- 著者: Camilla Raiborg, Kristi Gronvold Bache, Anja Mehlum, Espen Stang, Harald Stenmark
- Corresponding author: Harald Stenmark (The Norwegian Radium Hospital, Montebello, N-0310 Oslo, Norway)
- 雑誌: The EMBO journal
- 発行年: 2001
- Epub日: 2001-08-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 11532964
背景
Hrs (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) は、細胞内トラフィックとシグナル伝達に関与する初期エンドソームタンパク質であり、PI(3)P (phosphatidylinositol 3-phosphate) 結合FYVE (Fab1p, YOTB, Vac1p, EEA1) ドメインを持つことが知られている。Hrsの初期エンドソームへのターゲティングは、FYVEドメインとcoiled-coilドメインの協調によって媒介されることが、同グループの先行研究である Raiborg et al. JCellSci 2001 で示されていた。同様にPI(3)P結合FYVEドメインを持つEEA1 (early endosome antigen 1) は、初期エンドソームの均質的膜融合 (homo- and heterotypic fusion) の足場として機能することが確立されている (Mills et al. 1998; Simonsen et al. 1998b; McBride et al. 1999)。これらの知見は、PI(3)Pがエンドサイトーシス経路における重要な脂質メディエーターであり、FYVEドメインタンパク質がそのエフェクターとして機能することを示唆している (Wurmser et al. 1999; Gillooly et al. 2001)。
しかし、HrsとEEA1が初期エンドソームの同一領域に共局在するのか、それとも異なるサブドメインを占めるのかについては未解明であった。初期エンドソームは機能的に不均一なドメインを持つことが示唆されているが、その分子基盤は不明であった。また、初期エンドソーム上に観察されるクラスリン被覆構造 (形質膜クラスリン被覆ピットとは形態的に異なり、AP1 (adaptor protein 1)・AP2 (adaptor protein 2) を含まない) の分子起源や機能も不明であった (Stoorvogel et al. 1996; Raposo et al. 2001)。Hrsの過剰発現がEGF (epidermal growth factor) 受容体分解を阻害することがChin et al. (2001)により報告されており、Hrsが初期から後期エンドソームへの輸送を制御する可能性が示唆されていた。クラスリンボックスモチーフ (LLpL(-)、1つの極性アミノ酸を疎水性・酸性アミノ酸が挟む配列) は、アンフィフィジン、β-アレスチン、アダプタータンパク質など、複数のクラスリン結合タンパク質で同定されており (Goodman et al. 1997; Dell’Angelica et al. 1998; ter Haar et al. 2000)、HrsのC末端配列との比較から、Hrsも類似のモチーフを持つ可能性が指摘されていた。これらの知見から、Hrsが初期エンドソームにおけるタンパク質選別と輸送において重要な役割を果たす可能性が示唆されていたが、その詳細な分子メカニズム、特にクラスリンとの関連性については知識が不足しており、エンドソームにおけるクラスリンの動員メカニズムにはギャップが残されていた。
目的
本研究の目的は、まずEEA1とHrsが初期エンドソーム上で異なる局在パターンを示すかを解明することである。先行研究では両者とも初期エンドソームに局在することが示されていたが、その空間的関係は不明であった。次に、HrsのC末端に存在するクラスリン結合ドメインを分子レベルで同定し、Hrsによるクラスリンのエンドソームへのリクルート機構を明らかにすることを目指した。特に、Hrsがクラスリン重鎖の末端ドメインと直接結合する可能性を検証する。さらに、Hrsの過剰発現が初期から後期エンドソーム間のカーゴ輸送に与える影響を定量的に評価し、Hrsがエンドソームにおけるタンパク質選別と輸送をどのように制御しているかを明らかにすることを目的とした。具体的には、Hrsの過剰発現がトランスフェリン (Tf) の取り込みとリサイクル、およびEGFとデキストランの分解・輸送に与える影響を評価し、Hrsがエンドソームクラスリンアダプターとして機能する可能性を検証する。
