- 著者: Stephanie N. Hurwitz, James M. Olcese, David G. Meckes Jr.
- Corresponding author: James M. Olcese (james.olcese@med.fsu.edu, Department of Biomedical Sciences, Florida State University College of Medicine); David G. Meckes Jr. (david.meckes@med.fsu.edu, Department of Biomedical Sciences, Florida State University College of Medicine)
- 雑誌: Journal of Visualized Experiments (JoVE)
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Protocol
- PMID: 30799860
背景
血液・尿・細胞培養上清からの EV (extracellular vesicle; 細胞外小胞) 単離プロトコルは確立されている。Thery et al. (2002) は培養上清からの差次超遠心法を、Kowal et al. (2016) は EV サブタイプを区別するプロテオミクスマーカーを報告し、循環 EV 解析の基盤が築かれてきた。Skog et al. (2008) は膠芽腫微小胞が RNA・タンパクを運び診断バイオマーカーとなることを示した。しかし、組織から直接 EV を抽出するための標準的・再現性のある方法は存在しなかった。固形腫瘍を含む組織由来 EV は細胞外マトリックス・コラーゲン線維・間質細胞等と密接に会合しており、効果的な解離なしには高品質な EV を回収できない。腫瘍由来 EV は血中循環 EV (exosome) とは異なる組成を持つ可能性があり、原発腫瘍局所の分子環境を反映した腫瘍 EV の直接解析はバイオマーカー研究・腫瘍免疫・転移機構研究において重要であったが、組織特異的 EV の in vivo 特性を捉える標準法は依然として未確立で、再現性ある組織抽出プロトコルが不足していた。
目的
マウス脳 (正常) および肺腫瘍組織からEVを直接抽出・精製するための再現性の高いプロトコルを開発・標準化し、TEM・NTA・Western blot・LC-MS/MSによる品質確認と下流解析の手順も含めて詳細に記述すること。密度勾配による分画と組織種別の違いがEV回収特性に与える影響を示すこと。
結果
組織種別によって EV 分画位置が異なる:脳組織由来 EV は密度の低い分画 2 (約 1.068 g/mL) に集中し、肺腫瘍由来 EV はより密度の高い分画 5 (約 1.101 g/mL) に主に回収された (Figure 1)。10-30% イオジキサノール勾配の 10 分画それぞれで密度・タンパク質量・NTA シグナルを測定すると、組織種別に特異的なパターンが得られた。この密度の差異は腫瘍 EV が DNA を多量に含有し重量が増加していることを反映している可能性が示唆された。分画間の回収再現性は複数の独立試料 (n=3 組織標本) で確認された。
TEM・NTA で EV 形態とサイズ分布を確認する:TEM で典型的なカップ形状 (cup-shaped) の EV 形態が確認された (Figure 2)。NTA により回収された EV の約 92% が 250 nm 以下であることが示され、プロトコルが主に small EV を回収することが確認された。粒子濃度・サイズ分布は投入組織量と相関した再現性のある値を示し、回収粒子数は組織重量に概ね比例した。
Western blot でテトラスパニン EV マーカーを検出する:テトラスパニン (CD81・CD9・CD63) の陽性バンドが回収分画で確認された (Figure 3)。Rab5 (エンドソームマーカー) も検出され、エンドソーム系由来の小胞成分が含まれることが示された。コントロールとして細胞溶解液との比較も示され、EV 特異的なマーカープロファイル (テトラスパニン陽性・細胞内小器官マーカー乏少) が確認された。
LC-MS/MS で 918 タンパク質の EV プロテオームを回収する:代表的な肺腫瘍 EV 試料の LC-MS/MS により 918 タンパク質が同定された (Figure 4)。これにはエクソソームデータベース (ExoCarta) 登録タンパク質を含む多様な EV マーカーが含まれており、本プロトコルが高品質・高複雑性の EV プロテオームを再現的に回収できることが示された。同定タンパク質の大半が既知 EV カーゴと重複し、夾雑タンパクの混入が低いことが裏付けられた。
