• 著者: Matias Ostrowski, Nuno B. Carmo, Sophie Krumeich, Isabelle Fanget, Graça Raposo, Ariel Savina, Catarina F. Moita, Kristine Schauer, Alistair N. Hume, Rui P. Freitas, Bruno Goud, Philippe Benaroch, Nir Hacohen, Mitsunori Fukuda, Claire Desnos, Miguel C. Seabra, François Darchen, Sebastian Amigorena, Luis F. Moita, Clotilde Thery
  • Corresponding author: Clotilde Thery (Institut Curie, Paris, France); Luis F. Moita (Instituto de Medicina Molecular, Lisbon, Portugal)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2009-12-06
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 19966785

背景

エクソソームは、細胞間コミュニケーション、ウイルスやプリオンの拡散、神経変性疾患の病態形成、腫瘍細胞とその微小環境間の相互作用など、多岐にわたる生理的・病理的プロセスに関与すると考えられている細胞外小胞である。これらのナノメートルサイズの小胞は、多胞体エンドソーム (MVE) の内腔小胞 (ILV) が形質膜と融合し、細胞外に放出されることで生じるとされている。しかし、MVEが形質膜にドッキングし融合する分子機構は、これまで詳細には解明されていなかった。特に、エクソソーム分泌を特異的に操作するツールが不足していたため、in vivoでのエクソソームの生理的機能の確証が困難な状況であった。

細胞内輸送経路は、約70種のRab/Rab様GTPaseを含む保存されたタンパク質ファミリーによって制御されている。Rabタンパク質は、小胞輸送の出芽、運動、ドッキング、融合といった様々な段階を制御することが知られているが、エクソソーム分泌に関与するRabを網羅的に同定する系統的なスクリーニングはこれまで実施されていなかった。特に、Rab27aとRab27bは71%のアミノ酸同一性を持つホモログであり、リソソーム関連オルガネラの調節分泌に関与することが報告されていたが、エクソソーム経路においてこれらが独立した機能を持つか、あるいは機能的に冗長であるかは不明であった。例えば、マスト細胞や血小板における分泌顆粒の放出にはRab27aとRab27bの両方が関与するが、細胞種や分泌プロセスによってその冗長性は異なるとされる (Mizuno et al. 2007, Tolmachova et al. 2007)。

本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とし、RNAiスクリーニングを用いた系統的な分子機構解析を設計した。これにより、エクソソーム分泌経路を制御するRab GTPaseを網羅的に同定し、特にRab27aとRab27bがMVEの形質膜へのドッキングにおいて果たす具体的な役割と、それぞれのエフェクタータンパク質を明らかにすることを目指した。エクソソームの起源がエンドソームであるという証拠は、電子顕微鏡観察によるMVEと形質膜の融合プロファイルや、ILVがエクソソームとして放出されるという知見によって裏付けられてきたが Raposo et al. JExpMed 1996、その詳細な分子メカニズムは未解明であった。また、MHCクラスII分子が樹状細胞においてリソソームまたはT細胞誘導エクソソームに異なる経路で輸送されることが示唆されており (Buschow et al. 2009)、特定のMVEサブセットがエクソソームの生成に関与する可能性も指摘されていた。本研究は、エクソソーム分泌を特異的に操作する分子ツールを特定することで、in vivoでのエクソソームの生理的機能の解明に向けた基盤を提供することを意図した。エクソソームの組成、生合成、機能については、Thery et al. (2002)によって総説されている通り、細胞間コミュニケーションにおけるその重要性が認識されつつあったが Thery et al. NatRevImmunol 2002、その分泌メカニズムの詳細は依然として知識ギャップとして残されていた。

目的

本研究の目的は、HeLa細胞におけるエクソソーム分泌を制御するRab GTPaseを、shRNAスクリーニングを用いて網羅的に同定することである。さらに、同定されたRab GTPaseの中でも特にRab27aおよびRab27bに焦点を当て、それらがMVEの細胞内輸送および形質膜へのドッキングにおいて果たす具体的な機能的役割と、それぞれのエフェクタータンパク質を解明することを目指した。具体的には、Rab27aとRab27bがエクソソーム分泌経路において冗長な役割を持つのか、あるいは異なる非冗長なステップを制御するのかを明らかにし、MVEの形態、細胞内分布、および運動性に対する影響を詳細に解析することを目的とした。また、これらのRabタンパク質が既知のエフェクタータンパク質を介してエクソソーム分泌を調節するメカニズムを確立することも重要な目的であった。最終的には、エクソソーム分泌の分子メカニズムの理解を深め、将来的なin vivoでのエクソソーム機能操作のための基盤を提供することを目指した。

