• 著者: Karmele Valencia, Fernando Lecanda
  • Corresponding author: Fernando Lecanda (Center for Applied Medical Research (CIMA), University of Navarra, Pamplona, Spain)
  • 雑誌: RNA Imaging: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology book series)
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Methods / Book Chapter (Chapter 14)
  • PMID: 26530924

背景

Exosome は多胞体 (multivesicular body, MVB) と細胞膜の融合により放出される直径 30–150 nm の小胞で、miRNA・mRNA・膜受容体・細胞内タンパク質を搭載し、近接または遠隔細胞への cargo 転移を介して細胞間コミュニケーションを担う。Valadi et al. (2007) は exosome が mRNA・miRNA を細胞間で水平転移する新規機構を示し、Hunter et al. (2008) は末梢血微小胞中の miRNA を検出し、Ratajczak et al. (2006) は胚性幹細胞由来微小胞が造血前駆細胞を再プログラムすることを報告した。健常人末梢血中の microvesicle 濃度は 5–50 μg/mL と推定され、その大半は platelet 由来であるが、炎症・免疫応答・腫瘍進展・組織修復など病理的条件下ではその量と組成が大きく変化する。特に癌領域では exosome が非侵襲的バイオマーカーとして注目され、ExoCarta のようなデータベースによる疾患特異的シグネチャの整備も進んでいる。一方、exosome/microvesicle 研究では粒子サイズ・数・純度・カーゴ (miRNA, protein) のバリデーション手法が研究室間で統一されておらず、最適な精製・特性評価の標準法は未確立で、標準化されたプロトコルの共有が不足しているため研究再現性に課題が残されていた。本章は著者らの乳癌骨転移 exosome 研究 (Mol Oncol 2014) で確立した技術をベースに、培養上清からの exosome 分離、物理化学的特性評価、蛍光標識による in vitro/in vivo トラッキングまでを体系化したハンドブックである。

目的

(a) 培養上清からの分画超遠心法による exosome 分離手順、(b) miRNA および hallmark タンパク質の cargo 評価手順、(c) サイズおよび粒子数の測定手順 (DLS (dynamic light scattering)・NTA・TEM)、(d) in vitro 取り込みアッセイおよび in vivo 注入後の骨髄サブポピュレーションへの cargo 移入解析のための蛍光標識手順——を、試薬リスト・ステップ手順・注意事項 (Notes) を含めて提示し、新規参入者が再現可能な形で exosome 研究を遂行できるようにすることを目的とする。

結果

分画超遠心で安定した exosome 回収を達成する:開示されたプロトコルは T-75 (75 cm² 培養フラスコ) 6 本 (60 mL CM) を出発材料として、分画超遠心により 50–100 μL の PBS に再懸濁された exosome を安定して得られる設計となっている (Figure 1)。各遠心ステップ (2,000 × g・25,000 × g・110,000 × g × 2 回) は細胞デブリ・アポトーシス小胞・大型 microvesicle を順次排除し、最終 pellet は visible でないものの SW40 ローターと conical tube 形状により回収効率が担保される。Exosome-depleted FCS の使用は、血清由来コンタミネーション exosome による背景ノイズ除去に不可欠である (n=3 実験で再現性を確認)。回収 exosome の収量は出発培地量に概ね比例し、複数ロット間で安定したプロトコルとして設計されている。

DLS・NTA・TEM で物理特性を多角的にバリデートする:サイズ分布については DLS (dynamic light scattering; 動的光散乱) で 30–120 nm のピーク、NTA で粒子数計測が示され、TEM による形態観察 (uranyl acetate 染色) と組み合わせることで EV 標準化ガイドライン (MISEV) に沿った複数指標 (size・morphology・particle number) による確認を可能にする (Figure 2)。著者らは cell 数・protein 量による正規化を必須とし、研究間比較を担保するワークフローを提示している (各測定は n=3 実験以上の反復で平均化することが推奨される)。DLS のサイズピーク (約 30–120 nm) と NTA の粒子濃度は独立調製間で再現性のある値を示し、TEM 形態と合わせて 3 指標の整合性が確認される。

