• 著者: Noelle Leary, Sarina Walser, Yuliang He, Nikola Cousin, Paulo Pereira, Alessandro Gallo, Victor Collado-Diaz, Cornelia Halin, Susana Garcia-Silva, Hector Peinado, Lothar C. Dieterich
  • Corresponding author: Lothar C. Dieterich (Institute of Pharmaceutical Sciences, ETH Zurich, Vladimir-Prelog-Weg 1-5/10, Zurich 8093, Switzerland; Email: Lothar.Dieterich@pharma.ethz.ch)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35188342

背景

腫瘍の排出リンパ節 (LN) は、リンパ節転移の主要部位として高い予後的価値を持ち、腫瘍特異的免疫の活性化と免疫療法への感受性に決定的な役割を果たすことが知られている (Karaman & Detmar, 2014; Nathanson et al., 2015)。腫瘍増殖に伴い、排出LNでは白血球流入、LN常在マクロファージ、線維性細網細胞 (FRC)、リンパ管内皮細胞 (LEC) などのストローマ細胞の局所増殖によって大規模なリモデリングが生じる。これによりリンパ管洞が拡張し、その結果として転移前ニッチ (PMN) が形成されると考えられている (Dieterich & Detmar, 2016; Stacker et al., 2014)。複数の腫瘍モデルにおいて、腫瘍排出LNのLECは炎症応答関連遺伝子の顕著な上方制御とCD41増加、周囲のフィブリン沈着を示すことが報告されており (Commerford et al., 2018)、これらの表現型変化の機能的意義の解明が求められてきた。

細胞外小胞 (EV) は、直径約50 nmから数µmの脂質膜に包まれた細胞内粒子であり、細胞間コミュニケーションの重要な要素として注目されている (Becker et al., 2016; Kanada et al., 2016; Tkach et al. Cell 2016)。EVは血流を介して遠隔臓器にPMNを形成することが多くの研究で示され、腫瘍由来EVの特定インテグリン (α6β4、α6β1、αvβ5など) が臓器トロピズムを規定することが明らかにされた (Hoshino et al. Nature 2015; Liu et al., 2016; Peinado et al. NatMed 2012)。しかし、リンパ系を介したEVとLNの相互作用については、これまで矛盾する報告があり、その全容は未解明であった。Hood et al. (2011) はB16F10 EV注射後に排出LNでのPMN形成を観察したが、Pucci et al. (2016) はCD169+マクロファージへのEV取り込みを確認した一方で、LECへのEV取り込みを否定した。また、Broggi et al. (2019) や Garcia-Silva et al. (2019) はメラノーマ患者のリンパ液から高濃度メラノーマEVを検出したが、LECによる機能的なEV取り込みの意義は依然として不明なままであった。特に、腫瘍由来EVが排出LNのLECと直接コミュニケーションし、LN免疫抑制に寄与する機序は全く未開拓の領域であり、この知識ギャップを埋めることが重要であった。

目的

本研究の目的は、B16F10メラノーマ由来EVのリンパ管系を介したLNへの輸送動態と細胞特異的取り込みを詳細に解明することである。具体的には、以下の点を検証する。 ① EVがLNリモデリング(リンパ管内皮細胞 (LEC) 増殖・リンパ管拡張)を誘導するか否か。 ② EVが腫瘍抗原クロス提示を介してCD8+ T細胞の免疫応答を抑制するか否か。 ③ VCAM-1/インテグリン軸がLECへのEV取り込みにおいて果たす役割を明らかにすること。 ④ 腫瘍内因性EV産生が排出LNに与える影響を明らかにすること。 これらの検証を通じて、腫瘍由来EVとLNの相互作用が腫瘍進行および免疫抑制にどのように寄与するかを包括的に理解することを目指す。本研究は、B16F10細胞、HCMel3細胞、SK-Mel-28細胞、SK-Mel-147細胞を用いて、EVとリンパ系の相互作用メカニズムを解明し、新たな治療標的の同定に貢献することを目指す。

