- 著者: Lin Song, Shi Tang, Xiaolei Han, Ziying Jiang, Lingling Dong, Cuicui Liu, Xiaoyan Liang, Jixin Dong, Chengxuan Qiu, Yongxiang Wang, Yifeng Du
- Corresponding author: Yongxiang Wang; Yifeng Du (Department of Neurology, Shandong Provincial Hospital affiliated to Shandong University, Jinan, China)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2019
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 30967557
背景
エクソソームは直径30-150 nmのナノ小胞で、初期エンドソームの内向き出芽により内腔小胞 (ILV; intraluminal vesicle) を含む多胞体 (MVB; multivesicular body) が形成され、MVBが形質膜 (PM; plasma membrane) と融合してILVを細胞外に放出することで産生される。先行研究では、HRS・Tsg101等のESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 複合体、セラミド、テトラスパニン (CD9・CD81) がMVB生合成を制御することが示されてきた (Colombo et al. JCellSci 2013)。またRab GTPase群 (Rab27a・Rab11・Rab35) がMVBの形質膜へのドッキング・融合を制御することも報告され、特にOstrowskiらはshort hairpin RNAスクリーニングでRab27aとRab27bがエクソソーム分泌の異なる段階を担うことを示した (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010)。これらの分子制御機構は広く解析されてきた (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。しかし、こうしたエクソソーム制御因子の発現量・安定性を上流で規定する「プラットフォーム分子」やパートナータンパク質についての知見は手薄であり、依然として大きなgap in knowledgeとして残されていた。KIBRA (kidney and brain expressed protein; gene WWC1 = WW and C2 domain containing 1) は主に腎臓・記憶関連脳領域に発現するWW-ドメイン含有スキャフォルドタンパク質であり、細胞極性・細胞移動・膜輸送・Hippoシグナル・初期エンドソームの長距離輸送に関与することが知られていたが、エクソソームやEV (extracellular vesicle) 分泌における役割は未解明で、この点の検討が不足していた。
目的
KIBRAがエクソソーム/EV分泌を調節するか否かを神経細胞株・ポドサイト株とKIBRAノックアウト (KO; knockout) マウスを用いて in vitro/in vivo の両面で検証し、その調節機序 — 特にRab27aとの相互作用を介したタンパク質安定化機構 — を分子レベルで明らかにすることを目的とした。
結果
KIBRA欠損はエクソソーム分泌を双方向に制御する (in vitro):HT22細胞でKIBRAをノックダウンすると100,000×g超遠心画分 (小型EV/エクソソーム) のタンパク量がBCA定量で有意に減少したが (P<0.05、n=3独立実験、Fig 1a)、2,000×g・10,000×g画分の変化は有意でなかった。Western blotでは超遠心画分のAlix・Tsg101・CD63・CD9が著明に低下する一方、全細胞溶解液 (WCL; whole cell lysate) では不変で、分泌障害が細胞内マーカー量低下によるものでないことが示された (Fig 1b, c)。NTA解析でもKIBRA-KD細胞由来粒子数が有意に減少したがサイズ・形態 (EMで50-150 nm) は不変だった (Fig 1e, f)。逆にKIBRA過剰発現ではエクソソームタンパク量が著明に増加し (Fig 1g-i)、MPC5ポドサイト株のCRISPR-Cas9 KIBRA-KOでも同様の分泌低下が再現された (Fig 1j-l)。
