• 著者: Anna Almeida, Marc Gabriel, Virginie Firlej, Lorena Martin-Jaular, Matthieu Lejars, Rocco Cipolla, Floriane Petit, Nicolas Vogt, Mabel San-Roman, Florent Dingli, Damarys Loew, Destouches D, Vacherot F, de la Taille A, Théry C, Morillon A
  • Corresponding author: Antonin Morillon (CNRS UMR3244, Sorbonne University, PSL University, Institut Curie, Centre de Recherche, Paris, France; Email: antonin.morillon@curie.fr)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35527349

背景

細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicle) は、直径50〜1000 nmの脂質二重膜に囲まれたナノ粒子であり、タンパク質、脂質、代謝物、および各種核酸などの多様な生物学的情報を内包して細胞間を移動する。EVは、内包する核酸などのカーゴをヌクレアーゼやプロテアーゼによる分解から保護し、標的細胞へと安全に輸送することで、がんの増殖、浸潤、転移、血管新生、上皮間葉移行 (EMT: Epithelial-to-Mesenchymal Transition)、および免疫応答の調節において極めて重要な役割を果たすことが知られている Tkach et al. Cell 2016。これまでの細胞外RNA (exRNA: Extracellular RNA) 研究は、主にsmall ncRNAや一部のmRNA、あるいは特定の捕捉アプローチに依存した環状RNA (circRNA: Circular RNA) の同定に限定されており、液体生検に含まれるEVや細胞外ナノ粒子内の長鎖非コードRNA (lncRNA: Long Noncoding RNA) を含む長鎖RNA種の全体像は未解明な点が多く、大きな知識ギャップが存在していた Kalluri et al. Science 2020

長鎖非コードRNA (lncRNA) はヒトトランスクリプトームにおいて最も豊富なRNA種であり、エピジェネティック調節、クロマチンリモデリング、mRNA安定性、翻訳制御など多様な機能を発揮する。がん関連lncRNAを網羅したCLC2 (Cancer LncRNA Census 2) データベースなどの整備が進む中、一部のlncRNAはオープンリーディングフレーム (ORF: Open Reading Frame) を持ち、機能的ペプチドに翻訳され、免疫療法の標的となるネオアンチゲンを提示する可能性が注目されている。一方、環状RNA (circRNA) は5’キャップと3’ポリアデニル化末端を持たない共有結合環状分子であり、非正規バックスプライシングによって形成される。circRNAは高い安定性を持つため、がん患者の体液中でバイオマーカーとして検出されやすく、miRNAスポンジとして機能するなど、複数の機能制御機序が報告されている Li & Han Genome Medicine 2019

前立腺がん (PCa: Prostate Cancer) は男性のがん死亡原因の第2位であり、直腸指診 (DRE: Digital Rectal Examination) によって前立腺材料やEVが尿道を経由して尿中に放出される。尿EV (uEV: Urinary Extracellular Vesicle) は、泌尿生殖器系組織由来のEVを含む非侵襲的バイオマーカー源として有望であり、PCA3 (Prostate Cancer Antigen 3) やTMPRSS2:ERGの尿EV検出はuEV-RNAマーカー探索の端緒となった。しかし、先行研究は単一患者の深層シーケンシングや非小胞性circRNAの捕捉に留まり、複数患者のuEVと対応する腫瘍組織を全トランスクリプトームレベルで系統的に比較した研究は不足していた。特に、lncRNAやcircRNAとその機能的意義をuEVと腫瘍組織の対比で包括的に記述した研究は皆無であり、この領域には大きな知識ギャップが残されている。本研究は、この未開拓な領域を埋める最初の試みである。

目的

本研究の目的は、前立腺がん (PCa) 患者の尿EV (uEV) と対応するホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE: Formalin-Fixed Paraffin-Embedded) 腫瘍組織の全トランスクリプトームを初めて系統的に比較し、uEVで選択的に濃縮されるcircRNAおよびlncRNAを包括的に同定することである。さらに、uEV-circRNAの細胞増殖への機能的関与、uEV-lncRNAのがん関連性、およびlncRNA由来ネオアンチゲン産生能を解析し、前立腺がんの診断および免疫療法への応用可能性を評価することを目指す。

結果

circRNAおよびlncRNAの著明な濃縮: uEVでは8796種類のcircRNAが検出され、これは対応するFFPE腫瘍組織で検出された1240種の約7.1倍であった (Figure 1b)。グローバルな相関解析では、circRNAのuEVにおける濃縮がlncRNAよりもさらに強いことが示された (circRNAで R2=0.35、lncRNAで R2=0.16)。DESeq2解析により、311種のcircRNA (log2FC >= 1.5、20カウント以上) と274種のlncRNAがuEVで有意に濃縮されていることが明らかになった (Figure 1c)。この結果は、独立した20例の追加コホートにおいて、元の311種circRNAおよび274種lncRNAの88〜100%が同様の発現レベルを示すことで強固に再現性が確認された (Figure 1e)。uEV (n=26 patients) と腫瘍組織の全サンプルを対象とした主成分分析 (PCA) では、uEVが腫瘍クラスターから明確に分離したクラスターを形成した。

