• 著者: Heikki Saari, Elisa Lazaro-Ibanez, Tapani Viitala, Elina Vuorimaa-Laukkanen, Pia Siljander, Marjo Yliperttula
  • Corresponding author: Marjo Yliperttula (University of Helsinki, Finland)
  • 雑誌: Journal of Controlled Release
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26390807

背景

細胞外小胞 (EVs: Extracellular Vesicles) は、細胞が分泌する脂質二重膜小胞であり、RNAやタンパク質などの多様な分子を細胞間で輸送することで、生理的および病理的な細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を担うことが知られている。EVsは、その生体適合性、多様なカーゴ輸送能力、および特定の細胞や組織を標的とする能力の組み合わせから、薬物送達システム (DDS: Drug Delivery System) の有望なキャリアとして注目されている。特に、がん細胞由来EVsは、自家がん細胞や腫瘍微小環境を標的とした化学療法薬の送達を可能にする可能性がある。

これまで、EVsを用いた薬物送達に関する研究は進展しており、例えば、siRNAをマウス脳に送達する試み (Zhuang et al. 2011) や、抗炎症薬を脳に送達する研究 (Alvarez et al. 2011) などが報告されている。特に、Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011 は、標的化エクソソームによるsiRNAの全身投与がマウス脳に到達しうることを示した。また、がん細胞由来マイクロベシクルが腫瘍増殖を促進するRNAやタンパク質を輸送することも Skog et al. NatCellBiol 2008 により示されている。しかし、EVsのサブポピュレーション(マイクロベシクルとエクソソーム)間での薬物送達効率の直接的な比較や、EV表面タンパク質が取り込みや細胞毒性に与える影響については、依然として検討が手薄であり、その役割は未解明な点が多い。特に、がん細胞由来EVsががん細胞の生存を促進する可能性も指摘されており (Qu et al. 2009)、薬物キャリアとしての臨床応用にはこれらの課題を克服する必要がある。

目的

本研究は、LNCaPおよびPC-3前立腺がん (PCa: Prostate Cancer) 細胞株から分離した20Kマイクロベシクル (MV: Microvesicle) と110Kエクソソーム (EXO: Exosome) をパクリタキセル (PtX: Paclitaxel) 運搬体として評価し、以下の3点を解明することを目的とした。(1) 自家EVの細胞内取り込みダイナミクスと表面タンパク質の寄与、(2) EVを介したPtX送達による細胞毒性増強効果、およびその用量依存性、(3) EV表面タンパク質がPtXの細胞内取り込みおよび細胞毒性に与える影響。

結果

EVの特性評価とサブポピュレーション間の差異: LNCaPおよびPC-3細胞から分離されたEVは、TEMおよびNTAにより特性評価された (Fig 1)。110K EXOsは主に直径200 nm未満の小胞であり、カップ状の形態を示した (Fig 1A)。一方、20K MVsはより不均一で、直径200 nmを超える多形性の小胞が多く含まれていた (Fig 1B)。NTAによる粒子サイズ分布は両サブポピュレーションで重複が見られた (Fig 1C-D)。タンパク質/粒子比を解析した結果、110K EXOsは20K MVsと比較して有意に高いタンパク質含有量を示した (p≤0.003) (Fig 1E)。具体的には、LNCaP 20K MVsで平均6.88×10⁻⁹ pg/particle、LNCaP 110K EXOsで平均2.7×10⁻⁸ pg/particle、PC-3 20K MVsで平均2.98×10⁻⁸ pg/particle、PC-3 110K EXOsで平均7.02×10⁻⁸ pg/particleであった。ウェスタンブロット解析では、両EVサブポピュレーションでテトラスパニンであるCD9、CD81、CD63、およびTSG101が陽性であり、α-TubulinおよびGAPDHも検出された (Fig 1F)。ゼータ電位は両サブポピュレーションともに約-11 mVであり、トリプシン処理によって110K EXOsのゼータ電位は平均8%減少し、20K MVsでは平均21%増加したが、統計的に有意な変化は一部の20K MVsで認められた (p=0.043) (Fig 2D)。トリプシン処理により表面タンパク質 (CD9, CD63) はほぼ完全に除去されたが、EV構造は維持された (Fig 2A-C)。

