- 著者: David J. Gillooly, Isabel C. Morrow, Margaret Lindsay, Robert Gould, Nia J. Bryant, Jean-Michel Gaullier, Robert G. Parton, Harald Stenmark
- Corresponding author: Harald Stenmark (The Norwegian Radium Hospital, Oslo, Norway); Robert G. Parton (University of Queensland, Australia)
- 雑誌: The EMBO Journal
- 発行年: 2000
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 10970851
背景
ホスファチジルイノシトール3-リン酸 (phosphatidylinositol 3-phosphate, 以下PI(3)P) は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ (phosphatidylinositol 3-kinase, 以下PI3K) の活性化によって産生される重要なリン脂質であり、エンドソームにおける膜輸送やシグナル伝達、細胞骨格の制御など多岐にわたる細胞機能を調節する。先行研究において、FYVEフィンガードメインを持つタンパク質であるEEA1 (early endosome antigen 1) やHrs (hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate) がPI(3)Pに特異的に結合し、エンドソーム膜上へリクルートされることが報告されていた (Stenmark et al. 1996; Patki et al. 1997; Burd and Emr 1998)。また、酵母を用いた遺伝学的解析などの先行研究により、クラスIII PI3KであるVps34p (vacuolar protein sorting 34 protein) およびその調節キナーゼであるVps15p (vacuolar protein sorting 15 protein) が液胞タンパク質のソーティングに必須であり、PI(3)Pの産生を直接担うことが示されていた (Schu et al. 1993; Stack et al. 1995)。これらの既報により、PI(3)Pが細胞内膜輸送経路において極めて重要な役割を果たすことが強く示唆されていた。
しかしながら、細胞内におけるPI(3)Pの正確な超微構造的局在を決定することは、技術的な制約から困難を極めていた。当時の主要な解析手法は、緑色蛍光タンパク質 (green fluorescent protein, GFP) とプレクストリン相同 (pleckstrin homology, PH) ドメインを融合させたプローブを細胞内に過剰発現させて蛍光顕微鏡で観察する手法であったが、これにはいくつかの重大な限界が存在した。第一に、PHドメインが標的リン脂質以外の膜成分と非特異的に結合する可能性が排除できなかった。第二に、プローブの過剰発現自体が、内因性のPI(3)P結合タンパク質とリン脂質との生理的な相互作用を競合的に阻害し、オルガネラの構造や膜輸送経路に人工的な影響を与える懸念があった。第三に、従来の光学・蛍光顕微鏡の解像度限界では、直径50〜100 nm程度のエンドソームサブコンパートメント、特に多胞体 (multivesicular body, 以下MVB) の限界膜と内腔小胞 (intralumenal vesicle, 以下ILV) を明確に区別して可視化することは不可能であった。このため、PI(3)Pがエンドソームのどの膜に、どの程度の密度で局在しているのかという詳細な分布は未解明のままであった。このように、高解像度かつ特異的な検出手法が不足していたことが、PI(3)Pの超微構造的局在とMVB形成における機能的役割の解明を阻む大きな知識ギャップとなっていた。この課題を解決するためには、PI(3)Pに対して極めて高い特異性と親和性を有する新規プローブの開発と、それを用いた免疫電子顕微鏡による定量的超微構造解析が不可欠であった。
目的