成熟スプライシング済みトランスクリプトームへの選択的濃縮: ゲノムの6つのフィーチャーにおけるリード分布解析の結果、uEVでは遺伝子間領域およびプロモーター領域からのリードが極めて少なく (uEVで1%未満、FFPE腫瘍で4%と対比)、エクソンリードが62% (FFPE腫瘍で32%)、5’UTRが27%、3’UTRが8%とuEVで濃縮されていた (Figure 2a)。一方、イントロンリードはuEVで2.6%と著明に低く、FFPE腫瘍の46%や凍結腫瘍の27%と比べて劇的な差があった。エクソン/イントロン (E/I) 比は、uEVで35.7、FFPE腫瘍で0.7、凍結腫瘍で1.78であった。uEVのE/I比はFFPE腫瘍の約50倍、凍結腫瘍の約20倍に達し、uEVが成熟したスプライシング済みトランスクリプトームを選択的に含むことを強く示唆した。同様の傾向はPCa細胞株由来のcEVでも確認され、cEVの平均E/I比は14.3であったのに対し、細胞では5.2であった。このことは、uEVおよびcEVが、その起源となる組織や細胞と比較して、イントロンを含むRNAをほとんど含まないことを示している (Figure 2a)。

核lncRNAの排除と細胞質への濃縮: 22Rv1 PCa細胞の核および細胞質RNA-seqデータを用いた交差解析により、uEVで濃縮されるRNAの58%が細胞質転写産物であった (腫瘍では15%と対比)。一方、核転写産物はuEVでわずか3%であった (腫瘍では24%)。この結果は、uEVが主に細胞質コンパートメント由来の成熟RNAを選択的に取り込むことを支持する (Figure 3b)。腫瘍組織では、核および細胞質の両方のコンパートメントからの転写産物が含まれるのに対し、uEVでは核lncRNAが有意に排除され、細胞質lncRNA、偽遺伝子、mRNAが濃縮されていることが示された (Figure 3c)。

がん関連circRNAおよびlncRNAの機能的同定: siRNAスクリーニングにより、uEV、PCa細胞、cEVの3つの供給源全てに共通して濃縮された311種のcircRNAのうち、14種がPC3、LNCaP、DU145の各前立腺細胞の増殖に必須であることが示された (Figure 4b)。この14種のcircRNAは、uEVで濃縮されたcircRNAのサブセットであり、細胞増殖に重要な役割を果たす可能性が示唆された。CLC2データベースに掲載されている492種のがん関連lncRNAのうち、28種がuEVで検出され、そのうちPCAT6はuEV、細胞株 (n=3 cells)、cEVの全てで濃縮されていた (Figure 5b, c)。PCAT6は膀胱がんおよび大腸がんでmiRNAスポンジ機能を持つことが報告されている。

lncRNA由来ネオアンチゲンの同定と検証: uEVで濃縮された228種のlncRNAから862種のペプチドが予測され、そのうち768個が高親和性ネオアンチゲン候補 (EL index < 0.5) であった (351種はユニーク)。15種のuEV-neoLncRNAが9-merネオアンチゲンをコードする可能性があり、そのうち5種でPC3細胞 (n=3 cells) のリボソームフットプリント (活性翻訳の証拠) が確認された (Figure 6c)。質量分析解析により、3種のuEV-neoLncRNA (AL354920.1、ELOA-AS1、LINC01116) がPC3、LNCaP、HCT116細胞株 (n=4 cells) で検出可能なペプチドを産生することが、1.5-fold以上のシグナル強度比および高い再現性を伴って検証された (Figure 6c)。特にAL354920.1は最高のリボソーム占有率を示し、20種類の高親和性ネオアンチゲンを含むペプチドを産生した (Figure 6e)。これらの結果は、uEVがネオアンチゲンとして機能する可能性のあるlncRNAを輸送することを示唆する。

考察/結論

本研究は、前立腺がん患者の尿EVが、対応する腫瘍組織と比較してcircRNAを約7倍、lncRNAを選択的に濃縮する成熟した細胞質トランスクリプトームを含むことを、6例の腫瘍-uEVペアと20例の独立コホートを用いて包括的に実証した最初の全トランスクリプトーム比較研究である。

先行研究との違い: これまでの研究では、EV中のRNAコンテンツの全体像、特に長鎖RNA種については未解明な点が多かった。本研究は、uEVのトランスクリプトームがエクソン/イントロン比で腫瘍組織の約50倍という際立った成熟化を示し、uEVが細胞質由来の完全スプライシング済みRNAを選択的にソーティングする機序の存在を強く示唆した。この知見は、核内RNAや未成熟RNAが多数検出されるとしたこれまでの一般的な組織トランスクリプトームの知見と対照的である。核lncRNAの排除と細胞質lncRNAの濃縮は、多分子ソーティング機構の存在を示唆しており、EV生合成経路との関連解析が今後の課題となる。

