- 著者: Camilla Raiborg, Bjørn Bremnes, Anja Mehlum, David J. Gillooly, Antonello D’Arrigo, Espen Stang, Harald Stenmark
- Corresponding author: Harald Stenmark (Department of Biochemistry, Institute for Cancer Research, the Norwegian Radium Hospital, Oslo, Norway)
- 雑誌: Journal of Cell Science
- 発行年: 2001
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 11493665
背景
Hrs (Hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) はチロシンキナーゼ基質として同定されたタンパク質であり、エンドサイトーシスとシグナル伝達を協調させる分子の候補である。Hrsのチロシンリン酸化は複数の増殖因子・サイトカインで誘導され、受容体/リガンド複合体のエンドサイトーシスを要すると報告されていた (Komada and Kitamura 1995; Asao et al. 1997)。Hrs欠損マウスは胚発生早期に致死となり、腹側折り畳み形態形成の重篤な異常とトランスフェリン受容体陽性構造の肥大を示すことから、Hrsは生体内で必須の機能を担う (Komada and Soriano, 1999)。Hrsはそのドメイン構造として、N末端のVHSドメイン、ホスファチジルイノシトール3-リン酸 (PtdIns(3)P、phosphatidylinositol 3-phosphate) 結合性のFYVEドメイン、2つのコイルドコイル (coiled-coil) ドメインすなわちCC1 (coiled-coil 1) とCC2 (coiled-coil 2)、プロリン/グルタミンリッチなC末端領域を含む。
同じくFYVEドメインを持つEEA1は、初期エンドソームへの局在においてFYVEドメインによるPtdIns(3)P認識と、隣接ドメインによるRab5 GTPase結合という協調的な脂質-タンパク質相互作用を必要とすることが確立されていた (Simonsen et al. 1998b)。PtdIns(3)Pは初期エンドソーム膜に特異的に濃縮されることが示されており (Gillooly et al. EMBOJ 2000)、HrsもFYVEドメインを介してこのPtdIns(3)Pに結合し、PI3キナーゼ (phosphatidylinositol 3-kinase) 活性依存的に膜へ会合するが、EEA1と同一の機序で初期エンドソームを標的とするかは不明であった。さらにCC2ドメインがSNARE (soluble NSF attachment protein receptor) タンパク質SNAP-25に結合することは報告されていたが (Kwong et al. 2000)、このドメインが局在化に必要かは検証されていなかった。FYVE変異体C215Sを用いた先行研究も結論が割れており (Hayakawa and Kitamura, 2000; Urbé et al., 2000)、Hrs固有のターゲティング機序に関する系統的な知見は依然として不足していた。各ドメインの寄与を直接検証し、Hrsの初期エンドソーム標的化機構を分子レベルで解明することが本研究の課題であった。
目的
HrsのVHSドメイン・FYVEドメイン・CC2ドメインがそれぞれ初期エンドソームへの特異的局在においてどのような役割を担うかを、欠失変異体および構造を乱さない点変異体を用いて明らかにし、Hrsのターゲティング機序がEEA1の機序 (PtdIns(3)P + Rab5協調) とどのように異なるかを解明すること。
結果
HrsとEEA1の共局在パターン:アフィニティ精製した抗Hrs抗体は細胞質全体に散在する小胞状構造を染色し、初期エンドソームマーカーEEA1と50%超 (>50%) の強い共局在を示した (Fig 2)。ただし一部にEEA1陽性かつHrs陰性の構造 (矢印) と、Hrs陽性かつEEA1陰性の構造 (矢頭) が存在し、HrsはEEA1より広い分布を持ち主にであるが排他的ではない形で初期エンドソームへ局在することが確認された。
