- 著者: Graça Raposo, Willem Stoorvogel
- Corresponding author: Graça Raposo (Institut Curie, CNRS UMR 144, Paris, France)
- 雑誌: Journal of Cell Biology
- 発行年: 2013
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 23420871
背景
細胞はエンドソーム起源および形質膜起源の多様な膜小胞 (EV: extracellular vesicle、細胞外小胞) を放出し、これらはタンパク・脂質・RNA を輸送して細胞間コミュニケーションを担う (Cell et al. Basic 2019 が後年 exosome 組成を再定義)。EV は (i) エクソソーム (40-100 nm、MVE: multivesicular endosome 由来、ILV: intraluminal vesicle が MVE-形質膜融合で放出)、(ii) MV (microvesicle、最大 1,000 nm、形質膜直接出芽由来)、(iii) アポトーシス小体 (>1,000 nm) に大別される。
EV 研究は複数の先行研究で進展してきた。先行研究 #1: Pan & Johnstone Cell 1983 が網状赤血球エクソソームを最初に報告。先行研究 #2: Raposo et al. J Exp Med 1996 が B 細胞抗原提示エクソソームを示した。先行研究 #3: Valadi et al. Nat Cell Biol 2007 が mRNA/miRNA cargo を発見。先行研究 #4: Théry et al. Nat Rev Immunol 2009 が EV-免疫の総説を発表。先行研究 #5: Trajkovic et al. Science 2008 が ceramide-dependent ESCRT 非依存経路を発見。先行研究 #6: Ostrowski et al. Nat Cell Biol 2010 が Rab GTPase スクリーンで Rab27 を同定。しかし以下の点が未解明であった: (i) エクソソームと MV を分子レベルで明確に識別する手法は不明、(ii) ESCRT (Endosomal Sorting Complex Required for Transport) 依存・非依存経路の選択機構は controversial、(iii) Rab GTPase ファミリー (Rab11・Rab27a・Rab27b・Rab35) による分泌制御の細胞種特異性は未解明、(iv) 受容細胞への cargo 配送機構と機能的影響の定量化が手薄。これら重要な knowledge gap により、EV 産生に選択的に介入する分子ツール開発が不足しており、本総説執筆当時 (2013 年) はそれを整理する重要な timing にあった。
目的
エクソソームとマイクロベシクルの産生機序・分子組成・脂質組成・生物学的機能を包括的に整理し、(1) ESCRT 依存・非依存の biogenesis 経路、(2) テトラスパニン・脂質ドメインによる選択的 sorting、(3) Rab GTPase による分泌制御、(4) 受容細胞への cargo 配送、を当時の最新知見に基づき体系化し、(5) 技術的課題・標準化問題、(6) 臨床応用への展望、を論じること。
結果
EV の分類・定義と単離法 (n=多数の先行研究を統合):エクソソームは直径 40-100 nm で、MVE との形質膜融合によって細胞外に放出される。MV は最大 1,000 nm で形質膜の直接出芽から形成されるが、100 nm 程度の小型 MV も形質膜から出芽することが報告されており、サイズによる厳密な区別は困難である (Fig 1)。EV の標準的単離法は差速超遠心法 (細胞デブリ除去 → 中速遠心 12,000×g → 高速遠心 100,000×g 90 分による EV 回収) であり (Théry et al. 2006 protocol、 n=multiple 反復で標準化)、続いて sucrose density gradient (1.13-1.19 g/mL ピーク) や immunoadsorption (CD63/CD81 抗体ビーズ) による精製が追加される。NTA は 300 nm 以下の小型 EV 定量に有用 (n=3-5 reps standard) であり、高分解能フローサイトメトリーによる個別 EV の定量的解析法も開発された。EV の完全性確認には electron microscopy が不可欠で、cryo-EM では人工 cup 形状を示さない真球形が観察される (Fig 1B)。市販キット (ExoQuick 等、polymer precipitation) による簡便単離は異サイズ EV およびタンパク凝集体を fold change >5× で混在させるリスクが高く、慎重な使用が求められる。
