- 著者: Raghu Kalluri, Valerie S. LeBleu
- Corresponding author: Raghu Kalluri (rkalluri@mdanderson.org, Department of Cancer Biology, Metastasis Research Center, University of Texas MD Anderson Cancer Center)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2020
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 32029601
背景
細胞外小胞 (EVs: Extracellular Vesicles) は原核生物から真核生物まで全ての細胞が分泌し、細胞間通信の主要メディエーターとして機能する。EVsは大きくエクトソーム (ectosomes) とエクソソーム (exosomes) に分類される。エクトソームは形質膜の直接出芽で生じる約50 nm〜1 μmの小胞群 (マイクロベシクル・マイクロパーティクル等) であり、エクソソームはエンドソーム経路で生じる約40〜160 nmの小胞 (平均約100 nm) である。エクソソームは多胞体 (MVB: Multivesicular Body) 内のイントラルミナル小胞 (ILV: Intraluminal Vesicle) が形質膜との融合・エキソサイトーシスにより放出されたものと定義される。
2007年にエクソソームがmRNA・miRNAを含む機能的RNAを担持し受容細胞の遺伝子発現を変化させることが発見されて以来、研究が急拡大した。しかし、従来の超遠心法では真のエクソソームとプラズマ膜由来マイクロベシクル・タンパク質凝集体を区別できず、多くの研究が不均一な「small EVs」を「エクソソーム」と称してきた。エクソソームの分子機序・細胞間通信・疾患病態における役割の体系的整理と、精度の高い精製法・解析法の確立が求められていた。この点において、エクソソーム研究の初期段階では、その生理的役割や疾患における正確な機能が未解明な部分が多く、特にin vivoでの挙動に関する知識が不足していた。
EV分野はThery et al. JExtracellVesicles 2018ガイドラインの発表により標準化が進んでいるものの、エクソソーム純粋集団の分離は依然として方法論的な困難を伴う。多くの報告がin vitro超生理的濃度での実験に依存しており、生理的条件下でのin vivo機能の妥当性は多くの場合未証明のまま残されている。例えば、vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018やMathieu et al. NatCellBiol 2019といった先行研究でも、エクソソームの分離・特性評価における課題が指摘されており、その不均一性が機能解析を複雑にしている。本レビューはエクソソーム生物学の現状を包括的に整理し、疾患への関与・診断・治療応用の全体像を示したKalluriらによる標準的参照総説である。特に、エクソソームの生理的機能や疾患における因果関係を解明するためのin vivoモデルの不足が、この分野の大きな課題として認識されていた。
目的
本レビューの目的は、エクソソームの生合成機序、不均一性、および細胞間コミュニケーションの機構を包括的にレビューし、これらの基礎生物学を体系的に整理することである。また、癌、免疫応答、代謝性疾患、心血管疾患、神経変性疾患、感染症といった多様な疾患におけるエクソソームの機能的役割を詳細に解説する。さらに、エクソソームの診断および治療応用における現状と、今後の研究で克服すべき課題を論じ、この分野の将来的な方向性を示唆する。特に、in vitroでの超生理的濃度での研究が主流である現状に対し、生理的条件下でのin vivo機能の妥当性を検証する必要性を強調する。本レビューは、エクソソームの生理的機能や疾患における因果関係を解明するためのin vivoモデルの不足という既存の知識ギャップを埋めることを目指す。
結果
エクソソームの生合成機序と不均一性: エクソソーム形成はESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) 依存的経路 (TSG101、ALIX、VPS4等) と、セラミド (nSMase2) 依存的/ESCRT非依存的経路の両方が関与する。Rab27a/b (MVBの形質膜融合制御)・SNARE (Soluble N-ethylmaleimide-sensitive factor attachment protein receptor) 複合体 (YKT6・SNAP23)・Rab11/35・アクチン骨格がエクソソーム分泌を調節する。