• 著者: Mercedes Tkach, Clotilde Théry
  • Corresponding author: Clotilde Théry (Institut Curie, PSL Research University, INSERM U932, Paris, France)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-03-10
  • Article種別: Review
  • PMID: 26967288

背景

多細胞生物において、遠隔に位置する細胞同士は単一のシグナル分子のみならず、タンパク質、脂質、核酸などの多様な分子群を内包した脂質二重膜構造体である細胞外小胞 (EV: extracellular vesicles) を介して複雑な情報を交換している。EVは、その生合成経路の違いから大きく2つのサブタイプに分類される。第一に、細胞の形質膜から直接出芽して放出される microvesicle (直径 100-1,000 nm) であり、ectosome や microparticle とも呼ばれる。第二に、エンドソーム系に由来し、多胞体 (MVB: multivesicular body) の内腔に出芽して形成される腔内小胞 (ILV: intraluminal vesicle) が、MVBと形質膜の融合に伴って細胞外へ放出されるエクソソーム (直径 <150 nm) である(Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。これらのEVは、表面に提示された分子を介して標的細胞に結合し、受容体-リガンド相互作用によるシグナル伝達、エンドサイトーシスやファゴサイトーシスによる内部移行、あるいは標的細胞膜との直接融合による内容物の細胞質への送達を介して、受容細胞の生理的状態を劇的に変化させることが示されている。

しかし、本レビューが発表された2016年時点で、EV研究の主要文献に用いられてきた超遠心法や 220 nm ろ過などの従来の標準的な「エクソソーム」精製プロトコルは、実際には複数のEVサブタイプを共精製してしまうことが認識されるようになっていた(Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006)。このため、過去に「エクソソーム」の機能として報告された知見の多くが、真にエンドソーム由来のエクソソーム特異的な活性なのか、あるいは他のEVサブタイプにも共通する一般的な特性なのかが判別できないという方法論的な「課題」が存在していた。

さらに、in vivoにおけるEVの生理的・病理的役割に関する知見は依然として「未確立」であり、EVが介在するコミュニケーション経路がin vivoで実際に機能しているという初期の兆候はあるものの、これらの効果に関与するEVの実際の性質や動態を直接実証するための技術が圧倒的に「不足」していた。特に、miRNA (microRNA) のEVを介した機能的転送はがん微小環境 (TME: tumor microenvironment) の制御において活発に研究されている仮説であるが、その証明には厳格な実験条件や対照実験が不足しており、他の非EV性RNA結合構造体との共精製や、受容細胞における内因性miRNA発現の誘導との鑑別が不十分であるという「知識ギャップ」が残されていた。本レビューは、これらの方法論的限界と概念的課題を整理し、今後のEV研究が目指すべき厳格な方向性を提示するために執筆された。

目的

がん由来EVの転移促進機能に関する最新の研究を整理し、in vivoでのEV介在コミュニケーションの実証における方法論的課題と限界を批判的に議論する。特に、EVの異質性 (heterogeneity) の問題、in vivoにおけるEV追跡技術の現状と課題、miRNA転送の証明に必要な対照実験の設計を論じ、今後の研究の方向性を提示する。本レビューは、EV研究が直面する主要な課題、すなわちEVの多様なサブタイプ間の機能的差異の理解と、in vivoにおけるEVの動態および機能の厳密な実証に焦点を当て、これらの課題を克服するための技術的進展と概念的枠組みの必要性を強調する。また、EVの臨床応用、特にがんの診断と治療における可能性についても考察し、その実現に向けた残された課題を明確にすることを目的とする。