結果

EVのLN輸送と細胞特異的取り込みパターン: tdTomato標識B16F10 EVを注射後2時間で、LNの皮下洞および皮質洞に広範なtdTomato蓄積がTEMおよび免疫蛍光染色により確認された (Figure 1A)。DiD標識EV注射16時間後のFCM解析では、EV取り込みはCD169+F4/80+髄洞マクロファージ (MSM) とリンパ管内皮細胞 (LEC) に強く限局しており、皮下洞マクロファージ (SSM、CD169+F4/80-)、髄質索マクロファージ (MCM、CD169-F4/80+)、血液内皮細胞 (BEC)、線維性細網細胞 (FRC)、樹状細胞 (DC)、リンパ球ではEV取り込みが検出されなかった (Figure 1B, 1C)。LEC亜集団ではfLEC (CD44+) とmLEC (Mrc1+) で最も強い取り込みを示し、cLEC (Ackr4+) は低かった (Figure 1F)。EV取り込みは一次排出膝窩LNに強く限局し、二次LN (仙骨、鼠径) ではわずかのみであり、LNが効率的なEVフィルターとして機能することを確認した (n=3 experiments) (Figure 1D, 1E)。B16F10-palmGFP腫瘍内因性EVモデルでも、排出LN LECにGFPの有意な蓄積が認められ (vs 非排出LN、p<0.05)、EV取り込みがin vivo腫瘍条件でも生じることを確認した (Figure 1G)。

VCAM-1/インテグリン依存的LEC取り込み: EVプロテオーム解析により、α4インテグリン (ITGA4) およびβ1インテグリン (ITGB1) のEV表面発現が直接粒子FCMで確認された (p<0.05) (Figure 2A, 2B)。VCAM-1はLN洞LECに構成的に発現し、LEC亜集団ではfLECで最高発現を示した (Figure 2C, 2D)。B16F10腫瘍担癌マウスではVCAM-1発現がさらに誘導増加した。LEC特異的VCAM-1欠損 (Prox1-CreERT2×Vcam1fl/fl) マウス (n=3-4 pools of 2-3 mice) では、B16F10およびSK-Mel-28 EVのLEC取り込みが有意に減少した (p<0.05) (Figure 2F)。VCAM-1およびβ1インテグリン中和抗体の共注射でもLEC取り込みが有意に低下したが、MSMへの取り込みは変化しなかった (Figure S3F, S3G)。α4の抗体ブロックはLEC取り込みに影響しなかった。HCMel3、SK-Mel-28、SK-Mel-147の追加細胞株でも同一の選択的取り込みパターンが確認され、メラノーマEVのLEC取り込みの普遍性が示された (Figure S2C-S2E)。ヒトLN LEC scRNA-seq解析でもfLEC相当集団での高いVCAM-1発現が確認され、ヒトへの外挿可能性が示唆された (Figure 2E)。

リンパ管リモデリングとLEC増殖の誘導: 3日連続EV注射後のLNは、対照 (リポソーム) と比較して重量 (Figure 3B) および細胞充実度 (Figure 3C) が劇的に増加した (n=4 mice/group)。ライトシート顕微鏡により、Lyve-1+Prox1+リンパ管空間の有意な拡張が確認された (Figure 3D)。FCM解析では、LEC総数とKi67+LEC比率が有意に増加し (p<0.05)、B16F10 EVがLECの増殖とリンパ管拡張を誘導することを証明した (Figure 3E, 3F)。scRNA-seq解析では、EV注射後のfLECで82遺伝子の上方制御と143遺伝子の下方制御が同定され、これらは炎症応答およびリンパ管シグナリング関連遺伝子であった (Figure 4C, 4D)。特に、マクロファージスカベンジャー受容体1 (Msr1)、リンフォトキシンβ (Ltb)、骨髄ストローマ抗原2 (Bst2) など、免疫調節機能を持つ遺伝子の上方制御が認められた (Figure 4E, 4F)。

