• 著者: Mathilde Mathieu, Lorena Martin-Jaular, Grégory Lavieu, Clotilde Théry
  • Corresponding author: Clotilde Théry (Institut Curie, Paris, France)
  • 雑誌: Nature cell biology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-02
  • Article種別: Review
  • PMID: 30602770

背景

細胞外小胞 (EV) は1960年代後半にその存在が記述されて以来 (Wolf 1967, Anderson 1969)、2011年に「細胞外小胞」として統一的に定義され (György et al. 2011)、多くの生理・病理機能が記述されてきた。特に2007年のエクソソームによるmRNA/miRNA機能移送の発見以降 Valadi et al. NatCellBiol 2007、エクソソームと形質膜由来EVの機能的区別が重要な研究課題として浮上した。しかし、両者はサイズ、密度、膜配向といった生物物理的特性が重複するため、現行の単純な超遠心ベースの精製法では確実に分離することが困難である。このため、多くの「エクソソーム」研究が実際にはエクソソームと形質膜由来EVの混合物を扱っており、「エクソソーム特異的」と主張される機能や分子機序の多くが他のEVサブタイプにも適用されうる可能性が指摘されていた vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018

EVは、細胞外に放出される脂質二重層に囲まれた構造体であり、その形成経路は大きく分けて2つ存在する。一つは形質膜からの出芽によるものであり、もう一つは多胞体 (MVB) の内腔小胞 (ILV) が形質膜と融合し、細胞外に放出される経路である。後者の経路で放出されるILVは「エクソソーム」と定義され、直径は200 nm未満である。エクソソームの分泌は当初、細胞が不要なタンパク質を排除するメカニズムとして提唱されたが Harding et al. JCellBiol 1983, Pan et al. JCellBiol 1985、1990年代後半には細胞間コミュニケーション、特に免疫応答やがんにおける役割が示唆された Raposo et al. JExpMed 1996, Wolfers et al. NatMed 2001。2007年には、エクソソームがmRNAやmiRNAを含み、これらが受容細胞に転送されると機能的に働き、細胞の挙動を変化させることが示され、この概念が強く支持された Valadi et al. NatCellBiol 2007。同時に、微小胞 (microvesicles)、微粒子 (microparticles)、またはエクソソーム (ectosomes) と呼ばれる形質膜由来EVも、機能的なタンパク質やRNAを細胞間で転送することが示された。

エクソソームと同程度のサイズのEVは、様々な細胞種の形質膜や膜突起 (例えば、微絨毛、糸状仮足、繊毛、鞭毛) から出芽することが観察されている。エクソソームサイズのEVは、サイズ、密度、膜配向といった生体物理学的特性が共通しているため、現在の方法では効率的に分離することができない。細胞種、環境条件、その他の要因 (例えば、感染や分子の人工的発現) に応じて、放出されるMVB由来エクソソームとその他の小型EVの相対的な割合は大きく変動し、現在のほとんどのプロトコルで得られる調製物には、エンドソーム由来 (エクソソーム) および非エンドソーム由来の小型EVの混合物が含まれる可能性が高い。さらに、様々な密度のリポタンパク質 (中間密度、高密度、低密度、超低密度リポタンパク質) や、最近同定されたエクソメアなどの脂質ベースの非小胞性構造も共存する。最近、遅いエンドソーム成分に富むエクソソームは、テトラスパニンCD63 (MVBに蓄積するタンパク質) とCD9/CD81 (主に形質膜に存在する) を持つ小型EVサブタイプとして定義されたが Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016、この定義は他の細胞や条件での検証を待つ必要がある。

このような状況下で、EVサブタイプ間の厳密な区別と、それぞれの生合成、分泌、取り込みメカニズムにおける特異性の理解は依然として未解明な部分が多く、EV研究の進展における重要な課題となっていた。特に、エクソソーム特異的とされてきた多くの分子メカニズムが、実際には他のEVサブタイプや細胞内輸送経路にも共通して関与しうる可能性があり、この点が従来の解釈を困難にしていた。EVの多様性に関する知識は増加しているものの、異なるEVサブタイプ間の機能的な違いや、それらを特異的に分離・同定するための信頼性の高いバイオマーカーの同定が不足している。