本研究の目的は、PI(3)Pに対して高い親和性と厳密な特異性を併せ持つ新規の二量体化プローブ (2×FYVE) を構築し、生化学的アッセイおよび免疫電子顕微鏡法を用いて、哺乳動物細胞および酵母細胞におけるPI(3)Pの正確な超微構造的局在を定量的に決定することである。さらに、PI3K欠損酵母変異株やエンドソーム輸送阻害株を用いることで、in vivoにおけるプローブの結合特異性を厳密に検証するとともに、PI(3)Pのエンドソーム膜動態およびMVB形成における機能的役割を分子レベルで明らかにすることを目指した。特に、これまで光学顕微鏡では同定困難であったMVBの限界膜と内腔小胞におけるPI(3)Pの局在比率を定量化し、エンドソームの陥入プロセスおよび内腔分解経路におけるPI(3)Pの動態モデルを確立することを重要な目標とした。
結果
2×FYVEプローブの結合特異性と親和性: 放射性リポソーム結合アッセイにおいて、GST-2×FYVEプローブは0.05%という極めて低濃度のPI(3)Pに対しても有意な結合活性を示したのに対し、単一のGST-FYVEプローブでは低濃度での結合が不十分であった (Figure 1A)。本プローブは、PI(3)P以外の7種類のホスホイノシチド [PI, PI(4)P, PI(5)P, PI(3,4)P2, PI(3,5)P2, PI(4,5)P2, PI(3,4,5)P3] に対しては全く結合を示さず、C215S二重変異体ではPI(3)Pに対する結合活性が完全に消失した (Figure 1B, C)。SPR解析において、単一のGST-FYVEプローブはKD = 38 ± 19 nMの1:1結合モデルに適合したのに対し、GST-2×FYVEプローブは二価結合モデルに適合する複雑な結合・解離動態を示し、解離速度 (koff) が著しく遅い高親和性結合特性を有することが実証された (Figure 1D, E)。
哺乳動物細胞における蛍光顕微鏡解析と内因性PI(3)Pの可視化: BHK細胞に一過性発現させたmyc-2×FYVEまたはGFP-2×FYVEは、細胞質内の明瞭な点状・小胞状構造に局在し、初期エンドソームマーカーである内因性EEA1と極めて高度に共局在した (Figure 2G-I)。一方で、M6PR、LAMP-1、LBPA、Mannosidase IIなどの他のオルガネラマーカーとは有意な共局在を示さなかった (Figure 2F, J)。100 nMのワートマニンを30分間処理することにより、2×FYVEのエンドソーム膜局在は完全に消失し、細胞質全体へと拡散した (Figure 2B, C)。プローブを高発現させた細胞では、内因性EEA1のエンドソーム膜からの結合量が約3倍低下し、エンドソームの異常な膨大化・空胞化が観察された (Figure 2K, L)。非トランスフェクトBHK細胞の凍結融解切片を用いた実験においても、ビオチン化GST-2×FYVEプローブによってEEA1陽性エンドソーム上に内因性PI(3)Pが明瞭に検出され、トランスフェクションによるアーティファクトを排除した状態での検出に成功した (Figure 3A-C)。さらに、PI(3)P含有リポソームをあらかじめ添加した未透過処理細胞の形質膜外葉が本プローブで特異的に標識されたことから、プローブが細胞膜の微小環境に依存せずPI(3)P分子そのものを厳密に認識していることが確認された (Figure 3E-G)。
免疫電子顕微鏡によるPI(3)Pの超微構造的局在: 超薄凍結切片を用いた定量的解析により、PI(3)Pのオルガネラ特異的な濃縮度が明らかとなった (Table 1)。ミトコンドリアの標識密度を基準 (1.0倍) とした場合、初期エンドソームでは体積当たり11.4-fold increase、膜面積当たり4.7-fold increaseの極めて高い濃縮が認められた。また、多胞体 (MVB) においては体積当たり15.3-fold increase、膜面積当たり3.6-fold increaseの高度な集積が確認された (Figure 4)。核内においては、dense fibrillar component (核内緻密繊維部) に特異的に体積当たり2.5-fold increaseの濃縮が検出されたが、ゴルジ体、核外膜、形質膜における標識は極めて低レベル (0.5〜1.1倍) であった。特筆すべき所見として、MVB内におけるゴールド標識の約90% (89.1%) が内腔小胞 (ILV) の膜に集中しており、限界膜への標識はわずか 7.7 ± 8.7% に留まっていた (Figure 4E, F)。初期エンドソームにおいては、EEA1の標識が細胞質面に完全に限定されていたのに対し、2×FYVEプローブは細胞質面のみならず、環状シスターナの内膜や多胞体化しつつある領域の内腔側膜にもゴールド粒子が多数観察された (Figure 5C)。後期エンドソームにおいては、LBPAが高度に集積する領域とPI(3)Pが局在する領域は空間的に分離しており、PI(3)PはLBPA低発現領域の内膜に偏在していた (Figure 5F)。