腫瘍抗原クロス提示とCD8+ T細胞アポトーシス誘導: B16F10-ova EV注射後、LN LECのH2-Kb/SIINFEKL複合体発現が有意に増加した (p<0.05) (Figure 3H)。クロス提示はBEC、MSM、DC、リンパ球では検出されず、LECが腫瘍抗原クロス提示の細胞として特異的に機能することを示した。OT-1 CD8+ T細胞移植腫瘍担癌マウスのLNでは、SIINFEKL特異的CD8+ T細胞のアポトーシスが増加した (AnnexinV+率上昇、p<0.05) (Figure 5H, 5I)。また、effector OT-1細胞のB16F10-ovaに対する殺傷能も低下した (Figure 5K)。Rab27a欠損B16F10-ova腫瘍では、LN LECのSIINFEKLクロス提示が有意に減少した (p<0.05) (Figure 5F)。さらに、Rab27a欠損腫瘍を移植したマウス (n=6-7 mice/condition) では、PmelおよびDct特異的CD8+ T細胞のアポトーシスが有意に減少した (p<0.05) (Figure 5I)。Rab27a欠損腫瘍を移植したOT-1 T細胞養子移入マウスでは、LN CD8+ T細胞の増殖能が有意に増加し (p<0.05)、B16F10-ova細胞に対する殺傷能も顕著に向上した (p<0.05) (Figure 5J, 5K)。Rab27a欠損によりEV放出は親細胞と比較して約50%減少した (Figure 5B)。

考察/結論

本研究は、メラノーマ由来細胞外小胞 (EV) がリンパ管を介して排出リンパ節 (LN) のリンパ管内皮細胞 (LEC) と特異的なコミュニケーションを行い、二つの独立した免疫抑制機序を発揮することを初めて包括的に実証した。

新規性: 本研究で初めて、腫瘍由来EVがVCAM-1/α4β1インテグリン軸依存的なLEC増殖とリンパ管拡張を誘導し、転移前ニッチ (PMN) 形成に寄与すること、およびLECによる腫瘍抗原クロス提示を介してCD8+ T細胞のアポトーシスを誘導するという新規の免疫抑制メカニズムを明らかにした。特に、EVの臓器指向性を決定するインテグリンコードの概念 (Hoshino et al. Nature 2015) をリンパ系に拡張する重要な知見である。

先行研究との違い: Pucci et al. (2016) がLECへのEV取り込みを観察しなかった結果と異なり、本研究ではLN LECへの有意なEV取り込みを観察した。この相違は、注射部位(足底 vs 腹腔内)や使用EVのインテグリンプロファイルの違いに起因する可能性が考えられる。本研究の複数メラノーマ細胞株 (B16F10、HCMel3、SK-Mel-28、SK-Mel-147) および複数注射部位での一貫した結果は、この選択的取り込みの普遍性を支持する。また、EVプロテオーム解析により、EV表面にα4インテグリン (ITGA4) およびβ1インテグリン (ITGB1) が存在し、これらがLEC上のVCAM-1と機能的に相互作用することを直接証明した点は、これまでの報告にはない。

臨床応用: 本知見は、VCAM-1/インテグリン軸の阻害による腫瘍EV-LEC結合の遮断、またはLECによるクロス提示のダウンストリームシグナリング抑制が潜在的な治療戦略となり得ることを示唆する。Rab27a欠損によるEV放出抑制が、LN LECの増殖と抗原クロスプレゼンテーションを減少させ、腫瘍特異的CD8+ T細胞の機能回復につながったことから、腫瘍のEV産生そのものを標的とすることも治療戦略となり得る。ヒトLN LECでのVCAM-1発現確認は臨床的外挿への根拠を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、LEC上のMHC-I/SIINFEKLが抗原特異的T細胞を活性化ではなくアポトーシスに誘導する機序として、LEC上の共刺激分子 (CD80、CD86) の発現不足や共抑制シグナル (PD-L1、LAG-3) の関与を詳細に解析する必要がある。また、Rab27a欠損によるEV放出抑制がova特異的CD8+ T細胞のアポトーシスに与える影響が限定的であったことは、ovaがEV非依存的に分泌される可能性や、B16F10モデルの免疫原性の低さに起因する可能性がある。より免疫原性の高い腫瘍モデルや免疫療法との併用において、EVを介した腫瘍抗原転送がCD8+ T細胞応答に与える影響を評価することが今後の研究方向性である。さらに、患者腫瘍由来EVを用いたヒト系での機能検証が今後必要とされる。

