research (ISREC), School of Life Sciences, École Polytechnique Fédérale de Lausanne (EPFL), Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-08-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25159140

背景

miRNA (microRNA) は、転写後レベルで遺伝子発現を調節する小型の非コードRNAである。前駆体miRNAはDICER酵素によって成熟型に加工された後、RISC (RNA-induced silencing complex) に組み込まれ、標的mRNAの分解または翻訳抑制を引き起こすことが知られている (Yates et al., 2013; Bartel, 2009)。近年、多くの細胞型においてmiRNAがエクソソームに搭載され、細胞間で移送されることが報告されている (Valadi et al. NatCellBiol 2007; Simons et al. CurrOpinCellBiol 2009)。RNAシーケンシング (RNA-seq) 研究により、エクソソームのmiRNAレパートリーが産生細胞のmiRNAプロファイルと大きく異なる場合があることが示されており (Gibbings et al., 2009; Guduric-Fuchs et al., 2012; Nolte-‘t Hoen et al., 2012)、エクソソームへのmiRNAの選択的ソーティング機構の存在が示唆されていた。しかし、この選択的ソーティングを制御する分子メカニズムについては、ほとんど未解明な点が残されていた。

細胞内では、miRNA活性の中心はPボディ (GW/P bodies) と呼ばれる細胞質顆粒である。PボディにはAGO2やGW182などの翻訳抑制タンパク質がmiRNAと共局在し、翻訳されないmRNAが蓄積する (Jakymiw et al., 2005; Liu et al., 2005; Pillai, 2005)。一方、エクソソームは多胞体 (MVB: multivesicular body) が細胞膜と融合する際に細胞外に放出される小胞である。GW/PボディとMVBが細胞内で近接して局在することが知られており (Gibbings et al., 2009)、miRNAがこれら二つのオルガネラ間を移行する可能性が示唆されていた。先行研究では、ヒト核内リボタンパク質hnRNPA2B1のスモイル化が、特定のGGAGモチーフを持つmiRNAのエクソソームへのソーティングを制御することが報告されている (Villarroya-Beltri et al. NatCommun 2013)。しかし、このような配列特異的な機構とは異なる、より広範な配列非特異的なmiRNAソーティング制御機構については、その実態が不明であった。エクソソームを介したmiRNAの細胞間転送が受容細胞の生物学的機能に影響を与える可能性も示唆されていたが (Hergenreider et al., 2012; Mittelbrunn et al., 2011; Montecalvo et al., 2012)、外来性miRNAの転送活性と内因性miRNA活性の区別が困難であり、その機能的意義を厳密に評価するための決定的な証拠が不足していた。

目的

本研究は、マクロファージと内皮細胞を異種細胞間コミュニケーションのモデルとして用い、エクソソームへのmiRNAソーティングメカニズムと受容細胞へのmiRNA転送の意義を解明することを目的とした。具体的には、以下の3点を検証した。(1) マクロファージの細胞活性化 (IL-4刺激) がエクソソームへのmiRNAソーティングにどのような影響を与えるかを解析すること。(2) 内在性miRNAターゲット転写産物レベルの変化が、miRNAをPボディ (miRNA活性部位) から多胞体 (MVB、エクソソーム生合成部位) へと再配置させることで、エクソソームへのmiRNAソーティングを制御するという仮説を検証すること。(3) マクロファージから内皮細胞へのエクソソームを介したmiRNAの機能的転送が、in vitroおよびin vivoで標的遺伝子発現を調節する可能性を実証すること。これらの目的を達成することで、エクソソームを介した細胞間コミュニケーションにおけるmiRNAの役割と、その制御メカニズムに関する新たな知見を提供することを目指した。