結果

shRNAスクリーンによるエクソソーム分泌促進Rab GTPaseの同定: 59種のRab遺伝子を標的とするshRNAスクリーニングを実施した結果、Rab2b、Rab9a、Rab5a、Rab27a、Rab27bの5種類のRab GTPaseが、古典的分泌経路であるOVA分泌に影響を与えることなく、エクソソーム分泌を有意に抑制することが明らかになった (p<0.05〜p<0.001)。対照的に、Rab7やRab11aのサイレンシングはエクソソーム/OVA分泌のいずれにも変化をもたらさず、Rab6aのサイレンシングはOVA分泌のみを抑制したことから、本スクリーニングの経路特異性が確認された。特にRab27aとRab27bは、9本の独立したshRNAで検証され、全5ヒットの中で最も再現性と効果量が大きく、エクソソーム分泌を顕著に抑制した。Rab27aのノックダウンはエクソソーム分泌を約50%減少させ、Rab27bのノックダウンは約40%減少させた (Fig 2c, d)。これらの結果は、Rab27aとRab27bがエクソソーム分泌において重要な役割を果たすことを強く示唆している。また、Annexin V染色を用いた評価でも、両Rab27アイソフォームのノックダウンによりエクソソーム関連脂質の分泌が全体的に減少することが確認された (n=3 wells)。

Rab27aとRab27bの異なる非冗長な役割: Rab27aとRab27bのサイレンシングは、MVEの形態と細胞内分布に異なる表現型を誘導した。Rab27aノックダウン細胞では、MVEのサイズが対照細胞と比較して有意に増大した (電子顕微鏡定量; p<0.05)。これは、CD63陽性区画が形質膜近傍に分布せず、末梢移動が抑制されることを示唆する。一方、Rab27bノックダウン細胞では、MVEのサイズは正常を維持したものの、細胞内分布が核周辺領域に偏位した (3D蛍光顕微鏡で「非対称分布」細胞の割合が有意に増加; p<0.01)。TIRF顕微鏡を用いた解析では、Rab27aまたはRab27bのサイレンシングにより、形質膜近傍におけるMVEの密度が有意に低下し (Rab27b KDでp=0.0042, n=20 cells)、MVEの拡散係数 (Dxy) が増加した (p<0.0001, n=400 vesicles以上)。これは、両Rab27アイソフォームがMVEの形質膜へのドッキングを促進する役割を持つことを示している (Fig 6b)。特に、Rab27aノックダウンではMVEのドッキングイベントの数と持続時間(コントロール細胞で15.5秒に対し、Rab27a KDで10.1秒)が減少し、Rab27bノックダウンではMVEの長距離移動(微小管ベースの運動)の割合と速度が増加した (p=0.011)。これらの結果は、Rab27aがMVEの成熟/サイズ制御に、Rab27bがMVEの末梢移動と形質膜近傍への最終ポジショニングにそれぞれ異なる非冗長な役割を持つことを示唆している。両者の二重ノックダウンは単独ノックダウンよりも強いエクソソーム分泌抑制効果を示し、その非冗長性が確認された (Supplementary Information, Fig. S4)。大規模精製エクソソームのウェスタンブロット解析では、Rab27aおよびRab27bノックダウン細胞のいずれにおいても、HLA-DR、Hsc70、Tsg101といったエクソソームマーカーのレベルが有意に低下した (p<0.01〜p<0.001) (Fig 3b)。しかし、エクソソームのタンパク質組成や形態自体は変化しなかったことから、分泌量のみが影響を受けることが示された (Fig 3c, d)。

