• 著者: Seema Sinha, Daisuke Hoshino, Nan Hyung Hong, Kellye C. Kirkbride, Nathan E. Grega-Larson, Motoharu Seiki, Matthew J. Tyska, Alissa M. Weaver
  • Corresponding author: Alissa M. Weaver (Vanderbilt University Medical Center, Nashville, TN)
  • 雑誌: The Journal of cell biology
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-07-11
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27402952

背景

エクソソームは、生理活性分子を運搬する細胞外小胞であり、腫瘍の増殖、血管新生、転移、および腫瘍微小環境の改変を促進することで、がん細胞の悪性度を増強する (Théry, 2011; Raposo et al. JCellBiol 2013; Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013)。エクソソームの分泌は、多胞体型後期エンドソーム (MVE) と形質膜 (PM) との融合によって生じるが、この複雑なプロセスを制御する分子メカニズムについては、これまでほとんど不明な点が多かった。特に、細胞骨格の動態がエクソソーム分泌にどのように関与するかは、十分に理解されていなかった。

コルタクチンは、アクチン結合タンパク質であり、N末端のNTA (N末端酸性) ドメインを介してArp2/3複合体を活性化し、タンデムリピートを介してアクチン繊維に結合することで、分岐アクチン構造の安定化と維持を担う。頭頸部扁平上皮がん (SCC61) を含む多くの腫瘍において高発現が認められ、その遺伝子増幅は患者の予後不良と相関することが報告されている (Schuuring 1995; Rodrigo et al. 2000)。コルタクチンは、浸潤仮足 (invadopodia) のような分岐アクチンに富む構造の形成と機能調節に関与し、著者らの先行研究では、後期エンドソーム輸送にも関与することが示唆されていた (Sung et al. 2011; Kirkbride et al. 2012; Hong et al. 2015)。しかし、コルタクチンがエクソソームの分泌量やそのカーゴ組成に直接的な影響を与えるかどうかは、依然として未解明であった。

MVEのPMへのドッキングおよび融合を調節する既知の因子としては、Ral1、Rab35、Ostrowski et al. NatCellBiol 2010、およびシナプトタグミン-7などが報告されている (Hsu et al. 2010; Ostrowski et al. NatCellBiol 2010; Bobrie et al. 2012)。しかし、これらの低分子GTPaseによる膜輸送制御と、アクチン細胞骨格の動態制御との間の統合的な理解は不足しており、特にコルタクチンがエクソソーム分泌経路のどの段階で、どのような分子メカニズムを介して機能するのかという知識ギャップが残されていた。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、細胞骨格タンパク質であるコルタクチンが、がん細胞からのエクソソームの分泌量および組成を制御するかどうかを検証することである。具体的には、コルタクチンがエクソソームの産生、多胞体 (MVE) の輸送、またはMVEの形質膜 (PM) へのドッキングと融合のいずれの段階に作用するかを特定する。さらに、コルタクチンのどのドメインがエクソソーム分泌の制御に必須であるかを構造-機能解析により明らかにすることを目指した。

また、コルタクチン、Rab27a、およびコロニン1bという3つのタンパク質が、浸潤仮足における分岐アクチン動態とエクソソーム分泌をどのように協調的に調節するのか、その分子メカニズムを解明することも重要な目的とした。最終的に、コルタクチンがエクソソーム分泌を介してがん細胞の悪性形質(血清非依存性増殖および浸潤)を促進する生物学的意義を評価し、その治療標的としての可能性を探る。

結果

コルタクチンKDはエクソソーム分泌を70〜80%抑制: ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) により定量したエクソソーム数は、コルタクチンKD1およびKD2細胞で対照細胞の20〜30%まで有意に低下した (p<0.001)。shRNA非感受性マウス野生型コルタクチンの再発現 (KD1/WT) により、エクソソーム分泌は完全に救済された (Figure 1B)。逆に、コルタクチンの過剰発現 (OE) はエクソソーム分泌を有意に増加させた。HT1080およびMDA-MB-231細胞でも同様の分泌低下 (KD) および増加 (OE) が確認され、この制御が細胞種に依存しないことが示された。エクソソームの平均サイズ (40〜100 nm) は、KDまたはOEのいずれの条件下でも変化しなかった (Figure 1C, E, F)。

