• 著者: Wei Yan, Xiwei Wu, Weiying Zhou, Miranda Y. Fong, Minghui Cao, Juan Liu, Xiaojing Liu, Chih-Hong Chen, Oluwole Fadare, Donald P. Pizzo, Jiawen Wu, Liang Liu, Xuxiang Liu, Andrew R. Chin, Xiubao Ren, Yuan Chen, Jason W. Locasale, Shizhen Emily Wang
  • Corresponding author: Shizhen Emily Wang (Department of Pathology, University of California San Diego, La Jolla, CA; Moores Cancer Center, UCSD)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29662176

背景

がん細胞は腫瘍ニッチ内の間質細胞、免疫細胞、内皮細胞と多様なクロストークを行い、腫瘍微小環境の動的相互作用を通じて増殖、浸潤、転移を促進することが知られている。細胞外小胞 (EV) によるマイクロRNA (miRNA) 輸送が細胞間コミュニケーションに関与することが示されてきたが、Wang laboratoryの先行研究ではmiR-105が血管内皮のタイトジャンクション (ZO-1) を破壊して転移を促進し (Zhou et al. CancerCell 2014)、miR-122が転移前ニッチのグルコース代謝を抑制することが明らかにされており (Fong et al. NatCellBiol 2015)、循環血中miR-105/miR-122はいずれも転移発生前に検出可能な予測バイオマーカーであることが示されていた。EVを介した生体分子の細胞間輸送は、隣接細胞間または遠隔細胞間で起こり、がんの組織浸潤、血管新生、免疫回避、転移に関与することが示唆される (Becker et al. CancerCell 2016; Tkach et al. Cell 2016; Andaloussi et al. NatRevDrugDiscov 2013)。特に、EVに内包されたmiRNAがニッチ細胞の遺伝子発現を転写後レベルで制御することで、これらの機能の多くが発揮されると考えられている。

がん関連線維芽細胞 (CAF) は腫瘍間質の主要構成細胞であり、逆ワールブルク効果 (CAFがピルビン酸・乳酸をがん細胞に供給するモデル) や解糖系代謝産物の供給によるがん細胞エネルギー補充の可能性が示唆されていた。しかし、増殖する腫瘍の栄養競争や代謝廃棄物蓄積という状況において、CAFが乳酸 (LA) やアンモニウム (NH4+) という代謝廃棄物にどのように適応し、がん細胞を支援するかは未解明であった。MYCは乳がん細胞で高発現するオンコプロテインであり代謝遺伝子の転写活性化因子であるが、miR-105との関係やCAFのMYCシグナル活性化機構は不明であった。本研究は、乳がん細胞とCAF間の複雑な代謝相互作用を解明することを目的としたが、特に栄養欠乏時のCAFの代謝廃棄物処理機能については知識ギャップが残されていた。

目的

本研究の目的は、乳がん細胞が分泌するエクソソーム搭載miR-105が、CAFにおけるMYC拮抗因子MXI1 (MAX-interacting protein 1) の抑制を介してMYC依存的代謝プログラムを誘導する分子機序を解明することである。さらに、栄養充足時と栄養欠乏時という二つの異なる環境において、CAFからがん細胞への代謝物供給および代謝廃棄物処理機能がどのように変化し、それが腫瘍増殖にどのように寄与するかを明らかにすることを目指した。具体的には、miR-105がCAFのグルコース・グルタミン代謝を促進し、また乳酸やアンモニウム (NH4+) などの代謝廃棄物を解毒する能力を増強するメカニズムを詳細に解析する。最終的に、このmiR-105を介したCAFの代謝再プログラミングが、腫瘍微小環境における代謝的共生をどのように確立し、持続的な腫瘍増殖を支援するのかを包括的に理解することを目的とした。

結果

所見1:miR-105がMXI1を抑制してCAFのMYCシグナルを活性化: 患者由来CAFはMDA-MB-231乳がん細胞由来EV (miR-105高発現) を効率的に取り込んだ (Fig. 1a)。MDA-MB-231 EV処理CAFでは、MYC標的遺伝子シグナチャーが著明に増強された (GSEA NES 正値、p<0.05、q<0.05)。RNA-seq解析では、MYC-MAXアンタゴニストであるMXI1 mRNAが50%超ダウンレギュレーションされた (Fig. 1c)。MCF10A/miR-105 EVでも同様のシグナチャーとMXI1抑制が再現された (Fig. 1b,c)。ルシフェラーゼアッセイにより、miR-105はMXI1の3’UTRのSite I (近位結合部位) に直接結合することが確認され、Site IIへの変異は不活化に不十分であった (Fig. 2a)。E-boxレポーターアッセイではmiR-105がE-box活性を増強し、3’UTR欠失MXI1の過発現によりこの活性が消失したことから、miR-105→MXI1抑制→E-box活性化という経路が確認された (Fig. 2b)。MDA-MB-231細胞でのMYC siRNAノックダウンにより、細胞内およびEV中のmiR-105レベルが両方とも有意に低下した (p<0.001) (Fig. 2f)。miR-105遺伝子のホスティング遺伝子GABRA3プロモーター上のE-boxにMYCが応答することをレポーターアッセイで確認し、MYC→miR-105→CAF MXI1抑制→CAF MYC活性化という正フィードバック回路を確立した (Fig. 2d,e)。

