• 著者: Elisa Lázaro-Ibáñez, Cecilia Lässer, Ganesh Vilas Shelke, Rossella Crescitelli, Su Chul Jang, Aleksander Cvjetkovic, Anaís García-Rodríguez, Jan Lötvall
  • Corresponding author: Elisa Lázaro-Ibáñez; Jan Lötvall (Krefting Research Centre, University of Gothenburg, Göteborg, Sweden)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-08-27
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31497265

背景

細胞外小胞 (EV) は、タンパク質、脂質、核酸を細胞間で転送し、受容細胞の表現型に影響を与えることが知られている Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014。EV介在性のRNA転送は広く研究されてきたが、EV中のDNAの性質、局在、機能については未解明な点が多かった。従来の研究では、DNase処理に対して耐性を示すDNA断片を「EV内包DNA」とみなし、がん細胞由来EVが全ゲノムにわたるDNA断片を含むことが報告されてきた Thakur et al. CellRes 2014。しかし、DNA耐性の解釈にはEV膜二重層の内部への保護という前提があり、DNAのEVへの物理的会合様式 (内腔vs表面) を系統的に解析した研究は不足していた。

小型EV (sEV) は単一の均一な集団ではなく、異なる密度、タンパク組成、生物学的特性を持つサブポピュレーションを含む不均一な集団であることが明らかになりつつあった Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016。エクソソーム (多胞体経由の小型EV) と非古典的小型EVサブポピュレーションが密度において異なることが知られていたが、DNAという核酸の観点からsEVサブポピュレーションを特性解析した研究は存在しなかった。また、細胞外DNA (表面会合DNA) がEVの凝集、受容細胞への内在化、免疫シグナリングに関与する可能性が複数の研究で示唆されており、EV関連DNAのトポロジー (表面vs内腔) の正確な理解が液体生検バイオマーカー開発と基礎EV生物学の両面で重要であった。

目的

本研究は、高分解能イオジキサノール密度勾配によって小型細胞外小胞 (sEV) を低密度 (LD) と高密度 (HD) のサブポピュレーションに分離し、各画分のDNA含有量、DNAトポロジー (表面局在vs内腔保護)、DNA結合タンパク質プロファイル、全ゲノムシーケンシング (WGS) による染色体カバレッジを体系的に解析することを目的とした。

結果

sEVサブポピュレーションの密度勾配分離とタンパクプロファイル: イオジキサノール密度勾配遠心法により、HMC-1およびTF-1細胞由来のsEVは異なる密度画分に分離された (Figure 1a)。HMC-1細胞由来のLD画分 (F1F3、密度1.1111.123 g/mL) はAlix、Flotillin-1、TSG101、CD63、CD81、CD9が富化され、Calnexin、β-actin陰性の古典的エクソソーム様粒子であり、NTAピークは約120 nmであった (Figure 3a,b)。HD画分 (F4F7、密度1.133 g/mL以上) はEVマーカー量が減少し、β-actin、Calnexin陽性成分を含む非古典的サブポピュレーションであった。F8F9はほとんどの成分を含まなかった。HMC-1とTF-1で密度分布パターンは類似しており、両細胞株を用いた結果の一般性が支持された。HMC-1細胞から分離されたsEVの粒子数は、F1とF2で最も多く検出され、残りの画分では有意に低かった。

HD画分における高いDNA含有量とヌクレオソーム構造の確認: 核酸分布の定量では、LD画分 (F1F3) はRNA主体 (DNA:RNA比 HMC-1で1:2.6、TF-1で1:4.5) であったのに対し、HD画分はDNA主体 (HMC-1でDNA:RNA 2.2:1) であった (Figure 1g,h)。特にF5F6に最大量のDNAが集積した。HD DNA (特にHMC-1のF5) にはバイオアナライザーで180 bp、360 bp、540 bp (約180 bp単位) のヌクレオソームラダーパターンが明確に観察され、ヌクレオソーム単位で梱包されたクロマチンDNAの存在が示唆された (Figure 1f)。ウエスタンブロットにてHD画分のみにヒストンH2A、H3が検出され、LD画分では完全に陰性であった (Figure 2d)。LC-MS/MSによるプロテオミクスでは、HD画分でDNA結合タンパク質が8.9%を占め (LD画分5.9%より高く)、HD特異的DNA結合タンパク質58種が同定されDNA・クロマチン会合タンパク質の濃縮が示された (Figure 2a,b)。

表面局在DNAの圧倒的優位性 (DNaseトポロジー解析):DNase I処理 (1 U/µg) による選択的表面DNA消化実験において、HMC-1 LD・HD全体のDNAの97%以上が分解された (表面局在) (Figure 4e)。TF-1 LD画分では97%以上が表面局在であった。TF-1 HD画分では79.1%が表面局在 (すなわち20.9%のみが内腔保護) であった (Figure 4f)。2細胞株・2サブポピュレーション全体を通じて79~99%のsEV関連DNAが小胞膜二重層外側の表面に存在し、DNase感受性であることが明確に示された。DNase処理後もNTA、フローサイトメトリー (CD63コーティングビーズ) でEV粒子の完全性、CD63陽性率に有意な変化は認められず、DNase処理がEV構造を保持したまま表面DNAを選択的に除去したことが確認された (Figure 5a,b)。DNase処理されたHMC-1 sEVs (n=3 experiments) は、未処理群と比較して、BrdU/CD9サンドイッチELISAにおいてルミネッセンスシグナルが完全に減少した。