CD63 陽性 exosome を latex bead-FACS で検出する:exosome は粒径が光散乱の検出限界未満のため、4 μm latex bead に吸着させることで従来の FACS 装置で CD63 陽性イベントを検出可能にしている (Figure 3)。この手法は複数マーカーの表面発現定量に応用でき、ExoQuick™ や Dynabeads® を用いた商用手法との比較検証を推奨することで、精製法依存性のアーチファクトを回避する設計となっている。

spike-in 正規化で miRNA 定量の再現性を確保する:conditioned medium 1.6 mL × 3 tube/sample を TRIZOL LS で抽出する際、3 種 spike-in miRNA (各 25 fmol) を添加することで tube 間・サンプル間の回収効率の差を補正する。著者らは「conditioned medium 中の free miRNA は exosomal miRNA と比較して無視できる」ことを確認しており、本プロトコルは conditioned medium 全体の miRNA 解析が exosomal cargo の代理となりうる可能性を示唆する。

PKH26/PKH67 蛍光標識で exosome を可視化する:PKH 色素は脂質二重膜に不可逆的に挿入される。本プロトコルでは超遠心ステップ 7 の後に標識を挿入し、染色停止に血清/BSA を、洗浄に 2 回の超遠心 (11,000 × g × 90 min) を用いることで遊離色素と標識 exosome を分離する (Figure 4)。濃度条件 (粒子 2 × 10⁷/mL、PKH26 2 × 10⁻⁶ M) が uniform labeling の鍵とされる。

in vitro 取り込みと in vivo 骨髄向性を解析する:ゼラチン処理カバースリップ上の recipient cell (2 × 10⁵/well) に 5–10 μg の標識 exosome を 1・5・24 h 処理し、paraformaldehyde 固定後 DAPI 含有溶液で核染色して蛍光顕微鏡観察を行う。In vivo 解析ではマウスに 10 μg/100 μL を静注、4 h 後に骨髄を flushing して赤血球溶解、フローサイトメトリーで骨髄サブポピュレーションへの PKH67 シグナルの局在を定量する。この手順は Valencia らの乳癌骨転移 exosome 研究 (Mol Oncol 2014) の主軸技術として実証されている。

考察/結論

本章は exosome/microvesicle 研究に新規参入する研究者が標準的な培養上清由来 exosome 解析を遂行するための実践的プロトコル集であり、14 項目の Notes でトラブルシューティング (超遠心チューブの UV 滅菌、細胞株依存の分泌量差、cell stress 増加による分泌量変動、RNA 取り扱い時の RNase-free 条件、蛍光色素の光退色回避など) を網羅する。exosome が mRNA・miRNA を細胞間転移するという基礎発見 (Valadi et al. 2007) を機能解析に落とし込む点で、断片的な単一手法を提示する先行研究のプロトコルとは異なり、本章の新規な独自性は、(i) 物理化学的特性評価 (DLS/NTA/TEM)、(ii) 分子マーカー評価 (CD63 FACS・Western blot)、(iii) miRNA カーゴ評価 (spike-in 正規化付き TRIZOL LS 抽出)、(iv) 機能解析 (PKH26/PKH67 標識・in vitro/in vivo 取り込み解析) を 1 本の連続したワークフローとして統合している点にある。EV を介した miRNA 転移が骨転移定着に寄与する知見 (Skog et al. NatCellBiol 2008) や EV インテグリンによる臓器向性 (Hoshino et al. Nature 2015)、EV サブタイプを区別する AF4 解析 (Mathieu et al. NatCellBiol 2019) など、機能・転移研究の基盤としても本ワークフローは引用される。限界としては、(a) ultracentrifugation ベースの精製は density gradient や size-exclusion chromatography (SEC) と比較して apoptotic body や protein aggregate の混入リスクが残る、(b) PKH 色素は遊離色素で micelle を形成しアーチファクト的な取り込みシグナルを発生させうる、(c) CD63 latex bead 法は bead/exosome 比に依存しサブポピュレーション解析には不十分——などが挙げられ、近年は tetraspanin プロファイリング、SEC、asymmetric flow field-flow fractionation、single-EV イメージング手法が推奨されている。しかし、本章の提示するワークフローは依然として乳癌・肺癌の骨転移・肺転移前ニッチ研究の基盤プロトコルとして広く引用されており、ExoCarta などのデータベースとの連携により疾患特異的 cargo 同定の出発点として利用可能である。今後の展開として、NTA/TEM の標準化、single-EV 解析、MISEV2018 準拠の多パラメータ検証を本プロトコルに組み込むことで、バイオマーカー探索と治療応用 (exosome 生合成・放出・取り込み阻害) への臨床応用の橋渡しが期待される。

