• 著者: Carolina Villarroya-Beltri, Cristina Gutiérrez-Vázquez, Fátima Sánchez-Cabo, Daniel Pérez-Hernández, Jesús Vázquez, Noa Martin-Cofreces, Dannys Jorge Martinez-Herrera, Alberto Pascual-Montano, María Mittelbrunn, Francisco Sánchez-Madrid
  • Corresponding author: Francisco Sánchez-Madrid (fsmadrid@salud.madrid.org)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-12-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24356509

背景

エクソソームは多くの細胞種から放出される 50–300 nm 径の細胞外小胞であり、mRNA、miRNA などの非コード RNA を含み、レシピエント細胞へ機能的に転送されることが知られている Valadi et al. NatCellBiol 2007。miRNA レパートリーは親細胞と異なることが示唆されていたが、特定の RNA を選択的にエクソソームに積み込む分子機構は未解明であった。エクソソームは細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たすことが報告されており Thery et al. NatRevImmunol 2009、その内容物の選別機構の解明は、エクソソームの生物学的機能の理解に不可欠である。特に、miRNA を介した細胞間情報伝達の機能的関連性は、in vitro および in vivo で報告されている Mittelbrunn et al. NatCommun 2011。また、エクソソームはバイオマーカー、ワクチン、遺伝子治療のベクターとしての応用が期待されており Peinado et al. NatMed 2012、そのカーゴを制御するメカニズムの理解は、これらの応用開発において不足している重要な情報である。本論文は、T リンパ球をモデルに、エクソソーム内 miRNA の選別を制御する cis 配列要素と trans 因子の同定を目的とする。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。(1) 親細胞ではなくエクソソームに優先的に局在する miRNA (EXOmiRNA) と、細胞内に保持される miRNA (CLmiRNA) に共通する配列モチーフを同定すること。(2) その配列モチーフを認識して miRNA をエクソソームへ積載する RNA 結合タンパク質を同定すること。(3) 翻訳後修飾 (sumoylation) が miRNA のエクソソームへの積載制御に関与するか検証すること。

結果

EXOmiRNA / CLmiRNA の存在と配列依存的選別: Microarray 解析により、T 細胞活性化に伴う miRNA 変化は親細胞とエクソソームで一致せず、活性化状態に依存せず一貫してエクソソームに濃縮される EXOmiRNA (miR-198, miR-601, miR-575, miR-451, miR-125a-3p, miR-887 など) と、細胞側に保持される CLmiRNA (miR-17, miR-29a, let-7a, miR-142-3p, miR-181a, miR-18a など) が存在することが同定された (Fig. 1a, b)。Cladogram 上で両群は別クラスタに分離し (Fig. 1c)、配列依存的な選別を示唆した。この解析には 30 の EXOmiRNA と 42 の CLmiRNA が含まれている。

EXOmotif (GGAG) と CLmotif (UGCA) の同定: 30 の EXOmiRNA と 42 の CLmiRNA の比較解析により、EXOmotif として GGAG (75% の EXOmiRNA で 3’ 半分に位置) を、CLmotif として UGCA (66.6% の CLmiRNA で 3’ 半分) と 5’ 側の追加 motif 群を ZOOPS モデルで同定した (E-value < 10⁻⁴) (Fig. 1d)。これらのモチーフは、miRNA のエクソソームへの積載を決定する重要な配列要素であると示唆された。

モチーフ入れ替えによる miRNA 積載の逆転: CLmiRNA である miR-17 の CLmotif を EXOmotif (GGAG) に置換した miR-17mut は、エクソソームへの積載比率 (EXO/CL ratio) が有意に上昇した (p < 0.05)。逆に、EXOmiRNA である miR-601 の EXOmotif を CLmotif に置換した miR-601mut は、EXO/CL ratio が低下した (p < 0.05) (Fig. 2c)。この実験は n=3 の独立した Jurkat T細胞培養で実施された。同一細胞中の内在性 miR-17 / miR-18a / miR-601 比は変化せず、変異 miRNA に対する trans 因子認識の変化が直接の原因と判断された。

hnRNPA2B1 の EXOmiRNA への特異的結合: エクソソーム抽出物を biotinylated miR-198 (EXOmiRNA) / miR-17 (CLmiRNA) / poly-A / 非コートビーズで pull-down し LC-MS/MS で解析した結果、hnRNPA2B1 と hnRNPA1 が EXOmiRNA に特異的に結合し、CLmiRNA や poly-A control には検出されなかった (Fig. 3)。EMSA により、hnRNPA2B1 は GGAG 含有 RNA に直接結合し、motif 変異により結合が消失することが示された (Fig. 4c, d)。hnRNPA2B1 はエクソソーム内部に存在し (Fig. 4a)、in vivo で miR-198 と特異的に結合することが免疫沈降-qPCR で確認された (Fig. 4b)。hnRNPA2B1 の免疫沈降物からは miR-198 が特異的に検出され、miR-17 は検出されなかった (n=2)。