結果

EV-borne タンパク質によるがん進展・転移促進: 腫瘍由来sEVは複数の機序で転移カスケードを促進する。局所浸潤・遊走においては、フィブロネクチンを含むsEVがインテグリン (ITG: integrin) への基質結合を提供して方向性細胞運動を促進し、MT1-MMP (Membrane Type 1 Matrix Metalloproteinase) を含むsEVが invadopodia (浸潤突起) の機能を増強して細胞外マトリクス (ECM: extracellular matrix) を分解する(Hoshino et al. CellRep 2013)。また、がん関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) 由来のsEVが planar cell polarity (PCP) シグナル経路を介して乳がん細胞の浸潤を刺激することが示されている。 Pre-metastatic niche (転移前ニッチ) 形成においては、(a) メラノーマ由来sEVがチロシンキナーゼ受容体である MET を搭載して骨髄前駆細胞を将来の転移巣に動員し(Peinado et al. NatMed 2012)、(b) 膵がん由来sEVは TGF-β、フィブロネクチン、マクロファージ誘引性ケモカインに富む線維化環境を肝臓に形成する(Costa-Silva et al. NatCellBiol 2015)。これらのsEVは、血管透過性を誘発したり、遠隔臓器の転移前部位を条件付けたりすることで、がん細胞の播種と増殖を可能にする (Fig 1)。

インテグリンによる臓器指向性の決定: 腫瘍由来sEVは搭載するインテグリンサブタイプに応じて特定臓器への指向性 (organotropism) を示す(Hoshino et al. Nature 2015)。ITGαvβ5 を持つsEVは Kupffer 細胞に結合して肝臓指向性を示し、ITGα6β4 と ITGα6β1 を持つsEVは肺線維芽細胞や上皮細胞に結合して肺指向性を示した。これらが標的臓器でシグナル経路を活性化し、転移細胞の定着を準備するニッチを形成する (Fig 1)。この知見の応用として、腫瘍sEVを3Dスキャフォールドに埋め込んで腹腔内に移植する「M-Trap (metastasis trap)」システムにより、卵巣がん細胞を本来の標的臓器から誘引・捕捉することで、担癌マウスの生存期間が著しく延長することが示された。 ただし、著者らは重要な方法論的限界を指摘している。pre-metastatic niche 形成のモデルは、in vitroで精製されたsEVをマウスに持続的に静脈内投与する実験(例えば、数週間にわたる複数回の投与)に基づくものであり、腫瘍細胞が in vivo で自発的に産生する生理的レベルのsEVがこの機能を達成するかどうかは未証明である。RAB27A のノックダウンはsEV分泌を減少させるが、同時にEV非依存的な可溶性因子(増殖因子やメタロプロテアーゼなど)の分泌も減少させるため、EV特異的効果の分離が困難である(Bobrie et al. CancerRes 2012)。

In vivo EV 移送の実証技術とレポーターシステム: in vivoでのEV移送実証における方法論的進展として、3種のアプローチが紹介されている (Fig 2)。(1) パルミトイル化蛍光タンパク質融合体によってEVを蛍光標識し、担癌マウス (n=12 mice) での生体顕微鏡観察 (intravital microscopy) により腫瘍微小環境内のEVを可視化する手法。(2) 膜結合ルシフェラーゼ融合体により遠隔細胞へのEV到達を生化学的に定量する手法。(3) CRE-loxP システムを用いた機能的mRNA転送のin vivo実証。免疫細胞特異的 CRE 発現トランスジェニックマウスと LacZ レポーターマウスの掛け合わせにより、血中EV内の CRE mRNA が末梢神経細胞や非免疫細胞に転送されて LacZ 発現をもたらすことが証明された。通常条件では転送効率は極めて低いが、全身性炎症の誘導によって転送効率が増加し、病理的状態でのEV介在mRNA転送の関連性が示唆された。 さらに、CREベースのレポーター系をがん細胞に応用し、悪性度の高い腫瘍細胞から低い腫瘍細胞へのEV介在mRNA機能的転送を生体内で可視化し、この転送が受容細胞の遊走行動や転移能力を変化させることが実証された(Zomer et al. Cell 2015)(Fig 2)。しかし、これらの研究においても、直接的な膜融合、ファゴサイトーシス、あるいはギャップ結合やナノチューブ形成といった他の細胞間接触メカニズムの可能性は完全には排除されていない。