考察/結論
本プロトコルは固形腫瘍組織および正常脳組織から機能的な EV を直接精製する、新規かつ初の詳細・標準化手順を提供した。パパイン解離 + Dounce ホモジナイズという穏やかな機械的破砕と差次遠心・密度勾配の組み合わせにより、細胞デブリや夾雑タンパク質を除去しながら高品質な EV を回収できることが示された。
先行研究の培養上清・体液からの EV 単離法とは異なり、本法は組織内 EV を直接捕捉できる点が際立つ。腫瘍 EV が正常組織 EV より高密度の分画に回収されるという知見は、腫瘍 EV が大量の DNA やタンパク質を封入することを示す他の研究 (large oncosome・tumor microvesicle [TMV] dsDNA 研究、Thakur et al. CellRes 2014) と整合する。膠芽腫微小胞が RNA・タンパクを運ぶこと (Skog et al. NatCellBiol 2008) や腫瘍 EV インテグリンによる臓器向性決定 (Hoshino et al. Nature 2015) といった機能研究は、いずれも組織局所 EV の直接解析を必要としており、本プロトコルはその技術的空白を埋める。
臨床応用の観点では、循環 EV とは組成・積荷が異なり得る組織局所 EV を直接解析できることが、腫瘍免疫微小環境研究・転移前ニッチ形成研究・組織バイオマーカー探索 (bench-to-bedside) において有用なツールを提供する。具体的には固形腫瘍生検検体からの腫瘍 EV プロファイリングによるコンパニオン診断や、転移臓器における EV カーゴの直接同定への展開が期待される。
残された課題として、組織量の制約、パパイン解離の最適化条件 (時間・温度・酵素量) の組織ごとの検討、および回収された EV の細胞起源 (腫瘍細胞・間質細胞・免疫細胞由来の混合物) の弁別が今後の標準化に必要とされる。さらに、density gradient 分画位置の組織間差を定量的に較正し、single-vesicle 解析や免疫アフィニティ捕捉と組み合わせることで細胞起源を分離する方向性が今後の検討課題である。
方法
組織解離バッファーの調製:パパイン (10mg) + 5.5mM L-システイン + 1mM EDTA (ethylenediaminetetraacetic acid) + 0.5mM EGTA (egtazic acid; カルシウムキレート剤) + 0.5mg/ml BSA (bovine serum albumin) をHibernate-E培地に溶解。チオール基保護剤を添加してシステインプロテアーゼ活性を維持。37°Cで最低30分プレインキュベーション (パパイン活性化)。
組織ホモジナイズ:Hibernate-E培地中でDounceホモジナイザーを用いて約30ストロークで機械的破砕。過度の破砕を避けるため回数・圧力を標準化。
差次遠心 (differential ultracentrifugation):500×g (5分) →2000×g (10分) →10,000×g (30分) で細胞・デブリ・大型粒子を除去。0.45µmフィルターで残留粒子をさらに除去。100,000×g・2時間の超遠心 (ultracentrifugation) でEVをペレット化。
イオジキサノール密度勾配 (iodixanol density gradient):10-30%イオジキサノール (OptiPrep) ステップ勾配を作製し、268,000×g・50分で超遠心。1mLずつ10分画を上部から回収。分画の密度をrefractometerで測定。本プロトコルは ISEV2023 推奨の isolation (differential ultracentrifugation + iodixanol density gradient) と characterization (TEM・NTA・CD9/CD63/CD81 Western blot) を網羅する。なお本論文は手順記述が主目的の Protocol であり統計的仮説検定は実施しないが、各分画の回収再現性は独立試料間で確認している。
下流解析:TEM (形態確認) ・NTA (サイズ分布・粒子数) ・Western blot (CD81・CD9・CD63・Rab5等) ・LC-MS/MS (タンパク質同定)。