- 著者: Clotilde Théry, Armelle Regnault, Jérôme Garin, Joseph Wolfers, Laurence Zitvogel, Paola Ricciardi-Castagnoli, Graça Raposo, Sebastian Amigorena
- Corresponding author: Sebastian Amigorena (INSERM U520, Institut Curie, Paris, France)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 1999
- Epub日: 1999-11-01
- Article種別: Original Article
- DOI: 10.1083/jcb.147.3.599
背景
エクソソーム (exosome) は当初、網赤血球が成熟過程で放出する直径 50-90 nm の小胞として記載され (Johnstone et al. 1987)、トランスフェリン受容体 (transferrin receptor, TfR) など成熟赤血球に不要な形質膜タンパクを排出する機構と考えられていた (Pan & Johnstone 1983)。電子顕微鏡研究はこれらが形質膜からの budding ではなく、エンドサイトーシス経路の多小胞体 (multivesicular body, MVB) 内腔小胞に由来し、MVB と形質膜の直接融合で細胞外へ放出されることを示唆した (Pan et al. 1985)。その後、Epstein-Barr ウイルス形質転換 B リンパ球 (B-EBV) が MHC class II-ペプチド複合体を担うエクソソームを分泌して CD4⁺ T 細胞に直接抗原提示すること (Raposo et al. 1996)、マスト細胞も脱顆粒でエクソソームを産生すること (Raposo et al. 1997) が報告され、抗原提示細胞 (antigen-presenting cell, APC) 全般でエンドソーム由来の小胞放出が起こることが明らかになった。
著者らの先行研究では、樹状細胞 (dendritic cell, DC) 由来エクソソームが腫瘍抗原ペプチドをパルスされた条件でマウスの確立腫瘍を退縮させる強力な抗腫瘍免疫を誘導することが示されていた (Zitvogel et al. 1998, Nat Med 4:594-600)。しかし先行研究には 3 つの空白が残されていた。第一に、この spectacular な抗腫瘍効果の分子機構が全く unknown であった。第二に、DC エクソソームの網羅的なタンパク組成が同定されておらず、どの分子が免疫刺激・標的化・生合成を担うかが不明であった。第三に、エクソソーム産生が DC 成熟 (maturation) といかに連動するか、免疫の in vivo でどの成熟段階の DC がエクソソームを産生するかが手薄なまま残されていた。本研究はこの分子基盤の空白を、ペプチドマスマッピングによる網羅的タンパク同定で埋めることを目指した。エクソソームの endosomal biogenesis と抗原提示への寄与は後年 Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019 や Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014 に総括され、DC によるエクソソーム取り込み・処理は Morelli et al. Blood 2004 で発展的に解析された。
目的
本研究の目的は、(1) DC 成熟過程におけるエクソソーム産生の制御様式を定量し、(2) DC 由来エクソソームのタンパク組成をトリプシン消化 + MALDI-TOF-MS (matrix-assisted laser desorption ionization-time of flight mass spectrometry) によるペプチドマスマッピングで網羅的に同定し、(3) 抗腫瘍免疫を誘導する熱ショックタンパク hsc73 (heat shock cognate protein 73) がエクソソームおよびエンドソーム画分に選択的に蓄積する機構を解明し、DC エクソソームの抗腫瘍効果の分子基盤とエンドソーム生合成を明らかにすることである。
結果
DC 由来エクソソームは T 細胞依存性の抗腫瘍免疫を誘導する:骨髄由来 DC (bone marrow-derived DC, BM-DC) を腫瘍細胞 MHC class I 表面から酸溶出したペプチド (acid-eluted peptide, AEP) でパルスして得たエクソソーム (5 μg/マウス) を、4 日齢 TS/A 乳癌を担う免疫正常マウスに皮内投与すると腫瘍増殖が有意に遅延した (Fig 1A、各群 5 匹、Fisher 正確検定 95%)。一方、脾細胞由来 AEP をパルスしたエクソソームや生理食塩水では効果がなく、T リンパ球を欠くヌードマウスでは同じ治療で腫瘍増殖が影響を受けなかった (Fig 1B)。これは抗腫瘍効果が T 細胞依存性であることを示す。
