• 著者: Qin Zhang, James N. Higginbotham, Dennis K. Jeppesen, Yu-Ping Yang, Wei Li, Eliot T. McKinley, Ramona Graves-Deal, Jie Ping, Colleen M. Britain, Kaitlyn A. Dorsett, Celine L. Hartman, David A. Ford, Ryan M. Allen, Kasey C. Vickers, Qi Liu, Jeffrey L. Franklin, Susan L. Bellis, Robert J. Coffey
  • Corresponding author: Susan L. Bellis (University of Alabama at Birmingham); Robert J. Coffey (Vanderbilt University Medical Center)
  • 雑誌: Cell Reports
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30956133

背景

細胞外小胞 (extracellular vesicles, EV) の分野では、エクソソーム、微小胞、アポトーシス小体が長く研究されてきたが、近年EVの多様性への認識が急速に高まっている。2018年にLydenらのグループが非対称フロー・フィールドフロー分画 (asymmetric flow field-flow fractionation, AF4) という特殊な分離技術を用いて、50 nm未満の非膜構造型ナノ粒子「エクソメア」を発見した (Zhang et al. NatCellBiol 2018)。エクソメアは解糖系酵素やmTORC1シグナリング関連タンパクに富み、エクソソームとは明確に異なるプロテオームを持つことが示されていた。しかし、AF4は専門的装置を要し広く普及しておらず、エクソメアの生物学的機能については全く不明のままであった。このため、エクソメアの組成や機能に関する研究は手薄であり、その生物学的役割を解明するための簡便な分離法の確立が課題として残されていた。

機能性カーゴ移送という観点では、エクソソームを介したmRNA、miRNA、タンパクの細胞間移送が多数報告されていたが、エクソメアがそのような機能を持つかは未解明であった。ST6Gal-I (β-ガラクトシド α2,6-シアリルトランスフェラーゼ 1) はN-グリコシル化タンパクへのα2,6-シアル酸付加を触媒し、大腸がんなど多くのがんで発現が亢進しβ1-インテグリンのシアリル化を介して転移を促進することが知られている (Dall’Olio and Chiricolo, 2001; Lu and Gu, 2015; Schultz et al., 2012)。また、EGFRリガンドのアンフィレグリン (amphiregulin, AREG) はエクソソームに含まれることが先行研究で示されており (Higginbotham et al., 2011)、エクソソームAREGは可溶性AREGより強力なEGFRシグナリングを誘発することが示唆されていた。しかし、これらの機能性分子がエクソメアにも含まれ、受容細胞において生物学的活性を発揮するかどうかは未解明であった。EVの不均一性に関する認識は高まっているものの (vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018)、エクソメアとエクソソームの機能的な違いを明確にする研究は不足していた。

目的

本研究の目的は、逐次超遠心によるエクソメアの簡便な単離法を確立し、その物理的・化学的特性を詳細に解析することである。さらに、シアリルトランスフェラーゼST6Gal-IとEGFRリガンドAREGという2種の機能的カーゴを用いて、エクソメアがこれらのカーゴを受容細胞に移送し、細胞表面のシアリル化や腫瘍オルガノイドの増殖促進といった生物学的活性を発揮することを初めて実証することを目指した。これにより、エクソメアがエクソソームと並立する独自の細胞間情報伝達粒子としての役割を持つことを確立し、その組成と機能の差異を詳細に解析することを目的とした。具体的には、エクソメアとエクソソームのプロテオーム、脂質、核酸組成の比較を行い、ST6Gal-IおよびAREGの移送メカニズムと受容細胞におけるシグナル伝達経路への影響、さらには腫瘍オルガノイドの増殖への影響を評価する。

結果

エクソメアの物理的・化学的特性: 逐次超遠心法により単離されたDNP (エクソメア) は、NTAにより粒子径が39〜71 nmと測定され、TEMでは膜構造を持たないドット状の形態を示した (Figure 1B, 1C)。一方、sEV (エクソソーム) は94〜173 nmの粒子径で、カップ型の典型的形態を示した。LC-MS/MSによるプロテオミクス解析では、n=3 biological replicates のDiFi細胞由来DNPとsEVで計1,741タンパク質が検出され、PCAにより両集団が明確に分離された (Figure 2B)。DNPは代謝酵素 (HK1、GPI、ALDOA、GOT1/2、FHなど) およびグリカン代謝酵素 (HEXA、HEXB、PYGLなど) に富み、mTORC1シグナリング関連タンパク質も濃縮されていた。特に、Argonauteタンパク質 (AGO1、AGO2、AGO3) がDNPに著明に濃縮されており、これはJeppesen et al. Cell 2019の報告とも一致する。sEVはCD81、シンテニン-1、TSG101、ALIX、インテグリン (ITGB1、ITGB4、ITGA6) などの典型的エクソソームマーカーを含んでいた。脂質解析では、DNPの総脂質量はsEVの約4分の1であり、DNPはエステル化コレステロールに富み (エステル化/非エステル化比 4:1)、sEVは非エステル化コレステロール優位 (非エステル化/エステル化比 10:1) という明確な差異が認められた (Figure 3E, 3F)。DNPはNEFA (非エステル化脂肪酸) が総脂質の約25%を占め、sEVより高比率であった。