酵母細胞におけるPI(3)P局在と遺伝学的変異体解析: 野生型酵母細胞 (Saccharomyces cerevisiae, n=20 cells) において、2×FYVEプローブによるゴールド標識は主に液胞 (vacuole) の内腔および内腔小胞に集中し、全ゴールド粒子の82.3%を占めていた (Figure 6A-C, Table 2)。これに対し、PI3K活性を欠損したvps34変異株 (n=20 cells) およびvps15変異株 (n=20 cells) においては、細胞全体の総標識量が野生株と比較してそれぞれ 10.9% および 10.6% にまで激減し、p<0.001の有意差をもってin vivoにおけるプローブの極めて高い特異性が実証された (Figure 6F, G, Table 2)。さらに、エンドソームから液胞への膜輸送が阻害され、Class Eコンパートメントを形成するvps27Δ株 (n=20 cells) においては、液胞への標識割合が 50.0% (野生株比で約35%減少) に低下した一方で、細胞質小胞 (エンドソーム中間体) への標識割合が 24.4% (野生株の9.2%と比較して約2.7-fold increase) へと著しくシフトした (Figure 6D, E, Table 2)。この結果は、PI(3)Pがエンドソームから液胞へと至る保存された内腔輸送経路に沿って動的に輸送されていることを裏付けている。なお、酵母細胞においては、哺乳動物細胞で見られたような核内への有意な標識は観察されなかった。
考察/結論
本研究は、新規に開発した高親和性・高特異性二量体プローブ (2×FYVE) と免疫電子顕微鏡法を組み合わせることにより、哺乳動物細胞および酵母細胞におけるPI(3)Pの正確な超微構造的局在を世界で初めて定量的に明らかにした画期的な報告である。
先行研究との違い: 従来の先行研究においては、単一のFYVEドメインやPHドメインを融合したGFPプローブの蛍光顕微鏡観察に依存していたため、解像度の限界から「初期エンドソーム周辺への局在」という大まかな知見を得るに留まっていた (Stenmark et al. 1996; Burd and Emr 1998)。これに対し、本研究は超薄凍結切片を用いたポスト埋め込み免疫電顕アプローチを採用した点で、これまでのアプローチと大きく異なる。これにより、光学顕微鏡では識別不可能であったMVBの内腔小胞 (ILV) にPI(3)Pが極めて高度に濃縮されている事実 (MVB内シグナルの約90%が内膜に局在) を初めて視覚的かつ定量的に実証した。また、EEA1が初期エンドソームの細胞質面のみに局在するのに対し、PI(3)Pは限界膜の細胞質面だけでなく内腔小胞膜にも非対称的に分布するという、局在の明確な相違を浮き彫りにした。
新規性: 本研究で初めて、Hrs由来のFYVEドメインを2連結させることでアビディティ効果による親和性向上を達成した「2×FYVEプローブ」を新規に設計し、非トランスフェクト細胞における内因性PI(3)Pの超微構造検出に初めて成功した。さらに、酵母のPI3K欠損株 (vps34, vps15) およびエンドソーム輸送制御株 (vps27Δ) を用いた定量的電顕解析により、PI(3)Pが初期エンドソームの限界膜からMVBの内腔小胞へと陥入し、最終的に液胞/リソソーム内腔で分解・代謝されるという、進化的に高度に保存された「内腔分解経路」の動的モデルを新規に提示した。
臨床応用: 本研究によって確立されたPI(3)PのMVB内腔への偏在および膜陥入制御機構は、近年のがん研究や細胞生物学において極めて重要な「エクソソーム (細胞外小胞) の生合成機構」の分子基盤をなすものである。MVBの内腔小胞は細胞外へ放出されることでエクソソームとなるため、PI3K-PI(3)P経路の活性制御は、がん細胞におけるエクソソーム産生およびそれらを介した腫瘍微小環境形成・転移前ニッチ形成の抑制を標的とした新規治療薬開発への臨床応用に直結する。また、PI3K阻害剤 (ワートマニン等) によるエンドソーム空胞化の超微構造的メカニズムが解明されたことは、臨床現場におけるPI3K/mTOR阻害薬の副作用や薬理作用を分子レベルで理解するための重要な学術的基盤を提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、初期エンドソームの限界膜から内腔小胞へとPI(3)Pが陥入する際の正確な分子メカニズム (膜の内向き出芽時に受動的に取り込まれるのか、あるいは内腔側で局所的に産生・維持されるのか) の解明が挙げられる。また、哺乳動物細胞の核内 (dense fibrillar component) において検出されたPI(3)P濃縮プール (2.5倍濃縮) が、どのような核内プロセス (転写やRNAプロセシングなど) を制御しているのかについては未解明であり、今後の研究における重要な方向性として残されている。