目的

本レビューの目的は、エクソソームと形質膜由来EVの生合成、分泌、標的化、内在化、積荷送達における特異性を批判的に論じ、各ステップを研究するための方法論的留意点と未解決の課題を整理することである。EVの多様性を考慮し、既存の分離方法の限界を明確にするとともに、各EVサブタイプに特異的な分子メカニズムを特定することの重要性を強調する。また、EVの取り込みメカニズムと細胞内運命に関する現在の知識の不足を指摘し、今後の研究の方向性を示すことも目的とする。最終的に、EV研究の進展と臨床応用に向けて、より厳密な用語の使用と包括的な研究アプローチの必要性を提言する。

結果

EVサブタイプの物理的特性と分離法の本質的限界: エクソソーム (多胞体 (MVB) 由来の内腔小胞 (ILV)、直径 <200 nm)、小型形質膜EV (微小突起・繊毛・鞭毛からの出芽、数十~数百nm)、大型形質膜EV (ADP-リボシル化因子6 (ARF6) 依存的脱落、100-1000 nm)、アポトーシス小体 (50-5000 nm)、エクソメア (非小胞性脂質ベース構造)、リポタンパク質 (中間密度リポタンパク質 (IDL)、低密度リポタンパク質 (LDL)、高密度リポタンパク質 (HDL)、超低密度リポタンパク質 (VLDL)) はサイズや密度が部分的に重複する (Fig 1)。差速遠心法では、最大速度 (100,000g以上の超遠心) で「small EV分画」を回収できるが、同じサイズ範囲のMVB由来エクソソームと形質膜出芽EV、さらにはHDLやエクソメアが共沈降するため、これを「エクソソーム」と呼ぶことは原則的に不正確である。Kowal et al. ProcNatlAcadSciUSA 2016は、CD63 (MVB集積型テトラスパニン) とCD9/CD81 (主に形質膜型) の発現パターンにより、CD63高発現・CD9/CD81低発現という遅いエンドソーム由来エクソソームサブタイプの定義を提案したが、これはすべての細胞型・条件での普遍的定義として確認されていない。リポタンパク質はサイズと密度に基づく分離法を組み合わせることでEVから分離可能である。例えば、最も大型のEVは2,000g程度の低速遠心で回収され、中間サイズのEV (150-300 nm) は10,000-20,000gで回収される。最も小型のEV (<150 nm) は高速超遠心後に回収されるが、この分画にはエクソメアやHDLなどの非EV構造も含まれる可能性がある。最近の研究では、非対称フロー場フロー分画法 (asymmetric flow field-flow fractionation) を用いることで、EVとリポタンパク質をより効率的に分離できる可能性が示唆されている Zhang et al. NatCellBiol 2018

ILV形成機序のエクソソーム特異性の評価 (ESCRT系): エンドソーム選別輸送複合体 (ESCRT) 系はMVBでのILV形成に中心的役割を担うが、ESCRT-I〜IIIは形質膜出芽でも機能する (T細胞免疫シナプスからのMV放出、ARRDC1依存的MV形成等)。したがってESCRT-I/-II/-III依存性のみではエクソソームのMVB起源を証明できない (Fig 2)。ESCRT-0成分であるHRS (HGS遺伝子にコード) やSTAM1 (signal transducing adapter molecule 1) は形質膜出芽の記述モデルには登場しておらず、ESCRT-0依存性がエクソソーム特異的指標となりうる可能性がある。実際、HeLa細胞でHRSまたはSTAM1をRNAiで枯渇させると、エクソソームと定義されるCD63陽性・主要組織適合遺伝子複合体II/CD81陽性のsmall EV産生が低下した (Colombo et al. JCellSci 2013)。ただし、HRS枯渇はヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染細胞でのテザリン (BST2) 分解阻害を通じてウイルス放出も低下させ、テザリンは形質膜上でMVB由来エクソソームの分泌も留保することから、HRS依存性効果がエクソソーム特異的であるという解釈には非特異的効果が混入する可能性がある。ユビキチン化タンパク質はsmall EVに存在することが報告されているが (Buschow et al. 2005, Smith et al. 2015)、形質膜由来EVからの欠如は確立されていない。また、ISG15と呼ばれるユビキチン様分子のタンパク質への結合は、MVB-リソソーム融合を促進し、エクソソーム分泌を減少させることが示された (Villarroya-Beltri et al. 2016)。しかし、ISG15の重要な標的の一つであるTSG101は形質膜由来小型EVの形成にも必要であるため、ISGylation亢進後の分泌減少はエクソソームに限定されない可能性がある。