Rab27エフェクターSlp4 (SYTL4) およびSlac2b (EXPH5) の機能: Rab27エフェクタータンパク質のshRNAノックダウン解析により、Slp4 (SYTL4) とSlac2b (EXPH5) がエクソソーム分泌の正の制御因子であることが示された。Rab27aの既知エフェクターであるSlp4のshRNAノックダウンは、Rab27aノックダウンと同様のMVEサイズ増大表現型を再現した (Fig 7f)。一方、Rab27bの既知エフェクターであるSlac2bのshRNAノックダウンは、Rab27bノックダウンと同様のMVE核周辺偏位表現型を再現した (Fig 7f)。これらの結果は、Rab27a-Slp4経路がMVEの成熟/サイズ制御に、Rab27b-Slac2b経路がMVEの末梢移動および形質膜近傍ポジショニングに機能するという二段階の分子経路を確立するものである。Slp4はRab27aと共局在し、Rab27aノックダウン細胞ではSlp4タンパク質レベルが減少したことから、Rab27aとSlp4の安定的な相互作用が示唆された (Fig 8b)。Slac2bとRab27bの直接的な相互作用は技術的な理由から本研究では実証できなかったが、その表現型の一致は機能的関連を強く示唆する。これらのエフェクターのノックダウンは、エクソソーム分泌の減少に加えてOVA分泌の増加も引き起こし、古典的分泌経路におけるRab27非依存的な役割も示唆された (Fig 7a)。Slp4ノックダウン細胞では、エクソソーム分泌が約60%減少した (n=3 experiments)。

考察/結論

本研究は、Rab GTPaseを網羅的にスクリーニングすることで、エクソソーム分泌経路を制御する特異的な分子機構を初めて体系的に同定した。この成果は、エクソソームの細胞内輸送と放出に関する理解を大きく前進させるものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、Rab27aとRab27bがメラノソーム輸送や分泌顆粒の放出において機能的に冗長であるか、あるいは異なる役割を持つことが細胞種特異的に報告されてきた (Barral et al. 2002, Tolmachova et al. 2007)。しかし、エクソソーム分泌経路における両者の役割分担は未解明であった。本研究は、HeLa細胞においてRab27aとRab27bが非冗長なMVE経路の異なるステップ(MVEのサイズ制御/成熟と末梢移動/形質膜ドッキング)を担い、それぞれ異なるエフェクター(Slp4 (SYTL4) とSlac2b (EXPH5))を介するという点で、これまでの知見と対照的な新規性を示した。特に、Rab27aサイレンシングによるMVEのサイズ増大と、Rab27bサイレンシングによるMVEの核周辺への再分布という異なる表現型は、両アイソフォームがMVEの生物学において独立した機能を持つことを明確に示している。

新規性: 本研究で初めて、RNAiスクリーニングによりエクソソーム分泌を促進する5つのRab GTPaseを同定した。中でもRab27aとRab27bがMVEの形質膜へのドッキングに機能することを新規に明らかにした点は重要である。さらに、Rab27aがエフェクターSlp4を介してMVEのサイズ制御に、Rab27bがエフェクターSlac2bを介してMVEの末梢移動と形質膜近傍ポジショニングに寄与するという二段階の分子経路を確立したことは、エクソソーム分泌の分子メカニズムに関するこれまで報告されていない詳細な知見を提供するものである。この発見は、Rab27系がメラノソーム輸送と同様に、細胞種やオルガネラを超えた普遍的な機能様式を持つ可能性を示唆する。

臨床応用: エクソソームは、がんの診断、治療、および再生医療など、様々な臨床応用が期待されている。本研究で確立されたエクソソーム分泌を細胞種特異的に操作するRab27/エフェクター軸の特定は、治療的エクソソームの生産制御や、腫瘍エクソソームの産生抑制戦略の基盤として直接的な臨床的価値を持つ。例えば、がん細胞からのエクソソーム分泌を抑制することで、腫瘍の増殖や転移を阻害する新たな治療法開発に繋がる可能性がある。また、特定のエクソソームを大量に生産するための細胞工学的なアプローチにも応用できる。本研究で開発されたFACSベースのデュアル読み出しエクソソーム定量法は、後続の機能スクリーニング研究にも広く採用され、エクソソーム生物学における方法論的標準を提供した重要な論文であり、bench-to-bedside研究を加速させる基盤となる。

残された課題: 今後の検討課題として、Rab27bとSlac2bの直接的な機能的相互作用のメカニズムを詳細に解明する必要がある。本研究では技術的な制約からその直接的な相互作用を実証できなかったが、両者の表現型の一致は強い関連性を示唆する。また、HeLa細胞以外の様々な細胞種におけるRab27a/bのエクソソーム分泌における役割を検証し、その普遍性や細胞種特異性を明らかにすることも重要である。さらに、in vivoモデルにおいてRab27a/bやそのエフェクターの機能を操作し、エクソソームの生理的・病理的機能に対する影響を評価することで、本研究の知見の臨床的意義をさらに深めることができる。例えば、Rab27a/b二重ノックアウトマウスの樹状細胞が野生型と比較してエクソソーム分泌量が半減することが示されており (Supplementary Information, Fig. S5)、in vivoでのエクソソーム機能の操作に向けたlimitationを克服する道筋が示されている。

