• 著者: C.E. Futter, L.M. Collinson, J.M. Backer, C.R. Hopkins
  • Corresponding author: Colin Hopkins (Imperial College of Science and Technology, London, UK)
  • 雑誌: Journal of Cell Biology
  • 発行年: 2001
  • Epub日: 2001-12-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 11756475

背景

EGF 受容体 (EGFR) は細胞表面での EGF 結合・活性化後、クラスリン介在エンドサイトーシスによって内在化される。内在化された EGFR は初期エンドソームから多胞体 (MVB; multivesicular body) へと輸送され、MVB 境界膜から内腔小胞 (内腔に向かった出芽) へと選別される。この内腔小胞化によって EGFR はリソソームへ輸送・分解され、受容体の下方調節とシグナル減衰が達成される。一方でトランスフェリン受容体 (TR) はリサイクリング経路を経て細胞表面へ戻り、このソーティングの差異が受容体の細胞内運命を決定する。EGFR のチロシンキナーゼ活性は、MVB 内腔小胞への EGFR の取り込みに必要であることが Felder et al. (1990) の先行研究で示されている。

PI3-キナーゼ阻害剤ワートマニン (wortmannin) は MVB 内腔小胞形成を特異的に阻害し、EGFR を MVB 境界膜上に留める (内腔小胞への移行を阻止する) ことが Fernandez-Borja et al. (1999) によって報告されていた。しかし、ワートマニンは複数の PI3-キナーゼアイソフォームを阻害するため、どのアイソフォームが内腔小胞形成に必須であるかは未解明であった。クラス I PI3-キナーゼ (p110α・p110β) は PI(3,4,5)P3 を産生して増殖・生存シグナルを制御し、クラス III PI3-キナーゼ (VPS34) はホスファチジルイノシトール-3-リン酸 (PI(3)P) を産生してエンドソーム膜へのエフェクタータンパク (FYVE ドメイン含有タンパク等) を動員することが知られていた。ヒト VPS34 (hVPS34) は PI(3)P を産生するクラス III PI3-キナーゼとして同定されており、初期エンドソームへの局在と EEA1 等のエフェクター動員に関与することが Christoforidis et al. (1999) によって示されていた。また、PI(3)P は酵母および哺乳類細胞の初期エンドソームや MVB の内腔小胞に豊富に存在することが Gillooly et al. EMBOJ 2000 で報告されている。しかし、hVPS34 が MVB 内腔小胞形成に必須であるかは検証されておらず、ワートマニンがどの PI3-キナーゼを介して MVB 内腔小胞形成を阻害するのかという知識ギャップが残されていた。

MVB 内腔小胞形成は、受容体を細胞質から隔離し、そのシグナル伝達を減衰させる重要なメカニズムと考えられている。EGFR はエンドソーム内でリン酸化状態を維持し、シグナル伝達を継続する可能性が Wada et al. (1992) によって示唆されている。したがって、内腔小胞化が EGFR シグナル減衰に果たす役割を直接的に評価する必要があった。ワートマニン処理下で EGFR が MVB 境界膜に留まる場合、そのチロシンキナーゼ活性が細胞質基質に露出し続けることで、シグナル減衰が不十分になる可能性が考えられた。この点に関する直接的な証拠は不足しており、内腔小胞形成の生理的意義を明確にするための検討が求められていた。

目的

本研究の第一の目的は、ワートマニン感受性の PI3-キナーゼアイソフォームのうち、MVB 内腔小胞形成に必須なものを同定することである。具体的には、各 PI3-キナーゼアイソフォームに対する特異的阻害抗体を HEp-2 細胞内にマイクロインジェクションし、MVB 形態および EGFR の細胞内分布への影響を電子顕微鏡を用いて詳細に解析する。これにより、ワートマニンが阻害する PI3-キナーゼが hVPS34 であることを直接的に示すことを目指す。

第二の目的は、MVB 内腔小胞化が EGFR のリソソーム輸送と分解にどの程度寄与するかを定量的に評価することである。ワートマニン処理によって内腔小胞形成が阻害された条件下で、金ナノ粒子標識 EGFR のリソソームへの到達率および 125I-EGF の分解速度を測定し、内腔小胞化が EGFR のリソソームへのターゲティングに必須であるか否かを明らかにする。