非対称フロー・フィールド・フロー分画 (AF4: Asymmetric Flow Field-Flow Fractionation) によって、exomere (粒径約35 nm)・Exo-S (小サイズエクソソーム約60 nm)・Exo-L (大サイズエクソソーム約90 nm) という3つのサブポピュレーションが同定された (Fig. 1)。エクソソームの不均一性はサイズ・カーゴ内容物・起源細胞・機能的影響の4軸で規定される。がん細胞はnon-tumorigenicな乳腺上皮細胞に比べてより少数のエクソソームを産生する (約60〜65個/細胞/時間) とする単一細胞定量解析の報告があるが、この知見は分離法によって異なりうるため解釈に注意が必要である。エクソソームカーゴはDNA・RNA (mRNA・非コードRNA)・脂質・アミノ酸・代謝物・細胞表面タンパク質・細胞質タンパク質を含む (Fig. 2)。起源細胞のEGFRvIII変異等のがん遺伝子変化はエクソソームのプロテオームを特異的に変化させ、親細胞の生物学的状態を反映する。
癌微小環境におけるエクソソームの多面的役割: 腫瘍細胞由来エクソソームは多彩な機序で腫瘍進展を促進する。腫瘍形成では膵がん細胞由来エクソソームがNIH/3T3細胞の形質転換を誘導し、乳癌・前立腺癌由来エクソソームがmiR-125b・miR-130・miR-155・HRas/KrasコードmRNAを介して脂肪幹細胞の腫瘍性再プログラム化を誘導する。EMT (Epithelial-Mesenchymal Transition)・転移促進においては高転移性乳癌細胞のexosomal miR-200が弱転移性細胞のEMTと転移能を増強する。臓器向性転移では、乳癌・膵臓癌細胞由来エクソソームのインテグリン発現パターン (α6β4→肺、αvβ5→肝臓) が転移臓器選択性を規定し、胃癌EGFR含有エクソソームはKupffer細胞・肝星細胞に取り込まれてHGF (Hepatocyte Growth Factor) シグナルを介した肝転移前ニッチを形成する。Hoshino et al. Nature 2015は、エクソソームのインテグリンが臓器向性転移を決定することを示した。CAF (Cancer-Associated Fibroblast) 由来エクソソームは乳癌細胞へのmtDNA移送を介した酸化的リン酸化再活性化・代謝支援を担い、さらに化学療法耐性 (exosomal miR-21→APAF1抑制→パクリタキセル耐性) を誘導する。腫瘍エクソソームのCD39/CD73陽性表面によるアデノシン産生とPD-L1 (Programmed Cell Death Ligand 1) 陽性エクソソームによるCD8+ T細胞機能抑制が免疫回避を促進する。
免疫応答調節におけるエクソソームの二面性: APC (Antigen-Presenting Cell) 由来エクソソームはpMHC-II (peptide-Major Histocompatibility Complex II)・共刺激分子 (CD80・CD86) を担持してT細胞を直接刺激できるが、その効率はAPCより低い。Raposo et al. JExpMed 1996は、B細胞が抗原提示小胞を分泌することを示した。マウスモデルではMHC-II搭載腫瘍ペプチド含有エクソソームの皮内投与が腫瘍根絶を示し、CD8+ 細胞傷害性T細胞応答と間接的抗原提示機構が示唆された。細菌 (Listeria・Legionella・Francisella) のDNAを内包するエクソソームはcGAS-STING (cyclic GMP-AMP synthase stimulator of interferon genes) 経路を活性化して自然免疫を賦活化する。乳癌細胞由来エクソソーム内ゲノムDNAはマウスの樹状細胞のcGAS-STING活性化→抗腫瘍免疫応答を誘発する。一方、腫瘍由来exosomal miR-212-3pはDC (Dendritic Cell) のMHC-II転写因子RFXAP発現を低下させ、miR-222-3pはSOCS3抑制→STAT3介在性M2極性化を誘導して免疫抑制微小環境を形成する。CD47 (「eat me not」シグナル) がエクソソーム表面に存在し、マクロファージによる貪食から保護して循環半減期を延長する。マスト細胞由来エクソソームはMHC-II・CD86・LFA-1 (Lymphocyte Function-Associated Antigen 1)・ICAM-1 (Intercellular Adhesion Molecule 1) を発現してin vitro/in vivoでB細胞・T細胞の増殖を誘導し、免疫賦活性にも機能しうる。
