Article data

  • 著者: Bo Wang, Kevin Yao, Brooke M. Huuskes, Hsin-Hui Shen, Junli Zhuang, Catherine Godson, Eoin P. Brennan, Jennifer L. Wilkinson-Berka, Andrea F. Wise, Sharon D. Ricardo
  • Corresponding author: Sharon D. Ricardo (Monash University, Victoria, Australia)
  • 雑誌: Molecular Therapy
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-06-21
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27203438

背景

慢性腎疾患の進行において間質線維化は共通の最終経路であり、TGFβ (transforming growth factor β) シグナルが中心的なメディエーターとして機能する。TGFβ type 1 receptor (TGFβR1) の活性化はコラーゲン・α-SMA (α-smooth muscle actin) 等の細胞外基質マーカー発現を誘導し、尿細管間質の線維化を推進する。先行研究では、Brennan らがヒト腎近位尿細管細胞 HK2 (human kidney-2 proximal tubular cell line) のmiRNAプロファイリングを行い、miR-let7cが線維化条件下で強く発現低下し、TGFβR1の3’UTR (3’ untranslated region) を標的としてlipoxin依存的に線維化を抑制することを示していた。また本研究グループの先行報告 (Wang ら 2014) では、miR-let7bがTGFβ/Smadシグナルを介して糖尿病性腎症の線維化を制御することが示されていた。さらに別の先行研究では、間葉系幹細胞 (MSC; mesenchymal stem cell) がpre-miRNAを豊富に含むエクソソームを分泌し、let-7ファミリーを高発現することが報告されていた (pre-miRNA の選択的なエクソソーム搭載機序は後に Clancy et al. NatCellBiol 2019 により解明された)。しかし、これらの知見にもかかわらず、治療用miRNAを障害腎へ堅牢かつ持続的に送達する実用的な手法は依然として未確立であり、ウイルスベクターは安全性、リポソームはin vivo効率の点で不十分であった。この送達技術の不足こそが、miR-let7cの治療応用を阻む最大の障壁 (gap in knowledge) として残されていた。

目的

miR-let7cを過発現する遺伝子改変MSC (miR-let7c-MSC) が、片側尿管閉塞 UUO (unilateral ureteral obstruction) マウスモデルの障害腎へ選択的にホーミングし、分泌エクソソームを介してmiR-let7cを腎尿細管上皮細胞へ機能的に送達することで、TGFβR1を抑制し腎線維化を軽減できるかを、in vitro共培養系とin vivoモデルの双方で前臨床的に検証すること。

結果

線維化モデルにおけるmiR-let7c発現低下の確認:TGFβ1 (5 ng/ml) で72時間処理したNRK52E細胞では、miR-let7c発現が有意に低下 (p < 0.01) し、これと並行してCollagen 1α1 (p < 0.01)・Collagen IVα1 (p < 0.05)・α-SMA (p < 0.05)・フィブロネクチン (p < 0.05) の線維化マーカーが有意に上昇した (Figure 1a)。同様に、UUO閉塞腎でもCollagen 1α1 (p < 0.001)・Collagen IVα1 (p < 0.01) の上昇とmiR-let7c発現の低下 (p < 0.05) が対側非閉塞腎 CUK (contralateral unobstructed kidney) と比較して認められた (Figure 1b)。in vitro・in vivoの両系で「線維化亢進とmiR-let7c低下」が一致して観察され、本miRNAが腎線維化の負の制御因子であることが裏づけられた。

miR-let7cの選択的なエクソソーム搭載:miR-let7c-MSC由来エクソソームでは、NTC-MSC由来と比較してmiR-let7c含量が有意に増加 (p < 0.05) していた (Figure 3a)。一方、ネガティブコントロールである内在性miR-218には両細胞間で差がなく (Figure 3b)、let7a・let7dにも有意変化が認められなかったことから、レンチウイルス導入されたmiR-let7cが他のmiRNA発現を撹乱せず選択的にエクソソームへ搭載・分泌されることが示された。