KIBRA欠損はMVBとILVを蓄積させ生合成・オートファジー経路には影響しない:EM解析でKIBRA-KD細胞はコントロール比でMVB数/細胞およびILV数/MVBが著明に増加したが、ILVの形態は不変であった (Fig 2a-d)。免疫蛍光ではCD63陽性スポットが集積・拡大し (n=32細胞を定量)、Western blotでCD63細胞内タンパク量がCtrl-KD比で約 3-fold増加した (Fig 2i, j)。別のMVBマーカーLBPAでも同様の増加を認めた (Fig 2g, h)。一方、初期エンドソームマーカーEEA1の発現・局在は不変であり (Supplementary Fig 4)、MVB生合成への関与は否定された。さらにオートファゴソームマーカーLC3BとリソソームマーカーLamp2にも変化はなく (P>0.05)、KIBRAがMVB生合成やオートファジーではなくMVB経路の後期段階 (形質膜融合・分泌) を制御することが示された。
KIBRAノックアウトマウスで in vivo のエクソソーム分泌低下とMVB蓄積を確認:KIBRA-KOマウスの脳・腎臓細胞外空間から精製したエクソソーム画分 (CD63・CD9陽性のフラクションb-e) はWTと比較して著明に減少し、Calnexin陰性により細胞片汚染がないことも確認された (Fig 3a-d)。同体積血清から単離したエクソソーム数はNTAでWTの約52%にとどまり、平均サイズは不変であった (Fig 3e, f)。海馬のEMでは、KIBRA-KOマウスはMVB数/細胞が約 1.6-fold (約60%増)、ILV数/MVBが約 1.4-fold (約40%増)、ILV数/細胞が約 2.2-fold (約120%増) と増加し (n=18細胞profileをブラインドカウント、P<0.05、Fig 3g-j)、in vitroの表現型が生体内でも再現された。
Rab27aがプロテアソーム経路で分解されKIBRAが安定化する:3匹のKIBRA-KOマウスと2匹のWT脳のMS+iTRAQプロテオーム解析で、エクソソーム生合成・分泌関連タンパク質のうちRab27aが最大の倍率変動を示す最も有意に変化した分子であった (P<0.05、Fig 4a、Supplementary Table 1)。免疫蛍光およびWestern blotでRab27aタンパクは皮質・海馬・腎臓・筋・肝で低下した一方、qRT-PCRによるRab27a mRNAは不変 (皮質・海馬では代償的に増加) で、低下が翻訳後の分解亢進によることが裏付けられた (Fig 4b-e)。CHX 40 μg/ml処理でRab27aは急速に分解され、この分解はLac 10 μMで回復したがBaf 20 nMでは回復せず (Fig 5a, b)、IP実験でKIBRA欠損下のRab27aユビキチン化増加とLacによるさらなる蓄積が示された (Fig 5c, d)。293T cross-IP (GFP-KIBRA / DsRed-Rab27a) では双方向の共沈降が認められ、免疫蛍光でも共局在が確認された (one-way ANOVA、Fig 5e-g)。
Rab27a過剰発現がKIBRA欠損のエクソソーム分泌障害をレスキューする:DsRed-Rab27aプラスミドをKIBRA-KD細胞に導入しG418選択した後、エクソソームタンパク量がKIBRA-KD単独より有意に増加し、マーカーAlix・Hsc70・Tsg101でも同様の回復を示した (P<0.05、Fig 6d-h)。ただしCtrl-KD細胞ではRab27a過剰発現を行ってもエクソソーム分泌は増加せず、内在性Rab27aが既に充足しているか、Rab27aエフェクタータンパク質量が律速になっている可能性が示唆された。
考察/結論
本研究は、KIBRAがRab27aと直接結合してそのユビキチン化を阻害しプロテアソーム分解から保護することでRab27aタンパク質を安定化し、それを介してMVBの形質膜ドッキング・融合とエクソソーム分泌を制御するという機序を確立した。これまでの研究およびOstrowskiら (Ostrowski et al. NatCellBiol 2010) の既報はRab27a自体やその下流エフェクター (Slp・Slac2・Munc13-4) に焦点を当てていたのに対し、本研究で初めてRab27aの「上流安定化プラットフォーム」としてのスキャフォルドタンパク質KIBRAが同定された点が新規な貢献である。Rab27aエフェクターのノックダウンがRab27aサイレンシングと類似表現型を示す既報とは対照的に、本機構は翻訳後修飾 (ユビキチン-プロテアソーム経路) を介したタンパク質量制御という新しい制御層を提示する。