エクソソーム産生は DC 成熟に伴い低下する:脾臓由来 DC 株 D1 を用い、2 × 10⁷ 個の未成熟細胞の 24 時間培養上清から Bradford 法で routinely 15-20 μg のエクソソームタンパクを回収した。LPS (lipopolysaccharide) 20 μg/ml で成熟誘導すると、意外にもエクソソーム産生は 24 時間で 35% 減少し (LPS 24h、n=7 独立実験)、16 時間前処理 + 24 時間回収の 40 時間処理では未成熟細胞比 67% 減少した (LPS 40h、n=2 独立実験、Fig 4A)。免疫電顕では未成熟 D1 細胞の MVB 数が細胞断面あたり 5-8 個から成熟細胞で 1-2 個へ減少し (Fig 2)、成熟細胞では MHC class II が形質膜へ再分布した。すなわちエクソソーム産生は発生学的に制御され、エンドサイトーシス活性の高い未成熟 DC で有効である。
エクソソームは限定された一群のタンパクを選択的に蓄積する:[³⁵S]メチオニン/システインで代謝標識した D1 細胞のエクソソームを SDS-PAGE + オートラジオグラフィーで解析すると、細胞に取り込まれた放射活性の 0.17 ± 0.1% (n=4 独立実験) がエクソソームに回収され、独自のタンパクパターンを示した。少なくとも 7 タンパク (約 180, 90, 70, 58, 43, 32, 27 kD) がエクソソームで全細胞・細胞質・全膜画分より強く濃縮され、うち 70 と 58 kD の 2 バンドは細胞質・細胞ライセートで検出されず極めて強い濃縮機構を示唆した (Fig 5A)。全タンパクは連続ショ糖勾配で期待密度 1.15 g/ml に共泳動し、小胞構造への結合を確認した (Fig 5B)。
MALDI-TOF-MS で主要 8 タンパクを同定:Coomassie 染色した 30 μg エクソソームの主要 11 バンドをゲル内トリプシン消化し MALDI-TOF-MS で解析した (Table I)。同定された主要タンパクは膜貫通型 3 種 (Mac-1 α鎖, MHC II β鎖, CD9)、分泌性で膜周辺結合型 1 種 (MFG-E8 = milk fat globule-EGF-factor VIII、最も豊富な成分)、細胞質性 4 種 (Gi2α, annexin II, MRV provirus 由来 gag, hsc73) であった。Western blot と免疫沈降による定量では MHC II と CD9 が全細胞比 約 10 倍、Mac-1 が 5-10 倍、annexin II と hsc73 が 2-3 倍濃縮されていた (Fig 7A-7B)。免疫電顕では MHC II・CD9・Mac-1 がエクソソーム表面に露出する一方、hsc73 と annexin II は内腔に含まれることが示唆された (Fig 7C)。
hsc73 はエクソソームとエンドソーム画分に選択的蓄積する:同量タンパク比較で hsc73 はエクソソームに全細胞ライセートの約 3 倍検出された一方、抗腫瘍免疫を誘導する他の hsp である gp96 は欠如し、hsp84 は存在するが濃縮されなかった (Fig 8A)。亜細胞分画では ショ糖浮上で低密度膜 (low density membrane, LDM) を分離し、free-flow electrophoresis (FFE) で負電荷のエンドソーム/リソソーム (β-hexosaminidase 活性で同定) を分離すると、gp96 は非荷電の ER/Golgi/形質膜画分のみに、hsc73 は大部分が荷電したエンドソーム/リソソーム画分に局在した (Fig 8B-8C)。軽度トリプシン消化は hsc73 から 60 kD、gp96 から 80 kD 断片を生じ、hsc73 のエンドソーム蓄積がエクソソームへの選択的存在を説明することを裏づけた。
考察/結論