WGSによる全ゲノムにわたる包括的カバレッジ: WGSデータの解析により、HMC-1ではY染色体を除く全常染色体と広範なミトコンドリアDNA (OXPHOS複合体I~V、22 tRNA、12S/16S rRNA、D-loop領域を含む) が包括的に検出された (Figure 6a,b)。TF-1でも同様に全染色体が検出された。重要なことに、DNase処理後サンプル (内腔保護DNA) でも全染色体にわたるDNA断片が検出され、EVの内腔保護DNAも全ゲノムにわたって分布していることが示された。Circosプロットによる可視化でも、処理群と非処理群ともに均一な染色体カバレッジが確認された。DNase処理されたTF-1 sEVsのDNAは、未処理のTF-1 sEVsと比較して、より多くの遺伝子を高いカバレッジでマッピングした (Figure 6c)。これらの結果は、sEV関連DNA (表面および内腔の両方) が完全なゲノム情報の代表性を持つことを示す。

考察/結論

本研究はイオジキサノール高分解能密度勾配を用いてsEVを古典的エクソソーム (LD:低密度・テトラスパニン・ESCRT関連タンパク富化・低DNA・高RNA) と非古典的高密度サブポピュレーション (HD:ヒストン結合クロマチンDNA・DNA結合タンパク富化・高DNA・低RNA) に分離できることを本研究で初めて実証した。

先行研究との違い: 79~99%のEV関連DNAが表面局在であるという知見は、従来のDNase耐性のみをEV内包DNAの証拠とする解釈を根本的に見直すことを迫る。これは、過去のがん細胞由来EV-DNA研究の多くがDNase非処理のEVペレットを使用しており、「EV内包DNA」として報告したDNAの大部分が実際には表面会合DNAであった可能性が高いという点で、これまでの報告と対照的である。この再解釈はEV-DNA研究の液体生検バイオマーカーとしての意義評価にも影響する。

新規性: 本研究で初めて、EV関連DNAの大部分がDNase感受性の表面局在性であることを明らかにしたことは新規の発見である。表面DNAは静電的にEVの凝集を促進し、受容細胞への内在化を制御し、ゼータ電位を高めることが他の研究で示唆されており、本研究の表面DNA優位の結果はこの機能的モデルと一致する。HD画分のヌクレオソーム構造を持つクロマチンDNAは、細胞が有害な細胞内DNAを能動的にEVを介して細胞外に排出するというホメオスタシス機構の産物である可能性がある。

臨床応用: WGSによる全ゲノムカバレッジは、sEV関連DNAが細胞のゲノム全体を反映することを示し、液体生検の観点から突然変異・コピー数変化等のゲノム情報を循環EVから検出する可能性を支持する。本研究が確立したDNA含有量・トポロジー・WGSによるEVサブポピュレーション解析の枠組みは、EVの精密な分子分類と液体生検バイオマーカー開発の基盤を提供する点で臨床的意義がある。

残された課題: 今後の検討課題として、EV中のDNAの起源とその特定の機能について、よりメカニズム的な研究が必要である。また、ssDNAとdsDNAの正確な比率を決定するためのより特異的な技術の適用も今後の課題である。本研究のlimitationとして、蛍光定量アッセイがssDNAとdsDNAの正確な区別を完全には行えない点が挙げられる。

方法

ヒト肥満細胞株HMC-1およびヒト赤白血病細胞株TF-1 (erythroleukemic cell line) の2種の細胞株を使用した。HMC-1はIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) 培地+1.2 mM α-チオグリセロールで、TF-1はRPMI 1640培地+5 ng/ml GM-CSFで培養した。培地には10% EV除去FBS (120,000×g、18時間超遠心で処理) を使用した。

EV単離は差速遠心法 (300×g→2,000×g→16,500×g) 後に118,500×gでsEV画分を回収した。このsEVをイオジキサノール不連続密度勾配 (20-35%、9画分F1F9、密度1.1111.278 g/mL) に浮遊させ、180,000×gで16時間遠心後に各1 mL画分を上部から回収した。各画分の密度は340 nmの吸光度で測定した。sEV特性解析はNTA (nanoparticle tracking analysis) (ZetaView PMX 110)、TEM、ウエスタンブロット (WB:Alix/Flotillin-1/TSG101/CD63/CD81/CD9、β-actin、Calnexin、Histone H2A/H3) で実施した。

DNAトポロジーの評価にはTurbo DNase処理 (1 U/µg DNA) を行い、DNase感受性 (表面局在) と耐性 (内腔保護) DNAを定量した (QIAamp DNA Mini kit+Qubit 2.0蛍光定量)。プロテオミクス解析はLC-MS/MS (Q Exactive、Thermo Fisher) によりDNA結合タンパク質を同定した。BrdU標識実験でDNA取り込みを確認した。WGSはHMC-1 (平均深度 9.25x) とTF-1 (平均深度 14.47x) についてHiSeq2500 (2×126 bp) で実施し、bowtie2でhg19にマッピング、Circosで可視化した。WGS用にF1~F7をプールしDNA抽出後にDNase処理群と非処理群を並行解析した。RNAはmiRCURY RNA Isolation Cell and Plant kit (Exiqon) を用いて分離し、Bioanalyzer 2100で定量した。ELISAアッセイは、BrdU標識sEVの捕捉とCD9陽性EVの検出に用いられた。統計解析にはStudent’s t-testが用いられた。