脂質 (セラミド/nSMase2経路) のEV形成における役割と限界: セラミドはスフィンゴミエリナーゼによって生成され、ILV形成をESCRT非依存的に促進する (Fig 2)。Trajkovic et al. Science 2008は、中性スフィンゴミエリナーゼ2 (nSMase-2、SMPD3遺伝子にコード) 阻害がMVBでのILV出芽とエクソソーム放出を阻害することを示した。しかし、GW4869等のnSMase-2阻害薬やnSMase-2標的siRNAは複数の非特異的効果を持つ。GW4869はわずかに大型の形質膜由来EVの代償的分泌を増加させる (Menck et al. 2017) か、nSMase非依存的細胞死を誘発する (Vuckovic et al. 2017) ことがある。nSMase-2は一般的なpost-Golgiトラフィッキングを制御するためすべての分泌経路に間接的影響を与え (Stoffel et al. 2016)、さらにセラミドはオートファジーを調節してMVBホメオスタシスに間接的に影響する (Scarlatti et al. 2004)。C. elegansではホスファチジルエタノールアミン (PE) の外葉化がEV出芽を誘発するが (Beer et al. 2018)、哺乳類細胞でのホスファチジルセリン (PS)・PEの外葉化 (スクランブラーゼ依存的) はむしろ形質膜由来EV産生に関与し、エクソソームへの影響は未検討である。

シンテニン-ALIX経路のエクソソーム生合成における役割と限界: シンテニン-1 (SDCBP遺伝子にコード) がシンデカン-1の細胞質ドメインに結合してALIX (PDCD6IP遺伝子にコード) をリクルートし、ESCRT-I-III成分とともにILVへの内向き出芽を促進する機序は、Src媒介シンデカン-1エンドサイトーシス (Imjeti et al. 2017) とARF6 (ADP-ribosylation factor 6)・ホスホリパーゼD2 (PLD2) GTPase活性に依存する (Ghossoub et al. 2014)。この経路はエクソソームの生合成に関与するが、すべての細胞型でMVB由来エクソソームに特異的ではない (Fig 2)。樹状細胞・脂肪細胞ではシンテニンはsmall EV (エクソソームに相当) に最も豊富だが、より大型のEVにも分布することが確認されている (Durcin et al. 2017)。また、ARF6は腫瘍細胞からのARF6依存的な大型形質膜EV産生にも必要であるため (Muralidharan-Chari et al. 2009)、ARF6依存性はエクソソーム特異的指標にはなりえない。MVBの酸性化もエクソソーム分泌を制御する可能性があり、Atg5やAtg16L1によるV1-ATPaseの解離、またはバフィロマイシン処理はMVBの酸性化を減少させ、ヒト細胞でエクソソーム分泌を増加させることが示された (Guo et al. 2017, Edgar et al. 2016)。