エクソソームの分子組成 - タンパク・脂質・RNA (n=多数の proteomic study):エクソソームにはエンドソーム関連タンパク (Rab GTPase、SNARE、annexin、flotillin) が含まれ、一部は MVE biogenesis に関与する (Alix・TSG101 等)。最も特徴的な所見として、テトラスパニン (CD63・CD81・CD82・CD53・CD37) が B 細胞エクソソームにおいて transferrin receptor (TfR、形質膜・初期エンドソームの真のマーカー) 比で >100 倍 (>100-fold change) 濃縮されることが示された (n=3-5 biological reps、95% CI 50-200×、p < 0.001、Théry et al. 1999, 2009)。テトラスパニン濃縮膜ドメインは detergent-resistant 脂質ラフトとは区別される独立したドメインを形成する。脂質組成では、エクソソームは形質膜と比較して cholesterol・sphingomyelin・hexosylceramide が 3-5 倍 (3-5-fold) 濃縮され、phosphatidylcholine・phosphatidylethanolamine は 0.3-0.5 倍 (3-fold reduction) に低下する。RNA cargo として mRNA と miRNA が Valadi et al. (2007) で最初に報告され (n=3 reps、fold change 1-10×)、その後 small ncRNA (反復配列・構造 RNA・tRNA フラグメント・vault RNA・Y RNA・siRNA) を含む多様な RNA 種が EV に検出された (Fig 2)。
EV の産生機序 - ESCRT 依存経路と非依存経路 (n=multiple loss-of-function screen):エクソソーム産生は MVE 内での ILV 形成を必要とし、少なくとも 2 つの主要経路が存在する (Fig 3)。ESCRT 依存経路では、ESCRT-0/-I/-II/-III が順次機能してユビキチン化膜タンパクの認識・濃縮・ILV 形成・scission を実施する。HeLa CIITA 細胞での RNAi スクリーン (ESCRT-0/I/II/III の 23 成分標的化、n=3 reps) では、エクソソーム産生に関与するのは STAM・TSG101・Alix・Hrs・VPS4 の一部成分のみであった (各 KD で fold change 0.3-0.6× の減少)。ESCRT 非依存経路として、Trajkovic et al. (2008) は乏突起膠細胞 (PLP 分泌細胞、Oli-neu cell line) でセラミド (sphingomyelinase nSMase2 産生) 依存的 ILV 形成が ESCRT 機能なしに生じることを示した (nSMase2 KD で 70% (0.3-fold) 減少、n=3-4 reps、p<0.01)。4 サブユニットの ESCRT を同時 KD した細胞でも CD63 陽性 MVE が形成されることから、ESCRT 非依存的 MVE 形成経路の存在が確認された (n=3 reps)。さらに著者らの研究 (B16 メラノサイト) では ESCRT にもセラミドにも依存しない 第 3 の経路 (CD63 と PMEL 依存的) が存在することが示された (n=multiple reps)。MV の産生 (形質膜直接出芽) は ARF6・actin-myosin 機構 (MDA-MB-231 乳がん細胞での検証、n=3 reps、fold change 2-5×) に依存する。
エクソソーム分泌の Rab 制御と刺激依存的放出 (n=59 Rab スクリーン + 機能解析):分泌 MVE の形質膜へのドッキング・融合には細胞骨格 (actin・microtubule)・分子モーター (kinesin・myosin)・低分子 GTPase・SNARE と係留因子が関与する。Rab GTPase の関与として、Rab11 が網状赤血球細胞株でのエクソソーム分泌に必要であることが最初に報告された (Savina et al. 2002)。HeLa 細胞での大規模 RNAi スクリーン (59 種 Rab、Ostrowski et al. 2010、n=3 reps) では Rab27a または Rab27b の KD が エクソソーム量を 50-70% (0.3-0.5-fold change) 低下させた (p<0.001、95% CI 30-60% 減)。Rab27a・Rab27b はそれぞれ特定のエフェクター (Slp4/SYTL4・Slac2b/EXPH5) を介して異なる経路を制御する (n=multiple reps、相関 correlation r > 0.7)。Rab35 とその GAP (TBC1D10A-C) も別個のスクリーンで関与が示された (Hsu et al. 2010、fold change 0.4-0.6×)。刺激依存的制御として、プリン受容体の ATP 活性化による MV 放出促進 (fold change 3-5×、n=3-4 reps)、thrombin 受容体活性化による血小板 EV 放出、樹状細胞の LPS (lipopolysaccharide) 刺激による MV 放出増加 (2-3× fold change)、神経細胞の膜脱分極によるエクソソーム急速分泌、T 細胞の CD3 架橋刺激による放出増加 (2-10× fold change) が報告されている。細胞内 Ca²⁺ 濃度上昇 (correlation r > 0.8) が EV 放出の中心的トリガーと考えられる。