コルタクチンはエクソソーム組成ではなく産生数を制御: 等数のエクソソームを用いたショットガンプロテオミクス解析により、2,102種のタンパク質が同定された。対照、KD1、KD2の3条件で共通して検出されたタンパク質は2,065種 (98.2%) であった (Figure 2B)。QuasiTelソフトウェアによるスペクトルカウント法での定量比較では、2,102種のタンパク質のうちわずか22種 (1.05%) のみで有意な差が示された (Table S1)。これは、コルタクチンKDがエクソソームのカーゴ組成をほとんど変化させないことを示唆する。ウェスタンブロット解析でも、等数エクソソームあたりのEGFRやMMP2の存在量に対照との差は認められなかった (Figure 2C, D)。一方、等細胞数あたりに換算すると、KD群ではすべてのバンド強度が低下しており、これはエクソソーム数の減少を反映していた (Figure 1G, H)。

コルタクチンはエクソソーム産生ではなくMVBドッキング・輸送段階を制御: 透過型電子顕微鏡 (TEM) 解析では、コルタクチンKD細胞においても正常なMVE構造が観察された (Figure 3A)。GFP-Rab5Q79L(早期エンドソームから後期エンドソームへの移行を促進する変異体)を用いたCD63陽性内腔小胞 (ILV) の観察では、対照細胞とKD細胞の間でCD63陽性ILVの充填率に差がなかった (Figure 3B, C)。これらの結果は、コルタクチンがエクソソームの産生 (biogenesis) ではなく、その分泌段階を制御することを示唆する。ライブ共焦点顕微鏡による解析では、KD細胞において移動するGFP-CD63陽性エンドソームの数が対照細胞よりも少ない一方、OE細胞では差がなかった。しかし、MVEの速度を示す拡散係数には、fast (>3 µm²/s) およびslow (<3 µm²/s) のいずれのMVEにおいても、対照、KD、OE細胞間で有意な差は認められなかった (Figure S3D, E)。

コルタクチンはMVBの形質膜ドッキングサイト数を制御: 固定免疫染色細胞のTIRF観察 (CD63抗体) では、コルタクチンKD細胞およびRab27a KD細胞において、対照細胞と比較して形質膜直下のMVE数が有意に低下した (p<0.01) (Figure 4A, B)。逆に、コルタクチンOE細胞ではMVE数が増加した。ライブTIRFイメージング (GFP-CD63) では、KD細胞およびRab27a KD細胞において、5秒以上不動のMVEの割合および数が有意に減少した (p<0.001) (Figure 4D, E)。OE細胞では不動MVEの割合は変化しなかったが、絶対数は増加した。より深いTIRF角でのMVE軌跡追跡では、KD細胞のMVE運動性が対照細胞よりも有意に増加し、ドッキング欠損が確認された (Figure S4D)。

Arp2/3とアクチン繊維への結合がエクソソーム分泌に必須: コルタクチンの構造-機能解析では、shRNA非感受性マウス野生型コルタクチン、SH3ドメイン変異体 (W525K)、およびSrc型リン酸化変異体 (3Y) の発現は、KDによる分泌低下を完全に救済した (Figure 5C)。しかし、Arp2/3結合阻害変異体 (W22A) およびアクチン繊維結合阻害変異体 (Δ4RP) の発現では救済されなかった (p<0.001)。Arp2/3阻害薬CK-666の添加は、細胞生存に影響を与えない濃度においても、用量依存的にエクソソーム分泌を有意に低下させた (p<0.01) (Figure 5D, E)。