本研究は DC 由来エクソソームの主要 8 タンパクをペプチドマスマッピングで同定し、その分子構成が endosomal biogenesis を反映し生物学的機能を規定することを初めて包括的に示した。① 先行研究との違い: 網赤血球エクソソームで hsc73 が TfR と会合して排出を助けると postulate されていた (Davis et al. 1986) のと異なり、本研究の DC エクソソームでは TfR は濃縮されず hsc73 が抗腫瘍免疫の inducer として全く別の役割を担いうる点で対照的である。また B-EBV 由来エクソソームが均一な 50-80 nm であった (Raposo et al. 1996) のと異なり、DC エクソソームは 40-90 nm とより heterogeneous であった。② 新規性: DC エクソソームで MFG-E8 が最も豊富な成分であり αvβ3/αvβ5 インテグリンを介した標的化を担いうること、hsc73 がエンドソーム画分に選択的蓄積することは本研究で初めて示された novel な発見である。③ 臨床応用: hsc73 が抗腫瘍細胞傷害性 T リンパ球応答を誘導する強力な inducer であることから、DC エクソソームを介した hsc73/ペプチド輸送は臨床応用として腫瘍ワクチン (cell-free 抗腫瘍免疫療法) への bench-to-bedside の橋渡しの分子基盤となる。④ 残された課題: エクソソームが T 細胞と直接相互作用するか追加の APC を要するか、hsc73 の正確なトポロジー (内腔 vs 表面受容体取り込み)、成熟に伴う産生低下の in vivo での意義は今後の検討として残された課題である。エクソソーム生合成の枠組みは Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014、包括的総説は Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019、DC によるエクソソーム処理は Morelli et al. Blood 2004 に受け継がれた。
方法
研究デザインはマウス DC 由来エクソソームの分子生化学的特徴づけである。細胞と抗体: 脾臓由来マウス DC 株 D1 (Winzler et al. 1997、GM-CSF 依存) を Iscove 改変 DMEM + 10% endotoxin-free FCS で培養、C57/Bl6 マウス骨髄由来 fresh BM-DC も使用、腫瘍株は TS/A 乳癌 (H-2^d)。MHC class II (Y3P, M5114)、Ii (IN-1)、calnexin、annexin II、hsp84、gp96 (SPA850)、CD9、hsc73 (SPA815)、Mac-1 (M1/70) 等の抗体を FACS / Western blot / 免疫沈降 / 免疫電顕に用いた。エクソソーム精製 (ISEV 準拠 = differential ultracentrifugation): 3 日齢 DC 培養上清を 300 g (5 min)・1,200 g (20 min)・10,000 g (30 min) で cell/debris 除去後、110,000 g で 1 時間超遠心、PBS で 1 回洗浄し再度 110,000 g、0.01% アジ化ナトリウム含有 PBS 50-200 μl に再懸濁。回収量は Bradford 法で定量した。characterization (marker + 形態 + 密度): 免疫電顕 (whole-mount、CM120 Twin Phillips) で cup 型形態と MHC II/CD9/Mac-1 免疫金標識、連続ショ糖勾配 (SW41 rotor) で浮上密度 1.14-1.20 g/ml を確認、Western blot で MHC class II 濃縮・Ii/calnexin 欠如を marker として検証。タンパク解析: SDS-PAGE (10-12%)、代謝標識 ([³⁵S]Met/Cys)、MALDI-TOF-MS (Bruker Biflex、加速電圧 19.5 kV、reflectron 20.0 kV、質量誤差 ≤100 ppm、Microsoft FIT program で NCBI データベース検索)。亜細胞分画: 不連続ショ糖勾配で HDM/LDM 分離後、軽度トリプシン消化し FFE (free-flow electrophoresis) でエンドソーム/リソソームを β-hexosaminidase 活性指標に分離。Tumor growth assay: BALB/c またはヌードマウス (H-2^d) に TS/A 細胞 10⁵ 個を皮内接種、day 4 にエクソソーム 3-5 μg を投与し腫瘍径を 1 か月週次追跡した。統計手法: 群間比較は Fisher’s exact test (Fisher 正確確率検定) を用い、有意水準は 95% とした (各群 n=5 匹、実験は 2 回反復)。定量値は mean ± SD で表記し、Western blot / 免疫沈降の濃縮倍率は densitometry で算出した。細胞株 identifier: D1 DC 株、BM-DC (bone marrow-derived DC)、TS/A 乳癌株。マウス系統: C57/Bl6、BALB/c、nude mice。