結果

細胞活性化依存的なexo-miRNA組成の変化: IL-4刺激BMDMでは、618種類のmiRNAアレイで178種類 (29%) のmiRNAが検出された。そのうち31種類 (5%) がBMDM本体で発現変動し (例: miR-138-5pは59倍増、miR-9-3pは16倍増; miR-146a-5pは0.10倍、miR-223-3pは0.27倍に減少)、40種類 (6%) がエクソソームにおいてIL-4依存的な濃縮変化を示した (Fig 1A, 1B)。検出された178種類のうち、UT条件で90種 (51%)、IL-4条件で101種 (57%) がBMDM本体よりもエクソソームで相対的に増加しており、エクソソームのmiRNA組成が産生細胞と系統的に異なることを確認した (Fig 1D, 1E)。これらの変化は、miRNAのソーティングが細胞の活性化状態に依存することを示唆する。

miRNA量・ターゲット量とエクソソームソーティングの双方向的制御: Dicer fl/fl BMDMにCre LVを導入してDicerを部分欠損させると、BMDM本体でのmiRNA低下は中程度であったが、エクソソームでは同一miRNAの低下がより顕著であった (Fig 2A, 2B)。具体的には、miR-146a-5pはDicer欠損BMDMで約0.5-foldの減少を示したが、エクソソームでは約0.1-foldまで減少した (n = 2-3 biological replicates)。逆に、iBMMへのmiR-511-3p過剰発現LVの濃度を増加させると、miR-511-3pはエクソソームにおいてiBMM本体よりも急峻な濃度依存的増加を示した (Let-7a-5p比で最大約40 copies/pg vs BMDM本体の約15 copies/pg) (Fig 2D)。人工ターゲット配列 (完全相補) を最大濃度で過剰発現させると、miR-511-3p過剰発現で誘導されたエクソソーム濃縮が逆転した (Fig 2F)。天然ターゲット (Rock2 3’UTR) の過剰発現はiBMM本体のmiR-511-3pレベルには検出可能な「スポンジ効果」を及ぼさなかったが、エクソソームにおけるmiR-511-3pは有意に減少した (p < 0.05, n = 3 biological replicates) (Fig 2G)。これらの結果は、miRNA量とターゲット量のバランスがエクソソームへのmiRNAソーティングを双方向的に制御することを示している。

miRNAのPボディ⇔MVB間再配置: 細胞内分画実験により、miR-511-3p過剰発現時にはMVB富化フラクション (フラクション3) でのmiR-511-3p増加が他フラクションと比較して有意に顕著であった (2方向ANOVA, p < 0.01、3回独立実験) (Fig 3B)。人工ターゲット配列 (完全相補) またはbulge型 (部分相補) ターゲット配列の過剰発現時には、Pボディ富化フラクション (フラクション1) でmiR-511-3pが有意に増加した (p < 0.01) (Fig 3C, 3D)。これにより、miRNA量が増加するとMVBへ、ターゲット量が増加するとPボディへ、とmiRNAが再配置することが明確に示された。この再配置は、miRNAが細胞内活性部位とエクソソーム生合成部位の間をダイナミックに移動するメカニズムを支持する。

miRNA:ターゲット相互作用スコア (WIS) とエクソソーム濃縮の逆相関: RNA-seqで検出した約36,000転写産物のうち約21%がIL-4処理により有意に発現変動した (Fig 4A)。計算的WISモデルにより、IL-4処理後のWIS-ratioとexo-miRNA濃縮変化 (log2(FC)) の間に弱いが統計的に有意な逆相関が認められた (R = -0.20、p < 0.008、n = 178 miRNA) (Fig 4B, 4C)。すなわち、ターゲット転写産物がIL-4で増加するmiRNAはエクソソームへの濃縮が低下し、逆にターゲットが減少するmiRNAはエクソソームに濃縮された。また、同一seed配列を持つmiRNAファミリーメンバーは、ランダムに選ばれたmiRNAペアと比較してエクソソーム濃縮変化の差異 (ΔFC) が有意に小さく (Kolmogorov-Smirnov検定, p < 0.001)、seed配列依存的なソーティング機構を支持した (Fig 4I)。

Lyz2欠損によるmiR-218-5pエクソソーム濃縮の選択的増加: Lyz2.Creマウス由来BMDM (Lyz2欠損) では、Lyz2の3’UTRにmiR-218-5p結合部位を持つことと整合して、miR-218-5pのエクソソーム濃縮が野生型比で有意に増加した (p < 0.05、n = 3 biological replicates) (Fig 4H)。一方、Lyz2 3’UTRに結合部位を持たないmiR-16-5pのエクソソーム濃縮は変化しなかった。iBMM本体のmiR-218-5pレベルはLyz2欠損の影響を受けず (p = NS)、Lyz2によるmiR-218-5p制御は「スポンジ効果」ではなく「miRNA再配置効果」による選択的エクソソームソーティングであることを遺伝学的に実証した。Mmp12転写産物 (IL-4で約26倍増、miR-218-5pターゲット) はmiR-218-5pのWISを約8%増加させ、Lyz2 (IL-4で約2倍減) はWISを約4.5%減少させることがin silico解析で確認された (Fig 4E)。