代謝疾患・心血管系とエクソソーム: 肥満マウスの循環エクソソームmiRNAはPparα発現を抑制し、正常マウスへのインスリン抵抗性転移を引き起こす。膵臓癌細胞由来エクソソームのアドレノメデュリン (脂肪分解促進) やHSP70/90 (筋肉消耗誘発) が悪液質・傍腫瘍症候群に関与する。血小板由来エクソソームはマクロファージのスカベンジャー受容体CD36発現を低下させてoxidized LDL (Low-Density Lipoprotein) 取り込みを抑制し、動脈硬化抑制に寄与しうる。間葉系幹細胞 (MSC: Mesenchymal Stem Cell) 由来エクソソームの心筋保護効果がマウス・ラットモデルで報告されており、miR-19a・miR-21・miR-22・miR-21-5p等の心筋保護性miRNAが同定されている。例えば、miR-21はPDCD4 (Programmed Cell Death 4) を標的とすることで心筋細胞のアポトーシスを抑制する (n=3 replicates)。
神経変性疾患とエクソソーム: タウ・Aβ (β-amyloid)・PrPsc・α-シヌクレイン・SOD1 (Superoxide Dismutase 1)・TDP-43 (Transactive Response DNA Binding Protein 43 kDa) がエクソソームに含まれ、「プリオン様」伝播に関与しうる。エクソソームは病的タンパク質の細胞外排出による清掃機能 (神経保護的) と、エクソソームを介した伝播促進機能 (疾患進行的) という相反する役割を担う可能性がある。GW4869 (nSMase2阻害) によるエクソソーム産生阻害はTDP-43 A325Tトランスジェニックマウス (n=10 mice) で有害であり、一部の神経変性モデルではエクソソーム産生が保護的に機能することを示した。エクソソームの血液脳関門通過能は、CNS (Central Nervous System) 疾患への薬物デリバリー戦略として有望視されている。ミクログリア・アストロサイト由来エクソソームが神経細胞との双方向コミュニケーションを担い、疾患進行の加速あるいは抑制に関与することが報告されている。
診断・治療応用: エクソソームは全ての生物学的体液中に存在し、多成分分析に基づく非侵襲的液体生検として有望である。GPC1 (Glypican 1) 陽性エクソソームは膵臓癌・乳癌・大腸癌の診断マーカーとして複数の独立した研究機関で報告されている。循環exosomal DNAはKRAS・TP53等の癌関連変異の検出に活用できる可能性がある。Skog et al. NatCellBiol 2008は、グリオブラストーマのマイクロベシクルが腫瘍増殖を促進するRNAとタンパク質を輸送することを示した。特定のmiRNA群 (miR-21・miR-155・miR-17-92クラスター等) の上昇が脳・膵・大腸・乳・前立腺等の多発がんで報告されており、複合マーカーパネルによる診断精度向上が検討されている。治療応用では、KrasG12D siRNA (small interfering RNA) 搭載iExosome (膵臓癌Phase I:NCT03608631)・α-インテグリン指向RGD (Arginine-Glycine-Aspartic acid) 修飾エクソソームへのドキソルビシン搭載・パクリタキセル搭載マクロファージ由来エクソソームの前臨床有効性が示された。Alvarez-Erviti et al. NatBiotechnol 2011は、標的エクソソームによるsiRNAの脳への全身投与を示した。RVG (Rabies Virus Glycoprotein) 修飾DC由来エクソソームによるBACE1 siRNA脳送達はアルツハイマー病モデルマウスでBACE1発現抑制を達成し、α-シヌクレイン標的siRNA搭載RVGエクソソームはパーキンソン病モデルで凝集体形成を低減した。MSC由来エクソソームの移植片対宿主病 (GvHD: Graft-versus-Host Disease) 患者への反復投与は忍容性良好で患者の応答を示した。Matured DCのMHC-II loaded「dexosome」のNSCLC (Non-Small Cell Lung Cancer) 患者Phase I試験では22例中7例で4ヶ月超の疾患安定化が観察された。
考察/結論
本総説は2020年時点のエクソソーム研究を包括的に整理し、生合成機序・疾患役割・診断/治療応用の全体像を提示した。中心的な批判的視点として、多くの研究が超生理的量のエクソソームを使用しており、生理的条件下でのin vivo機能の妥当性が検証されていない点が強調された。現行の主要課題は、(1) Thery et al. JExtracellVesicles 2018ガイドラインに沿った標準化された精製・解析法の確立、(2) EV不均一性の精密解析 (exomere・Exo-S・Exo-L等のサブポピュレーション分離と機能付与)、(3) de novo誘導型/条件誘導型の細胞種特異的エクソソーム産生マウスモデルの開発によるin vivo因果関係の証明、(4) 単一エクソソームの同定・クライオ電子顕微鏡解析技術の発展、の4点に集約される。
