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Breast-cancer-secreted miR-122 reprograms glucose metabolism in premetastatic niche to promote metastasis

  • 著者: Miranda Y. Fong, Weiying Zhou, Liang Liu, Aileen Y. Alontaga, Manasa Chandra, Jonathan Ashby, Amy Chow, Sean Timothy Francis O’Connor, Shasha Li, Andrew R. Chin, George Somlo, Melanie Palomares, Zhuo Li, Jacob R. Tremblay, Akihiro Tsuyada, Guoqiang Sun, Michael A. Reid, Xiwei Wu, Piotr Swiderski, Xiubao Ren, Yanhong Shi, Mei Kong, Wenwan Zhong, Yuan Chen, Shizhen Emily Wang
  • Corresponding author: Shizhen Emily Wang (City of Hope Beckman Research Institute, Duarte, CA, USA)
  • 雑誌: Nature Cell Biology
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-01-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25621950

背景

がん細胞のエネルギー代謝異常、特に嫌気的解糖系の優先(Warburg効果)は、がんの主要な特徴の一つとして認識されている。この現象は、GLUT1(glucose transporter 1)、HIF-1、PKM2(pyruvate kinase M2)などの複数の調節因子によって制御されることがこれまでの研究で示されてきた。近年、循環miRNAが非侵襲的ながん診断および予後予測バイオマーカーとして注目されており、乳がん患者における高レベルの循環miR-122が転移進行の予測因子であるという先行研究の報告があった (Wu et al. J Transl Med 2012)。しかし、細胞外miR-122が遠隔臓器の細胞に機能的な影響を与え、特に転移前ニッチにおける非腫瘍細胞の代謝プログラムを全身的に再編するという具体的なメカニズムは未解明であった。

miR-122は主に肝臓で発現し、コレステロール代謝、脂肪肝、β-酸化の調節に関与する「肝臓型」miRNAとして知られている。TargetScanやmicroRNA.orgなどのアルゴリズムを用いた解析では、ピルビン酸キナーゼ(PKM)の3’非翻訳領域(3’UTR)がmiR-122の結合候補として同定されており、miR-122がグルコース代謝に影響を与える可能性が示唆されていた。細胞外小胞(EVs)、特にエクソソームを介した機能的miRNAの細胞間輸送は、Valadi et al. NatCellBiol 2007らによって報告され、細胞間コミュニケーションにおける新たなメカニズムとして確立されてきた。さらに、Peinado et al. NatMed 2012Skog et al. NatCellBiol 2008といった研究では、がん由来エクソソームが転移前ニッチの形成に積極的に関与することが示されている。しかし、がん細胞が分泌するmiRNAが遠隔臓器の非腫瘍細胞のグルコース代謝を全身的に再プログラムし、転移を促進するという具体的なメカニズムは、これまで報告されておらず、この領域には大きな知識ギャップが残されていた。本研究は、この未開拓な領域に焦点を当て、乳がん細胞が分泌するmiR-122が転移前ニッチの細胞代謝をどのように変化させ、転移を促進するのかを明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、乳がん細胞が分泌するmiR-122がエクソソームを介して転移前ニッチの非腫瘍細胞に輸送されることを実証し、その結果としてPKM2およびGLUT1を介したグルコース代謝の再プログラム化が転移を促進するメカニズムを解明することである。さらに、in vivoモデルにおいてmiR-122の阻害が転移予防に有効であるかを検証することも目的とした。具体的には、乳がん細胞がmiR-122を豊富に含む細胞外小胞(EVs)を分泌すること、このmiR-122が標的細胞のPKM2発現を抑制し、グルコース取り込みを低下させること、そしてこの代謝変化が転移がん細胞の増殖に有利な微小環境を形成することを明らかにすることを目指した。最終的には、miR-122を標的とした治療戦略が転移性乳がんの新たな治療法となり得るかを探求する。

結果

乳がん細胞による高濃度miR-122の細胞外小胞としての分泌: RT-qPCR解析により、MDA-MB-231細胞およびmiR-122を安定発現させたMCF10A/miR-122細胞は、非がん性MCF10A/vec細胞と比較して、110,000 gの超遠心分離で得られる細胞外小胞(EVs)画分に有意に高レベルのmiR-122を分泌することが示された(P<0.05、Kruskal-Wallis検定)。興味深いことに、多くのがん細胞株では細胞内miR-122レベルが低下しており、miR-122が細胞外への分泌に優先的に利用される可能性が示唆された。AF4およびショ糖密度勾配遠心分離による詳細な解析では、miR-122はタンパク質や高密度リポタンパク質ではなく、平均直径35 nmの30〜100 nmの小胞画分に排他的に存在することが確認された(Fig. 1g, h)。この結果は、乳がん細胞が特異的に高レベルのmiR-122をエクソソームを含むEVsとして分泌し、それが受容細胞に転送されることで機能的な影響を及ぼす可能性を示唆している。