KIBRAとRab27aが脳・腎臓で類似した組織特異的発現を示すことは、ニューロン・ポドサイトでのエクソソーム分泌がKIBRA依存的に維持される生理的意義を示唆する。臨床的意義として、エクソソームはアミロイドβ・タウ・α-シヌクレイン等の凝集性タンパク質の脳内伝播に関与するため、KIBRA-Rab27a軸が神経変性疾患の進展に関わる可能性があり、KIBRAを標的としたエクソソーム産生量の調節は基礎から臨床への橋渡し戦略となりうる。一方で残された課題も多い。Rab27a過剰発現がCtrl-KD細胞では分泌を増やさなかったことはエフェクター量の律速を示唆し、その検証は今後の検討を要する。KIBRAのパラログであるWWC2 (KIBRAと約49%の配列同一性) やWWC3 (約39%、WWドメイン欠失) が膜輸送を制御するか、Rab27bによる代償が働くかは未解明であり、更なる検討が必要である。さらにKIBRAが神経変性疾患で保護的か破壊的かは依然不明確で、追跡期間が短いことや生体内でのエフェクター動態の未評価はlimitationとして残る。総じて本研究は、エクソソーム分泌の上流制御機構としてRab GTPase安定化という分子層を明らかにし、エクソソーム生合成の理解を一段深める重要な知見を提供した (Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014)。
方法
マウス海馬神経細胞株HT22 (mouse hippocampal neuronal cell line) とマウスポドサイト株MPC5 (mouse podocyte cell line)、ならびにヒト胎児腎細胞株293T (human embryonic kidney 293T cell line) を用いた。KIBRAのknockdown (KD)・レンチウイルス過剰発現 (OE; overexpression)・CRISPR-Cas9 (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) KOを作製し、qRT-PCR (quantitative real-time polymerase chain reaction) とWestern blotで確認した。マウスはC57BL/6背景のWwc1 (mouse ortholog of WWC1) tm1.1Rlh系統 (Jackson Laboratory stock No. 024415) の全身性KIBRA-KO個体と同腹野生型 (WT; wild-type) を用い、生後5か月齢 (n=5匹/群) で解析した。EV単離はMISEV/ISEVガイドラインに沿った順次差動遠心 (300×g→2,000×g→10,000×g→0.22 μmフィルター→100,000×g 70分の超遠心) で行い、in vivoでは脳・腎臓細胞外空間からショ糖密度ステップグラジエント超遠心 (200,000×g 16時間) でエクソソームを精製した。EV characterizationはマーカーWestern blot (陽性: Alix・CD63・Tsg101・CD9・Hsc70 / 陰性: 小胞体マーカーCalnexin)、NTA (nanoparticle tracking analysis) による粒子数・サイズ計測、透過型電子顕微鏡による形態観察で実施した。MVB形態はEM (MVB数/細胞・ILV数/MVB・ILV数/細胞をブラインドカウント) と免疫蛍光 (CD63・LBPA陽性スポット数・サイズ) で定量した。網羅的タンパク質変化は質量分析 (MS; mass spectrometry) +iTRAQ (isobaric tags for relative and absolute quantitation) 8-plex標識 (Q-Exactive HF-X、MS解像度60,000) で同定した。Rab27a安定性はシクロヘキシミド (CHX; cycloheximide) 40 μg/ml処理にプロテアソーム阻害剤ラクタシスチン (Lac; lactacystin) 10 μMまたはリソソーム阻害剤バフィロマイシンA1 (Baf; bafilomycin A1) 20 nMを併用して評価し、ユビキチン化アッセイと293T共発現 cross-IP (GFP-KIBRA / DsRed-Rab27a) でKIBRA-Rab27a相互作用を確認した。統計は2群比較にStudent’s t test、多群比較に一元配置分散分析 (one-way ANOVA) を用い、P<0.05を有意とした。MSデータはProteomeXchange (PXD012430) に登録。