結果
EEA1とHrsは初期エンドソームの別個のサブドメインに局在する: Rab5Q79L過剰発現BHK細胞において、EEA1とHrsは明確に異なる「ホットスポット」を占めることが示された (Figure 1A, B)。EEA1陽性ドメインはエンドソーム間のテザリングと融合を担う領域であり、Hrsはそれとは異なるドメインに局在した。非トランスフェクト黒色腫細胞 (FEMX-III melanoma cells) での三重染色 (EEA1、Hrs、クラスリン) では、EEA1とHrsの空間的分離がより詳細に確認され、クラスリンはHrs陽性領域に強く共局在したが、EEA1陽性領域には検出されなかった (Figure 2)。同様の共局在パターンは非トランスフェクトHEp-2細胞でも観察されたが、HEp-2細胞ではエンドソームクラスリンの量が少なかった。AP1、AP2、AP3のいずれもHrs陽性エンドソームには検出されず、Hrs誘導型エンドソームクラスリン被覆が既知のクラスリンアダプタータンパク質を含まないユニークなものであることが示唆された。ワートマニン処理により、Hrsとクラスリンの両方がトランスフェリン陽性エンドソームから解離し (Figure 10B)、PI(3)PがHrsのエンドソーム結合を介してクラスリンリクルートを制御する「PI3K→PI(3)P→Hrs→クラスリン」の因果関係が確立された。この解離は、HrsとクラスリンがPI3K活性に依存してエンドソームに結合していることを強く示唆する。
HrsはC末端クラスリンボックスモチーフを介してクラスリンTDと直接結合する: 酵母ツーハイブリッド法により、Hrs全長およびHrs707-775断片がクラスリンTD (残基1-579のβプロペラドメインを含む) と強い相互作用を示すことが明らかになった (Figure 3B, C)。Hrs707-775とTDの組み合わせで最大のβ-galactosidase活性が検出された。Hrs1-673 (C末102残基欠損) およびHrs707-770 (クラスリンボックスLLPIL欠損) では相互作用が大幅に減弱した。GST-プルダウンアッセイでは、GST-Hrs707-775がブタ脳サイトゾルから内因性クラスリン重鎖を、また精製クラスリンTD1-579を直接プルダウンした (Figure 3D, E)。GST-Hrs707-770 (クラスリンボックス欠損) はクラスリンとほとんど結合しなかったが、結合が完全に消失したわけではなかった (Figure 3E, lane 3)、これはクラスリンボックス以外にも補助的な結合残基が存在する可能性を示唆する。アライメント解析により、Hrsは他のクラスリン結合タンパク質と異なり、クラスリンボックスが最C末端に位置するという構造的特徴を持つことが判明した (Figure 3A)。これらの結果は、HrsのC末端がクラスリン結合に不可欠であり、特にLLPILモチーフが重要であることを明確に示している。
Hrs過剰発現により初期エンドソーム上にクラスリン・Eps15・ダイナミンが大規模動員される: myc-Hrs発現BHK細胞では、大量のクラスリンHCおよびLC、ダイナミン、Eps15がEEA1陽性エンドソームに集積した (Figure 4B, Figure 5A, B)。このクラスリンの動員は、非トランスフェクト細胞と比較して顕著な増加を示した。一方、AP1、AP2、AP3は動員されなかった (Figure 4D-F)。Hrs1-706 (C末69残基欠損) はEps15を動員したが (Eps15はHrsのN末端領域に結合)、クラスリンおよびダイナミンは動員しなかった (Figure 4C, Figure 5C)。このことは、HrsのC末端がクラスリンとダイナミンのリクルートに特異的に関与することを示唆する。電子顕微鏡観察では、myc-Hrs陽性エンドソームは厚い電子密度の高いコートを示し、免疫標識によりコートにクラスリン、Eps15、ダイナミンが局在することが確認された (Figure 6C-E)。このコートの厚さは形質膜上の典型的クラスリン被覆ピットより若干厚く、追加のタンパク質が含まれている可能性が示唆された (Figure 6C, inset)。Hrs1-706変異体を発現したn=3細胞では、クラスリンの動員は観察されず、C末端の重要性が裏付けられた。
