• 著者: Mikael Simons, Graça Raposo
  • Corresponding author: Mikael Simons (Max-Planck-Institute for Experimental Medicine, Göttingen, Germany)
  • 雑誌: Current Opinion in Cell Biology
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-05-11
  • Article種別: Review
  • PMID: 19442504

背景

細胞は細胞内の膜間カーゴ輸送のための小胞のみならず、細胞外空間にも膜小胞を分泌し、これが個体内の異なる細胞間でカーゴを運搬するシャトルとして機能する。組織培養上清に見出される細胞外膜小胞は多様で、産生細胞の起源と状態 (形質転換・分化・刺激・ストレス) に依存して変化する。エクソソーム・アポトーシス小体・マイクロベシクル・マイクロパーティクル・prostasome・prominosome など多様な名称が併用されてきたが、これらの定義の重複と境界は曖昧で、各小胞種への機能帰属を困難にしていた。とりわけ、エクソソーム (直径 40-100 nm のエンドソーム由来小胞) と、形質膜から直接出芽する大型の microvesicle (microparticle) との区別が、サイズ・密度・形態に基づく精製法しか存在しないために方法論的に困難であった点が、当時の研究における核心的な knowledge gap であった。

エクソソームはこれら細胞外小胞のなかで過去数年間に最も注目を集めた。多様な細胞機能と疾患状態への関与が報告され、体液 (尿・血清) 中に豊富に存在することからバイオマーカーとしての価値も期待された。しかし、その起源・生合成・分泌機構が enigmatic なままであったため、生理的意義の評価は困難であった。すなわち、エクソソームの生合成が ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 経路のみに依存するのか、ESCRT 非依存的経路が併存するのかという機構的理解が不足しており、また小胞精製と分類の手法も粗く、機構的洞察が手薄であった。

エクソソームの概念は 1980 年代に網状赤血球の成熟過程での小胞放出として初めて記述されたが、本格的な研究は Raposo et al. JExpMed 1996 による B リンパ球からの MHC II 担持小胞 (抗原提示小胞) の発見以降に加速した ([17])。さらに、エクソソームが単にタンパク質・脂質を運ぶだけでなく、核酸を介した細胞間コミュニケーションにも関与しうる可能性が Valadi et al. NatCellBiol 2007 によって提示され、その分子機構の解明が喫緊の課題となっていた。同時期に Skog et al. NatCellBiol 2008 が腫瘍由来小胞による RNA 転送と血管新生促進を報告し、こうした核酸転送現象がエクソソーム特異的か他の小胞種にも及ぶのかという小胞分類上の未解明点が一層際立った。脂質依存的な生合成については Trajkovic et al. Science 2008 のセラミド経路が ESCRT 中心の旧来モデルに修正を迫っており、これら散在する知見を統合する枠組みが不足していた。本レビューは、こうした生合成経路の多様性・MVB (multivesicular body) サブポピュレーションの異質性・核酸ソーティング機構という未解明領域のgap in knowledgeを、2009 年時点の知見で統合し整理することを企図したものである。

目的

本レビューの目的は、(1) エクソソームの定義・形態的特徴・タンパク質/脂質組成を整理し実用的な分類基準を提示すること、(2) 多胞体 (MVB) 内腔小胞 (ILV, intraluminal vesicle) としてのエクソソーム生合成メカニズムを ESCRT 依存的経路と ESCRT 非依存的 (セラミド/テトラスパニン) 経路の両面から記述すること、(3) MVB サブポピュレーションの多様性と運命決定を概説すること、(4) 細胞外小胞 (EV, extracellular vesicle) 分泌の調節機構を整理すること、(5) エクソソームが媒介する細胞間コミュニケーション機能 (タンパク質・脂質・核酸の転送) を概観すること、である。特に、エクソソームが mRNA・microRNA を運ぶことで遺伝情報を細胞間で伝達する「virus-like properties (ウイルス様特性)」を持つ可能性に焦点を当て、その生理的・病理的意義を考察する。あわせて精製・分類における方法論的限界を明示し、今後の研究の方向性を示すことも目的とする。