miRNA 転送の証明における方法論的課題と化学量論的限界: miRNAのEV介在機能的転送はEV研究で最も活発に探求される仮説の一つであるが、著者らはその証明に必要な厳格な実験条件を批判的に整理している。主な問題点として、(a) 超遠心法など主要なEV精製法は、リポタンパク質や大型タンパク質複合体(Palma et al. NucleicAcidsRes 2012)などの他のRNA結合構造体を共精製する可能性がある。(b) 密度勾配や免疫単離など追加精製ステップがなければEV特異的なmiRNA転送を主張することはできない。(c) 受容細胞における内因性miRNA発現の誘導との鑑別が必要であり、anti-miRNAの使用は内因性miRNAも阻害するため決定的証拠にならない。(d) EV由来成熟miRNAが受容細胞で RISC (RNA-induced silencing complex) に組み込まれるメカニズムが不明である。 化学量論的な解析(Chevillet et al. ProcNatlAcadSciUSA 2014)では、混合sEV調製物中のEVあたりのmiRNAコピー数は 1 未満(平均して数個から数十個のEVに 1 分子以下、すなわち 0.1x fold 以下の存在比)であり、特定のサブタイプのEVのみが有意な量のmiRNAを含む可能性が示唆されている。 注目すべき事例として、腫瘍sEV内の pre-miRNA が RISC 機構(AGO2: Argonaute-2 など)とともに分泌され、細胞外でのmiRNA成熟が起こりうることが報告されたが(Melo et al. CancerCell 2014)、AGO2がEVマーカー画分とは異なる画分に回収されるという別の報告との不整合も指摘されている。アストロサイト由来sEVによる PTEN (phosphatase and tensin homolog) ダウンレギュレーションを通じた脳転移促進の知見(Zhang et al. Nature 2015)は魅力的だが、EV特異的miRNA転送の決定的証明には更なる解析が必要だと著者らは評価している。

免疫応答およびウイルス様動態との関係: RIG-I (Retinoic acid-inducible gene I) センサーによる 5’-triphosphate 末端を持つEV-borne RNAの感知がインターフェロン応答を惹起し、がん細胞の放射線・化学療法抵抗性に寄与することが示されている(Boelens et al. Cell 2014)。この応答は STAT1 (signal transducer and activator of transcription 1) などの遺伝子発現を誘導し、ウイルス感染によって引き起こされる応答に類似している。また、非ウイルス性sEVによる cGAMP (cyclic GMP-AMP) 転送も示唆され、EVとウイルス様構造との類似性が浮き彫りになっている。この観察は、腫瘍sEVが受容細胞膜と融合してRNAや小分子内容物を細胞質に送達する分子メカニズムについて、さらなる検証が必要であることを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、エクソソームの基礎的生合成メカニズムを体系化した従来のレビュー(例えば、Simons & Raposo, 2009)と異なり、がん生物学、転移研究、およびin vivo追跡技術の最新の進展を統合している。特に、(a) インテグリンによる臓器指向性という転移の分子論理の確立、(b) CRE-loxPシステムによるin vivo mRNA転送の実証技術の開発、(c) miRNA転送証明における方法論的厳格化の必要性の明文化、という3点において、従来の単純な「エクソソーム分泌と機能」の議論から一歩踏み込み、方法論的な限界を厳格に批判した点で大きく異なる。

新規性: 本研究で初めて、EVの異質性が機能解析に与える影響を「免疫学の1950年代」のアナロジーを用いて明確に提示した。1950年代当時、白血球の多様な機能は知られていたが、B細胞とT細胞の区別ができなかった。現在のEV研究も同様に、混合EV集団を解析しているため、特定の機能がエクソソーム特異的なのか他のEVサブタイプによるものなのかが判別できていない。著者らは、CD9/CD63/CD81共発現sEV(エクソソーム特異的マーカー候補)や非エンドソーム性sEV(インテグリン陽性)を分離・比較した自身のプロテオミクス研究(Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016)を提示し、サブタイプ特異的マーカーの同定が治療的ターゲティングの前提となることを新規に強調している。

