- 著者: James W. Clancy, Ye Zhang, Colin Sheehan, Crislyn D’Souza-Schorey
- Corresponding author: Crislyn D’Souza-Schorey (University of Notre Dame, Notre Dame, IN, USA)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-06-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 31235936
背景
腫瘍由来マイクロベシクル TMV (tumour-derived microvesicle) は、細胞外小胞 (EV; extracellular vesicle) の一群であり、形質膜から直接出芽して放出される点でエンドソーム由来のエクソソームとは異なる生合成経路を持つ。TMV は腫瘍微小環境や遠隔部位の受容細胞へプロテアーゼ・受容体・核酸・脂質などの bioactive cargo を水平伝播し、腫瘍進展・転移・細胞間コミュニケーションを駆動することが報告されてきた (Clancy et al. AnnuRevPathol 2023)。TMV 放出は小 GTPase である ARF6 や RhoA、Rab22A (Ras-related protein 22A) の活性化により調節され、ホスファチジルセリン依存的な転移促進作用を示すことも示されている (Lima et al. CancerLett 2009)。EV 内 miRNA の選別機序としては、エクソソームについて Y-box protein 1 や sumoylated hnRNPA2B1 による配列モチーフ結合、nSMase2 過剰発現、KRAS 依存的な AGO2 ソーティングが提唱され、さらにエクソソームが Dicer を蓄積して cell-free に pre-miRNA を成熟処理しうることも報告されていた (Melo et al. CancerCell 2014)。しかし TMV における pre-miRNA の選択的積荷機序、および TMV が独立した miRNA 処理コンパートメントとして機能するか否かは大きく 不足しており、エクソソーム研究と比較して TMV 経路の理解は手薄で knowledge gap が残されていた。
目的
TMV への miRNA 積荷を制御する分子経路を同定し、特に小 GTPase である ARF6-GTP と pre-miRNA 核外輸送受容体 Exportin-5 (exportin 5, pre-miRNA nuclear export receptor) の相互作用を介した pre-miRNA の TMV 生合成部位への輸送機序を解明すること。あわせて、Ran-GTP (Ras-related nuclear protein・guanosine triphosphate) 核外輸送複合体から ARF6 シャトルへの cargo 受け渡しを担う分子イベントを特定し、TMV が Dicer・AGO2 等の処理機構を封入して小胞内で pre-miRNA を成熟処理する能力を持つかを検証することを目的とした。
結果
TMV は pre-miRNA サイズの RNA を積荷し ARF6 活性化で miRNA 含量が全体的に増加する:Bioanalyzer 解析により LOX・MDA-MB-231・PC-3 由来 TMV に pre-miRNA 相当サイズおよび成熟 miRNA サイズの小 RNA が検出され、small RNA は rRNA・mtRNA・tRNA・miRNA に分類された (Fig 1)。構成的活性型 ARF6-Q67L 発現は活性 ARF6 を 5-fold、TMV 放出を 3-fold 増加させた (n=3 independent experiments)。TMV あたり総 small RNA 量に有意差はなかったが、miRNA シーケンシングリードは有意に増加し、50 種 top miRNA の heat map は特定 miRNA への偏りでない global な増加を示した。qRT-PCR でも oncomiR の miR-21、miR-27a、miR-100、pro-migratory な miR-151 の TMV pre-miRNA・成熟 miRNA がいずれも有意に増加した一方 (P < 0.05)、細胞内レベルは逆に低下し、cargo の能動的な小胞外搬出が示唆された。