コルタクチン、Rab27a、コロニン1bが浸潤仮足アクチン安定性を三者協調制御: Rab27a KD細胞では、浸潤仮足におけるコロニン1bの蛍光強度が増加した (Figure 7C)。コルタクチンOE/Rab27a KD細胞では、このコロニン1bの増加は認められなかった。同様に、コルタクチンKD細胞でも浸潤仮足におけるコロニン1b蛍光が増加したが、これはアクチン量の変化なしに生じた。ラトランクリンA処理によるアクチン半減期測定では、対照細胞で39秒であったのに対し、Rab27a KD細胞では14秒とより速い崩壊を示した。コルタクチンOEおよびコルタクチンOE/Rab27a KD細胞では、浸潤仮足アクチンは著しく安定化し、実験終了時まで完全には崩壊しなかった (Figure 7F)。Rab27a KD細胞にコロニン1b KDを追加すると、アクチン崩壊速度が対照レベルに回復し、エクソソーム分泌も増加した (Figure 6B)。これらの結果は、「Rab27aはコロニン1bの浸潤仮足への局在を阻害することでコルタクチンによる分岐アクチン安定化を支持し、エクソソーム分泌を促進する」というモデルを支持する。

精製エクソソームがコルタクチンKD細胞の腫瘍形質欠損を救済: 無血清培地での4日間培養において、コルタクチンKD細胞およびRab27a KD細胞の増殖は対照細胞と比較して有意に低下したが (p<0.001)、50 µg/mlのUC精製エクソソームの添加により完全に救済された (Figure 8A)。Transwell浸潤アッセイでも同様の救済効果が確認された (Figure 8B)。対照細胞由来エクソソームとコルタクチンKD細胞由来エクソソームが同等の救済効力を示したことは、コルタクチンがエクソソームのカーゴ組成ではなく産生数を制御するという知見と一致する。UCエクソソームと密度勾配 (DG) 精製エクソソームで救済効力は同等であったが、微小小胞 (MV) は同等量でも救済効果を示さず、エクソソーム特異的な効果であることが確認された (Figure 8G, H)。また、MT1-MMP KD細胞由来のエクソソームも、対照エクソソームと同等の浸潤救済効果を示し、MT1-MMPがこのアッセイにおける必須カーゴではないことが示唆された (Figure 8J, K)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、アクチン細胞骨格制御タンパク質であるコルタクチンが、エクソソーム分泌を量的に制御するメカニズムを初めて体系的に明らかにした点で、これまでの研究とは異なる。コルタクチンKD細胞ではMVEの移動数は減少するものの、その速度は変化しないことから、後期エンドソームの成熟過程におけるコルタクチンの機能(先行研究で報告済み)に加えて、PMへのドッキング自体がエクソソーム分泌におけるコルタクチンの主要な制御ステップであることが示唆される。

新規性: 本研究で初めて、Rab27aがSlp4などのエフェクターを介したMVEのPMへのテザリング機能に加え、コロニン1bの浸潤仮足への局在を阻害することでコルタクチンによる分岐アクチン安定化を間接的に支持するという新規機能を同定した。コルタクチンの過剰発現がRab27a KDによるエクソソーム分泌の低下を代償できた事実は、コルタクチンによるアクチン安定化がRab27a依存的なテザリングの一部を補完できることを示唆する。この三者間の協調的な制御は、皮質アクチンの安定性を維持し、効率的なエクソソーム分泌を可能にする。

臨床応用: 頭頸部扁平上皮がんにおけるコルタクチン遺伝子の増幅と高発現が予後不良と相関することは以前から知られていたが、本研究によってエクソソーム分泌促進がコルタクチンのがん悪性度促進における重要なメカニズムとして同定された。コルタクチンKD細胞における血清非依存性増殖およびTranswell浸潤の欠陥が、外来エクソソームの添加によって完全に救済されることは、エクソソームが自己分泌および傍分泌シグナルとして腫瘍細胞の生存と浸潤を支持することを示す。この知見は、コルタクチン-Arp2/3軸の阻害によるエクソソーム分泌制御が、腫瘍微小環境への介入およびがん治療の新規戦略となりうる臨床的意義を持つことを示唆する。