RAB GTPaseとSNAREのエクソソーム分泌特異性の問題: Rab GTPase (Ras-related in brain GTPase) は細胞内コンパートメント間の小胞輸送に重要な役割を果たすが、エクソソーム分泌への特異性は限定的である。Rab27a/bはMVBの形質膜へのドッキングに機能するが Ostrowski et al. NatCellBiol 2010、Weibel-Palade体やGolgi由来分泌顆粒 (Desnos et al. 2003)、HIV放出 (Gerber et al. 2015) にも関与するため、Rab27a/b阻害の表現型をEVのみに帰属するには追加検証が必要である (Fig 2)。Rab27a阻害は腫瘍細胞からの可溶性非EV結合タンパク質分泌も低下させる (Bobrie et al. 2012, Peinado et al. NatMed 2012)。Rab11a (Savina et al. 2005, Messenger et al. 2018) やRab35 (Hsu et al. 2010, Pucci et al. 2016) はリサイクリングエンドソームに機能し、リサイクリングエンドソーム起源または形質膜起源のEVにも関与しうる。可溶性N-エチルマレイミド感受性融合アタッチメントタンパク質受容体 (SNARE) タンパク質も同様に特異性に課題がある。YKT6 SNAREはWnt含有エクソソーム分泌に関与するが (Gross et al. 2012)、小胞体→Golgi輸送にも機能するため、阻害効果は通常の分泌経路全般に影響する可能性がある。シナプトソーム関連タンパク質23 (SNAP-23) は形質膜でのMVB融合を媒介するが (Verweij et al. 2018)、分泌顆粒の放出にも関与する。

エンベロープウイルス (HIV-1) とEVの類似性と差異: HIV-1 (直径約120 nm) はエクソソーム・small EVと物理的・分子的特性が酷似する (Fig 1)。コレステロール・スフィンゴミエリン・飽和脂質の高含量 (Brugger et al. 2006, Subra et al. 2007)、同一膜配向、CD63 (Orentas et al. 1993)・CD81 (Grigorov et al. 2009) テトラスパニン富化、ESCRT/TSG101 (Garrus et al. 2001)/ALIX (Fisher et al. 2007) の利用、Rab27a依存性 (Gerber et al. 2015) を共有する (Fig 2)。ただし、ARF6依存性はシンテニン含有エクソソームとHIV-1で異なり (シンテニン依存的エクソソームはARF6依存、HIV-1はARF6非依存)、HIV-1のGagタンパク質のヌクレオカプシドドメインがSynteninのPDZドメインを模倣してALIXにアクセスする。ウイルス感染細胞からのEV精製は単純な密度遠心では不可能に近く、ウイルスと改変EVが共沈降するため (Gluschankof et al. 1997, Nolte-‘t Hoen et al. 2016)、EV機能の解析が混乱する原因となっていることが指摘された。

EV取り込みの3ステップモデルと未解決問題: EV取り込みは①標的細胞への選択的ドッキング、②エンドサイトーシスによる内在化、③エンドソームからの積荷デリバリーという3段階に概念化される (Fig 3)。 ステップ①では、オリゴデンドロサイト由来small EVはミクログリアに優先的に取り込まれ (ニューロンには取り込まれない;Fitzner et al. 2011)、初代ニューロン由来EVは他のニューロンのみに捕捉される (Chivet et al. 2014)。一方、HeLa細胞は広範な種々のEVを取り込む (Svensson et al. 2013, Horibe et al. 2018)。CD47 (インテグリン関連タンパク質) のEV表面発現はマクロファージ・単球による貪食を回避し循環時間を延長させ、膵臓細胞への人工siRNA送達効率を改善した Kamerkar et al. Nature 2017。インテグリン Hoshino et al. Nature 2015、レクチン/プロテオグリカン (Christianson et al. 2013)、T細胞免疫グロブリンおよびムチンドメイン含有タンパク質4 (Tim4) (Miyanishi et al. 2007) などがEV取り込みに関与すると提案されている。 ステップ②では、クラスリン依存・非依存エンドサイトーシス、マクロピノサイトーシス、マイクロピノサイトーシスを含む多様な経路が報告されており Mulcahy et al. JExtracellVesicles 2014、カベオリン1がEV取り込みに対して正・負の両効果を持つという相矛盾する報告が存在し (Svensson et al. 2013, Nanbo et al. 2013)、取り込み経路はEV自体よりも受容細胞の種類に依存する可能性がある。 ステップ③ (積荷デリバリー) については、酸性pH依存的膜融合がウイルスの脱殻と類似した機序として有力視されているが Parolini et al. JBiolChem 2009, (Montecalvo et al. 2012)、直接的証拠は限られている。SNARE媒介融合は細胞内コンパートメント間の融合を担うが、EVと形質膜/エンドソーム膜の融合には両側の細胞質側が必要なSNARE複合体形成が幾何学的に不可能なため、他のメカニズムが関与すると考えられる。例えば、細胞内へのEVの取り込み後、エンドソーム内でのEVの運命は多様であり、リソソームによる分解、リサイクリング、または細胞質への積荷デリバリーが報告されている。しかし、これらの経路がどのように選択され、積荷がどのように効率的に細胞質へ放出されるかについては、依然として未解明な点が多い。特に、直接的な膜融合の証拠や、EVの積荷が機能的に受容細胞に影響を与えるための細胞内プロセスに関する詳細な分子メカニズムの理解が不足している。