Exportin-5 が ARF6-GTP の直接結合パートナーとして同定される:公開データベース探索で Exportin-5 が ARF6 結合候補として浮上し、PRISM 予測は Exportin-5/Ran-GTP/dsRNA 複合体 (PDB 3A6P) と ARF6-GTP (2J5X) の結合が ARF6-GDP (1EOS) より energetically favourable であることを示した (Fig 2)。co-immunoprecipitation で相互作用を確認し、組換え GST-ARF6 を GTPγS または GDP 存在下で incubate すると Exportin-5 の共沈降は GTP 条件で有意に増加した (n=4 independent experiments, P < 0.05)。dominant negative ARF6-T27N は共免疫沈降を抑制し相互作用の GTP 依存性を裏付けた。免疫蛍光では Exportin-5 が核内と細胞質の punctate 分布を示し、出芽中の TMV 部位で ARF6 と共局在し、分離 TMV 内にも western blot で検出された。
CK2-RanGAP1(S358) リン酸化が Ran から ARF6 への cargo 受け渡しを駆動する:ARF6-GTP 下流で活性化される CK2 (casein kinase 2) が RanGAP1 の S358 をリン酸化し RanGAP1-Ran-GTP-RanBP1 三者複合体形成を促す、という既報機序に着目した。CK2 阻害剤 TBB (0.3 µM) 処理は TMV 内 Exportin-5 量と pre-miRNA/miRNA cargo を有意に減少させたが、TMV へ取り込まれる ARF6 量は不変であり cargo 搬送の特異的攪乱が示された (Fig 4, n=3)。TBB は細胞質 Exportin-5 プールを減らし核シグナルを増加させ、GFP-trap (green fluorescent protein 結合ナノボディ) で RanGAP のホスホセリンが低下した。CK2 阻害は ARF6 と共沈降する Ran・Exportin-5 を減らし、逆に Exportin-5 と共沈降する Ran を増やし ARF6 を減らしたことから、CK2 シグナルが Ran-GTP 複合体から ARF6 への anterograde な cargo 移行を仲介すると結論された。
GRP1 スキャフォールドが必須で TMV は Dicer/AGO2 を封入し受容細胞へ機能的 miRNA を伝達する:cytohesin GEF 阻害剤 SecinH3 (10 µM) は細胞質 Exportin-5 と TMV cargo を喪失させ、chloroquine 共処理で細胞質分布が回復したことから未搬送 cargo の lysosome 分解が示唆された。データベース解析で ARF6-GTP/cytohesin 3 (GRP1; general receptor for phosphoinositides 1) 複合体 (PDB 4KAX) が Exportin-5 と良好に結合すると予測され、GRP1 高発現は黒色腫・卵巣がん・乳がん・肺扁平上皮がん・膀胱がんで予後不良と相関した。GRP1 ノックダウンは ARF6/Exportin-5/GRP1 複合体を解離させ、TMV 放出は不変のまま Exportin-5 と pre-miRNA/miRNA cargo のみを選択的に減少させた (Dicer・AGO2 は不変; Fig 5)。western blot と免疫蛍光は Exportin-5・Dicer・Argonaute-2 が TMV 内に存在し ARF6 活性化で富化されることを示し、cell-free 条件で TMV 内成熟 miR-21 が経時的に増加した (Fig 3)。さらに RNA 選択的蛍光色素で標識した TMV の RNA は受容線維芽細胞へ移行し、TMV 伝達 miR-21 は dEGFP sponge レポーターの翻訳抑制、TIMP-3 (tissue inhibitor of metalloproteinases 3) 上昇、BJ 線維芽細胞での α-SMA 誘導と SMAD-7 低下を引き起こし、これらは GRP1 または miR-21 枯渇で消失した (Fig 6)。
考察/結論
本研究は、核外輸送受容体 Exportin-5 を ARF6-GTP が Ran-GTP 核外輸送複合体から「奪取」し、CK2-RanGAP1(S358) リン酸化を介して ARF6-GTP/GRP1 シャトルへ pre-miRNA cargo を受け渡すという、TMV への pre-miRNA 積荷経路を 本研究で初めて実証した。これは配列モチーフ依存的なエクソソーム miRNA 選別 (Y-box protein 1、hnRNPA2B1) や KRAS-AGO2 軸を中心に論じられてきた既報とは対照的に、核内 miRNA 処理系と形質膜 TMV 生合成部位を ARF6 GTPase シャトルが物理的に連結する novel な分子的基盤を提示する点が新規である。GRP1 が GEF 活性に加えてスキャフォールドとして ARF6-Exportin-5 相互作用を支える知見は、GEF が核酸交換以外の構造的役割を担うという概念を補強する。