自家EVの細胞内取り込みと表面タンパク質の寄与: DilC18(5)-DSで標識した自家EVの細胞内取り込みは、フローサイトメトリーにより経時的に評価された (Fig 3)。LNCaPおよびPC-3細胞は、1~24時間にかけてEVを連続的に取り込み、その取り込みは48時間まで持続した (Fig 3A)。両細胞株間で取り込み効率に有意な差は認められなかった。トリプシン処理EVの取り込みを比較したところ、110K EXOsの取り込みには有意な影響がなかったが、20K MVsの取り込みは明確に低下した (Fig 3B)。この結果は、20K MVsの取り込みには表面タンパク質が部分的に関与している可能性を示唆する。

EV単体によるがん細胞生存率の増加: 未搭載EVをLNCaPおよびPC-3細胞に投与したところ、24時間および48時間で細胞生存率が用量依存的に上昇することが明らかになった (Fig 4A-D)。PC-3細胞では、110K EXOsが20K MVsよりも強い生存率増強効果を示し、特に48時間で顕著であった (Fig 4C-D)。LNCaP細胞でも同様の傾向が観察された (Fig 4A-B)。この生存率増加効果は、EV濃度に依存することが示された。

PtX-EVによる細胞毒性の増強と飽和点: PtXのEVへのローディング効率は平均9.2% (SD ±4.5%) であり、最終的なPtX-EV調製物中のPtX濃度は平均0.46 µMであった (Table 1)。UPLCによるPtX漏出試験では、37℃で24時間および48時間インキュベート後も、PtXの検出可能な漏出は認められなかった。PC-3細胞における遊離PtXの用量依存的な細胞毒性は、50 nM以上の濃度で24時間後に約41.3% (SE ±3.16, p=3.6×10⁻¹⁰)、48時間後に約63.5% (SE ±1.54, p<10⁻¹⁵) の生存率低下を示した (Fig 5A)。PtX-EVsの細胞毒性飽和点は約10⁹ particles/mLに位置し、この濃度以上では最大の細胞毒性効果が観察された (Fig 5B-C)。低EV濃度(10⁸ EVs/mL)で高薬剤/小胞比(5 nmol PtX/10⁸ vesicles)でローディングしたPtX-EVsは、48時間で遊離5 µM PtXを上回る細胞毒性を示し、特にPC-3 PtX-20K MVsで顕著であった (Fig 5D)。この増強された細胞毒性効果は72時間まで持続し、培地交換後も維持された。トリプシン処理したPtX-110K EXOsは元の細胞毒性をほぼ維持したが、PtX-20K MVsは低濃度域でトリプシン処理により細胞毒性が低下した (10⁷ MVs/mLでp=1.03×10⁻⁸) (Fig 5E-F)。

PtX-EVの取り込み経路と細胞内挙動: DiO標識EVとLysoTracker Redを用いた共焦点顕微鏡解析により、EVはエンドソーム/リソソームなどの酸性オルガネラと共局在することが示された (Fig 6A-B)。これは、EVがエンドサイトーシス経路を介して細胞内に取り込まれることを示唆する。OG-PtXとDiD-EVによる二重標識実験では、PtX-EVはエンドサイトーシス経路で細胞内に内在化し、細胞質内でPtXがEVから解離して拡散し、微小管に結合することが観察された (Fig 7A-B)。遊離PtXと比較して、EVを介して送達されたPtXによる微小管の染色強度は弱かった。

考察/結論

① 先行研究との違い: 本研究の主要な知見は、自家がん細胞由来EVsがパクリタキセル (PtX) の細胞毒性効果をin vitroで増強できることを示した点である。PtXのEVによる送達はTang et al. 2012やYang et al. 2015などによって既に報告されているが、本研究は、標準的な差分超遠心法で分離された2つの主要なEVサブポピュレーション(20K MVと110K EXO)を薬物キャリアとして比較した点で新規な知見を提供する。これまで、Zhuang et al. 2011が10,000×gで分離されたMVがEXOよりもマウス脳への蓄積効率が低いことを示しているが、薬物送達効率の直接的な比較は不足していた。本研究では、両サブポピュレーションがPtXの細胞毒性増強にほぼ同等に有効であることを示しており、既存の知見と異なり、サブポピュレーション間の大きな差は認められなかった。