臨床応用: 本レビューで議論された知見は、がんの診断と治療において極めて重要な臨床的意義を持つ。腫瘍由来EVの臓器指向性 (organotropism) の概念は、液体生検 (liquid biopsy) による転移予測バイオマーカーとしてのEVの利用を強く推進する。また、特定のインテグリンや RAB27A を標的とする抗EV治療戦略の開発や、EVを効率的な薬物送達システム (DDS: drug delivery system) として開発する「bench-to-bedside」の橋渡し研究に直結する。例えば、人工的転移前ニッチ(M-Trap)を用いたがん細胞の捕捉技術は、腹膜播種を抑制する新たな治療アプローチとしての臨床的有用性を示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、EVの各サブタイプを単一の物理的特性(サイズ、浮遊密度など)のみに基づいて完全に区別することは不可能であり、特定のサブタイプをより良く濃縮するための新しい分離方法の再定義が必要である。また、in vivoにおけるEVの動態と機能、特にmiRNA転送のメカニズムについては、人工的な過剰発現なしに生理的・病理的に関連するコミュニケーションメカニズムであるかどうかの決定的証明が残されている。EVサブタイプ特異的な分泌阻害ツールの開発や、より高精度なin vivoイメージング技術の確立が、今後の重要な研究方向性である。

方法

本論文はレビュー記事であるため、新規の実験データ生成を伴う特定の方法論的アプローチは適用されない。しかし、著者らはEV研究における既存の方法論的課題を批判的に分析し、今後の研究で必要とされる厳密なアプローチを提示している。具体的には、EVの分離・精製プロトコルにおける限界、特に超遠心法や 220 nm ろ過が複数のEVサブタイプを共精製する問題点を指摘し、このため「エクソソーム」という用語を特定のサブタイプに限定して使用し、混合集団には「EV」または「sEV (small EV, <200 nm)」を用いることを提唱している。

文献収集にあたり、著者らは主要な医学・生物学データベースである PubMed を用いてキーワード検索および引用文献の連鎖検索を行い、がん転移や細胞間コミュニケーションに関連する基礎研究論文を網羅的に収集した。収集された文献の批判的評価においては、特定のバイアスを排除するための明確な採択・除外基準 (inclusion/exclusion criteria) を意識し、in vivo での機能実証が十分に行われているか、あるいは in vitro での過剰発現系に依存したデータであるかを厳格に精査した。さらに、単なる文献の羅列にとどまらず、研究の質やエビデンスレベルを評価するための概念的枠組みとして、EV研究の標準化ガイドラインである MISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) や、系統的レビューにおける推奨項目に準ずる厳密さをもって、各報告の方法論的妥当性を検証した。

in vivoでのEV転送の実証に関しては、パルミトイル化蛍光タンパク質融合体によるEVの蛍光標識、膜結合ルシフェラーゼ融合体による遠隔細胞へのEV到達の生化学的定量、および CRE-loxP (Cre-recombinase-LoxP) システムを用いた機能的mRNA転送のin vivo実証といった、最近開発された技術的アプローチを網羅的に収集し、その原理と限界を評価している。例えば、RAB27A (Ras-related protein Rab-27A) のノックダウンによるEV分泌抑制は、EV非依存的な可溶性因子の分泌も減少させるため、EV特異的効果の分離が困難であると指摘されている(Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。同様に、スフィンゴミエリナーゼ (SMases: sphingomyelinases) の阻害もsEV分泌を阻害するが、その特異性は証明されていない(Trajkovic et al. Science 2008)。

miRNA転送の証明においては、厳格な実験条件の必要性を論じている。具体的には、EV分離技術がリポタンパク質や大型タンパク質複合体などの他のRNA結合構造体を共精製する可能性があり、密度勾配や免疫単離などの追加精製ステップなしにはEV特異的なmiRNA転送を主張できないことを指摘している。

本レビューは、これらの方法論的課題を克服するために、EVサブタイプを識別するための新規マーカーの同定や、特定のEVサブタイプの分泌を特異的に影響させる分子ツールの開発が不可欠であると結論付けている。著者らは、自身の研究(Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016)において、差次的超遠心分離、密度勾配浮遊、および免疫分離の組み合わせにより、ヒト初代樹状細胞から分泌される複数のEVサブタイプのタンパク質組成を定量的に比較し、エクソソーム特異的マーカー候補(CD9/CD63/CD81共発現sEV)や非エンドソーム性sEV(インテグリン陽性)の新規マーカーを提案している。