所見2:栄養充足時のグルコース・グルタミン代謝増強: Seahorse mitochondrial fuel testでmiR-105処理CAFはグルコース・グルタミン経路への依存性、柔軟性、容量がいずれも著明に上昇した (p<0.05〜p<0.001) (Fig. 3a)。13C6-グルコーストレース (2D NMR) では、miR-105処理CAF内の13C含有乳酸、アセテート、ピルビン酸、アミノ酸が増加し、さらに培養液への13C乳酸、アセテートの分泌が約2.5倍増加した (Fig. 3e,f)。13C5-グルタミントレース (2D NMR) では13C-グルタミン酸、アセテート、乳酸、ピルビン酸の細胞内増加と13C-グルタミン酸、アセテートの分泌増加を確認した (Fig. 3g,h)。これら分泌された代謝産物 (乳酸、アセテート、グルタミン酸) は隣接がん細胞のエネルギー補充に利用可能であることを共培養実験で確認した。miR-105は解糖系 (HK2、LDHA、LDHB) とグルタミン分解 (GLS) の遺伝子、代謝物輸送体 (SLC2A1、SLC16A1/3、SLC1A5) を、MXI1 3’UTR欠失発現ベクターおよびmiR-105-site-I変異体で消失することを確認した (MYC標的遺伝子制御メカニズムの証明) (Fig. 4a,d,e)。

所見3:栄養欠乏時の乳酸・アンモニウム解毒機能: 高LA条件 (1 g/L グルコース + 25 mM LA) ではLDH活性アッセイでmiR-105処理CAFがLAからピルビン酸への変換を増強した (Fig. 5a)。13C3-乳酸トレース (2D NMR + LC/HRMS) では13C-アセテート、アミノ酸、UMPが増加し、13C含有アセテート、グルタミン酸の分泌が増加した (Fig. 5e-h)。CAFの調整培地でがん細胞の生存が促進された。グルタミン/グルタミン酸欠乏・5 mM NH4Cl添加条件では、15NH4Clトレーサー (LC/HRMS) でmiR-105処理CAFが15Nをグルタミン酸、アスパラギン酸、UMPに変換する能力を著明に増強した (miR-155対照群では効果なし) (Fig. 6a)。細胞外NH4+の除去、グルタミン酸、グルタミンの分泌が増加し、がん細胞のNH4+含有調整培地での増殖・遊走が増強した (Fig. 6b,c)。CAF内でGLUD1 (ストレス特異的)、GLUL、UMPS、ARG2、NOS2の発現とGDH/GLUL酵素活性、NO産生が増加し (いずれもMXI1依存性)、NH4+からde novoでグルタミン酸、グルタミン、UMPを合成し、アルギニン加水分解を増強するメカニズムが明らかとなった (Fig. 6d-g)。

所見4:in vivoでのCAF代謝リプログラミングによる腫瘍増殖促進: NSGマウス乳腺脂肪体へのPDX細胞単独移植より、PDX + control CAF共移植で腫瘍体積が有意に増大した (two-way ANOVA、n=7 mice/群) (Fig. 7a)。一方、PDX + anti-miR-105 CAF共移植では腫瘍増殖促進効果が消失した。in vivoトレーサー解析では、anti-miR-105 CAFを含む腫瘍は13C-グルコース由来アセテート、グルタミン酸 (2D NMR) および13C-グルタミン由来α-KG、アセテート、アミノ酸 (2D NMR) が対照群比で低下し、13C-乳酸由来アセテートとアミノ酸も低下した (Fig. 7b-d)。腫瘍から単離したがん細胞のLC/HRMS解析ではWT CAFを含む腫瘍由来がん細胞がnucleotide、アミノ酸、NADH、グルタチオン等の生合成前駆体を高濃度で含んでいた (Fig. 7e)。MCT阻害剤治療 (Day 40より) はEV処理CAF共移植MCFDCIS腫瘍の増殖を選択的に抑制し、腫瘍中心部の著明な酸性化が確認され、Ki67陽性細胞比率が低下した (Fig. 7f-h)。MCT阻害剤治療群では腫瘍体積が約50%減少した (p<0.001)。

所見5:ヒト乳がん組織アレイによる相関解析: 乳がん組織アレイのIHC/ISH解析で、腫瘍細胞のMYCとmiR-105発現の正相関 (Kendall’s tau 正値、p<0.01)、間質のmiR-105とMXI1発現の負相関 (Kendall’s tau 負値、p<0.01)、間質のmiR-105と核MYC発現の正相関 (p<0.01)、腫瘍核MYCと間質核MYCの正相関 (p<0.01)、間質核MYCとLDHB・GLULの正相関 (p<0.05〜p<0.01) が確認され、in vitro/in vivo機構の臨床的意義が裏付けられた (Fig. 8c,d)。

