- 著者: Elisa Lázaro-Ibáñez, Andres Sanz-Garcia, Tapio Visakorpi, Carmen Escobedo-Lucea, Pia Siljander, Angel Ayuso-Sacido, Marjo Yliperttula
- Corresponding author: Marjo Yliperttula (marjo.yliperttula@helsinki.fi, University of Helsinki, Finland); Angel Ayuso-Sacido (ayusosacido@fundacionhm.com, Fundacion HM Hospitales, Spain)
- 雑誌: The Prostate
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-08-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 25111183
背景
細胞外小胞 (EV) は、細胞から放出される膜小胞の不均一な集団であり、細胞間コミュニケーションや疾患の進行において重要な役割を果たすことが知られている Valadi et al. NatCellBiol 2007。EVは、miRNAや長鎖RNAなどの様々なRNAを内包し、診断バイオマーカーとしての可能性が広く研究されてきた。しかし、EVがゲノムDNA (gDNA) を内包するかどうか、またEVサブタイプ (アポトーシス小体、マイクロベシクル、エクソソーム) によって異なるgDNA断片や変異パターンを示すかについては、これまで系統的な報告が不足していた。がん患者の血漿中に存在する「循環腫瘍DNA (ctDNA)」は、液体生検バイオマーカーとして大きな注目を集めているが、EV内gDNAがctDNAのどの程度を占めるのか、またがん特異的な変異情報を担うのかは重要な未解明の課題であった。EVが親細胞由来のがん変異を保持しているならば、血漿EVのgDNA解析はctDNA検出の代替または補完的な手段となりうる。
EVの分類と命名は依然として明確に定義されておらず、現在の精製技術では、最も純粋なEVサンプルでさえ不均一な集団として分離されることが多い Bobrie et al. JExtracellVesicles 2012。一般的に、EVはサイズ、形成メカニズム、内容物の違いに基づいて、アポトーシス小体 (AB)、マイクロベシクル (MV)、エクソソーム (EXO) の3つの主要なクラスに分類される。ABは1〜4 μmの範囲の最大のEVであり、アポトーシスの後期にすべての細胞型から放出され、死滅細胞の核物質を含有し、がん遺伝子の水平伝達に関与しうることが知られている。MVは0.2〜1.0 μmのサイズで、細胞膜の出芽によって形成される。EXOは直径40〜100 nmの最小の膜小胞であり、多胞体から分泌される。
がん細胞の腫瘍性変化は、分泌されるEVの数と、腫瘍関連分子のEVカーゴへの取り込みの両方に影響を与えることが報告されている Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008。EVが体液中に放出されることと、がんマーカーを含有することから、非侵襲的バイオマーカーとしての利用可能性が示唆されている。これまでに、前立腺がん患者の尿中エクソソーム (EXO) からPCA3およびTMPRSS2-ERG遺伝子のmRNAが発見されている。また、精液由来のEXOであるプロスタソームが染色体DNAを含有することも報告されている。さらに、腫瘍抑制因子PTENのEXOを介した転移が、受容細胞に腫瘍抑制活性を付与することも最近証明された。mRNAやmicroRNAがEVに濃縮されていることは、核酸が選択的にEVにパッケージングされる可能性を示唆するが、カーゴがランダムにEVにパッケージングされるのか、あるいは異なるEVサブポピュレーション間で選別されるのかは、依然として未解明のギャップが残されている。本研究は、この知識の不足を埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、前立腺がん細胞株 (LNCaP、PC-3、RC92a/hTERT) から分離した3種類のEVサブポピュレーション (アポトーシス小体: AB、マイクロベシクル: MV、エクソソーム: EXO) が、異なるgDNA断片を含有するかどうか、また細胞株特異的な変異を保持するかどうかを比較することである。さらに、前立腺がん患者および健常ドナーの血漿から分離したEVサブポピュレーションのgDNA含有量を解析し、EVが液体生検におけるがん診断・予後マーカーとして応用可能であるかを検討することを目的とした。具体的には、MLH1、PTEN、TP53といった遺伝子のgDNA断片の存在と、LNCaP細胞で既報のPTENおよびTP53の変異がEVサブポピュレーションに搭載されているかを検証する。本研究は、EVサブタイプ間のgDNA含有量の差異を包括的に評価し、EVが親細胞の変異情報を忠実に保持するかという重要な問いに答えることを目指した。
結果
