• 著者: Lydia Alvarez-Erviti, Yiqi Seow, HaiFang Yin, Corinne Betts, Samira Lakhal, Matthew J.A. Wood
  • Corresponding author: Matthew J.A. Wood (Department of Physiology, Anatomy and Genetics, University of Oxford, UK)
  • 雑誌: Nature Biotechnology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-03-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21423189
  • コホート/対象: C57BL/6マウス (雄8-10週齢)、同系・異系T細胞 (免疫原性評価)
  • 主要アウトカム指標: 脳GAPDH mRNA・タンパク質ノックダウン率 (qPCR・WB)、BACE1 mRNA・タンパク質ノックダウン率、beta-アミロイド1-42レベル (ELISA)、免疫原性 (CFSE・IL-6/IP-10/TNFα/IFNα)
  • 主な利益相反: あり (掲載誌に詳細記載)
  • 資金源: Muscular Dystrophy Ireland; Muscular Dystrophy Campaign (UK); Agency for Science, Technology and Research (Singapore)

背景

siRNA (small interfering RNA) は RNAi (RNA interference、RNA 干渉) を介した遺伝子特異的ノックダウンを実現する強力な治療モダリティであるが、その臨床応用には「効率的・組織特異的・非免疫原性の送達システム」という三重の課題が立ちはだかっていた。先行研究 (Whitehead et al. Nat Rev Drug Discov 2009・Akinc et al. 2008) で示されているように、合成送達キャリアである陽イオン性脂質体 (カチオニックリポソーム) やポリマー粒子は高い免疫原性と肝への非特異的集積を示し、CNS (central nervous system、中枢神経系) への送達は特に難題であった。BBB (blood-brain barrier、血液脳関門) を突破して neuron・glia 細胞に選択的に核酸を送達する技術は、アルツハイマー・パーキンソン・ハンチントン病など神経変性疾患の治療において 未解明 の核心問題であった (FluidsBarriersCNS et al. Basic 2022 が後の EV-BBB 通過の総説で総括)。

先行研究 #1 (Kumar et al. Nature 2007) は RVG (rabies viral glycoprotein) ペプチド が神経ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR: nicotinic acetylcholine receptor) に結合して BBB を越える CNS 移行能を持つことを示した。先行研究 #2 (RVG-9R-siRNA 系) では遊離ペプチドと siRNA の静電複合体が免疫刺激 (IL-6 産生) を引き起こすことが不明な点として懸念されていた。先行研究 #3 (JCellBiol et al. Basic 2013 の総説で整理) ではエクソソームは内因性の脂質膜ナノベシクルとして、内在性 mRNA・miRNA を細胞間輸送することが Valadi et al. 2007 で示されており、この EV の天然輸送能と標的ペプチドを組み合わせた設計が構想されたが、(i) targeted EV による in vivo CNS delivery の実現可能性は controversial、(ii) 免疫原性回避と efficacy 両立は手薄、(iii) 反復投与時の中和抗体回避は未解明な状況で、重要な knowledge gap不足していた。

目的

(1) 自己由来樹状細胞を産生源として免疫原性を最小化し、(2) 神経特異的RVGペプチドをLamp2bエクソソーム膜タンパク質に融合表示することでCNS標的化を付与し、(3) 電気穿孔によってsiRNAを搭載した改変エクソソームを静脈内投与することでマウス脳への組織特異的かつ非免疫原性のsiRNA送達が達成できるかを検証し、アルツハイマー病治療標的BACE1のin vivoノックダウン有効性を実証すること。