残された課題: アクチン骨格制御と膜融合の接点については、皮質アクチン網が小胞ドッキング・融合を促進する機構が多系統で検討されており、アクチン解重合が小胞の膜アクセスを可能にする一方で、アクチン網が捕捉プラットフォームとして機能するという二面性が提案されている。しかし、動的アクチンの安定化がどのように実際のMVB-PM融合を促進するのかは、依然として未解決の課題である。また、コルタクチン・Rab27a経路以外の、アクチン依存的なエクソソーム分泌制御因子の同定、エクソソームカーゴ組成が変化しないにもかかわらず腫瘍悪性度表現型を救済する具体的なカーゴ分子の特定(MT1-MMPは必須ではないことを示した)、そしてin vivoでのコルタクチン依存的エクソソーム分泌の腫瘍形成・転移への寄与が、今後の研究課題として残されている。

方法

細胞株と遺伝子操作: 頭頸部扁平上皮がん細胞株SCC61、線維肉腫細胞株HT1080、および乳がん細胞株MDA-MB-231を用いた。ヒト特異的コルタクチンshRNA (KD1およびKD2) またはLacZ shRNAスクランブル対照をレンチウイルス系で安定導入した。KD1細胞には、shRNA非感受性マウスコルタクチン(野生型または各種変異体)を再発現させ、構造-機能解析を実施した。変異体は、Arp2/3結合阻害 (W22A)、アクチン結合阻害 (Δ4RP)、SH3ドメイン結合阻害 (W525K)、およびSrc型リン酸化部位変異 (3Y; Y421/Y466/Y482F) を含む。Rab27a KDはshRNA (Rab27a-1)、コロニン1b KDはDharmacon shRNAをレンチウイルス系で導入した。

エクソソーム単離と定量: 等細胞数からの48時間条件培地 (Opti-MEM) を差速遠心法で分画した。まず300×gで10分間遠心して細胞破片を除去し、次に2,000×gで30分間遠心して死細胞を除去した。さらに10,000×gで30分間遠心して微小小胞 (MV) を除去した後、100,000×gで18時間(または70分間)遠心してエクソソームペレットを回収した。一部の実験では、不連続イオジキサノール密度勾配 (5〜40%) を用いて超遠心 (UC) エクソソームをさらに精製した。エクソソームの特性評価は、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA; NanoSight LM10) により粒子数とサイズを定量し、透過型電子顕微鏡 (TEM) によるネガティブ染色で形態を確認し、ウェスタンブロット (WB) によりエクソソームマーカー (TSG101, CD63, Flotillin1) およびゴルジマーカー (GM130) の発現を評価した。

プロテオミクス解析: 等数エクソソームからショットガンプロテオミクスを実施した。IDPickerを用いてペプチドFDR 5%、最低2ペプチド、6スペクトルという基準でフィルタリングした後、QuasiTelソフトウェアを用いてスペクトルカウント法による定量比較を実施した。

ライブセルイメージング: GFP-CD63を一過性発現させた細胞を共焦点顕微鏡で2秒おきに2分間撮影し、Imaris粒子追跡ソフトウェアを用いてMVEダイナミクス (平均二乗変位、拡散係数) を解析した。形質膜直下のMVBドッキングは、全反射蛍光 (TIRF) 顕微鏡により可視化した。浸潤仮足におけるアクチン半減期は、EGFP-F-Tractinを発現させた細胞に10 µMラトランクリンAを処理し、TIRFライブイメージングで定量した。

Arp2/3阻害実験: Arp2/3複合体阻害薬であるCK-666をSCC61細胞に24時間添加し、NTAでエクソソーム分泌量を定量した。細胞生存率はMTTアッセイで確認した。

機能救済実験: コルタクチンKD細胞またはRab27a KD細胞に、精製UCまたはDGエクソソーム (50 µg/ml) を添加し、血清非依存性増殖 (4日間、無血清培地での細胞計数) およびTranswell浸潤 (48時間、Matrigelコートチャンバー) への影響を評価した。統計解析にはStudent’s t検定またはMann-Whitney U検定を用いた。