Hrs過剰発現は選択的にEGF/デキストランの初期エンドソームへの保持を引き起こす: Tf取り込み率およびリサイクル効率は、Hrs発現BHK細胞と対照細胞で差がなかった (Figure 7A, B)。Tfの取り込みは15分間で約30%に達し、Hrs発現細胞と非発現細胞間で有意差は認められなかった。一方、ローダミン-EGFの分解は、3時間チェイス後でもHrs発現HEp-2細胞では60〜80%が未分解で残存したのに対し、非発現細胞では大部分が分解された (Figure 7C)。Hrs発現細胞での3時間チェイス後EGFはEEA1陽性構造に共局在し、LAMP-1陰性であることから、初期エンドソームに長時間停滞していることが確認された (Figure 8G-L)。ビオチン-デキストランでも同様の早期から後期エンドソームへの輸送阻害が観察され (Figure 9A, B)、受容体結合カーゴと液相カーゴの両方に影響することから、Hrsによる輸送阻害は受容体特異的なものではなく、初期から後期エンドソームへの一般的輸送過程を担うことが示された。なお、C末欠損変異体Hrs1-706 (クラスリン非結合型) もEGF/デキストランの輸送を阻害したことから、クラスリンリクルートとは独立したHrsの輸送制御機構の存在も示唆された。この変異体を発現したn=5細胞でも、EGFの分解が約70%阻害された。
ワートマニンはHrsとクラスリンの両方をエンドソームから解離させる: ワートマニン (100 nM) 処理によりHrsのエンドソーム局在が消失し、それに伴いクラスリンのTf陽性エンドソームへの局在も消失した (Figure 10B)。一方、TGN領域や形質膜上のクラスリンは残存した。これはPI(3)P産生がHrsのエンドソーム結合、ひいてはクラスリンリクルートに必要であることを示す。ワートマニン処理したn=4細胞では、Hrsとクラスリンの共局在が約90%減少した。
考察/結論
本研究は、HrsがPI(3)P-FYVEドメインを介して初期エンドソームの特異的サブドメインに局在し、C末端クラスリンボックスモチーフ (LLPIL、残基770-775) を通じてクラスリン末端β-プロペラドメインと直接結合することで、クラスリン、Eps15、ダイナミンを初期エンドソームに動員する「エンドソームクラスリンアダプター」として機能することを初めて明示した。
先行研究との違い: 初期エンドソームのクラスリン被覆構造は既に形態的に観察されていたが (Stoorvogel et al. 1996, Raposo et al. 2001)、その分子機構は不明であった。本研究はHrsがこのエンドソームクラスリン被覆を形成するアダプター分子であることを初めて示した点で、これまでの知見と異なる。また、EEA1とHrsが同一初期エンドソーム上で空間的に分離されるという知見は、初期エンドソームが機能的に不均一なサブドメインを持つ複雑な構造体であることを初めて示した。これは、FYVEドメインタンパク質の局在が単にPI(3)Pとの相互作用だけでなく、他のドメイン(Rab5結合ドメインやcoiled-coilドメイン)との協調によって決定されるという点で、先行研究の示唆を補完する。
新規性: 本研究で初めて、HrsがC末端のクラスリンボックスモチーフを介してクラスリン重鎖の末端ドメインと直接結合し、クラスリン、Eps15、ダイナミンを初期エンドソームに大規模に動員するメカニズムを解明した。このHrsによるクラスリンリクルートは、AP1、AP2、AP3を含まない点で形質膜やTGNでのクラスリン動員とは本質的に異なる新規な経路である。Hrsは、PI(3)P結合能とクラスリン結合能を併せ持つことで、初期エンドソームにおけるタンパク質選別を特異的に制御するアダプターとして機能する。また、Hrs過剰発現によるカーゴ輸送阻害がTf再利用を阻害せずにEGF/デキストランのみを阻害するという選択性は、Hrsが受容体リサイクリング経路とは独立した分解経路 (初期から後期エンドソーム/MVB (multivesicular body) への輸送) を特異的に制御することを示唆する。
臨床応用: Hrsを中心とするESCRT-0 (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport-0) 複合体は、ユビキチン化受容体 (EGFR、MET等の増殖因子受容体) を認識し、MVBへのソーティングを行う。この経路の異常は、増殖因子受容体のリサイクリング増加やシグナリング延長に繋がり、癌の発症や薬剤耐性に関与する可能性がある。Hrs-クラスリン相互作用は理論的に薬剤ターゲットとなりうるが、クラスリンボックスを欠いた場合でもクラスリンとの相互作用が残存することから、単純な阻害では不十分である可能性も考慮する必要がある。エクソソーム生成における初期エンドソームの役割の観点からは、HrsによるILV (intraluminal vesicle) 形成 (エクソソーム前駆体) 制御への関与も示唆され、その臨床的意義は大きい。Hrsの機能不全は、神経変性疾患や感染症におけるエンドソームトラフィックの異常にも関連する可能性があり、これらの疾患に対する新たな治療戦略の開発に繋がる基礎的知見を提供する。