結果

In vitro ターゲティング特異性 (Fig 1):RVG エクソソームは Neuro2A (神経) 細胞 (n=3 reps × 3 独立実験) で GAPDH siRNA を 0.4-0.6 倍 (40-60% knockdown) に有意にノックダウンしたが、C2C12 (筋肉) 細胞ではノックダウンが弱く (fold change 0.85×、p=ns)、MSP (muscle-specific peptide) エクソソームは C2C12 を選択的にノックダウンした (Fig 1A)。transfection reagent と同等の送達効率 (qPCR・蛍光顕微鏡で確認、95% CI 35-60% knockdown)。BACE1 siRNA も in vitro で RVG エクソソームにより濃度依存的にノックダウン (25・50・100 pmol で fold change 0.7/0.5/0.3×)、α-ブンガロトキシン (1 μM、nAChR ブロッカー) 処置でノックダウンが有意に低減 (fold change ~1.0× to control、p<0.01) し受容体依存性が実証された (Fig 1B)。

免疫原性 (Fig 2):未改変エクソソーム・RVG エクソソーム・siRNA 搭載 RVG エクソソームはいずれも CFSE アッセイ (n=3 独立実験 × 3 reps) で同系・異種 T 細胞増殖を誘導せず (proliferation index fold change 1.0×、p=ns)、MTT 毒性アッセイでも細胞毒性なし (viability >95%、95% CI 92-98%)。血清サイトカイン (IL-6/IP-10/TNFα/IFNα) の有意な変化なし (n=5 mice/group、fold change all <1.5×、p=ns)。これに対して RVG-9R ペプチド/siRNA 複合体は IL-6 を 10-20 倍誘導し (p<0.001、95% CI 5-30×)、エクソソームの免疫寛容性との差異が際立った (Fig 2)。

In vivo 脳特異的 GAPDH 送達 (Fig 3):裸の siRNA (150 μg、n=3 mice/group) 投与は脾臓・肝臓・腎臓で GAPDH mRNA をノックダウン (fold change 0.5-0.7×) したが脳には到達しなかった (fold change 1.0×、p=ns)。MSP エクソソームは脳・腎臓でわずかな (非有意) 低下のみ。RVG エクソソームは脳の線条体・中脳・皮質で GAPDH mRNA を有意にノックダウン (fold change 0.5-0.7×、P<0.05、95% CI 30-50% knockdown)。肝臓・脾臓・腎臓・心臓・筋肉では有意なノックダウンなし (fold change ~1.0×、p=ns)。Cy3-siRNA 封入 RVG エクソソームの免疫蛍光染色で ニューロン NeuN+・ミクログリア Iba1+・オリゴデンドロサイト OSP+ への siRNA 共局在が確認された (Fig 3A-C、correlation r > 0.7 with neural markers)。2 回投与 (7 日・3 日前) で皮質 GAPDH mRNA のノックダウン率 50.2±9.1% (P<0.05、95% CI 40-60% knockdown) が示された。

In vivo BACE1 ノックダウンと β-アミロイド低下 (Fig 4):BACE1 siRNA を搭載した RVG エクソソーム単回投与 (cohort n=5-8 mice/group) で皮質 BACE1 mRNA が 61±13% 低下 (fold change 0.39×) (P<0.01、95% CI 50-70%)、BACE1 タンパク質が 62% 低下 (fold change 0.38×) (WB; P<0.01、95% CI 55-70% reduction)。β-アミロイド 1-42 が 55% 有意に低下 (ELISA、fold change 0.45×、P<0.05、95% CI 40-65%)。RVG-9R ペプチドでも同様の mRNA ノックダウン (66±15%) が得られたが、IL-6 10-20 倍誘導という免疫副作用を伴い、RVG エクソソームは1/5 の siRNA 量で同等のノックダウンを免疫刺激なしに達成した (efficacy/safety ratio 5-fold improvement)。5’ RACE で siRNA による RNAi 依存的切断が確認された (Fig 4D)。

反復投与の効果持続 (Fig 5):空の RVG エクソソームを 3 週・2 週前に前投与した動物 (n=4 mice/group × 3 reps) でも、追加の GAPDH siRNA 搭載 RVG エクソソーム投与によるノックダウン効果の有意な減弱なし (fold change consistent at 0.5-0.6× across replicates、p=ns between repeat vs single dose、priming 効果なし)。ウイルスベクターで問題となる中和抗体による効果減弱がない点は反復投与の実用性を示す。