エクソソーム依存的なmiRNA細胞間移送の実証:トランスウェル共培養系において、miR-let7c-MSCと共培養したNRK52E細胞ではmiR-let7c発現が4.7-fold有意に増加した (p < 0.0001) (Figure 3c)。この増加はエクソソーム産生阻害薬GW4869の添加で完全に消失し (Figure 3d)、エクソソームが主要かつ必須の移送経路であることが確認された。さらにcyc3標識pre-miRNAを導入したMSCとの共培養で、NRK52E細胞質内にcyc3シグナルが明確に観察され、GW4869処理でこのシグナルも消失したことから、可視化レベルでもエクソソーム媒介性の移送が裏づけられた (Figure 3e)。

TGFβ1誘発線維化マーカーのin vitro抑制:TGFβ1刺激NRK52E細胞をmiR-let7c-MSCと間接共培養すると、Collagen IVα1発現が有意に低下し (p < 0.0001)、NTC-MSC群との直接比較でも有意差を認めた (p < 0.05) (Figure 4a)。α-SMA発現もmiR-let7c-MSC共培養で有意に低下した (p < 0.0001) (Figure 4b)。TGFβR1 mRNAも有意に減少し (p < 0.05) (Figure 4c)、TGFβR1 3’UTR野生型ルシフェラーゼ活性をmiR-let7c-MSCが有意に抑制した (p < 0.05) (Figure 4d)。MSC由来の単離エクソソームを直接添加した場合でも、Collagen IVα1 (p < 0.05)・α-SMA・TGFβR1 (p < 0.01) の抑制が再現された (Figure 4e-g)。

In vivoでの選択的ホーミングと腎保護効果:静脈内投与後24時間以内にeGFP陽性fluc陽性のmiR-let7c-MSCはUUO傷害腎へ選択的にホーミングし、4日間 (各群 n=5 マウス) にわたり局在を維持した一方、偽手術対照では肺への一過性集積のみが認められた (Figure 5)。術後7日の組織解析では、miR-let7c-MSC投与群は無治療・NTC-MSC群と比較して尿細管拡張・間質炎症細胞浸潤の軽減と皮質尿細管の保存を示し、近位尿細管傷害マーカーKim-1蛋白発現が偽手術群と同等レベルまで回復した (p < 0.0001) (Figure 6c)。さらに偏光顕微鏡下のpicrosirius red陽性コラーゲン沈着面積はNTC-MSC群に対しmiR-let7c-MSC群で有意に縮小し (p < 0.05)、間質線維化の組織学的軽減が定量的にも裏づけられた (Figure 6, 8)。Picrosirius red染色とqPCRでは、Collagen IVα1 (vs vehicle: p < 0.001; vs NTC-MSC: p < 0.05) およびTGFβ1 (vs vehicle: p < 0.001; vs NTC-MSC: p < 0.01) が有意に減少し (Figure 8a, b)、UUO腎で低下していたmiR-let7c発現がmiR-let7c-MSC投与で回復した (p < 0.05)。結果は mean ± SEM で表示された。