EVサブタイプ間のgDNA含有量の差異と細胞株依存性: MLH1 (108 bp) は、LNCaP、PC-3、RC92a/hTERTのすべての細胞株由来のABおよびMVで検出されたが、RC92a/hTERT由来のEXOでは検出されなかった (Fig. 4A, B)。より長い断片であるPTEN (225 bp) とTP53 (316 bp) は、細胞株およびEV種依存的に異なるパターンで検出された。例えば、LNCaP由来のEXOではMLH1は不検出であったがPTEN断片は検出された。PC-3由来のEVでは、AB、MV、EXOのいずれでもMLH1が検出されたが、PTENとTP53はABとMVに限定された。これらの結果は、gDNAのEVへの搭載がランダムではなく、細胞種およびEVサブタイプに依存的であることを示す初の系統的実験的証拠である。LNCaP細胞で既報のMLH1のI219V変異 (コドン655 A→G) は、LNCaP由来EV内では確認されなかった。なお、各細胞株のMVおよびEXOの粒子濃度は、MVで1.36〜2.52×10⁸ particles/ml/10⁶ cells、EXOで0.56〜1.93×10⁸ particles/ml/10⁶ cellsの範囲であり、細胞株間の差は統計的有意差に達しなかった (Fig. 2A)。
PTEN変異のEV内gDNAへの選択的搭載: LNCaP由来のABとEXOからPTEN断片 (225 bp) を回収し、Sanger配列解析を行ったところ、コドン6にフレームシフト変異 (delAA、K6fs*4) が確認された (Fig. 4C)。この変異はLNCaP細胞で既報の変異と一致し、EV搭載gDNAが親細胞の腫瘍変異情報を忠実に保持することの初の直接的証拠となった。qPCRによる相対定量では、LNCaP ABのPTEN gDNA相対比はGAPDH比で有意な値を示し、MVとEXOのパターンはサブタイプ間で異なった (Fig. 4A)。一方、PC-3やRC92a/hTERT由来のEVではPTEN変異は確認されず (これらの細胞株ではPTEN変異は既報で存在しない)、細胞株特異的なEV搭載を裏付けた。
TP53多型のアポトーシス小体への選択的搭載: LNCaP ABからTP53断片 (316 bp) が増幅され、Sanger配列解析でコドン215 (CCC→CGC) のP72R多型が確認された (Fig. 4C)。この多型もLNCaP細胞で既報であり、ABが大型の核内容物を選択的に取り込む性質と一致する。ABのサイズは1〜4 μmであり、MVのNTA中央径164〜228 nm、EXOの54〜164 nmと比較して桁違いに大きく、核内容物や長いgDNA断片の収容に構造的に有利である。MVやEXOでは316 bp産物の増幅効率が低く、長いgDNA断片はABに優先的に搭載される傾向が示された (Fig. 4A, B)。
がん患者血漿EV濃度の有意な増加と血漿gDNA検出: NTAによる総EV数定量において、前立腺がん患者血漿 (n=8 events) のEV濃度は健常ドナー (n=8 donors) と比較して有意に高値であった (p=0.018、Student t検定) (Fig. 2C)。MVおよびEXO単独では患者・健常人間の有意差は認められなかったが、全EV合計では有意差が確認された。患者の血漿ABからBioanalyzerで10 bp〜10,380 bpに渡るgDNA断片が確認され、EVが血漿内でも二本鎖gDNAを保持することが示された (Fig. 5)。ただし、患者数が各4名と少なく、LNCaP特異的なPTEN/TP53変異は患者サンプルでは検出されなかった。タンパク質含量については、血漿EV (MV・EXO) では患者と健常人の間に有意差はなかった (Fig. 3C)。LNCaP MVとEXOのタンパク質含量比較では、MV (10 μg/10⁶ cells) がEXO (3 μg/10⁶ cells) の約3倍であり有意差があった (p=0.035)。細胞株間でもEXOタンパク質含量に有意差が認められた (PC-3 vs RC92a/hTERT: p=0.001、LNCaP vs PC-3: p=0.034)。MV間でもLNCaP vs PC-3 (p=3.50×10⁻⁴)、LNCaP vs RC92a/hTERT (p=1.40×10⁻⁵)、PC-3 vs RC92a/hTERT (p=0.0036) で有意差が確認された (Fig. 3A)。EV濃度とタンパク質含量の相関は、LNCaP (R²=0.905) とRC92a/hTERT (R²=0.623) で高く、PC-3では低かった (R²=0.113) (Fig. 3D)。
考察/結論
新規性: 本研究は、前立腺がん細胞株由来のEVサブポピュレーション (AB、MV、EXO) が二本鎖gDNAを含有し、そのgDNA含有量と変異パターンが細胞株およびEVサブタイプ依存的に異なることを初めて系統的に実証した。特に、LNCaP由来ABとEXOにおけるPTEN K6fs*4変異の確認は、EV搭載gDNAが親腫瘍細胞の体細胞変異を忠実に反映することの概念実証である。本研究で初めて、EVの分子内容が細胞源と特定の小胞サブタイプに依存することを示した。
先行研究との違い: 膵がん患者血清エクソソームでKRASおよびp53変異gDNAが報告されていたが (Kahlert et al. JBiolChem 2014)、前立腺がんEVサブタイプ間の系統的比較は本研究が初めてである点で、これまでの研究とは異なるアプローチである。アポトーシス小体が最大のEVとして核内容物を豊富に取り込むこと (TP53 316 bp断片の優先的搭載)、一方エクソソームでも変異gDNAが確認されたことは、これらを液体生検ツールとして相補的に利用する根拠を与える。