ST6Gal-Iカーゴの移送と機能: DiFi細胞由来のエクソメアとエクソソームの両方にST6Gal-Iの膜型および可溶型が含まれており、酵素活性アッセイではエクソメアがエクソソームより約4倍高いシアリルトランスフェラーゼ活性を示した (Figure 5A)。ST6Gal-I非発現SW948およびSW48細胞 (n=2 cell lines) にエクソメア/エクソソームを添加すると、3時間でST6Gal-Iタンパク質が検出され、ST6Gal-I mRNAの誘導はなかったことから、直接的なタンパク質移送が確認された (Figure 5C)。フローサイトメトリーでは、48〜72時間後にエクソメア処理群がエクソソーム処理群より高いα2,6-シアル酸細胞表面レベルを示した (Figure 5E, p<0.05)。β1-インテグリンのシアリル化評価では、エクソソームは3時間後に既製のα2,6-シアリル化β1-インテグリンを直接移送したが、エクソメアは24時間後にde novoでβ1-インテグリンのシアリル化を誘導した (Figure 5F)。FAVSによるエクソソームのサブポピュレーション解析では、ST6Gal-IはEGFR/CD81 hiサブポピュレーションにのみ存在し、エクソソーム自体の不均一性も示された (Figure 4B, 4C)。

AREGカーゴの移送とEGFRシグナリング: AREG過剰発現MDCK細胞由来エクソメア・エクソソームをDiFi細胞に添加すると、2時間で全AREGアイソフォームが検出され、受容細胞への移送が確認された (Figure 6B)。エクソメア/エクソソームAREG (rAREGとして10 pg/mL相当) は、同濃度の組換えrAREG (100 ng/mLの1,000分の1濃度) より顕著に高いp-EGFR、p-AKT、p-ERKの増加を誘発し、このシグナルは5分から1時間まで持続した (Figure 6D)。エクソソームAREGはDiFi細胞でAREG自己発現を30分から24時間にかけて3.5-foldに誘導したが、rAREGによる誘導は一過性で24時間後には消失した (Figure 6C)。

EGFRトラフィッキング動態とオルガノイド増殖: EgfrEmマウス由来腸オルガノイド (n=1 mouse) では、AREG含有エクソメア/エクソソーム添加5分後に膜と細胞質に拡散したEgfr蛍光が出現し、30分後に点状細胞質蛍光 (受容体内在化像) に変化した (Figure 7C-7F)。一方、rAREGでは5分後から点状細胞質蛍光が出現して30分後に消失しており、急速な内在化・分解を示す異なるトラフィッキング動態が確認された (Figure 7G, 7H)。大腸腫瘍オルガノイドの10日間処理実験では、rAREG (30 ng/mL) はオルガノイドサイズを増加させたが数は変化しなかった。これに対し、AREG含有エクソメア (1.5 pg/mL rAREG相当) はオルガノイドのサイズと数の両方を著明に増加させ、1,000〜20,000分の1の濃度でrAREGを上回る腫瘍増殖促進効果を示した (Figure 7I-7K)。AREG含有エクソソームも同様の結果を示した。

考察/結論

本研究は、逐次超遠心という既存機器で実施可能な簡便な方法により、エクソソームとエクソメアを分離できることを実証し、エクソメアが生物学的機能を持つことを初めて明らかにした。この簡便な単離法の確立は、今後のエクソメア研究の加速に大きく貢献すると考えられる。ST6Gal-IとAREGという2種の機能的カーゴの移送実証により、エクソメアがエクソソームと並立する独自の細胞間情報伝達粒子であることが確立された。

先行研究との違い: 本研究は、LydenらのAF4を用いたエクソメアの発見 (Zhang et al. NatCellBiol 2018)を超遠心法で再現し拡張するものであり、エクソメア生物学研究への参入障壁を下げた点でこれまでと異なる。また、エクソメアがエクソソームとは異なる脂質プロファイルを持つことも明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、エクソメアに含まれるST6Gal-Iがβ1-インテグリンを含む受容細胞表面タンパク質をシアリル化し、転移促進的細胞表面修飾を達成することを示した。さらに、AREGがエクソメアに封入されることで、組換えAREGの1,000倍以上の効力を発揮し、持続的なEGFRシグナル伝達と腫瘍オルガノイドの増殖促進を誘発することを新規に発見した。この超高効力の理由として、(1) proformのAREGが膜貫通ドメインと細胞質尾部を保持して翻訳後修飾を受けていること、(2) 1エクソソーム当たり平均24分子のAREGが「シグナル積載量」として機能すること、(3) エクソメア/エクソソームに封入されたAREGが持続的EGFRシグナリングを誘発するEGFRトラフィッキング動態の変化、が考えられる。