考察/結論

本研究で初めて、遺伝子改変MSCが障害腎へ選択的に集積し、分泌エクソソームを介してmiR-let7cを腎尿細管上皮細胞へ機能的に送達することで、TGFβR1を転写後抑制し腎線維化を軽減できることが、in vitroおよびin vivoの両系で系統立てて示された。GW4869による産生阻害でmiRNA転送が完全に消失した事実は、エクソソームが送達の主要経路であることの強力な証拠となる。エクソソームによるmiRNAの細胞間水平伝達は、Valadiらの古典的報告 (Valadi et al. NatCellBiol 2007) 以降、生理的な遺伝情報交換機構として確立されてきたが、エクソソーム搭載miRNAのソーティング機序 (ARF6-Exportin-5軸によるpre-miRNAの選択的搭載 (Clancy et al. NatCellBiol 2019)) や分泌制御 (Rab27a安定化を介したKIBRA依存的分泌 (Song et al. NatCommun 2019)) は本論文以降に詳細化されており、本研究はそうした分子機序解明の応用上の出発点と位置づけられる。これまでの研究 (既報) では治療用miRNAの送達がウイルス・リポソームの安全性・効率の限界に阻まれていたのに対し、本アプローチはMSCの組織選択的ホーミング能と低免疫原性を活かす点で対照的であり、合成キャリアを必要としない。エクソソームは細胞恒常性維持のための分子排出経路としても機能することが知られ (Takahashi et al. Natcommun 2017)、内因性の小胞輸送系を治療ベクターへ転用する戦略の生物学的妥当性を支える。臨床応用の観点では、MSCが既に腎移植を含む臨床試験で安全性を示している点が橋渡し研究としての強みであり、miR-let7c以外の小分子RNA (short hairpin RNAやsiRNA) への汎用化も見込める。一方で、ヒトへの外挿可能性、長期的な改変MSCの安全性、エクソソーム収量・標的化効率の定量、UUO以外の慢性・急性腎障害モデルでの有効性検証は残された課題であり、エクソソーム純度のISEV準拠characterizationを含めた今後の検討が求められる。総じて本研究は、幹細胞ホーミングとエクソソーム送達を結合した治療用miRNAプラットフォームの実現可能性を提示する novel な前臨床基盤である。

方法

自己不活化型レンチウイルスベクター (緑色蛍光タンパク質 GFP (green fluorescent protein) レポーター共発現) を用い、ヒト骨髄由来MSC (Tulane University, passage 4-10) にmultiplicity of infection (MOI) 20でヒトmiR-let7cまたは非標的対照配列 NTC (nontargeting control) を導入し、miR-let7c-MSC および NTC-MSC (nontargeting-control-transduced mesenchymal stem cell) を作製した。GFP陽性細胞をフローサイトメトリー (BD Influx Cell Sorter) でソートし、形質導入効率・多分化能 (骨細胞・脂肪細胞・軟骨細胞)・増殖能・正常核型を確認した。エクソソームは、exosome-free FBSで培養したMSC上清からExoQuick沈降法 (exosome precipitation solution) で単離した。エクソソームのcharacterizationは、canonicalなテトラスパニンマーカー (CD9/CD63/CD81) ではなく、cyc3標識pre-miRNAトレーサーによる細胞間移送の可視化とmiR-let7c TaqManアッセイによる機能的同定に依拠した点が本研究の特徴である (2016年発表でありISEV2023ガイドライン以前)。In vitroでは腎近位尿細管上皮細胞株 NRK52E (normal rat kidney epithelial cell line; rat, passage 34-44) を6-well plateに80,000 cells/wellで播種し、その上にhanging insert (1 µm) でMSCを30,000 cells/insert播種する間接トランスウェル共培養系 (物理的接触なし) を構築し、72時間後にmiR-let7c転送量をqPCR (quantitative PCR) で評価した。エクソソーム依存性は、neutral sphingomyelinase 2阻害薬GW4869で検証した。TGFβ1 (5 ng/ml、72時間) 刺激下でのCollagen IVα1・α-SMA・TGFβR1発現をqPCR (β-actin / U6 snRNA正規化) で定量し、TGFβR1 3’UTRルシフェラーゼレポーターアッセイで転写後制御を確認した。In vivoでは雄性 C57BL/6J マウス (20-25 g、n=5/group/timepoint) にUUO手術を施し、術時に1 × 10^6個のmiR-let7c-MSC・NTC-MSCまたはPBS vehicleを静脈内投与した。eGFP陽性fluc陽性MSCを用いた生物発光イメージング装置 IVIS (imaging system for in vivo bioluminescence) 200 でday 0-4のホーミングを追跡し、術後7日でH&E・picrosirius red染色・偏光顕微鏡・Kim-1 (kidney injury molecule-1) 免疫染色・qPCRを実施した。統計は unpaired Student’s t-test または one-way ANOVA + Tukey’s multiple comparison test で解析し、p < 0.05を有意とした。