考察/結論

本研究は、乳がん由来エクソソームmiR-105が、MXI1標的化→CAF MYC活性化という正フィードバック回路を通じてCAFを代謝的に「再教育」し、栄養充足時は燃料供給者 (グルコース・グルタミン代謝産物の分泌)、栄養欠乏時は代謝廃棄物処理者 (乳酸・アンモニウムの解毒と有用代謝物への変換) として機能させるという、状況依存的二重代謝適応モデルを初めて提示した。

先行研究との違い: 同研究室の先行研究 (Fong et al. NatCellBiol 2015) (miR-122による転移前ニッチでのPKM1/2抑制) とは対照的に、本研究で示されたmiR-105は一次腫瘍ニッチでのCAF代謝支援に特化しており、がん由来EVが原発巣と転移前ニッチで異なる微小環境の代謝ネットワークを段階的・体系的に再プログラムする精緻な分業体制が示唆される。これはこれまでの単一miRNAによる代謝制御モデルとは異なる、より複雑な細胞間コミュニケーションを示唆する。

新規性: MYC→miR-105→CAF MXI1抑制→CAF MYC活性化という新規の正フィードバックの発見は、腫瘍と間質の間の持続的代謝的共生の分子基盤を提供するとともに、逆ワールブルク効果の古典モデルを動的・双方向性の栄養-廃棄物交換モデルへと大幅に拡張した。本研究で初めて、miR-105がCAFの代謝を再プログラミングし、栄養環境に応じて異なる代謝機能を発揮させることを示した点は、これまでに報告されていない知見である。

臨床応用: 臨床的含意として、循環血中miR-105の乳がん転移リスクバイオマーカーとしての位置づけが本研究で機能的に裏付けられ、miR-105阻害戦略 (anti-miR-105) が腫瘍増殖抑制に有効であることがin vivoで示された。MCT阻害剤によるCAF-がん細胞間の乳酸シャトル遮断が腫瘍増殖を抑制したことは、miR-105経路の下流薬理標的としての代謝輸送体 (SLC16A1/MCT1、SLC16A3/MCT4) の可能性を示す。乳がん組織アレイでの相関解析により本機構のヒト乳がんにおける生物学的妥当性が確認されており、この経路の治療標的としての開発が臨床的に有望と考えられる。

残された課題: 今後の検討課題として、他がん種でのmiR-105/CAF軸の普遍性、in vivoでのCAF代謝リプログラミングの定量的寄与率、複数のEV miRNA (miR-105・miR-122等) の協調的作用機序の解明が挙げられる。また、miR-105を介したCAFの代謝再プログラミングが、がん細胞の薬剤耐性や免疫回避にどのように影響するかについても、さらなる研究が必要である。

方法

患者由来CAF (CAF265922等)、ヒト乳がん細胞株 (MDA-MB-231、MCF10A/miR-105過発現体)、NIH3T3マウス線維芽細胞を使用した。MDA-MB-231 EV、MCF10A EV、PBSで処理したCAFのRNA-seqトランスクリプトーム解析を、Bioconductorパッケージ「edgeR」のexact testを用いて行い、GSEA (1,000 random permutations) でMYC標的遺伝子シグナチャーの変化を解析した。ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) とショ糖密度勾配遠心 (1.13-1.19 g/mL画分) でmiR-105含有EV画分の同定を行い、エクソソーム画分への濃縮を確認した。MXI1 3’UTRルシフェラーゼアッセイ (Renilla/Firefly比) でmiR-105の直接結合部位 (Site I、Site II) を同定した。MYCのE-boxレポーターアッセイとMYC siRNAノックダウンでMYC→miR-105正フィードバックを検証した。

代謝解析では、通常培地、グルコース/グルタミン欠乏培地、乳酸 (25 mM LA)/アンモニウム (5 mM NH4Cl) 添加培地での実験を行い、Seahorse XF analyzerで酸素消費速度 (OCR) と細胞外酸性化速度 (ECAR) を定量した。13C6-グルコース、13C5-グルタミン、13C3-乳酸をトレーサーとして2D NMRおよびLC/HRMS (Liquid Chromatography coupled to High-Resolution Mass Spectrometry) で代謝産物の動態を追跡した。LDH活性アッセイ、GDH/GlUL酵素活性測定、NO産生測定を実施した。

in vivo実験では、NSGマウス乳腺脂肪体へのPDXがん細胞±CAF (anti-miR-105またはcontrol) の共移植実験 (n=7 mice/群) と、MCFDCIS細胞+CAF (EV処理またはPBS処理) の共移植実験 (n=6 mice/群) でin vivo腫瘍増殖を評価した。13C標識トレーサーをin vivoで投与し、腫瘍内代謝物を2D NMRで解析した。MCT (monocarboxylate transporter) 阻害剤治療 (Day 40以降、n=6 mice/群) と腫瘍内pHの測定も実施した。乳がん組織アレイ (IHC/ISH) でMYC、miR-105、MXI1、LDHB、GLULの発現相関 (Kendall’s tau) を評価した。統計解析にはGraphPad Prism 7.01とSPSS 22を使用し、2群間比較にはStudent’s t-test、多群間比較には一元または二元ANOVAとpost hoc Tukey testを用いた。P<0.05を有意差ありとした。