- 著者: Haiying Zhang, Daniela Freitas, Han Sang Kim, Kristina Fabijanic, Zhong Li, Haiyan Chen, Milica Tesic Mark, Henrik Molina, Alberto Benito Martin, Linda Bojmar, et al., Celso A. Reis, David Lyden
- Corresponding author: Haiying Zhang (haz2005@med.cornell.edu); David Lyden (dcl2001@med.cornell.edu, Children’s Cancer and Blood Foundation Laboratories, Weill Cornell Medicine)
- 雑誌: Nature cell biology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-02-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 29459780
背景
エクソソーム研究は急速に発展しているものの、超遠心分離、超濾過、サイズ排除クロマトグラフィーなどの従来法では、エクソソーム集団の不均一性を十分に解消できていなかった。このため、小型細胞外小胞 (sEV) サブポピュレーションの分子組成、生合成経路、機能的違いを精密に解析するための高分解能分画技術の確立が求められていた。特に、エクソソームの不均一性がその生物学的機能や疾患における役割の理解を妨げており、より高分解能な分離技術の必要性が指摘されてきた。例えば、Thery et al. NatRevImmunol 2002やRaposo et al. JCellBiol 2013といった初期の研究ではエクソソームの基本的な組成と機能が示されたものの、その多様性については深く掘り下げられていなかった。また、Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006が確立した分離プロトコルも、依然として不均一性の課題を抱えていた。
非対称フロー・フィールド・フロー分画 (AF4) は製薬分野のナノ粒子解析に広く使われる最先端技術であり、EVへの応用は限定的であった。この技術は、ナノ粒子のサイズと密度に基づいて高分解能で分離する能力を持つが、細胞外小胞 (EV) の複雑な混合物に対するその有効性は十分に未開拓であった。エクソソーム (<200nm) 以外の非膜性ナノ粒子が細胞から分泌される可能性も未解明であり、EV研究における知識ギャップが残されていた。既存の方法では、エクソソーム集団内の微細な違いを識別する能力が不足しており、これがエクソソームの正確な特性評価と機能解析を妨げる主要な課題であった。本研究は、この技術的ギャップを埋め、EVの不均一性を詳細に解明することを目指した。
目的
本研究の目的は、非対称フロー・フィールド・フロー分画 (AF4) を細胞外小胞 (EV) 解析に最適化し、癌細胞由来の小型EVを高再現性・高分解能で分画して、新たなサブポピュレーションおよび非膜性ナノ粒子を同定することである。具体的には、AF4を用いて分離された各粒子サブタイプについて、その生物物理学的特性、プロテオーム、N-グリカン、脂質、核酸組成を包括的に比較し、さらにin vivoでの臓器分布パターンを解析することで、それぞれのサブタイプが持つ固有の生物学的機能と生合成経路の違いを明らかにすることを目指した。これにより、エクソソームの不均一性を分子レベルで解明し、EV研究の新たな分析ツールとしてのAF4の有用性を確立することを目的とする。
結果
AF4による3種ナノ粒子サブタイプの同定: B16-F10由来sEVのAF4分画により、P2 (約35nm)、P3 (約62nm)、P4 (約101nm) の3つの主要なピークが同定された (Fig 1a)。TEM解析では、P2は外膜構造を欠く約35nmの非膜性ナノ粒子であり、これを「exomere」と命名した。P3は60-80nmの膜包埋小型エクソソーム (Exo-S)、P4は90-120nmの膜包埋大型エクソソーム (Exo-L) であることが確認された (Fig 1c)。ウェスタンブロット解析では、Exo-SとExo-LはエクソソームマーカーであるTSG101とALIXに陽性を示し、exomereはHSP90に陽性であった (Fig 1d)。20以上の細胞株すべてでexomere、Exo-S/Lの3タイプが検出され、exomereが通常最も多く分泌されることが示された。ヒト黒色腫腫瘍explantおよびマウス正常組織explantでもこれらの粒子が確認された (Fig 1f, Supplementary Fig 3b)。このAF4分画はB16-F10細胞株でn=50回以上、AsPC-1細胞株でn=9回、Pan02細胞株でn=16回、MDA-MB-231-4175細胞株でn=17回、4T1細胞株でn=10回と高い再現性で繰り返された。