方法
プローブの構築と生化学的検証: マウスHrs由来のFYVEドメイン (残基147〜223) を2コピー連結したダブルFYVE (2×FYVE) プローブを設計し、大腸菌BL-21(DE3)株を用いてGST (glutathione S-transferase) 融合タンパク質として発現・精製した。2つのFYVEドメインはQGQGS (glutamine-glycine-glutamine-glycine-serine) リンカー配列で連結された。対照群として、単一のFYVEドメインプローブ、およびPI(3)P結合活性を消失させたC215S点変異体 (GST-2×FYVE C215S) を作製した。特異性の検証には、0.05%から2.0%のPI(3)Pを含む各種ホスホイノシチド調製リポソームを用いた放射性リポソーム結合アッセイを実施した。リポソームはホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、および微量の[3H]ホスファチジルコリンで構成された。さらに、表面プラズモン共鳴 (surface plasmon resonance, 以下SPR) 解析 (BIAcore Xシステム、L1センサーチップを使用) を用い、2% PI(3)P含有リポソームに対する結合速度定数 (kon)、解離速度定数 (koff)、および解離定数 (KD) を測定した。
細胞内局在の蛍光顕微鏡解析: BHK (Baby Hamster Kidney) 細胞およびHEK293T細胞を用い、mycタグまたはGFPタグを付加した2×FYVEプローブをトランスフェクションした。トランスフェクションにはT7 RNAポリメラーゼ組換えワクシニアウイルスシステムを使用した。サポニン透過処理または凍結融解処理後に細胞を固定し、共焦点レーザー顕微鏡下で観察した。初期エンドソームマーカー (EEA1)、後期エンドソーム/リソソームマーカー (LAMP-1、LBPA (lysobisphosphatidic acid))、TGN (trans-Golgi network)/後期エンドソームマーカー (M6PR (mannose-6-phosphate receptor))、ゴルジ体マーカー (Mannosidase II) との共局在を定量的に評価した。PI3Kの薬理学的阻害実験として、100 nMのワートマニン (wortmannin) を30分間作用させ、プローブの膜局在変化を追跡した。また、非トランスフェクト細胞における内因性PI(3)Pの検出を検証するため、凍結融解透過処理したBHK細胞に対してビオチン化GST-2×FYVEプローブを適用し、Cy3標識ストレプトアビジンを用いて検出した。
免疫電子顕微鏡による超微構造解析: BHK細胞、HEK293T細胞、および初代ヒト線維芽細胞を4% PFA (paraformaldehyde)/0.01% グルタルアルデヒドまたは8% PFAで固定し、厚さ約60 nmの超薄凍結切片を作製した。切片上にGST-2×FYVEプローブをインキュベートし、抗GST抗体および10 nmコロイド金標識protein A (protein A-gold) を用いて可視化した。エンドソームコンパートメントの同定および体積推定のため、5 nm BSA-goldを30分間内在化させた細胞を用いた。各オルガネラにおけるゴールド粒子の分布をランダムに選択した40細胞断面においてポイントカウント法およびインターセクションカウント法により定量化し、体積当たりおよび膜面積当たりの相対標識密度を算出した。
酵母遺伝学を用いた検証: Saccharomyces cerevisiaeの野生株 (SF838-9D)、PI3K活性を欠損したvps34変異株 (SF838-9D a-mut.223) およびvps15変異株 (SF838-9D a-mut.2066)、さらにClass E vps表現型を示すvps27Δ株 (NBY123) を対数増殖期中期に8% PFAで固定し、超薄凍結切片を作製した。哺乳動物細胞と同様の手法でGST-2×FYVEプローブによる標識を行い、各株20細胞断面においてゴールド粒子の細胞内分布を定量的に比較した。統計解析には Student t-test を用いた。