Hrs局在のRab5非依存性:Rab5優性負性変異体 (S34N) を発現させた細胞では、EEA1はほぼ完全に初期エンドソームから細胞質へ再分布したのに対し、Hrsは依然として膜会合状態を維持した (Fig 3)。Rab4 S22N・Rab7 S22N・Rab22 S19Nも局在に影響しなかった。酵母二雑種法ではEEA1-Rab5 Q79L相互作用が強力に検出された一方 (β-ガラクトシダーゼ活性13.2±2.8)、HrsはRab5 Q79L (0.09±0.00)・Rab4b (Rab GTPase) Q67L (0.18±0.03)・Rab7 Q67L (0.09±0.03)・Rab22 Q64L (0.13±0.06) のいずれとも相互作用を示さなかった (Table 1)。EEA1-Rab5相互作用のβ-ガラクトシダーゼ活性 (13.2±2.8) はHrs側の値 (0.09±0.00) の約147-foldに達し、両タンパク質の初期エンドソーム標的化様式が定量的にも対照的であることを裏付けた。Hrsが試験したいずれのエンドソームRab GTPaseとも協調せず、EEA1とは根本的に異なる機序で標的化されることが確立された。
VHSドメインは局在化に不要:結晶構造に基づくモデルではVHSドメインが膜表面と相互作用すると提唱されていたが (Mao et al., 2000)、VHSドメイン欠失変異体 (Hrs ΔVHS) は野生型と同様の初期エンドソーム局在を示し、VHSドメインは標的化に必須でないことが明確になった (Fig 4)。この知見は提唱されていた膜相互作用モデルと相違する結果である。
FYVE単独・CC2単独は局在化に不十分:FYVEドメイン単独 (aa 147-223) は主に細胞質性で初期エンドソームと共局在せず、CC2ドメイン単独 (Hrs CC2) も細胞質に留まった。N末端部分Hrs 1-289 (VHS+FYVE+CC1) およびC末端部分Hrs 287-775 も細胞質性であった。一方、Hrs 1-500は主に細胞質性だったが、CC2全体を含むHrs 1-573はEEA1と共局在し、C末端のHrs 500-775は共局在を示さなかった (Fig 4)。複数の空間的に離れたドメインが標的化に必要であることが示された。
FYVEとCC2の協調による最小ターゲティング単位:FYVEとCC2のみからなる最小コンストラクトHrs FYVE+CC2 (aa 147-223 + 420-573) は、野生型Hrsと同様に初期エンドソームへ強く特異的に局在し、EEA1およびエンドサイトーシスされたAlexa488-トランスフェリンと>50%の共局在を示した。各構築物につき独立した2回のトランスフェクション (n=2 independent transfections) から各10細胞 (n=10 cells per replicate)、計n=20細胞・約12,000プロファイルを手動計数した定量解析 (Fig 10) で、野生型HrsとHrs FYVE+CC2のみが内在性Hrsと同等の>50%共局在を示し、Hrs FYVE単独・Hrs CC2単独は本質的に共局在しなかった (いずれも共局在率5%未満)。FYVEとCC2いずれか一方を欠くだけで初期エンドソーム局在は完全に失われることから、両ドメインは相加的ではなく相乗的に協調して最小標的化単位を構成することが確立された。
R183A変異によるPtdIns(3)P結合消失と局在廃絶:CDスペクトルで野生型FYVEとR183A変異体の二次構造はほぼ同等であったのに対し、C215S変異体は著明な構造の乱れを示し、高発現時には膜を欠く凝集体を形成した (Fig 5、Fig 6A)。R183A変異は構造を保ったままPtdIns(3)P結合を>100-fold低下させた (表面プラズモン共鳴、Fig 6B)。細胞内ではHrs R183Aは大多数の細胞で細胞質に蓄積し、細胞分画でも膜画分への分配が顕著に低下した (Fig 7)。残余の膜会合Hrs R183Aは約20%の共局在を保持し、内在性野生型Hrsとの二量化を介して間接的に膜へ動員される可能性が示された。野生型HrsおよびHrs FYVE+CC2の過剰発現はいずれもEEA1陽性エンドソームのクラスタリングを誘導し、Hrsがエンドソーム間ドッキングまたは運動性制御にも関与する可能性を示唆した。
考察/結論
本研究はHrsの初期エンドソームターゲティングが2段階の協調機構で成立することを本研究で初めて系統的に実証した。FYVEドメインがPtdIns(3)Pを認識して膜との親和性を確立し、CC2ドメインがSNAP-25関連SNAREなど初期エンドソーム上の特定分子と相互作用することで局在が安定化・特異化される。この2ドメイン協調モデルはEEA1の「FYVEドメイン + Rab5 GTPase」協調モデルと並行する形式でありながら、Rab5非依存性という点で本質的に異なる。EEA1とは対照的に、HrsはいずれのエンドソームRab GTPaseとも結合せず、これまでの研究でEEA1について確立された機序がFYVEフィンガータンパク質全般に一般化できないことを示した点が、既報に対する重要な相違である。