② 新規性: 本研究で初めて、PtX-EVsの細胞毒性がPtXおよびEVの用量に依存すること、そして細胞毒性の飽和点が存在することを明らかにした。特に、低EV濃度で高薬剤/小胞比の条件が最大の細胞毒性効果を生み出すという新規な知見を得た。これは、EVを薬物キャリアとして最適化する上で重要な設計原則となる。また、EV表面タンパク質の除去が110K EXOsの取り込みや細胞毒性にほとんど影響しない一方で、20K MVsの取り込みと細胞毒性には部分的に関与することを示した点も新規な発見である。これは、EVを介した薬物送達の核心が、表面タンパク質よりも脂質二重膜とエンドサイトーシス経路を介した細胞質への薬剤放出にある可能性を示唆する。

③ 臨床応用: 自家がん細胞由来EVsは、その親細胞と同じ表面受容体を持つことが示唆されており、腫瘍組織への特異的なターゲティングを可能にする点で臨床応用への大きな可能性を秘めている。これにより、化学療法薬の副作用を最小限に抑えつつ、抗腫瘍効果を維持できる可能性がある。しかし、本研究で明らかになったように、未搭載EVががん細胞の生存率を増加させるという懸念点が存在する。この効果は特に110K EXOsで顕著であり、臨床現場での使用には、十分量の薬剤を搭載することでこの生存率増強効果を打ち消す必要がある。PtXが微小管だけでなく、アポトーシス調節因子であるBcl-2にも結合することから、EVがPtXをBcl-2の近傍に送達することで細胞毒性を増強する可能性も考えられ、これは臨床的意義を持つ。

④ 残された課題: 本研究はin vitroでの概念実証に留まっており、臨床応用には多くの残された課題がある。まず、in vivoモデルでのPtX-EVsの薬物動態、腫瘍ターゲティング効率、および免疫学的影響を詳細に検証する必要がある。また、マクロファージによるEVのクリアランス (Imai et al. 2015) や、非がん細胞由来EVが腫瘍増殖を抑制する可能性 (Kosaka et al. 2012) も考慮し、最適なEVソースの選択が今後の検討課題となる。さらに、EVの薬物ローディング効率の向上や、未搭載EVによる細胞生存率増強効果を克服するための戦略開発も不可欠である。これらの課題を解決することで、自家がん細胞由来EVを用いた個別化医療への道が開かれると考えられる。

方法

LNCaPおよびPC-3前立腺がん細胞株の培養上清から、差分超遠心法により2,500×gで細胞残渣を除去後、20,000×gで60分間遠心して20K MV画分を、さらに110,000×gで1時間超遠心して110K EXO画分を分離した。この分離方法は Lazaro et al. Prostate 2014 の報告に基づいている。分離したEVは、透過型電子顕微鏡 (TEM: Transmission Electron Microscopy) およびクライオ電子顕微鏡 (Cryo-EM: Cryo-Electron Microscopy)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis)、ウェスタンブロット (CD9, CD81, CD63, TSG101, α-Tubulin, GAPDH)、およびゼータ電位 (ZP: Zeta Potential) 測定により特性評価を行った。

PtXのローディングは、5 µM PtX溶液中でEVを1時間インキュベートすることで行い、ローディング量は超高速液体クロマトグラフィー (UPLC: Ultra-Performance Liquid Chromatography) で定量した。細胞毒性評価には、AlamarBlue生存率アッセイを24、48、72時間で実施した。EVの細胞内取り込みおよび細胞内動態は、DiD/DiO/OG-PtX蛍光標識と共焦点顕微鏡を用いて解析した。EV表面タンパク質の役割を評価するため、一部のEVサンプルは0.25% (w/v) トリプシン処理を行い、その後の取り込み効率や細胞毒性を比較した。統計解析には、一元配置分散分析 (ANOVA) およびt検定を用いた。