臨床応用: がん患者血漿EV濃度の有意な増加 (p=0.018) は、他のがん種での報告 (Skog et al. NatCellBiol 2008) とも一致し、EVが循環腫瘍バイオマーカーとして機能しうることを示唆する。この臨床的意義は大きく、EVががんの非侵襲的診断やモニタリングに利用できる可能性を秘めている。DNAはRNAよりも本質的に安定しているため、ゲノム変異の解析は、動的な変化を捉えるためのより堅牢で高感度なマーカーとなりうる。EVは、前転移ニッチ形成や腫瘍転移にも寄与しうるEV保護された循環DNAとして、身体中を移動する可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) WGAによる増幅バイアスをddPCRや次世代シーケンシングで回避すること、(2) より高感度な変異検出法 (アレル特異的PCR等) の適用、(3) 患者コホートの大幅な拡大と臨床パラメータ (Gleason score、PSA、転移の有無) との相関解析、(4) 腫瘍EVサブポピュレーションの血漿からの選択的富化法の確立が求められる。特に、患者血漿 (n=4) と健常ドナー (n=4) という小規模コホートは本研究の主要なlimitationであり、LNCaP特異的変異が患者サンプルで検出されなかった原因として、患者由来EV内のがん細胞由来変異gDNAが健常人由来EVプール中に希釈されている可能性が考えられる。本研究は、EV-gDNAをcfDNA・ctDNAと並ぶ相補的な液体生検ツールとして位置づけ、前立腺がんの非侵襲的診断・モニタリングへの応用基盤を提供した。
方法
LNCaP、PC-3、RC92a/hTERTの3種類の前立腺がん細胞株を培養し、80%コンフルエンスに達した時点でEV分離に供した。LNCaP細胞はRPMI 1640培地、PC-3細胞はDMEM/F12培地、RC92a/hTERT細胞はKeratinocyte血清フリー培地で培養した。すべての培地には10%のEV除去済みFBSまたはウシ下垂体抽出物と組換え上皮成長因子を添加した。細胞培養上清 (300 mL、1.8-2 × 10⁸ cells由来) および前立腺がん患者4名 (Gleason score 6-8、PSA 7-26.6 ng/ml) と健常男性ドナー4名の血漿サンプル (2 mL) から、差次超遠心法によりEVサブポピュレーションを分離した。まず、1,000×gで10分間遠心分離して細胞デブリを除去した。次に、1,200×gで30分間遠心分離してアポトーシス小体 (AB) を回収した。その上清を20,000×gで60分間遠心分離してマイクロベシクル (MV) を回収した。残りの上清は0.22 μmフィルターでろ過後、110,000×gで60分間超遠心分離してエクソソーム (EXO) を回収した。すべての遠心分離は4°Cで行われた。最終ペレットは100 μlのDPBSに再懸濁した。
EVの形態学的特性評価とサイズ分布解析には、透過型電子顕微鏡 (TEM) とナノ粒子トラッキング解析 (NTA) を用いた。TEMによりAB (1-4 μm)、MV (0.2-1 μm)、EXO (40-100 nm) の形態とサイズを確認した。NTA (Nanosight Technology LM10) によりMVおよびEXOのサイズ分布と粒子濃度を測定した。ABはNTAの検出限界外であったため測定できなかった。総タンパク質含量はMicroBCAタンパク質アッセイキット (Thermo Scientific) を用いて定量した。
DNA分離に先立ち、EVサンプルはRNase A (100 μg/ml、2分間室温) およびDNase I (27 Kunitz U/ml、30分間37°C) で処理し、外部核酸汚染を除去した。酵素はRiboLock RNase Inhibitorと熱処理で不活性化した。DNAはDNeasy Blood and Tissue Kit (Qiagen) を用いて抽出した。抽出されたDNAはGenomePlex Complete WGA2 Kit (Sigma-Aldrich) で全ゲノム増幅 (WGA) を行い、10 ng/μlの作業溶液に希釈した。DNAの濃度と品質はSPECTROstar Nanoおよび2100 Bioanalyzer (Agilent) で評価した。
gDNA特異的PCR解析は、イントロン-エクソン境界を跨ぐように設計されたプライマー (Table II) を用いて実施した。MLH1 (108 bp)、PTEN (225 bp)、TP53 (316 bp)、および内部標準としてGAPDH (101 bp) の断片を増幅した。PCR産物は1%アガロースゲル電気泳動で確認し、Sangerシーケンスにより変異解析を行った。リアルタイム定量的PCR (qPCR) はLightcycler 480 (Roche Diagnostics) を使用し、Fast SYBR Green Master Mix (Applied Biosystems) で実施した。GAPDHをリファレンス遺伝子として、MLH1、PTEN、TP53のgDNA断片の相対定量を行った。統計解析にはR v3.0.2を使用し、Student t検定またはWilcoxon signed ranked検定を適用した。p<0.05を有意差ありと判断した。