結果

エクソソームの定義と特徴的組成: エクソソームは直径 40-100 nm、ショ糖密度勾配での浮遊密度 1.13-1.19 g/ml であり、ネガティブ染色では cup-shaped morphology、cryo-TEM では球状の明確に境界された小胞として観察される (Fig 1)。エンドソーム起源を反映して、細胞型を問わず共通して膜輸送・融合関連タンパク質 (Rab GTPase、annexin、flotillin)、MVB 生合成関連 (Alix、TSG101)、heat shock protein (hsc70、hsp90)、integrin、tetraspanin (CD63、CD9、CD81、CD82) を含む。これらのうち Alix・flotillin・TSG101・CD63 はエクソソームマーカータンパク質として定義される。さらに raft 脂質 (cholesterol、sphingolipid、ceramide、長鎖飽和アシル鎖を持つ glycerophospholipid) に富む。一方、腫瘍細胞・血小板・単球が刺激後に放出する 100 nm-1 μm の大型かつ heterogeneous な小胞は、形質膜から shedding する microvesicle/microparticle として区別される。精製法がサイズ・密度・形態に基づく分類しか許容しないため、本レビューは「40-100 nm かつ典型的マーカータンパク質陽性」を実用的なエクソソーム定義とし、「>100 nm の不均一小胞」を microvesicle とする命名を提案する。具体例として、神経前駆細胞の midbody・primary cilium から放出される stem cell marker prominin-1 含有粒子は直径 600 nm でエクソソームマーカーを欠くため microparticle に分類される。

ESCRT 依存的 ILV 生合成: エクソソームは MVB の内腔小胞 (ILV) が形質膜とエキソサイトーシス的に融合することで放出される (Fig 1)。ILV 生成はカーゴの限界膜上での側方分離、内向き出芽、腔内への小胞放出という段階を経る。この過程で ESCRT 経路が中心的に機能し、ESCRT-0/I/II 複合体がユビキチン化タンパク質を認識・集積し、ESCRT-III が膜の出芽・scission を担う。精製エクソソームのプロテオミクス解析では多様な ESCRT 成分とユビキチン化タンパク質が enrichment され、Alix が transferrin receptor のエクソソームソーティングに必要であること、Ndfip1 (Nedd4 family interacting-protein 1) の発現がエクソソーム内タンパク質ユビキチン化の上昇と関連することが示された。これらは ESCRT 機能がエクソソームカーゴのソーティングに関与するという仮説を支持する。

ESCRT 非依存的生合成 (セラミド/テトラスパニン経路): 一方で、一部のエクソソーマルタンパク質が ESCRT 非依存的に放出されることが実証された。この経路では脂質 ceramide が鍵を握る。Trajkovic et al. Science 2008 は、ceramide が MVB 内腔へのエクソソーム小胞の出芽を誘発することを示した。ceramide は側方相分離とドメイン形成を誘導し、cone-shaped 構造による自発的負曲率が膜陥入を促進する。tetraspanin はこのドメインに集積し、他の tetraspanin・膜タンパク質・細胞質タンパク質とオリゴマー (tetraspanin web) を形成してカーゴのクラスタリング・ソーティングに寄与する。カーゴのクラスタリング自体が重要な決定因子であり、網状赤血球での transferrin receptor の抗体誘導クロスリンキングや、Jurkat T 細胞での CD43 (sialophorin/leukosialin) のクロスリンキングはエクソソーム分泌を増強した。class E VPS (vacuolar protein sorting) タンパク質を阻害しても CD63・CD82・proteolipid protein (PLP) のエクソソーム放出は影響を受けず (この経路は ESCRT 機能を要さない)、メラノサイトの melanosomal protein Pmel17 (premelanosome protein 17) も lumenal domain 依存的・ESCRT 非依存的に ILV へソーティングされた。