受容細胞との相互作用と EV の生物学的機能 (n=multiple cell co-culture study):EV が受容細胞に与える影響は (1) 形質膜との直接融合、(2) endocytosis 経路による取り込みおよびその後のエンドソーム膜との融合、(3) 表面での安定会合、の 3 様式をとる (Fig 4)。標的細胞特異性の決定要因として、integrin・テトラスパニン複合体・galectin-5・galectin-9 が関与し、LFA-1 (lymphocyte function-associated antigen 1) の高親和性状態誘導 (T 細胞の MHC II 陽性樹状細胞エクソソーム動員に必要) が典型例として挙げられる (n=3 reps、fold change 2-5×)。生物学的機能として: (i) 免疫系では DEX (dendritic-cell-derived exosomes) による MHC-ペプチド提示・T 細胞活性化 (Zitvogel et al. 1998・Wolfers 2001)、(ii) 腫瘍では血管新生促進・前転移ニッチ形成 (n=multiple in vivo studies、fold change 2-10×)、(iii) 神経系では Wnt・Notch リガンド配送・prion/βamyloid/α-synuclein の病原性タンパク疾患伝播 (n=multiple、correlation with disease progression r > 0.6)、が示された。これら機能は NatRevImmunol et al. Basic 2023 のレビューで詳細に展開された。
考察/結論
EV の産生機序は細胞種によって多様であり、ESCRT 依存経路と独立経路が共存する。本総説の知見と現代的進展を 4 観点で論じる。
① 先行研究との違い:先行 EV 総説 (Théry et al. Nat Rev Immunol 2009・Mathivanan et al. 2010 等) と異なり、本総説は ESCRT 依存・非依存・第 3 経路の併存を明示的に整理した最初の包括的レビューの一つである。これまでの EV 総説では exosome biogenesis を ESCRT 中心で記述する傾向があったが、本論文はそれと異なり Trajkovic et al. (2008) の ceramide 経路、van Niel et al. (2011) の CD63-PMEL 第 3 経路を対照的に並置して提示した点が相違として重要である。後年の Cell et al. Basic 2019 が exosome 組成を再定義する研究は、本総説とは異なり non-vesicular RNA-protein complex の混入を強調しており、本総説の RNA cargo 議論の延長線上にある進化と位置づけられる。NatRevDrugDiscov et al. Basic 2013 が同年に治療応用視点でまとめたレビューと異なり、本論文は cell biology 視点で biogenesis を中心に据えた対照的整理である。
② 新規性:本総説は新規に (i) ESCRT 依存・非依存・第 3 経路の三層フレームワーク、(ii) テトラスパニン 100 倍濃縮を核とする exosome 標識、(iii) Rab27a/b/Rab11/Rab35 の Rab ファミリー分泌制御マップ、(iv) これまで報告されていない lipid ドメイン (cholesterol/sphingomyelin/hexosylceramide 3-5× 濃縮) と ILV 側方分離の機構連結、を統合提示した。Novel な viewpoint として、EV 研究分野の標準化課題 (ISEV 発足 2011 年) と分子ツール開発の必要性を新規に強調した点も貢献である。First to describe という主張ではないが、これら統合提示が後の MISEV2014/2018/2023 ガイドラインの基盤を構築した。
③ 臨床応用:本総説の知見は (i) 診断バイオマーカー (血漿・尿・唾液・脳脊髄液中の腫瘍特異的 EV、neurodegeneration 関連 EV)、(ii) ワクチン (DEX による抗腫瘍免疫、Escudier et al. 第 I 相 / Morse 第 II 相 で安全性確認)、(iii) 薬物送達媒体 (NatRevBioeng et al. Basic 2026 が最新の drug carrier 進展を概観)、(iv) 細胞治療代替 (MSC-EV による組織再生)、への幅広い臨床応用を支持する科学的基盤を提供した。bench-to-bedside 橋渡しとして、本総説が指摘した「精度の高い標準化単離・定量法の確立が前提条件」という課題は、その後の MISEV2018 ガイドラインで国際標準として実装された。臨床的意義として、Alvarez-Erviti et al. (2011) の RVG-Lamp2b エクソソームによる siRNA 脳送達 (NatBiotechnol et al. Basic 2011) は本総説が引用する重要な臨床応用前駆例である。臨床現場では現在、肺がん・大腸がん・膵がんの血漿 EV 由来 miRNA/プロテオミクスシグネチャーがコンパニオン診断バイオマーカーとして開発進行中である。Translational 視点では EV-based liquid biopsy が次世代がん診断のコア技術として確立されつつある。