方法

EV単離と品質管理: B16F10-luc2(tdTomato、palmGFP、ova発現バリアント含む)、HCMel3、SK-Mel-28、SK-Mel-147細胞から72時間1% exosome-free FBS条件培地を回収した。700×gで細胞デブリを除去後、450 nmフィルターで濾過し、100 kDa限外濾過により1000倍濃縮した。その後、SEC (qEVカラム、iZON) でEVを精製した。EVの品質管理として、BCAタンパク定量、qNANO-TRPSによるサイズ測定 (平均直径70〜130 nm)、TEMおよびWBによるTsg101・Alixの確認、プロテオーム解析によるalbuminやcalnexinの非汚染を確認した。ヒトEVは、500 g、12,000 g、100,000 gの連続超遠心法で精製した。DiD蛍光標識EVはSEC前処理で作製した。

in vivo EV注射と組織解析: C57Bl/6N wildtypeマウス、Ackr4-GFPレポーターマウス、Prox1-CreERT2×Vcam1fl/flマウス(タモキシフェン50 mg/kgを5日間腹腔内注射で組み換え誘導)を使用した。DiD標識EV (5 µgまたは10 µg) を後肢趾蹠または背部皮膚に皮下/皮内注射し、対照としてリポソーム (FormuMax) を同量注射した。注射1〜72時間後に膝窩、仙骨、鼠径LNを採取し、FCM解析を行った。LEC亜集団はcLEC (Ackr4+)、fLEC (CD44+)、mLEC (Mrc1+) に分類した。ブロッキング実験では、VCAM-1、CD29、CD49d抗体(各5 µg)をEVと共注射した。

腫瘍内因性EVモデル: B16F10-palmGFP腫瘍を背部皮内接種し、14日後に排出LN(腋窩・鼠径)を採取し、FCMでGFP蓄積をLECストローマ細胞分画で定量した (n=7 mice)。Rab27a欠損B16F10-ova細胞はCRISPR-Cas9n二重ニッカーゼ法で作製し、EV放出が約50%減少することを確認した (n=3 replicates)。

scRNA-seq解析: Smart-seq2プロトコルを用いて、LN LECおよび髄洞マクロファージを384ウェルプレートにソートし、単細胞シーケンス (FGCZ) を実施した。データ解析はBolger et al. Bioinformatics 2014でアダプター配列と低品質リードを除去し、Dobin et al. Bioinformatics 2013でEnsembl mm10マウス参照ゲノムにアラインメントした。featureCountsで発現量を定量し、scran v1.4.5で品質フィルタリングと正規化を行った。Stuart et al. Cell 2019を用いてUMAPによる次元削減とFindMarkers機能による差次遺伝子発現解析 (min.pct=0.20、logfc.threshold=0.25、p_val_adj<0.05、MAST検定) を行った。全シーケンスデータはArrayExpress (E-MTAB-11025, E-MTAB-10434) で公開されている。

クロスプレゼンテーション解析: B16F10-ova EV (10 µg) を皮下注射し、LN LEC上のH2-Kb/SIINFEKL複合体をFCM (抗SIINFEKL-APC) で定量した (n=3-4 pools of three mice)。Ly5.1+ OT-1 CD8+ T細胞を骨髄養子移入 (1×10⁶細胞、尾静注) し、腫瘍担癌マウスのLNでSIINFEKL特異的CD8+ T細胞のアポトーシス (AnnexinV+) および腫瘍細胞殺傷能 (B16F10-ova共培養、Zombie-NIRで死細胞標識) を評価した。

ヒトLN LEC scRNA-seq再解析: GSE124494 (Takeda et al., 2019) のraw dataをCCA整合 (Stuart et al. Cell 2019) で解析し、ヒトLN LEC集団でのVCAM-1発現パターンを確認した。

統計解析: GraphPad Prism v9を用いて統計解析を行った。詳細な検定方法は各図の凡例に記載されているが、主にStudent’s t-testおよびANOVAを用いた。