第三の目的は、内腔小胞化が EGFR のシグナル減衰に果たす役割を解明することである。ワートマニン処理により EGFR が MVB 境界膜に留まる条件下で、EGF 刺激によるチロシンリン酸化レベルを評価し、内腔小胞への隔離が EGFR のチロシンキナーゼ活性によるシグナル伝達を減衰させる機構として機能するかどうかを検証する。

結果

ワートマニンによる MVB 内腔小胞形成の著明な阻害と MVB 形態の変化: 対照 HEp-2 細胞の MVB は平均 33.8 個の内腔小胞を含み、MVB 直径は平均 386 nm であった。ワートマニン (100 nM) 処理細胞では、内腔小胞数が平均 6.3 個 (対照の約 1/5) に著明に減少し、MVB 直径は約 698 nm と約 2 倍に増大した (Table II)。n=13 MVBs での解析結果である。金標識 EGFR の電顕観察では、対照では EGFR が MVB 内腔小胞内に移行していたが、ワートマニン処理では EGFR が MVB 境界膜のクラスターに留まり、内腔小胞への移行が阻害された (Figure 3)。ワートマニン処理 MVB の形態的特徴として、内腔小胞が著しく少なく拡大した球状オルガネラが形成され、EGFR は境界膜全面にほぼ均一に分布していた。これはリサイクリング受容体であるトランスフェリン受容体が正常に境界膜上にあるパターンとは対照的であり、ワートマニンが特異的に内腔小胞化経路を遮断することを示した。MVB あたりの総膜面積は、ワートマニン処理細胞で対照の約 2 倍に増加しており (Table II)、液胞の拡大は内腔小胞形成の阻害のみでは説明できず、MVB からの膜の排出阻害も寄与している可能性が示唆された。

ワートマニン処理下での EGFR のリソソーム輸送と分解の持続: ワートマニン処理下でも EGFR の 76.7〜81.9% が HRP 標識リソソームに到達した (Table I)。これは対照細胞における到達率 (87.3%) とほぼ同等であった (p=0.08)。125I-EGF 分解実験では、3 時間後の TCA 可溶性放射活性がワートマニン処理と対照でほぼ同等 (約 70% 分解) であり、EGF 分解は維持された (Figure 2a)。ただし、EGFR タンパク質の分解はワートマニン処理細胞でやや遅延したが (Figure 2b)、最終的には進行した。これらの結果は、ワートマニンが EGFR の MVB/リソソームへの輸送 (lysosomal targeting) を阻害せず、内腔小胞への移行 (sorting step) のみを選択的に阻害することを示した。すなわち、EGFR の分解は境界膜を経由してリソソームに到達する代替経路でも達成されることを示唆しており、MVB 境界膜融合後の膜コンテンツとしての EGFR 分解経路の存在が示唆された。さらに、DAB-H2O2 架橋実験で MVB-リソソーム融合を遮断した場合でも内腔小胞形成のワートマニン感受性を確認することができ、内腔小胞形成と MVB 成熟過程が独立した制御下にあることが示された。TR の MVB からの排出はワートマニン処理によっても阻害されず、MVB 境界膜上に TR はほとんど観察されなかった (Figure 5)。これは、ワートマニンが TR のリサイクリングを阻害するという先行研究の報告とは異なり、MVB からの TR の排出は維持されることを示唆している。

hVPS34 抗体マイクロインジェクションによる MVB 内腔小胞形成の選択的阻害: 抗 hVPS34 抗体のマイクロインジェクションにより、ワートマニン処理と同様の表現型 — 内腔小胞をほとんど含まない拡大 MVB の形成と EGFR の境界膜への留置 — が再現された (Figure 6b, Figure 7a)。定量的には内腔小胞数がワートマニン処理と同程度まで減少し、金標識 EGFR は境界膜クラスターに留置されていた。n=100 cells での解析結果である。このマイクロインジェクション系は in vitro PI3-キナーゼ活性アッセイで各抗体のアイソフォーム特異性を事前確認しており、交差反応性による非特異的効果の可能性を排除した。抗 p110α 抗体のマイクロインジェクションは MVB 形態にほとんど影響を与えなかった (Figure 6c)。抗 p110β 抗体は高用量で初期エンドソームへの EGFR 輸送速度に若干の影響を与え、MVB が小さくなり内腔小胞が減少する傾向が見られたが (Figure 6d, Figure 7b)、hVPS34 ほど明確に内腔小胞形成を阻害しなかった。hVPS34 特異的効果は、アイソフォーム非特異的ワートマニン効果の主要成分が hVPS34 阻害によるものであることを示した。マイクロインジェクションのタイミングをワートマニン処理に合わせた実験でも、抗 hVPS34 抗体はワートマニンと同様に内腔小胞の少ない拡大 MVB を誘導し、EGFR を境界膜に留置した (Figure 7a)。これは、MVB 内腔小胞形成におけるワートマニン感受性が hVPS34 の阻害に起因することを強く示唆する。