生物物理学的特性の違い: ゼータ電位測定では、exomereが最も弱い陰性電荷 (-2.7〜-9.7 mV) を示し、Exo-Lが最も強い陰性電荷 (-12.3〜-16.0 mV)、Exo-Sが中間 (-9.0〜-12.3 mV) であった (Fig 2a)。AFM剛性測定では、exomereが最高の剛性 (~145-816 MPa) を示し、Exo-Lが最低 (~26-73 MPa)、Exo-Sが中間 (~70-420 MPa) の剛性を示した (Fig 2b)。B16-F10由来のexomereのAFMイメージング解析では、平均高さが5.9 nmであった (Fig 2d)。これらの生物物理学的差異は、粒子の安定性、細胞内トラフィッキング、および細胞への取り込み効率に影響を与える可能性が示唆された。ゼータ電位測定はB16-F10でn=8-12独立測定、AFM剛性測定はB16-F10でn=6粒子測定で実施された。
固有のプロテオームプロファイルと経路: ラベルフリープロテオミクス解析 (5細胞株) により、exomereでは165-483個、Exo-Sでは433-1,004個、Exo-Lでは247-1,127個のタンパク質が同定された。各サブタイプに固有のタンパク質が存在し、exomereがエクソソームの断片ではなく、細胞から放出される独自のエンティティであることが示唆された (Fig 3a)。主成分分析 (PCA) およびコンセンサスクラスタリング解析では、異なる細胞種由来のexomereは互いに類似し、同一細胞由来のExo-S/Lとは明確に区別された (Fig 3b,c)。exomere特異的タンパク質 (FDR<0.05、検出率>80%) には、代謝酵素 (MAT1A、IDH1、PFKL、GMPPB、UGP2) やグリカン折り畳み/処理因子 (CALR、MAN2A1、HEXB、GANAB) が含まれた。GSEA解析では、exomereは解糖系およびmTORC1シグナル伝達経路が濃縮され、Exo-Sはエンドソーム機能とタンパク質分泌、Exo-Lは紡錘体構成とIL-2/Stat5シグナル伝達経路が濃縮された (Fig 3g)。exomereにはESCRTコンポーネントやRabタンパク質が乏しく、ESCRT非依存的な生合成経路が示唆された。Flotillin 1/2はExo-Sの特異的マーカー候補として、HSP90AB1はexomereのマーカー候補として同定された (Fig 3f)。これらのプロテオミクス解析は、5種類の細胞株から得られた3種類のナノ粒子サブタイプについて、それぞれ2つの独立した生物学的 replicates (n=30 samples) で実施された。
N-グリカン・脂質・核酸プロファイルの差異: レクチンブロット解析 (E-PHA、L-PHA、AAL、SNA) およびMALDI-TOF MSにより、サブタイプ固有のN-グリカン構造が確認された (Fig 4a,b)。exomereはα-2,3型およびα-2,6型シアル酸を共に含む複合型N-グリカン (m/z 2015.7、2404.8) が特徴的であった。脂質分析では、Exo-S/LはexomereよりもPCやスフィンゴミエリンなどの膜脂質が5倍以上多く含まれ、exomereはトリグリセリド (TG) やセラミドが相対的に高かった (Fig 5a,b)。核酸解析では、DNAは全サブタイプに検出されたが、exomereでは100bp〜10kbの広範囲に分布し、Exo-S/Lでは2〜4kbを中心に濃縮された (Fig 6b)。RNAはExo-S/Lに優先的に包含され、小型RNA (tRNA、miRNAなど) のピークはExo-S/Lに存在し、exomereには見られなかった。また、Exo-Lに固有の約315ntの未知のRNAピークが検出された (Fig 6d)。脂質分析はn=3生物学的独立サンプルで実施され、Exo-S/Lの総脂質含量はexomereと比較して5-fold以上高いことが示された (p<0.05)。
臓器分布の違い: NIR標識粒子をnaive C57BL/6マウスに静脈内投与した結果、全サブタイプが主に肝臓 (約84%)、脾臓 (約14%)、骨髄 (約1.6%) に取り込まれた (Fig 7b)。特筆すべきは、Exo-Lがリンパ節への特異的点状集積を顕著に示し (p=0.001 vs exomere, p=0.01 vs Exo-S)、exomereは肝臓への取り込みが相対的に高い傾向を示した。肺や脳へはいずれのサブタイプも有意な取り込みは見られなかった。これらの異なる臓器分布パターンは、各ナノ粒子サブタイプが腫瘍の進行や転移において異なる役割を果たす可能性を示唆する。この実験はn=3 animals per groupで4回独立して繰り返された。
考察/結論
本研究は、非対称フロー・フィールド・フロー分画 (AF4) を用いて、exomere、Exo-S、Exo-Lという3種の機能的に異なる細胞外ナノ粒子サブタイプを初めて同定した。これらの結果は、Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016が示した細胞外小胞の不均一性に関する先行研究の知見をさらに深めるものである。