方法

細胞株と培養: 本研究では、CIITAを安定発現し、分泌型OVAを安定発現するHeLa B6H4細胞株を用いた。この細胞株は、HLA-DR/CD81陽性エクソソームと可溶性OVA(古典的分泌経路)を同時に分泌するため、両経路の特異的な定量が可能であった。細胞はDMEM培地(10% FCS、2 mMグルタミン、抗生物質、ハイグロマイシンB、ジェネティシン含有)で培養した。

エクソソームおよびOVAの定量: エクソソームの半定量的検出には、抗CD63抗体コートビーズを用いたFACSベースのアッセイを開発した。細胞培養上清中のエクソソームは、CD63コートビーズに捕捉され、抗HLA-DRおよび抗CD81蛍光抗体、またはホスファチジルセリンに結合するAnnexin Vで染色後、FACSで検出した。この方法により、生細胞由来のエクソソームとアポトーシス細胞由来のアポトーシス小体を区別して定量できることを確認した。感度閾値は75,000 cells/wellであった。可溶性OVAの分泌は、抗OVA抗体コートビーズと蛍光抗OVA抗体を用いてFACSで定量し、感度閾値は30,000 cells/wellであった。

shRNAスクリーニング: ヒトRab GTPaseファミリーの59遺伝子を標的とするレンチウイルスshRNAライブラリ(各遺伝子2〜5本のshRNA)を用いてスクリーニングを実施した。細胞を96ウェルプレートに播種し、レンチウイルスで感染させた後、エクソソーム枯渇培地で培養した。48時間後に上清を回収し、エクソソームとOVAの分泌量をFACSで定量した。各ウェルの分泌量は生細胞数で正規化し、エクソソーム分泌を有意に減少させ、かつOVA分泌に影響を与えない遺伝子をヒットとして選択した。ヒットの定義は、2本以上のshRNAが5ウェル以上の独立した実験で有意にエクソソーム分泌を減少させた場合とした。

mRNA定量: 定量PCR(qRT-PCR)を用いて、各shRNAによる標的遺伝子のノックダウン効率を確認した。GAPDH mRNAレベルで正規化し、コントロール細胞に対する相対発現量を算出した。

Rab27a/bの詳細解析: Rab27aおよびRab27bの機能的役割を詳細に解析するため、大規模培養(n=4独立実験)からエクソソームを精製し、ブラッドフォードアッセイで総タンパク質量を定量した。エクソソームの組成は、CD63、Tsg101、HLA-DR、Hsc70、Gp96に対するウェスタンブロットで評価した。MVEの形態と細胞内分布は、抗CD63抗体を用いた3Dデコンボリューション蛍光顕微鏡で解析した。コントロール細胞で9,796個、Rab27aノックダウン細胞で8,247個、Rab27bノックダウン細胞で9,072個のCD63陽性区画を、それぞれ14〜20 cellsで解析し、サイズと分布を定量した。免疫金電子顕微鏡を用いて、HLA-DR(10 nm金粒子)とCD63(15 nm金粒子)の局在を観察し、MVEの表面積を定量した。

Rab27エフェクター解析: Rab27aの既知エフェクターであるSlp4(SYTL4)およびRab27bの既知エフェクターであるSlac2b(EXPH5)のshRNAノックダウンを行い、それぞれの表現型をRab27a/bノックダウン細胞の表現型と比較した。Slp4タンパク質レベルはウェスタンブロットで確認したが、Slac2bは発現レベルが低く検出できなかった。

MVEの運動性解析: 全反射蛍光顕微鏡(TIRF microscopy)を用いて、生細胞の形質膜近傍領域におけるMVEの運動性をリアルタイムで観察した。GFP-CD63を発現する細胞のMVE軌跡を追跡し、拡散係数(Dxy)を算出して運動性を評価した。ドッキングイベントの持続時間も測定した。

統計解析: データはGraphPad Prismを用いて解析した。正規性の検定にはKolmogorov-Smirnov検定を用いた。多重比較解析には、正規性に応じて一方向ANOVAとTukey事後検定、またはKruskal Wallis検定とDunn事後検定を用いた。結果は平均±標準偏差(s.d.)または平均±標準誤差(s.e.m.)で示した。