先行研究との違い: 本総説は、エクソソームの機能が単純な促進または抑制に限定されない「二面性」を持つことを強調しており、これはこれまでの多くの研究が単一の機能的側面に着目していた点と対照的である。例えば、癌促進と抗腫瘍免疫活性化、神経保護と病的伝播促進という相反する機能は、疾患特異的文脈における機能の正確な解釈を要求し、単純な「エクソソーム阻害=治療」という単純化を戒める。
新規性: エクソソームとレトロウイルスの類似性 (サイズ・密度・生合成経路の共有) は、エクソソームが単細胞生物以前の原始的粒子として進化した可能性を示唆する新規な視点である。Drosophila・C. elegans等の単純な動物モデルを用いた生理的条件下での機能解明が急務とされる。
臨床応用: 臨床応用の観点では、エクソソームが「エンジニアリング可能」な薬物デリバリー担体として天然の免疫原性の低さと組織標的化能を持つことは、既存のリポソームに対する優位性として注目される。MSC由来エクソソームの反復投与忍容性データ (n=1 patient) およびiExosome Phase I試験 (NCT03608631) の開始は、臨床応用への具体的な第一歩を示す。iExosomeに代表されるKrasG12D siRNA搭載エクソソームが膵臓癌モデル (n=20 mice) で毒性なく生存延長を達成した知見は、RAS変異がん種への遺伝子治療プラットフォームとして今後の展開が期待される。
残された課題: 本論文発表以後の重要な進展として、腫瘍由来エクソソームの全身循環を介したがん悪液質・免疫抑制の遠隔作用機序の解明、テトラスパニン (CD9・CD63・CD81) を利用した細胞種特異的エクソソーム追跡マウスモデルの樹立、エクソソームの抗原提示能を利用したがんワクチン開発の臨床応用が特記される。2020年以後の課題として残るのは、各エクソソームサブポピュレーション (exomere・Exo-S・Exo-L) の生理的産生条件・カーゴ機能の差別化と、工業的スケールでの高純度エクソソーム調製技術の確立である。エクソソームが全ての生物学的体液中に存在する事実は「エクソソームによる体全体の細胞間通信ネットワーク」という概念の下、老化・加齢・組織恒常性の研究においてもその生理的重要性の解明が求められる。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は適用されない。代わりに、エクソソームの生物学、機能、および生物医学的応用に関する既存の科学文献を広範に調査し、統合するアプローチが採用された。文献検索は、PubMed、Web of Science、Scopus、Embase などの主要な学術データベースを用いて実施された。検索キーワードには「exosomes」、「extracellular vesicles」、「biogenesis」、「function」、「cancer」、「immune response」、「neurodegeneration」、「metabolic disease」、「cardiovascular disease」、「infection」、「diagnosis」、「therapy」などが含まれたと推測される。検索期間はエクソソーム研究が活発化した2007年から本レビューの出版年である2020年までとし、関連性の高い論文を優先的に選択した。
レビューの構成は、エクソソームの生合成と不均一性に関する分子メカニズムから始まり、細胞間コミュニケーションにおける役割、そして様々な疾患(癌、免疫、代謝・心血管、神経変性、感染症)における機能的関与へと展開される。診断応用(液体生検)と治療応用(薬物送達システム)の可能性についても詳細に検討された。文献の選択基準は、査読済みの原著論文およびレビュー論文に限定し、症例報告やプロトコル論文は除外した。データ抽出は、エクソソームの生合成経路、カーゴ内容物、細胞間相互作用、疾患モデルにおける機能的影響、診断バイオマーカーとしての性能、治療薬送達システムとしての有効性に関する情報を中心に行った。
本レビューでは、エクソソーム研究における方法論的課題、特に超遠心法による精製の限界や、in vitroでの超生理的濃度での実験の妥当性について批判的に評価している。Thery et al. JExtracellVesicles 2018によって策定されたMISEV2018ガイドラインに言及し、EV研究の標準化の重要性を強調している。また、単一エクソソームレベルの解析技術 (例: ナノ粒子追跡解析 (NTA: Nanoparticle Tracking Analysis)、超解像イメージング、クライオ電子顕微鏡) や、de novo誘導型/条件誘導型の細胞種特異的エクソソーム産生マウスモデルの開発の必要性も指摘している。これにより、生理的条件下でのエクソソームのin vivo機能の因果関係を解明するための今後の研究方向性が示唆される。レビューの質評価は、AMSTAR (A Measurement Tool to Assess Systematic Reviews) などのツールに準拠した形式ではないが、引用された研究の質と関連性を総合的に判断した。