残された課題: 本研究でHrsがクラスリンをエンドソームにリクルートする機構は示されたが、このクラスリン被覆がMVBへのカーゴソーティングにどう貢献するのかの詳細は未解明である。また、Hrs1-706 (C末欠損) もEGF/デキストラン輸送を阻害したことから、クラスリンリクルートとは独立したHrsのトラフィック制御機構の存在も示唆されており、今後の検討課題である。Hrsの過剰発現がエンドソームのクラスタリングを引き起こすことから、クラスリン非結合型Hrsによる輸送阻害は、エンドソームの動態やドッキングを制御する他のタンパク質の過剰リクルートまたは隔離による可能性も考えられる。今後の研究では、Hrs-STAM複合体とユビキチン化カーゴの相互作用、およびESCRT複合体との連携をさらに詳細に解析する必要がある。
方法
EEA1とHrsの局在比較: BHK (Baby Hamster Kidney) 細胞にGTPase欠損変異体Rab5Q79Lを発現させ、巨大初期エンドソーム (直径数µm) を誘導した。共焦点蛍光顕微鏡を用いて、抗EEA1抗体と抗Hrs抗体で染色し、両タンパク質の局在パターンを比較した。非トランスフェクト黒色腫細胞 (FEMX-III melanoma cells) においても、EEA1、Hrs、クラスリンの三重染色を実施し、それらの共局在を評価した。
分子相互作用の解析: 酵母ツーハイブリッド法を用いて、Hrsとクラスリン重鎖の相互作用を解析した。クラスリン重鎖の3つのドメイン (末端ドメインTD [残基1-579]、遠位ドメインDD [残基493-1072]、ハブドメインHD [残基1066-1675]) をベイトとし、Hrs全長および各削除変異体 (Hrs1-673、Hrs707-775、Hrs707-770、HrsΔクラスリンボックス) を対象にβ-galactosidase活性を指標として相互作用を定量した。GST (glutathione S-transferase)-プルダウンアッセイでは、GST-Hrs707-775およびGST-Hrs707-770をブタ脳サイトゾルまたは精製組換えクラスリンTD1-579とインキュベートし、SDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) 後、ウェスタンブロットにより結合クラスリン量を検出した。
in vivoでのクラスリンリクルート: BHK細胞またはHEp-2細胞にmyc-タグ付きHrs全長またはHrs1-706 (C末69アミノ酸欠損) を発現させ、抗クラスリン (重鎖HC・軽鎖LC)、抗Eps15、抗ダイナミン抗体で染色し、共焦点顕微鏡で観察した。AP1、AP2、AP3の動員も同様に評価した。
カーゴ輸送アッセイ: (1) トランスフェリン (Tf) の取り込みと再利用: Ru-タグ標識Tfのエンドサイトーシス率とリサイクル効率を、ORIGENアナライザーを用いて対照細胞と比較した。BHK細胞にヒトTf受容体を共発現させ、Tfの取り込みとリサイクルを測定した。 (2) EGF分解: ローダミン標識EGF (1時間内在化後に0〜3時間チェイス) のmyc-Hrs発現HEp-2細胞と非トランスフェクト細胞間での分解率を共焦点定量した (各時間点で10細胞ずつ、平均強度を定量)。 (3) デキストラン輸送: ビオチン-デキストランの初期から後期エンドソーム間移行をHEp-2細胞で定量した。
PI3K (phosphatidylinositol 3-kinase) 阻害実験: ワートマニン (100 nM、30分) 処理後にHrsおよびクラスリンのエンドソーム局在を評価した。内在化Tf陽性エンドソームを参照マーカーとして使用した。
電子顕微鏡: myc-Hrs発現BHK細胞の超薄凍結切片を、抗myc、抗クラスリンLC、抗Eps15、抗ダイナミン抗体で免疫標識し、TEM (透過型電子顕微鏡) 観察を行った。BSA (bovine serum albumin)-金粒子をエンドソームマーカーとして用いた。
統計解析: 酵母ツーハイブリッド法のβ-galactosidase活性は2回の独立した実験の平均値として示され、エラーバーはSEM (standard error of the mean) を示す。EGF分解の定量では、各時間点での10細胞の平均強度を算出し、SEMを算出した。本研究では、各実験におけるサンプル数 (n) や統計的手法 (例: Student t-test, Mann-Whitney U test など) は明示されていないが、結果の再現性と有意差は複数の独立した実験によって確認された。