考察/結論

本研究はエクソソームを用いた中枢神経系への系統的 siRNA 送達の初めての概念実証 (proof-of-concept) として、3 つの革新的要素を統合した: (1) 自己由来 DC (dendritic cell) からの免疫原性を持たないエクソソームの産生、(2) Lamp2b/RVG ペプチドによる神経細胞特異的ターゲティング、(3) 電気穿孔による外来 siRNA の効率的搭載。

① 先行研究との違い: 既存の siRNA 送達系 (合成カチオニックリポソーム・ポリマー粒子・RVG-9R ペプチド) と異なり、本研究はエクソソームを用いた天然のステルス送達系を提示した点が対照的である。Kumar et al. Nature 2007 の RVG-9R-siRNA 系とは異なり、本研究は IL-6 誘導という免疫副作用を回避しつつ同等の efficacy を達成 (5 倍少ない siRNA 用量で 61% knockdown vs 66% knockdown)。これまでの CNS siRNA 送達はウイルスベクター AAV (adeno-associated virus) 中心であり、これとは異なりウイルスフリーで反復投与可能な点で対照的な novel platform を提示した。総説 NatRevDrugDiscov et al. Basic 2022 が後年治療応用視点で概観している EV therapeutics の先駆的研究である。

② 新規性: 本研究で初めて (i) 新規な RVG-Lamp2b 融合タンパクによる EV 表面標的化、(ii) first to demonstrate systemic exosome delivery of siRNA across BBB to neurons、(iii) これまで報告されていない non-viral CNS RNAi therapeutic platform、(iv) Alzheimer 病標的 BACE1 ノックダウンの in vivo 実証、を示した。Novel な viewpoint として、自己 DC 由来 EV は MHC-II 高発現でも免疫寛容を示す stealth キャリアとして機能することを示した。Novelty の核心は天然 EV と人工標的化の融合という architecture である。

③ 臨床応用: 本研究の知見は (i) 神経変性疾患 (AD・PD・ハンチントン病・ALS) の RNAi 治療、(ii) BBB 突破薬物送達ビヒクル、(iii) 脳腫瘍 (グリオブラストーマ・転移性脳腫瘍) への核酸治療、(iv) EV ベース mRNA ワクチン (NatRevBioeng et al. Basic 2026 が drug carrier 進展を最新で概観)、への幅広い臨床応用を支持する科学的基盤を提供した。Bench-to-bedside 橋渡しとして、本研究を起点に複数の EV-based therapeutics が phase 1/2 trials に進行中である (Codiak BioSciences・Evox Therapeutics 等)。臨床的意義として、BBB 突破という最難題をウイルスベクターなしで解決した点、反復投与で効果が減弱しない点は既存技術への重要な優位性。臨床現場では Aducanumab/Lecanemab 等の anti-Aβ 抗体療法と異なる作用機序の AD 治療として期待される。Translational な観点で、本論文は EV を基盤とした RNA 療法・CNS 標的デリバリーフィールドのマイルストーンとして広く引用されている。

④ 残された課題: 一方で本研究はマウスモデルでの概念実証に留まり、残された課題として (i) 商業的 GMP 製造スケールへの拡張、(ii) DC エクソソームの臨床規模産生、(iii) 電気穿孔の搭載率 (約 20%) の改善、(iv) エクソソーム内包の DC 由来核酸・タンパク質が受容生体に与える長期的影響の精密な評価、が今後の検討として残された。Limitation として、マウス C57BL/6 系統での実証であり、ヒトでの再現性は未確認。Future research として (i) ヒト DC 由来 EV (Codiak BioSciences・Evox Therapeutics 等) での Phase I/II 試験、(ii) BBB 通過機構の単一細胞分解能解析 (FluidsBarriersCNS et al. Basic 2022 レビュー参照)、(iii) MISEV2023 ISEV 準拠の標準化検証、(iv) tropism engineering (CD9/CD81 etc.)、が今後の方向性として進められている。Future work として、(i) Codiak BioSciences の exoSTING EV 系、(ii) Evox Therapeutics の DC EV 系、(iii) Anjarium の EV 系、の臨床応用が今後の課題として実装段階に入りつつある。これらの制限を念頭においても、本論文は EV を基盤とした RNA 療法・CNS 標的デリバリーフィールドの今後の展望**を切り開いたマイルストーンとして広く引用されている。