新規性: 増殖必須の14種のcircRNAとがん関連lncRNAであるPCAT6がuEV、細胞、cEVに共通して濃縮されていることは、uEVが単なる受動的な廃棄産物ではなく、機能的に重要な分子を能動的に輸送するキャリアとして前立腺がんの進行を促進する可能性を本研究で初めて新規に示した。また、lncRNA由来ネオアンチゲンペプチドの質量分析による検出は、uEV由来lncRNAが免疫療法におけるネオアンチゲンワクチンの資源として機能し得ることを本研究で初めて示した重要な概念実証である。3種のlncRNA由来ペプチドが質量分析で直接検出され、そのうちAL354920.1の高いリボソーム占有率は実際の翻訳活性を示す。

臨床応用: 本研究の知見は、uEV-circRNAおよびlncRNAを用いた前立腺がんの非侵襲的診断およびモニタリングへの臨床応用が期待される。さらに、lncRNA由来ネオアンチゲンを利用した個別化ペプチドワクチンやTCR療法の開発に繋がる可能性があり、臨床的意義は大きい。これらの分子は、腫瘍特異的なバイオマーカーとして、また新たな治療標的として活用できる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、in vitro PCa細胞でのRibo-seq結果がin vivo患者腫瘍でも再現されるか、大規模コホートでの検証が必要である。また、HLA多型を考慮した個別化ネオアンチゲン解析も求められる。uEVによる腫瘍細胞と免疫細胞間のlncRNA/circRNA転送の機能的解析も重要である。さらに、EVの不均一性やサブファミリー分類、そしてRNAがEV内に特異的に取り込まれているか、あるいは非特異的にEVに結合しているかの区別も今後の研究で明らかにする必要がある。本研究が確立したuEVのトランスクリプトームリソースは、将来の機能研究およびバイオマーカー開発の基盤を提供する。

方法

患者検体と尿EV単離: 新規前立腺がん患者6名から直腸指診 (DRE) 後の尿と対応するFFPE腫瘍組織を収集した。さらに、独立した追加尿検体20例も収集した。尿は低速遠心分離 (2000 gで12分、続いて3500 gで17分) により生細胞および細胞片を除去した後、160,000 gで2.5時間の超遠心分離によりuEVをペレット化した。NTA (Nanoparticle Tracking Analysis) によりサイズ分布 (50〜300 nm) を確認し、TEM (Transmission Electron Microscopy)、テトラスパニン (CD63、CD9、Syntenin-1) の検出、および細胞質内タンパク質であるCalreticulinの非検出によりEVの品質を検証した。これらのEV調製は、主にマイクロベシクルとエクソソームを含み、非小胞性成分の存在は限定的であると判断された Thery et al. JExtracellVesicles 2018

RNA-seqとバイオインフォマティクス: FFPE腫瘍組織およびuEV (各6例)、追加uEV (20例) からRNAを抽出し、SMARTer Stranded Total RNA-Seq Kit v2 - Pico Input Mammalian (Takara Bio) を用いて約50 million reads/サンプルでRNA-seqを実施した。STAR/KallistoをGencode v32 hg38にアラインメントし、CIRIquant (Circular RNA Identification and Quantification) を用いてcircRNAを定量した。差次発現解析はDESeq2を用いて行い、circRNAは5カウント以上、その他のRNAは20カウント以上の閾値を設定した。6種類のゲノムフィーチャー (エクソン、イントロン、5’UTR、3’UTR、プロモーター、遺伝子間領域) におけるリード分布を比較した。核および細胞質転写産物の定義には、22Rv1前立腺がん細胞の公開poly(A) RNA-seqデータ (核質および細胞質分画) を使用した。

ネオアンチゲン予測と検証: TransDecoderおよびORFikを用いてORFを予測し、seq2HLAによりHLAタイピングを行った後、NetMHCpan-4.1を用いて高親和性ネオアンチゲン (EL index < 0.5) を予測した。PC3細胞のリボソームプロファイリング (Ribo-seq) データを用いて活性翻訳 (リボソームフットプリント) を確認した。最終的に、Orbitrap Exploris 480質量分析計を用いて、予測されたペプチドの産生を検証した。

PCa細胞株とEV: PC3、LNCaP、DU145の3種類のPCa細胞株 (n=3 cells) およびそれらから得られた細胞由来EV (cEV) のトランスクリプトームをuEVと比較した。siRNA (small interfering RNA) によるノックダウンを用いて、14種類のcircRNAが前立腺細胞の増殖に必須であるかをスクリーニングした。細胞培養はRPMI 1640培地 (10% FBS、GlutaMAX添加) で行い、EV収集のためにはFBSを含まない培地で48時間培養した。群間比較の統計解析には、Rソフトウェアを用いた Student t-test および one-way ANOVA を使用した。