MVB サブポピュレーションの多様性: MVB が均一でなく複数のサブポピュレーションとして共存することが明らかになりつつあった (Fig 2)。perfringolysin O でコレステロールを標識した B リンパ球の解析では cholesterol 陽性 MVB と陰性 MVB が共存し、cholesterol 陽性 MVB が形質膜と融合してエクソソームを放出する傾向が示された。対照的に、BMP (bis(monoacylglycero)phosphate)/LBPA (lysobisphosphatidic acid) 含有 ILV は分解経路 (リソソーム) 向けであり、ヒト B 細胞由来エクソソームの mass spectrometry 脂質解析では BMP/LBPA が検出されなかった (n=1 cell type)。ESCRT 複合体 4 成分 (Hrs (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate)/ESCRT-0、Tsg101 (tumor susceptibility gene 101)/ESCRT-I、Vps22 (vacuolar protein sorting 22)/ESCRT-II、Vps24 (vacuolar protein sorting 24)/ESCRT-III) を同時に枯渇させても EGFR ソーティングは阻害される一方、MVB の特徴を持つオルガネラの生成は完全には阻害されず、ESCRT 非依存的 MVB サブクラスの存在が示唆された。

エクソソーム分泌の調節: 最大の MVB サブポピュレーションは多くの細胞で lysosome と継続的に融合するが、一部の MVB は一時貯蔵コンパートメントとして機能する。細胞内 Ca2+ の上昇がエクソソーム放出を促進し、calcium ionophore が K562 細胞・培養皮質ニューロン・oligodendrocyte で分泌を刺激した (K562 細胞では約 2-fold の放出増)。小型 GTPase の Rab11 と RhoA エフェクターの citron kinase が exocytic イベントに関与しうること、V0-ATPase (V-type H+-ATPase の V0 サブユニット) が MVB-形質膜融合の候補分子であることが提唱されたが (Caenorhabditis elegans の V0-ATPase 変異体で MVB の頂端膜融合が障害される)、哺乳類での定量的な最終証拠は待たれた。逆に autophagy 誘導は MVB を autophagic vacuole と融合させてエクソソーム分泌を阻害した。

RNA 輸送と遺伝的コミュニケーション: 特筆すべき発見として、エクソソームはタンパク質・脂質のみならず選択的に mRNA と microRNA を含むことが Valadi et al. NatCellBiol 2007 により報告された。マスト細胞由来エクソソームは約 1,300 遺伝子の mRNA と 100 種以上の microRNA を含み、ドナー細胞への移送後に mRNA の翻訳が受容細胞で開始された (転写産物は subset のみで active sorting が示唆)。同様に Skog et al. NatCellBiol 2008 のグリオブラストーマ由来 microvesicle/エクソソームは mRNA・microRNA・血管新生タンパク質を運び、ヒト脳微小血管内皮細胞への取り込みで血管新生を刺激した。これらは、いったん endocytosis されたエクソソームがエンドソーム限界膜と融合して細胞質に内容物を放出するという「virus-like (ウイルス様)」な核酸転送モデルを示唆した。

機能的意義の多様性: エクソソームの機能は産生細胞に依存して多岐にわたった: (1) 不要タンパク質の処分系 (分解能の低い細胞・排泄系隣接細胞)、(2) 凝固制御 (活性化血小板由来エクソソームが反応表面を提供)、(3) 細胞遊走 (Dictyostelium で遊走細胞が後端から走化性シグナルを含む小胞を分泌)、(4) 免疫応答調節 (樹状細胞由来エクソソームが MHC・共刺激分子を提示し、ICAM-1・LFA-1 を介して受容細胞表面に捕捉され T 細胞を活性化、Tim-1/Tim-4 が phosphatidylserine 受容体として結合)、(5) 腫瘍悪性化 (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008 による腫瘍細胞由来小胞を介した発がん受容体 EGFRvIII の転送)、(6) prion などの病原体拡散。

考察/結論

2009 年時点における EV 生物学の位置づけ: 本レビューは EV 生物学が基盤を固めつつあった時期の重要な総説であり、エクソソームの定義・生合成・機能を体系化した。とりわけ ESCRT 依存的経路と ESCRT 非依存的 (セラミド/テトラスパニン) 経路の並立という概念枠組みを確立し、後続 15 年以上の EV 研究の出発点を提供した。エクソソームが「細胞のゴミ袋」ではなく多機能な細胞間コミュニケーション媒体であるという認識を定着させた点に歴史的意義がある。