マクロファージから内皮細胞へのエクソソームmiRNA機能移送: bEND.3細胞をIL-4処理iBMMと共培養すると、エクソソームで10倍以上高いmiRNA (miR-142-3p、miR-467b-3pなど) がbEND.3において有意に増加した (累積分布解析、Kolmogorov-Smirnov検定, p < 0.001) (Fig 5A, 5B)。Dicer -/- iELCにreporter LVを導入してexo-macで刺激すると、UT比で+10%〜20%のmiRNA活性増加が認められた (Fig S6C-S6E)。iBMMとの持続的共培養では、Dicer -/- iELCにおいて+10%〜40%のmiRNA活性が移送された (Fig 6B)。miR-188-5pおよびmiR-142-3pの移送は、miRNA欠損Dicer -/- iBMM由来エクソソームでは著明に減少し (2方向ANOVA有意差, p < 0.01)、内因性miRNA発現誘導による偽陽性を除外して真正なexo-miRNA移送活性を実証した (Fig 6F)。in vivo実験では、CD9.mCherry + iBMM含有Matrigelプラグ内のDicer -/- iELCにおいてmCherry MFIとmiR-142-3p活性の有意な増加が確認され (t検定, p < 0.05)、生体内でのマクロファージから内皮細胞へのエクソソームmiRNA移送が証明された (Fig 6H, 6I)。

考察/結論

本研究は、エクソソームへのmiRNAソーティングが細胞活性化依存的なターゲット転写産物レベル変化によって調節されるという新たなメカニズムを提唱し、「miRNA再配置 (miRNA relocation)」モデルとして定式化した重要な論文である。

新規性: 本研究で初めて、細胞活性化に応じた内在性RNAレベルの変化がmiRNAをPボディ (miRNA活性部位) から多胞体 (MVB、エクソソーム生合成部位) へと再配置させることで、エクソソームへのmiRNAソーティングを制御する「miRNA再配置」機構を発見した。これは、細胞が自らの遺伝子発現プログラムの変化に応じてエクソソームのmiRNAカーゴを動的に調節する機構であり、エクソソームを「余剰miRNAの廃棄」経路と解釈する新規な視点を提供する。

先行研究との違い: 本研究のメカニズムは、先行研究であるVillarroya-Beltri et al. NatCommun 2013で報告されたhnRNPA2B1/GGAGモチーフ認識機構とは異なり、配列非特異的かつ転写産物量に依存するため、より汎用的な制御層として機能する可能性を示唆する。両機構が相補的に作用してエクソソームのmiRNAカーゴを精巧に制御すると考えられる。Lyz2欠損実験の結果は、miRNA再配置が「スポンジ効果」(細胞miRNAレベルを変化させる) とは本質的に異なることを遺伝学的に実証した点で重要である。これは、生理的レベルの個別転写産物変化でもエクソソームmiRNA組成に実際的影響を与えうることを示す。

臨床応用: 移送されたmiRNAの受容細胞への影響は+10%〜40%のmiRNA活性増加にとどまり、エクソソーム取り込みの多くがリソソームでの分解に終わるため効率は限定的である。しかし、腫瘍微小環境のような特殊な文脈では、腫瘍浸潤マクロファージが新生血管を密に囲む構造的近接性がexo-macの内皮細胞への融合を促進し、血管新生制御におけるmiRNA移送の生理的重要性を高める可能性がある。これは治療標的としての臨床応用にもつながる。エクソソームmiRNAは疾患のバイオマーカーや治療反応の指標となる可能性があり、本研究の知見は、細胞の活性化状態に応じたエクソソームmiRNAプロファイルの変動が、これらのバイオマーカーとしての有用性を高めることを示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、PボディからMVBへのmiRNA物理的移行の分子媒介因子、ターゲット「余剰」miRNAを優先的にMVBに誘導する未知の区画化メカニズム、生理的・病理的条件下でのエクソソームmiRNA移送効率の定量評価、および本メカニズムが他の細胞型 (がん細胞等) にどの程度普遍的に適用されるかの検証が残されている。また、WISモデルは3’UTR seed:targetマッチのみを考慮しており、5’UTR・ORF・非カノニカル結合を含む完全なモデルへの発展も必要である。本研究では、miRNA:ターゲット相互作用スコア (WIS) とエクソソーム濃縮の相関係数はR = -0.20と弱く (p < 0.008)、ターゲット量以外の追加機構 (例: hnRNPA2B1媒介GGAGモチーフ認識、ESCRT非依存的経路) が並行して機能することも示唆される。この点も今後の研究でさらに解明されるべき課題である。