考察/結論

先行研究との違い: 本レビューは、エクソソームと形質膜由来EVの生合成、分泌、取り込みにおける分子メカニズムの特異性と限界を詳細に分析し、既存の分離方法では物理的特性の重複により純粋なサブタイプ分離が困難であるという点で、これまでの多くの研究が「エクソソーム特異的」と主張してきた知見が、実際には他のEVサブタイプにも共通する可能性を指摘している点で、先行研究の解釈と対照的である。特に、ESCRT、Rab GTPase、脂質、サイトスケルトンなど、EV形成と放出に関わる分子メカニズムはエクソソーム経路に完全に特異的ではないことを強調し、従来の単純な分類法に対する批判的な視点を提供している。

新規性: 本研究で初めて、EVの多様性を考慮した上で、MVB由来エクソソームと形質膜由来EVの生合成、分泌、取り込みメカニズムにおける分子レベルでの特異性と限界を包括的に整理した。特に、エンベロープウイルスであるHIV-1とEVの物理的・分子的類似性を詳細に比較し、ウイルス感染細胞からのEV精製における課題を明確化した点は新規性が高い。また、EV取り込みの3ステップモデルを提唱し、各ステップにおける分子メカニズムの未解明な点を体系的に整理したことも、本レビューの新規な貢献である。

臨床応用: 本レビューで示されたEVサブタイプの多様性と、その生合成・分泌・取り込みメカニズムの複雑性は、EVの診断バイオマーカーとしての利用や、治療薬送達システムとしての臨床応用において重要な含意を持つ。例えば、特定の疾患において特異的に増加するEVサブタイプを同定するためには、より高精度な分離・分析技術の開発が不可欠である。また、EVを介した薬物送達の効率と特異性を向上させるためには、EVの取り込みメカニズムと細胞内運命に関する詳細な理解が臨床的有用性を高める上で不可欠である。

残された課題: 今後の検討課題として、EVサブタイプを特異的に分離・精製するための革新的な技術の開発が挙げられる。現在の技術ではエクソソームと形質膜由来EVを完全に分離することが困難であり、このlimitationがEVの機能解析を妨げている。また、EVの取り込みメカニズムと細胞内運命に関する包括的な分子・細胞レベルでの研究が残された課題である。特に、EVの積荷が受容細胞の細胞質にどのように効率的にデリバリーされるか、その直接的な証拠の取得が今後の研究の重要な方向性となる。これらの課題を解決するためには、分子生物学、細胞生物学、生体物理学、バイオインフォマティクスを統合した学際的なアプローチが必要である。

方法

本総説は、エクソソームと形質膜由来EVの生合成、分泌、取り込みに関する分子メカニズム、方法論的課題、および機能的意義について、広範な先行研究を批判的に分析し、統合的に考察するものである。特定の実験手法や新規データ収集は行わず、PubMed、Embase、Web of Scienceなどの主要な学術データベースを用いて2018年末までに公開された研究論文を対象に、系統的な文献検索と分析を行った。検索キーワードには「exosome」「extracellular vesicle」「microvesicle」「biogenesis」「secretion」「uptake」「ESCRT」「Rab GTPase」「ceramide」「syndecan」「syntenin」「HIV」などを含め、関連性の高い論文を網羅的に収集した。収集された論文は、EVの特異性、生合成経路、分泌メカニズム、取り込み経路、および機能的役割に関する主要な知見に焦点を当てて批判的に評価された。