臨床応用: 本知見は、エクソメアに濃縮されるST6Gal-Iによる腫瘍微小環境のグリコシル化修飾が転移促進に寄与する可能性を示唆しており、がん治療における新たな標的となる可能性がある。また、BACE1 (ST6Gal-Iの切断酵素) がアルツハイマー病関連分子APP・BACE1もエクソメアに濃縮されることから、神経変性疾患への臨床的関連も示唆される。エクソメアが強力なシグナル伝達ペイロードとして機能する可能性は、診断バイオマーカーや治療薬送達システムとしての臨床応用への道を開く。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究では限られた細胞株のみを解析しており、他の細胞株や正常組織での一般化が必要である。超遠心法とAF4法で得られるエクソメアの直接比較が未実施であること、エクソメアのサブポピュレーションの存在可能性、移送されたST6Gal-Iの細胞内トラフィッキングと基質特異性の詳細が未解明であることも残された課題である。また、エクソメアがエクソソームと完全に分離されているか、エクソメア調製物中にエクソソームの混入がないかについても、さらなる検証が必要である。

方法

ヒト大腸がん細胞株 (DiFi、DKO-1)、グリオブラストーマ細胞株 (Gli36、Gli36 EGFRvIII)、イヌ腎臓細胞株 (MDCK、MDCK AREG過剰発現) を使用した。エクソメアと小型EV (small EVs, sEV、エクソソーム) の分離には、逐次超遠心法を適用した。まず、細胞培養上清を低速遠心で細胞残渣を除去後、0.22 µmフィルターでろ過し、100,000 MWCOの限外ろ過膜で濃縮した。その後、167,000 xgで4時間超遠心し、sEVペレットを得た。この上清をさらに167,000 xgで16時間超遠心することで、個別ナノ粒子 (distinct nanoparticles, DNP、すなわちエクソメア) を単離した。透過型電子顕微鏡 (transmission electron microscopy, TEM) とナノ粒子トラッキング解析 (nanoparticle tracking analysis, NTA) により、それぞれの粒子径と形態を評価した。

プロテオミクス解析には、DiFi細胞由来のDNPとsEVから抽出したタンパク質をLC-MS/MSで分析した (各3生物学的反復)。検出された1,741タンパク質について、主成分分析 (principal-component analysis, PCA)、ヒートマップ解析、および遺伝子セット濃縮解析 (gene set enrichment analysis, GSEA、Hallmark/KEGG/GOジーンセット) を実施し、両集団間のプロテオームの差異を特定した。脂質解析は、電子スプレーイオン化質量分析 (electrospray ionization-mass spectrometry, ESI-MS) を用いて、内部標準に対する各脂質クラスおよび個々の脂質分子種の量を定量した。

ST6Gal-Iの機能解析では、ST6Gal-Iをほとんど発現しないヒト大腸がん細胞株 (SW948、SW48) を受容細胞として使用した。DiFi細胞由来のエクソメア/エクソソームをこれらの細胞に添加し、ST6Gal-Iタンパク質の移送をウェスタンブロットで確認した。細胞表面のα2,6-シアル酸レベルは、α2,6-シアル酸特異的レクチンであるSNA (Sambucus nigra agglutinin) を用いたフローサイトメトリーで評価した。β1-インテグリンのシアリル化状態は、SNA沈降後にウェスタンブロットで検出した。エクソソームの不均一性を評価するため、蛍光活性化小胞ソーティング (fluorescence-activated vesicle sorting, FAVS) を用いてEGFRおよびCD81の発現に基づいてエクソソームをサブポピュレーションに分類した。

AREGカーゴの機能解析では、AREGを過剰発現するMDCK細胞由来のエクソメア/エクソソームをDiFi細胞に処理し、EGFRリン酸化 (Tyr1068)、p-AKT、p-ERKのレベルをウェスタンブロットで評価した。EgfrEmレポーターマウスから作製した腸オルガノイドを用いて、EGFRトラフィッキング動態を共焦点顕微鏡でリアルタイム観察した。腫瘍オルガノイド増殖試験には、Lrig1CreER/+;Apcflox/+マウス由来の幹細胞依存的大腸腫瘍オルガノイドモデルを使用し、10日間の処理後にオルガノイドのサイズと数を評価した。統計解析には、R 3.4.4ソフトウェアを用いて、Limmaパッケージによる差次発現解析、ANOVA解析などを用いた。