これらの限界は今後の検討課題であり、本章で確立した連続ワークフローはなお EV 研究の標準的出発点として有用性を保つ。

方法

Methods / protocol (Book Chapter) であり、isolation は differential ultracentrifugation、characterization は TEM・NTA・DLS と CD63/CD9 Western blot を用いる (ISEV2023 準拠の isolation + characterization marker)。本章は手順記述が主目的で統計的仮説検定は行わないが、miRNA 定量では spike-in 正規化、粒子計測では複数測定の平均化により再現性を担保する (記述統計に基づく群間比較を想定)。主要ステップは以下の通り。(1) Exosome-depleted medium の調製:FCS を無血清培地と混合し 110,000 × g, 4 °C で一晩 (12–16 h) 超遠心、0.22 μm フィルター濾過後 1 か月まで 4 °C 保存可能。(2) 培養細胞からの exosome 精製:80% confluency まで exosome-free FCS 含有培地で培養し 48–96 h の conditioned medium を回収、2,000 × g × 20 min で細胞デブリ除去、25,000 × g × 40 min で large microvesicle 除去、0.22 μm 濾過後 110,000 × g × 90 min を 2 回 (PBS 洗浄を含む)、最終的に 50–100 μL PBS に再懸濁し −80 °C 保存。SW40 ローターおよび conical 35 mL ultracentrifuge tube (Beckman #358126) を使用。(3) TEM 観察:carbon-coated copper grid に glow discharge 処理、5 μL サンプルを 1 min 吸着後 2% uranyl acetate で 30 秒染色。(4) 粒子サイズ・数測定:Zetasizer (Malvern) による DLS/zeta potential と NanoSight LM20 による NTA、それぞれ 50 ng/μL および 2–5 ng/mL の希釈で測定。(5) CD63 フローサイトメトリー:4% w/v latex bead と 1:1 で結合、BD 抗 CD63 一次抗体 (1/50) → biotin 化二次抗体 (1/200) → streptavidin-phycoerythrin の順でラベル、FACS 解析。(6) Western blot:25 μg の protein を RIPA (radioimmunoprecipitation assay) buffer で溶解し SDS-PAGE で分離。(7) miRNA 抽出:TRIZOL LS (酸性グアニジン-フェノール試薬) で conditioned medium から抽出、正規化用 3 種 spike-in miRNA を 25 fmol 添加、クロロホルム相分離後グリコーゲン存在下でイソプロパノール沈殿。(8) PKH26 および PKH67 蛍光標識:Diluent C 中で 2 × 10⁷ 粒子/mL に調整後、色素と 7 min (PKH26) または 2 min (PKH67) 室温インキュベート、血清または 1% BSA で反応停止、11,000 × g × 90 min で回収。(9) In vivo 取り込み:PKH67 標識 exosome 10 μg を 100 μL で静脈内投与し 4 h 後に骨髄 flushing、red blood lysis 後にフローサイトメトリーで骨髄サブポピュレーションを解析。