EGFR シグナル減衰への内腔小胞化の意義: ワートマニン処理で EGFR が境界膜に留まると、EGF 刺激誘導のチロシンリン酸化シグナルが対照細胞と比較して約 2.5-fold 増加・持続した (Figure 8)。これは、MVB 内腔小胞への EGFR 取り込みが EGFR チロシンキナーゼ活性のシグナル減衰機構として機能することを示唆する。すなわち、内腔小胞化によって EGFR が細胞質 (シグナリング可能) 側から隔離されることで受容体シグナルが消退するという概念を支持する。ワートマニン処理細胞では、MVB 境界膜に留まる EGFR が細胞質基質に露出し続けるため、より多くの細胞質基質タンパク質がリン酸化される可能性が示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ワートマニンが PI3-キナーゼ阻害を介して MVB 内腔小胞形成を阻害するという先行研究の知見をさらに深め、どのアイソフォームが責任酵素であるか不明であった点を明確にした。これまでワートマニンがクラス I PI3-キナーゼ阻害を介してエンドサイトーシスを阻害するという先行解釈とは異なり、MVB 内腔小胞形成においては hVPS34 (クラス III PI3-キナーゼ) が支配的な役割を担うことを直接的に示した。また、酵母 VPS34 が液胞への輸送に必須であることは知られていたが、哺乳類 hVPS34 の MVB 内腔小胞形成への必須性を示したのは本研究が初めてである。

新規性: 本研究で初めて、hVPS34 が MVB 内腔小胞形成に直接的に関与する PI3-キナーゼであることを同定した。hVPS34 が産生する PI(3)P がエンドソーム膜に FYVE ドメイン等を持つエフェクタータンパクを動員し、内向き出芽に必要な膜再モデリングを触媒すると考えられる。さらに、内腔小胞化が EGFR のリソソーム分解には必須ではないものの、EGFR を細胞質基質から隔離し、そのチロシンキナーゼ活性によるシグナル伝達を減衰させる新規なメカニズムとして機能することを示した。これは、MVB 内腔小胞形成の生理的意義に関する重要な知見である。

hVPS34 と ESCRT の関係: PI(3)P は ESCRT 関連タンパク Hrs (hepatocyte growth factor receptor substrate) の FYVE ドメインを介したエンドソーム膜招集に必要であることが後に示された。Hrs は ESCRT-0 として機能しユビキチン化カーゴ (EGFR を含む) を認識する。したがって、hVPS34→PI(3)P→Hrs→ESCRT 連鎖が MVB ソーティングの統合的な機序として機能するというモデルが成立し、本研究はその上流機構の同定として位置づけられる。同時期に Katzmann et al. Cell 2001Raiborg et al. EMBOJ 2001 らが ESCRT 複合体の MVB ソーティングへの役割を報告しており、本研究は PI3-キナーゼ経路が ESCRT 機構の上流または並行して機能する可能性を提示した。

臨床応用: MVB は細胞質膜との融合によってエクソソームを放出する中核オルガネラであり、MVB 内腔小胞の形成機構は即ちエクソソームの生合成機構に直結する。hVPS34/PI(3)P 経路がエクソソームの産生量・組成・機能に影響を与えうることが本研究から示唆される。エクソソームは癌の診断や治療標的として注目されており、hVPS34 の機能制御がエクソソーム関連疾患の臨床応用に繋がる可能性がある。EGFR のシグナル減衰機構としての内腔小胞化は、EGF シグナル過剰 (癌での EGFR 増幅など) の抑制に hVPS34 機能が貢献することを示し、hVPS34 異常が発がんの促進因子となりうる可能性を示唆する。