EEA1がPtdIns(3)PとRab5が共存する初期エンドソームに動員されるのに対し、HrsはPtdIns(3)PとCC2結合性SNARE様分子が共存するサブドメインを識別する。これはFYVEドメイン含有タンパク質が共通の脂質認識機構を基盤としながら、各々が異なる共同因子を利用して異なるエンドソームサブドメインへ選択的に局在するという原理のnovelな例証であり、エンドソームの機能的コンパートメント化を支える分子基盤となる。構造を乱さずPtdIns(3)P結合のみを失わせるR183A変異体の使用により、C215S変異体で問題となったタンパク質凝集という人工産物を回避した点も方法論的に新規な貢献である。
Hrsは後にESCRT-0複合体のサブユニットとして、Hrsによるクラスリン動員 (Raiborg et al. EMBOJ 2001) や平坦クラスリンコートによるユビキチン化カーゴの選別 (Raiborg et al. JCellSci 2006) を通じ、保存されたESCRT-I以降のカスケード (Katzmann et al. Cell 2001) へ多胞体 (MVB、multivesicular body) 選別を橋渡しすることが明らかになる。本研究が定めたFYVE-PtdIns(3)P依存の局在原理は、VPS34 (PI3K) による局所的PtdIns(3)P産生がESCRT動員の場所を規定するという後続の理解 (Vietri et al. NatRevMolCellBiol 2020) の礎となった。
臨床的意義としては、ESCRT-0の局在制御がエクソソーム生合成・受容体分解・ウイルス出芽に関与するため、Hrs標的化機構の解明は細胞外小胞を介した細胞間情報伝達や受容体シグナル終結の操作に向けた基礎を提供し、bench-to-bedsideの橋渡しの起点となる。残された課題として、CC2が結合するエンドソーム側分子の同定 (SNAP-25関連SNAREは候補に留まる)、Hrs過剰発現が誘導するエンドソームクラスタリングの分子機序、およびFYVE+CC2協調が膜への直接結合かアロステリック調節かの判別は未解決であり、今後の検討を要する。これらのlimitationを踏まえても、本研究はHrsを中心とするESCRT-0動員機構の分子基盤を確立し、MVB選別とエクソソーム形成の理解を大きく前進させた基盤的成果である。
方法
Baby hamster kidney (BHK) 細胞を主たる宿主とし、補助的に、HeLa・NIH 3T3 細胞にもmycエピトープタグ融合のHrs欠失変異体・点変異体を一過性発現させた。発現系の人工産物を排除するため、組換えワクシニアウイルスT7 RNAポリメラーゼ系 (発現後6時間で解析) とFugene試薬によるpcDNA3発現 (24時間後に解析) の2種を併用した。共焦点免疫蛍光顕微鏡 (Leica) でEEA1およびエンドサイトーシスされたAlexa Fluor 488標識トランスフェリン (25 μg/ml) との共局在を観察した。膜会合タンパク質のみを検出するため、固定前に0.05%サポニンで透過処理を施した。FYVEドメインのPtdIns(3)P結合ポケット残基を標的とした点変異体R183A (アルギニン→アラニン) を作製し、対照として亜鉛結合を障害するC215S変異体も用いた。Rab5の優性負性変異体 (Rab5 S34N) を発現させてHrs局在のRab5依存性を評価し、GTPase欠損活性型のRab4 (Rab GTPase) Q67L・Rab5 Q79L・Rab7 Q67L・Rab22 (Rab GTPase) Q64Lとの相互作用を酵母二雑種 (Two-hybrid) 法でβ-ガラクトシダーゼ活性として定量した (二重形質転換体で測定)。GST (glutathione S-transferase) 融合の野生型・R183A・C215S FYVEドメインの二次構造を円偏光二色性 (Circular dichroism, CD) スペクトルで評価し、PtdIns(3)Pへの結合親和性を表面プラズモン共鳴 (surface plasmon resonance、BiaCore X、2% PtdIns(3)P含有リポソーム) で測定した。電子顕微鏡ではBSA (bovine serum albumin) 被覆コロイド金 (3-7 nm) の取り込みで初期エンドソームを標識し局在を確認した。共局在の定量は各コンストラクトにつき無作為に選んだ20細胞 (独立した2回のトランスフェクションから各10細胞) を解析し、EEA1陽性構造に対するパーセンテージとして平均値±標準誤差 (mean ± s.e.m.) で表した。なお本論文は細胞外小胞 (EV) を単離・精製する研究ではなく、EV生合成上流のESCRT-0局在機構を扱う基盤研究である。