先行研究との違い: 従来のエクソソーム分離法では、これらのサブタイプを明確に区別することは困難であった。本研究で同定されたexomereは外膜構造を持たず (非膜性)、代謝酵素と糖鎖処理因子が濃縮され、脂質含量が低い点で、エクソソーム (Exo-S/L) とは生物発生機序が根本的に異なることが示された。これは、vanMeer et al. NatRevMolCellBiol 2008が報告した膜脂質の役割とは対照的な、非膜性粒子の存在を明らかにするものである。
新規性: 本研究で初めて、exomereという新たな非膜性ナノ粒子を新規に同定し、その詳細な分子プロファイルを明らかにした。Exo-SはESCRT-0依存的な正典的エクソソーム (MVB-ILV起源) の可能性が高く、Exo-LはESCRT-I/II/IIIと形質膜起源を含む非正典的サブセットを反映する可能性がある。これらの知見は、Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014が提唱したエクソソームの生合成経路の多様性をさらに具体的に裏付けるものである。
臨床応用: Exo-Lのリンパ節向性はリンパ行性転移における役割を示唆し、exomereの肝臓優位取り込みと代謝酵素積荷は転移時の肝臓代謝リプログラミングへの関与を示唆する。これらの知見は、Peinado et al. NatMed 2012やHoshino et al. Nature 2015が示したエクソソームの転移促進機能のメカニズム解明に貢献し、新たな診断バイオマーカーや治療標的の開発に向けた臨床応用への道を開くものである。Hsp90βがexomere特異的マーカー候補、flotillin 1/2がExo-S特異的マーカー候補として提案されたことは、臨床現場でのEVサブタイプ分離と診断に有用なツールを提供する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、各ナノ粒子サブタイプの正確な生合成経路と細胞内輸送メカニズムを詳細に解明する必要がある。また、in vivoにおける各サブタイプの標的細胞と機能的アウトカムをさらに明確に特定し、癌の転移プロセスにおける全身的な影響を包括的に理解することが残されている。AF4のような高分解能分画法とサブタイプ特異的マーカーを用いた精密解析は、Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013が指摘するEVの治療応用の可能性を最大限に引き出すために不可欠である。
方法
本研究では、B16-F10 (黒色腫)、Pan02 (マウス膵臓癌)、4T1 (マウス乳癌)、AsPC-1 (ヒト膵臓癌)、MDA-MB-231-4175 (ヒト乳癌) を含む20以上の細胞株を主に培養し、条件培地から小型細胞外小胞 (sEV) を調製した。sEVの分離には、差分超遠心法が用いられ、得られたサンプルはリン酸緩衝生理食塩水 (PBS, pH 7.4) に再懸濁された。AF4は、前方層流と垂直クロスフローの2方向流体力学的分離原理に基づき、粒子をサイズと密度に応じて分画した。オンラインQELS (準弾性光散乱) とUV吸光度計を用いて、リアルタイムで粒子径と豊度を測定した。
分離された各サブタイプは、透過型電子顕微鏡 (TEM) による陰性染色で形態とサイズを可視化した。エクソソームマーカーであるTSG101、ALIX、およびHSP90に対するウェスタンブロット解析を実施し、各サブタイプのタンパク質発現プロファイルを評価した。粒子径の確認にはナノ粒子トラッキング解析 (NTA) およびZetasizerを用いた。原子間力顕微鏡 (AFM) の圧痕法により、粒子の剛性を測定した。
分子組成の解析として、ラベルフリープロテオミクス (5細胞株×3サブタイプ×2反復) を実施し、タンパク質プロファイルを比較した。N-グリカンはMALDI-TOF MSとレクチンブロット解析により構造を同定した。脂質組成はリピドミクス (B16-F10、MDA-MB-231-4175、AsPC-1由来) により定量的に分析した。核酸については、Bioanalyzerを用いてDNAおよびRNAのサイズ分布を評価した。
in vivoでの臓器分布を調べるため、近赤外 (NIR) 色素で標識した粒子をnaive C57BL/6マウスに静脈内投与し、24時間後に臓器を回収してOdysseyイメージングシステム (LI-COR Biosciences) で蛍光シグナルを定量した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを用いた一元配置分散分析 (ANOVA) を使用し、p<0.05を有意差ありとした。リピドミクスデータにはQlucore Omics Explorerを用いたANOVA検定 (q<0.05) を適用した。プロテオミクスデータはRプログラムのLimmaパッケージで正規化され、主成分分析 (PCA) およびコンセンサスクラスタリング解析が実施された。遺伝子セット濃縮解析 (GSEA) は、Gene Ontology (GO)、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes (KEGG)、Hallmarkデータベースを用いて行われた。