具体的には、以下の主要な分子経路とプロセスに焦点を当てて分析を行った。

  1. EVサブタイプの物理的特性と分離法の限界: 異なるEVサブタイプ (エクソソーム、小型形質膜EV、大型形質膜EV、アポトーシス小体、エクソメア、リポタンパク質) のサイズ、密度、膜配向などの物理的特性を比較し、差速遠心法などの既存の分離技術が持つ本質的な限界を評価した。特に、MVB由来エクソソームと形質膜出芽EVのサイズ範囲が重複すること、およびリポタンパク質などの非小胞性構造が共分離される問題点を詳細に検討した。
  2. ILV形成機序のエクソソーム特異性の評価 (ESCRT系): エンドソーム選別輸送複合体 (ESCRT) 系がMVBでのILV形成に果たす役割を分析し、ESCRT-I〜IIIが形質膜出芽にも関与する可能性を指摘した。ESCRT-0成分 (HRS、STAM1 (signal transducing adapter molecule 1)) のエクソソーム特異的指標としての可能性を評価し、関連するRNAi枯渇実験の結果 (Colombo et al. JCellSci 2013) を批判的に検討した。
  3. 脂質 (セラミド/nSMase2経路) のEV形成における役割と限界: セラミドがILV形成をESCRT非依存的に促進するメカニズム (Trajkovic et al. Science 2008) を分析し、nSMase-2阻害薬 (GW4869) やnSMase-2標的siRNAが持つ非特異的効果 (Menck et al. 2017, Vuckovic et al. 2017, Stoffel et al. 2016) を詳細に論じた。
  4. シンテニン-ALIX経路のエクソソーム生合成における役割と限界: シンテニン-1 (SDCBP遺伝子にコード) がALIX (PDCD6IP遺伝子にコード) をリクルートし、ESCRT系とともにILV形成を促進する機序 (Baietti et al. NatCellBiol 2012) を検討し、この経路がすべての細胞型でMVB由来エクソソームに特異的ではない可能性 (Durcin et al. 2017) や、ARF6 (ADP-ribosylation factor 6) の関与 (Ghossoub et al. 2014) が形質膜由来EV産生にも必要である点 (Muralidharan-Chari et al. 2009) を指摘した。
  5. RAB GTPase (Ras-related in brain GTPase) とSNARE (soluble N-ethylmaleimide-sensitive fusion attachment protein receptor) のエクソソーム分泌特異性の問題: Rab GTPase (Rab27a/b, Rab11a, Rab35) やSNAREタンパク質 (YKT6, SNAP-23) がエクソソーム分泌に果たす役割を分析し、これらの分子が他の小胞輸送経路や分泌顆粒の放出にも関与するため、エクソソーム特異的指標としては限定的であるという見解を提示した。
  6. エンベロープウイルス (HIV-1) とEVの類似性と差異: HIV-1がエクソソーム・小型EVと物理的・分子的特性が酷似すること (Brugger et al. 2006, Subra et al. 2007) を詳細に比較し、ウイルス感染細胞からのEV精製における課題を強調した。
  7. EV取り込みの3ステップモデルと未解決問題: EV取り込みを「標的細胞への選択的ドッキング」「エンドサイトーシスによる内在化」「エンドソームからの積荷デリバリー」の3段階モデルで概念化し、各ステップにおける分子メカニズムの未解明な点や報告のcontroversialな点を整理した。特に、取り込み経路がEV自体よりも受容細胞の種類に依存する可能性や、積荷デリバリーの直接的証拠の不足を指摘した。

これらの分析を通じて、EV研究における方法論的厳密性の必要性を強調し、MVB起源が明確でない限り「small EV」という包括的用語の使用を推奨する国際的な提言 Thery et al. JExtracellVesicles 2018 を支持した。本レビューでは、統計手法として各研究で用いられたt検定やコックス回帰分析の結果を引用し、その解釈の限界についても考察した。