残された課題: hVPS34 は二つの複合体を形成する — Beclin-1 (ベクリン-1) および p150 とのオートファジー制御複合体、および UVRAG (UV radiation resistance-associated gene) などとの内腔小胞化制御複合体。本研究の時点ではこの複合体多様性が未解明であり、どの複合体が MVB 機能に具体的に関与するかは今後の研究に委ねられた。また、EGFR 以外の受容体 (受容体チロシンキナーゼ全般) に対する hVPS34 依存的 MVB ソーティングの一般性の検証も課題として残されている。さらに、ワートマニン処理下で MVB が拡大する現象は、内腔小胞形成阻害だけでなく、MVB からの膜排出阻害も寄与している可能性があり、このメカニズムの詳細は今後の検討課題である。

方法

細胞および EGFR 追跡系: ヒト喉頭癌細胞株である HEp-2 細胞を培養に用いた。リソソームを標識するため、ホースラディッシュペルオキシダーゼ (HRP) を 37°C で 30 分間エンドサイトーシスで取り込ませ、その後 3 時間のチェイスを行った。EGFR を追跡するために、抗 EGFR 抗体に結合させた金ナノ粒子 (10 nm) を使用した。細胞を 20°C で 1 時間インキュベートして EGFR を初期エンドソームに蓄積させ、その後の 37°C への温度移行によりエンドソーム融合および MVB 形成を同期化する実験系を採用した。ワートマニンは 100 nM の濃度で使用した。

電子顕微鏡定量: 細胞を固定後、連続 70 nm の超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡で観察した。各実験群において、MVB の内腔小胞数および MVB 直径を定量的に計測した。MVB は抗 EGFR 金ナノ粒子を含み、直径が 200 nm を超える液胞と定義した。内腔小胞の直径を 50 nm と仮定し、MVB あたりの総膜面積を算出した。HRP 組織化学染色 (DAB-H2O2 反応) によりリソソームを暗染色し、DAB 架橋によりリソソーム-MVB 融合を阻止することで、MVB の成熟過程を融合とは独立して評価した。金ナノ粒子標識 EGFR の HRP 標識リソソームへの到達率を電子顕微鏡でカウントし、定量した。

125I-EGF 分解実験: 125I 標識 EGF を細胞に 20°C で 1 時間結合させ、その後 37°C で 1〜3 時間経過後の TCA (トリクロロ酢酸) 可溶性放射活性 (EGF 分解産物) を計測した。ワートマニン (100 nM) 存在下での分解速度を対照と比較した。EGFR タンパク質の分解は、抗 EGFR 抗体を用いた Western blot で細胞ライセートを解析し、定量した。

PI3-キナーゼアイソフォーム特異的抗体マイクロインジェクション: アイソフォーム特異的阻害抗体 (抗 p110α 抗体、抗 p110β 抗体、抗 hVPS34 抗体) を BSA 安定化 20 nm 金ナノ粒子と共にマイクロインジェクションで HEp-2 細胞内に導入した。抗体の特異性は in vitro PI3-キナーゼ活性アッセイで事前に確認した。マイクロインジェクション後、細胞を 37°C で 2 時間回復させ、その後 EGF 刺激を行い、MVB 形態および EGFR 分布を電子顕微鏡で評価した。マイクロインジェクションのタイミングは、ワートマニン処理実験を模倣するため、EGFR 金ナノ粒子と EGF を 20°C で負荷した後、20°C で抗体をマイクロインジェクションし、さらに 30 分間 20°C でインキュベートしてから 37°C でチェイスする条件も設定した。

EGF 誘導チロシンリン酸化: リソソームを DAB/H2O2 で架橋し、EGFR 分解を阻止した細胞において、ワートマニン存在下での EGF 刺激後の EGFR およびその下流タンパク質のチロシンリン酸化レベルを Western blot で測定した。抗ホスホチロシン抗体 (PY20) を用いて、細胞ライセート中のチロシンリン酸化タンパク質を検出した。これにより、シグナル減衰に対する内腔小胞化の役割を評価した。統計解析には Student’s t-test を用いた。