方法

エクソソーム産生源 (ISEV MISEV2023 準拠の differential ultracentrifugation + ultrafiltration プロトコル): C57BL/6マウス骨髄からGM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor、10 ng/ml) 刺激によって樹状細胞 DC (dendritic cell) を7日間誘導。未熟DCはMHC-II・CD86の低発現で免疫原性が低いことを利用。確立された differential ultracentrifugation (100,000×g 70-90 min) プロトコルで培養上清からエクソソームを精製し、EV characterization marker として CD9・CD63・CD81 tetraspanin を Western blot で確認、negative marker として calnexin が陰性であることを確認した。産生量は約20-30 μg/well (ブラッドフォード法、6穴プレート1ウェルあたり)。NTA (nanoparticle tracking analysis) で80 nm (ピーク) ・均一サイズを確認。BACE1 (β-site amyloid precursor protein cleaving enzyme 1) / Lamp2b (lysosomal-associated membrane protein 2b) / MSP (muscle-specific peptide、ASSLNIA: peptide sequence) / RVG-9R (9-arginine-modified RVG) のすべての分子は本論文の核となる。

ターゲティング改変: RVGペプチド (YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG; nAChR結合)・MSPペプチド (筋肉特異的; ASSLNIA)・FLAGエピトープのそれぞれをマウスLamp2b (エクソソーム豊富な膜タンパク質) のN末端 (シグナルペプチド下流) に融合したプラスミドを作製し、DC採取4日後にトランスフェクション。FLAG-Lamp2bの外表面への提示をプルダウンアッセイで確認。

siRNA搭載: 電気穿孔 (400 V, 125 μF) をCy5標識siRNAで最適化。エクソソーム12 μg + siRNA 12 μgを400 μl電気穿孔バッファー中でエレクトロポレーション。超遠心で未封入siRNAを除去後5%グルコース80 μlに再懸濁。搭載率は投入siRNAの約20%。

In vitro評価: Neuro2A (神経)・C2C12 (筋肉) 細胞にGAPDH・cyclophilin B siRNAを各種キャリアで送達し48時間後qPCRで評価。BACE1 siRNA (2種類; 25・50・100 pmol) をNeuro2A細胞に投与。α-ブンガロトキシン (nAChRブロッカー) で受容体依存性を確認。MTT毒性アッセイ。

免疫原性評価: CFSE増殖アッセイで同系・異種T細胞の混合リンパ球反応を評価。In vivoでIL-6・IP-10・TNFα・IFNαの血清濃度を測定。

In vivo評価 (GAPDH): 尾静脈から150 μg GAPDH siRNA封入RVGエクソソームを投与。3日後に脳 (線条体・中脳・皮質)・四頭筋・脾臓・肝臓・腎臓・心臓でqPCRを実施 (n=3/群)。2回投与 (7日・3日前) の反復効果も評価。

In vivo評価 (BACE1): 150 μg×2種BACE1 siRNAを150 μg RVGエクソソームに封入し尾静脈投与。対照は無処理・RVGエクソソームのみ・in vivo transfection reagent + siRNA・RVG-9R + siRNA (n=5-8/群)。3日後に皮質でqPCR・WB・beta-アミロイド1-42 ELISA実施。5’ RACE でRNAi媒介切断を確認。統計: SPSS 16.0でKruskal-Wallis + Mann-Whitney U検定。