hnRNPA2B1 による EXOmiRNA 積載の制御: Jurkat T細胞で hnRNPA2B1 を siRNA ノックダウンすると、エクソソーム内の EXOmiRNA (miR-198, miR-601, miR-17-92 cluster の一部) が有意に減少した (p < 0.001)。hnRNPA2B1 の発現レベルは control の約 20% に低下した。一方、hnRNPA2B1 の過剰発現は EXOmiRNA の積載を増加させた (p < 0.01)。miR-198 のエクソソームレベルは control 細胞と比較して約 2.5x 増加した (n=3)。CLmiRNA は hnRNPA2B1 の発現レベル変更による影響を受けず、選別の特異性が確認された (Fig. 4f, g)。

hnRNPA2B1 の SUMO 化と miRNA 結合制御: エクソソーム内の hnRNPA2B1 は親細胞内タンパク質と比較して顕著に SUMO 化されており、分子量が約 10–12 kDa 増加していた (Fig. 5a)。SUMO-1 との共免疫沈降により、hnRNPA2B1 の SUMO 化が確認された (Fig. 5b, c)。SUMO 結合不能変異体 (K22R) では miRNA 結合が著しく低下し、SUMO 化が hnRNPA2B1–miRNA 相互作用を活性化することが示された。SUMO E2 (Ubc9) 過剰発現は EXOmiRNA 積載を促進した。SUMO 化阻害剤であるアナカルド酸 (AA) 処理により、エクソソーム中の SUMO 化 hnRNPA2B1 の量が減少し、miR-198 のエクソソームへの積載も減少した (p < 0.05)。miR-198 のエクソソームレベルは AA 処理により約 50% 減少した (n=3)。また、AA 処理により hnRNPA2B1 と miR-198 の結合も低下した (p < 0.05) (Fig. 5d, e, f)。

考察/結論

本研究は、エクソソームへの miRNA 積載が active かつ sequence-specific な機構で制御されることを初めて分子レベルで示した。短い 4 塩基モチーフ (EXOmotif GGAG) が cis-acting element として、SUMO 化 hnRNPA2B1 が trans factor として働くという「cis-trans」モデルを提示した点で新規性が高い。これまで報告されていないこの選別機構の解明は、エクソソームの生物学的機能の理解を大きく進めるものである。

先行研究との違い: これまでの研究ではエクソソームの miRNA レパートリーが親細胞と異なることは示唆されていたが、その選択的な積載メカニズムは不明であった。本研究は、特定の配列モチーフと RNA 結合タンパク質、さらにその翻訳後修飾が関与する分子メカニズムを具体的に示した点で、これまでの報告と異なり、エクソソーム生物学における重要なギャップを埋めるものである。

臨床応用: 本知見は、目的の調節 RNA を任意のエクソソームへ意図的にパッケージングする遺伝子治療やバイオマーカー開発に応用可能なデザイン原理を与える。例えば、EXOmotif の導入や hnRNPA2B1 の発現制御により、特定の miRNA をエクソソームに効率的に積載させ、標的細胞への送達を最適化できる可能性がある。これは、臨床現場における診断や治療戦略の新たな道を開く臨床的意義を持つ。

残された課題: EXOmotif は同定された 30 の EXOmiRNA の一部にしか出現せず、他の RBP (hnRNPA1, hnRNPC など) や別のモチーフによる相補的経路の存在も示唆される。今後の検討課題として、これらの代替経路の特定と、hnRNPA2B1 以外の RBP がエクソソーム miRNA 選別に果たす役割の解明が挙げられる。また、SUMO 化依存的制御が他のエクソソーム積載 RNA (mRNA, lncRNA) にも一般化できる可能性があり、その検証も今後の研究の方向性となる。さらに、hnRNPA2B1 の SUMO 化を制御する酵素 (SUMO E1, E2, E3) や脱 SUMO 化酵素 (SENP) の同定も残された課題である。本研究は Jurkat T細胞を主に用いたが、他の細胞種における hnRNPA2B1 を介した miRNA 選別機構の普遍性も検証する必要がある。

方法

ヒト初代 T リンパ球 (resting および PMA+ionomycin 活性化) と Jurkat T細胞、および各々から精製したエクソソームを対象に miRNA および mRNA microarray (GEO Series accession number GSE50972) を実施し、EXOmiRNA と CLmiRNA を抽出した。成熟 miRNA 配列の ClustalW アライメントと MEME (Multiple Em for Motif Elicitation) ベースのモチーフ探索 (ZOOPS モデル、E-value < 10⁻⁴) で over-represented motif を同定した。EXOmotif および CLmotif の機能検証として、レトロウイルスベクターに miR-17 および miR-601 を搭載し、site-directed mutagenesis でモチーフを入れ替えた。その後、LNA (locked nucleic acid) primer を用いた絶対定量 PCR で EXO/CL ratio を測定した。EXOmiRNA に結合するタンパク質は、biotinylated miRNA-streptavidin beads pull-down と LC-MS/MS で同定し、hnRNPA2B1 を候補として絞り込んだ。hnRNPA2B1 と miRNA の相互作用および sumoylation 依存性は、EMSA (electrophoresis mobility shift assay)、CLIP-like binding assay、siRNA (small interfering RNA) によるノックダウン、過剰発現、および SUMO 結合不能変異体 (K22R) を用いて機能検証した。エクソソームの品質はウェスタンブロット (CD81, TSG101) および電子顕微鏡で評価した。統計解析には Student’s t-test および one-way ANOVA を使用した。