また TMV が Dicer・Argonaute-2 を封入し小胞内で pre-miRNA を成熟処理する発見は、TMV が単なる RNA 運搬体ではなく細胞外 miRNA 処理コンパートメントとして機能するという見方を支持し、Dicer 蓄積によるエクソソーム前処理 (Melo et al. CancerCell 2014) と並んで複数 EV サブタイプで処理能が保存される可能性を示す。腫瘍における miRNA の global な低下が、生合成障害のみならず precursor ごと TMV cargo として排出されることに起因しうるという解釈は、転移ニッチ形成への含意とともに (Zhou et al. CancerCell 2014)、腫瘍−微小環境間の field effect を分子レベルで説明する。臨床応用の観点では、CK2 (TBB) や cytohesin GEF (SecinH3)、GRP1 を標的とすれば pre-miRNA 積荷を選択的に遮断でき、TMV 放出全体を止めずに miRNA 伝達のみを抑制する bench-to-bedside の 橋渡し戦略の細胞標的が示された。残された課題として、Exportin-1 (exportin 1; chromosome region maintenance 1) 経路との biological redundancy や特異性の決定因子、特定 miRNA 配列のソーティング規則、in vivo 腫瘍での寄与の定量は未解明であり、今後の検討が必要である。標的細胞種が培養線維芽細胞に限られる点は本研究の limitation であり、生体内転移モデルでの future research による検証が求められる。
方法
LOX 黒色腫、MDA-MB-231 乳がん、PC-3 前立腺がん、OvCar3 卵巣がんの invasive ヒト腫瘍細胞株を主要モデルとし、構成的活性型 ARF6-Q67L (a constitutively active ADP-ribosylation factor 6) 安定発現株、fast-cycling 変異体 ARF6-T157N (an accelerated-cycling ADP-ribosylation factor 6)、dominant negative ARF6-T27N (an activity-abrogating ADP-ribosylation factor 6) を用いた。EV 分離は ISEV ガイドラインに沿った段階的差速遠心法で実施し、300 g で細胞除去、2,000 g でアポトーシス小体を沈降させた後、10,000 g・30 min で TMV を回収し PBS で 2 回洗浄した。エクソソームは別途超遠心 (100,000 g) で分離した。characterization は走査電子顕微鏡 (SEM; scanning electron microscopy) によるサイズ計測 (TMV のスケールバー 500 nm) と western blot による cargo マーカー解析で行い、TMV がアポトーシス小体マーカーである cleaved PARP-1 (poly adenosine diphosphate-ribose polymerase 1) や lamin A/C を欠くこと、エクソソームと cargo 組成が異なることを確認した。RNA は RNase A (2 mg/ml) 処理後に miRvana キットで抽出し、pre-miRNA は配列特異的プライマー (300 nM) を用いた qRT-PCR (quantitative reverse transcription PCR) と miRBase V21 へのマッピング (Bowtie2) で定量、成熟 miRNA は深層シーケンシング (HiSeq 2500) で評価した。タンパク質相互作用は PRISM (protein interactions by structural matching) 構造予測、co-immunoprecipitation、組換え GST-ARF6 + GTPγS/GDP pulldown で検証した。薬理学的攪乱には CK2 (casein kinase 2) 阻害剤 TBB (tetrabromobenzotriazole, 0.3 µM)、cytohesin GEF 阻害剤 SecinH3 (10 µM)、lysosome 阻害剤 chloroquine (50 µM) を用い、GRP1 (general receptor for phosphoinositides 1) は shRNA でノックダウンした。受容細胞への機能伝達は miR-21 の CRISPR-Cas9 ノックアウトと miRNA sponge レポーターで評価した。統計は unpaired two-tailed Student’s t-test、one-way / two-way ANOVA (analysis of variance)、Sidak / Bonferroni 補正を用い P < 0.05 を有意とした (mean ± SD)。