先行研究との違い: これまでエクソソームの生合成は ESCRT 経路に依存すると考えられがちであったが、本レビューは ESCRT 非依存的経路を明確に統合した点でこれまでの研究異なる視点を提供した。既報の B リンパ球抗原提示小胞 (Raposo et al. JExpMed 1996) を起点とする蓄積に、Trajkovic et al. Science 2008 のセラミド経路や Valadi et al. NatCellBiol 2007 の核酸転送を重ね合わせ、生合成の機構的多様性を強調した点が対照的な独自性である。

新規性: 本レビューは、エクソソーム生合成が ESCRT 依存的経路のみならずセラミド・テトラスパニンが関与する ESCRT 非依存的経路でも進行するという新規な統合枠組みを提示した。さらに、エクソソームが mRNA・microRNA を運び遺伝情報を細胞間で伝達する「virus-like properties」を持つという、これまで報告されていないパラダイムを総説として明確に位置づけた点がnovelな貢献である。

臨床応用: 本知見はエクソソームの臨床的意義を多方面で示す。体液中に豊富に存在することから腎疾患・がんなどのバイオマーカーとしての臨床応用が期待され、腫瘍由来エクソソームによる EGFRvIII 転送は治療標的としての価値を示す。さらに、樹状細胞由来エクソソームのワクチン応用や、エクソソーム組成を改変した薬物送達系など、basic science を治療へつなぐ橋渡し研究の素地を提供した。

残された課題今後の研究課題として、運命の異なる MVB サブポピュレーション (分泌型と分解型) を分離する手法が依然存在しない点、サイズ・密度・形態以外の分子組成に基づく精密分類法が未確立な点 (limitation) が挙げられる。また、受容細胞でエクソソームが核酸を細胞質へ放出する残された課題としての融合機構 (エンドソーム限界膜融合か直接形質膜融合か) は未解明である。これら更なる検討の進展が、エクソソーム生物学の理解と臨床現場への応用を加速させる鍵となる。

方法

本論文は themed issue「Membranes and organelles」に掲載された総説 (Review) であり、独自の実験データを持たない。したがって統計的仮説検定 (ANOVA / log-rank / Cox など) は該当しないが、本稿で引用される一次論文には、コレステロール局在を perfringolysin O で標識した免疫電子顕微鏡解析、ショ糖密度勾配遠心 (浮遊密度 1.13-1.19 g/ml) によるエクソソーム単離、mass spectrometry による脂質組成解析、ESCRT 成分の siRNA depletion 実験などが含まれる。著者らはこれら一次文献を体系的に統合した。

文献調査は PubMed 等の主要文献データベースを用い、対象期間はエクソソーム研究が本格化した 1990 年代半ばから 2009 年初頭までである。レビュー末尾の文献リストでは「of special interest」「of outstanding interest」の 2 段階で重要論文を格付けしており、特に過去数年の outstanding 論文 (例: 核酸転送、セラミド経路) が重点的に評価された。

エクソソームの同定基準 (characterization) として本レビューが採用するのは、(a) 形態 — ネガティブ染色での cup-shaped morphology、透過型/cryo 電子顕微鏡での球状の明確に境界された小胞、(b) サイズ — 直径 40-100 nm、(c) 浮遊密度 — ショ糖勾配で 1.13-1.19 g/ml、(d) マーカータンパク質 — Alix・flotillin・TSG101・CD63 などの enrichment、である。これは現代の ISEV ガイドラインが要求する「isolation method (単離法) + characterization marker (特徴づけマーカー)」の二本立て検証の原型に相当し、本稿では isolation 法としてショ糖密度勾配浮遊 (density 1.13-1.19 g/ml)、characterization marker として CD63・CD81・Alix・TSG101・flotillin が明示されている。生合成機構の検討では ESCRT 依存的経路 (ESCRT-0/I/II によるユビキチン化タンパク質の認識、ESCRT-III による膜出芽) と ESCRT 非依存的経路 (セラミド誘導性出芽、テトラスパニンによるカーゴ集積) の両系統を、関連する一次論文の電顕・プロテオミクス・脂質解析・depletion 実験の結果に基づいて対比的に記述している。