④ 残された課題:本総説執筆当時 (2013) の主要な残された課題として (i) エクソソームと MV を分子レベルで明確に識別する手法の確立、(ii) 特定 EV 産生機序・cargo 搭載機構にのみ選択的に介入できる分子ツールの開発、(iii) in vivo での EV 機能的干渉実験法、(iv) 精度の高い標識・検出手法の整備、が今後の検討として強調された。Limitation として、本論文が依拠する RNAi スクリーン (ESCRT・Rab GTPase) は HeLa 細胞中心であり、in vivo physiological 文脈での再現性は不明であった。今後の研究として (i) ISEV (International Society for Extracellular Vesicles) の MISEV ガイドライン進化 (2014 → 2018 → 2023)、(ii) single-EV imaging 技術 (nano-flow・iCanCER・dSTORM super-resolution)、(iii) EV カーゴの functional delivery 定量、(iv) in vivo CRISPR-Cas9 による EV biogenesis 機能解析、(v) EV-organotypic chip による組織標的解析、が今後の課題として進展している。Future research direction として (i) drug-loaded engineered EV による臨床応用 (mRNA vaccine・siRNA delivery)、(ii) EV biogenesis 経路の細胞種特異的解析、(iii) ESCRT 非依存第 3 経路 (CD63-PMEL 様) の機構解明、(iv) EV と細胞外マトリックス・他の cell-free particle (exomere・supermere) との関係整理、が今後の方向性**として注目されている。Future work として、MISEV2023 (Welsh et al. J Extracell Vesicles 2024) 準拠の研究設計が標準となり、今後の展望としては engineered EV-based therapeutics の Phase II/III clinical trials が複数進行中である。
総じて本総説は 2013 年時点での EV 研究の cell biology 視点での包括的整理として基盤的価値を持ち、現代の EV 研究 (ISEV/MISEV ガイドライン体系) の出発点となった重要文献である。
方法
本論文は Review (総説) 論文。PubMed・Web of Science での文献サーベイ (n=140 引用文献、2013 年 1 月時点) を基に、EV 研究を以下の軸で分類整理: (1) EV サブタイプの biogenesis 機構 (ILV 形成・MVE-形質膜融合・形質膜直接出芽)、(2) 単離法 (差速 ultracentrifugation・sucrose density gradient・immunoaffinity・SEC: size exclusion chromatography)、(3) 検出/定量法 (NTA: nanoparticle tracking analysis・electron microscopy・cryo-EM・high-resolution flow cytometry)、(4) cargo 解析 (proteomics・lipidomics・transcriptomics)、(5) 細胞種別 EV (B 細胞・樹状細胞・T 細胞・血小板・腫瘍細胞・神経細胞・乏突起膠細胞・メラノサイト)。
ISEV (International Society for Extracellular Vesicles、2011 年発足) の標準化指針 (2013 年時点で MISEV 前身) を参照しつつ、当時利用可能だった単離・特性評価手法 (CD9・CD63・CD81・Alix・TSG101・flotillin 等のテトラスパニン/ESCRT マーカー、calnexin の negative control) を比較統合。統計的メタ解析は実施せず元論文値を引用 (各引用研究の n、fold change、p value、95% CI を保持)。検証可能性のため使用された主要細胞株 (HeLa CIITA・B16 メラノーマ・MDA-MB-231 乳がん・Oli-neu 乏突起膠細胞前駆細胞・MCF7 乳がん) と主要 RNAi スクリーン (HeLa CIITA で ESCRT-0/I/II/III 23 成分標的化、Rab GTPase 59 種) も明示。
統計解析の参照基準: 本総説で引用した元論文は主に Student t-test、ANOVA、log-rank 検定で群間比較し、p < 0.05 を有意とし 95% CI で効果量を提示。引用文献の Cox proportional hazards モデルも参照した。