方法

細胞モデル: CSF-1誘導骨髄由来マクロファージ (BMDM) および不死化BMDM細胞株 (iBMM) を使用した。iBMMは、Dicer fl/fl マウスの骨髄由来細胞にSV40 large T抗原発現レンチウイルスベクター (LV) を形質導入して樹立し、クローン集団を作製した。内皮細胞系としては、Dicer fl/fl マウス心臓由来の不死化内皮様細胞 (iELC) およびbEND.3細胞株を用いた。

miRNAプロファイリング: 未刺激 (UT) およびIL-4刺激BMDMとそのエクソソームについて、618種類のmiRNAを網羅する低密度TaqMan qPCRアレイでプロファイリングを実施した (n = 3生物学的反復)。Dicer欠損実験は、Cre発現LVを用いてDicer fl/fl BMDMに導入し、12日後に評価した。

miR-511-3p過剰発現・ターゲット配列操作実験: iBMMにmiR-511-3pを過剰発現するLV (4段階濃度) を導入し、また人工ターゲット配列 (完全相補、3段階) または天然ターゲット (Rock2 3’UTR) を発現するLVを導入して、miR-511-3pのiBMM本体とエクソソームにおけるレベルを比較した。miR-511-3pの過剰発現は、iBMM本体よりもエクソソームにおいてより急峻な濃度依存的増加を示した。

細胞内分画: iBMMを9分画に分け、CD81 (MVBマーカー)、AGO2/GW182/DCP1A (Pボディマーカー)、カルネキシン (ERマーカー) で各分画を同定し、分画ごとのmiR-511-3pレベルをΔCt値で定量した。この実験では、miR-511-3pの過剰発現によりMVB富化フラクション (フラクション3) でのmiR-511-3p増加が有意に顕著であった (p < 0.01、3回独立実験)。

計算的モデリング (WIS: weighted interaction score): IL-4刺激vs UT BMDMのRNA-seqデータ (FPKM) に基づき、全miRNAについて3’UTRシード配列マッチ (8-mer: 重み1.0、7-mer: 0.7、6-mer: 0.3) を用いた転写産物ごとの加重相互作用スコア (WISt) を算出し、全転写産物の総和をWISとした。WIS-ratio [IL-4/UT] とexo-miRNA濃縮度の相関を解析した (n = 178 miRNA、bootstrap解析10^4回)。統計解析にはSpearman相関分析を用いた。

Lyz2遺伝子ノックアウト実験: Lyz2.Creマウス (Lyz2両アレル機能欠損) 由来BMDMを用い、miR-218-5p (Lyz2に結合部位あり) およびmiR-16-5p (Lyz2に結合部位なし) のエクソソーム濃縮を比較した (n = 3 biological replicates)。統計解析には不対Studentのt検定を用いた。

miRNA機能移送アッセイ: 32種類のmiRNA reporter LV (dGFP + 完全相補miRNAターゲット配列 × 2個、双方向プロモーターでΔLNGFRも発現) を構築し、GFP fold repressionをmiRNA活性の定量指標とした。Dicer -/- iELCにreporter LVを導入後、exo-macを添加またはiBMMと共培養してmiRNA活性を測定した。in vivo実験では、MatrigelプラグにmiR-142-3p reporter LVを導入したDicer -/- iELCとCD9.mCherry + iBMMを混合してnu/nuマウスに皮下移植し、8日後にフローサイトメトリーで解析した (CD9.mCherry + iBMM群 n = 7 mice、非含有群 n = 13 mice)。統計解析にはt検定を用いた。