miR-122によるPKM2標的化とグルコース代謝抑制: miR-122の機能解析のため、miR-122を安定発現するMCF10A/miR-122細胞を用いた。これらの細胞では、BrdU取り込みによる増殖が有意に低下した(Fig. 2a)。NMRスペクトロスコピーによる代謝物解析では、MCF10A/miR-122細胞において細胞内グルコースおよびピルビン酸が有意に減少し、UDP-グルコースおよびグリコーゲン蓄積が増加することが明らかになった(Fig. 2b, c)。培地中のグルコース消費量は約50%減少し、乳酸産生も約40%減少した(Fig. 2d)。ルシフェラーゼアッセイにより、miR-122がPKMおよびCS遺伝子の3’UTRに直接結合し、野生型3’UTRを持つレポーター遺伝子の発現を約50%抑制することが示された(Fig. 2f)。MCF10A/miR-122細胞では、PKM2(Fig. 2g)、CS、およびGLUT1の発現が有意に低下し(Fig. 2h, i, j)、PKM酵素活性も有意に減少した(Fig. 2k)。3’UTRを欠損させたPKM2またはCSのcDNAを強制発現させることで、miR-122によるグルコース消費抑制効果が完全に回復し、PKM2-GLUT1軸がmiR-122の主要な作用機序であることが証明された(Fig. 2i, j, l)。PKM活性の回復は、PKM2の強制発現により約2.5-fold増加した。

転移前ニッチ細胞へのmiR-122移送とグルコース利用低下: 初代肺線維芽細胞およびマウス脳星状細胞は、DiI標識されたEVsを効率的に取り込んだ(Fig. 3a, 4a)。高miR-122 EVで処理されたこれらの細胞では、細胞内miR-122レベルが増加し、RNAポリメラーゼII阻害剤DRBによっても抑制されなかったことから、外来性miRNAの移送が確認された(Fig. 3b, 4d)。これらの細胞では、PKM2およびGLUT1の発現低下、PKM活性低下、2-NBDG取り込み低下が観察され(P<0.05〜P<0.01)、これらの効果はanti-miR-122処理によって有意に抑制された(Fig. 3d-h, 4e-h)。高miR-122 EV処理された線維芽細胞の培地では残存グルコースが増加し、この培地で共培養したMDA-MB-231-HM細胞の増殖が促進された(Fig. 3l)。これは、miR-122がグルコースの再配分を通じてがん細胞の栄養利用を促進する機能を示唆する。さらに、乳がん患者血清由来の高miR-122 EVも線維芽細胞の2-NBDG取り込みを有意に低下させ、この効果はanti-miR-122で回復した(n=8 biological replicates、Fig. 3m)。

In vivoでの代謝リプログラミングと転移促進: NSGマウス(n=4 mice)への高miR-122 EVの尾静脈投与により、脳および肺における2-NBDG取り込みが減少し(n=20視野/4 mice、P<0.01)、PKM2およびGLUT1の発現が低下した(Fig. 5b-e)。ルシフェラーゼ標識MDA-MB-231-HM細胞の心臓内注射モデルでは、高miR-122 EVで前処理されたマウスにおいて、脳および肺への転移が有意に増加した(Fig. 5f, g)。対照群(PBSまたは低miR-122 EV群)では転移は観察されなかった(n=15抽出)。MCFDCIS/miR-122異種移植モデルでは、原発腫瘍のサイズは小さく(Ki67陽性細胞の減少、PKM2/GLUT1の低下、ATPの減少)、一方で脳および肺への転移が有意に増加した(Fig. 6a-j)。この結果は、miR-122が原発腫瘍の増殖を抑制しつつ、転移前ニッチの適応を促進するという二相性の役割を持つことを示唆している。

アンチセンスLNA-miR-122による転移抑制効果: MDA-MB-231-HM移植NSGマウス(n=8 mice/群)にanti-miR-122を投与した結果、原発腫瘍のサイズには有意な変化は認められなかった(P>0.05、Fig. 7a)。しかし、腫瘍隣接間質細胞における2-NBDG取り込み、PKM2、GLUT1の発現が増加し(Fig. 7b, c)、脳および肺への転移率が第5週から有意に低下した(P<0.05〜P<0.001、Fig. 7d, e)。脳組織では、anti-miR-122がPKM1およびGLUT1の転写抑制を有意に解除した(P<0.05、Fig. 7h, j)。これらのデータは、全身的なmiR-122阻害が、がん細胞によるグルコース再配分を緩和し、遠隔転移を抑制する可能性を示している。

考察/結論

本研究は、乳がん細胞が分泌するmiR-122が、エクソソームを介して転移前ニッチの非腫瘍細胞の代謝プログラムを全身的に再編し、転移を促進するという新規のメカニズムを初めて実証した。この発見は、循環miR-122レベルが乳がん患者の転移進行と関連するという我々の先行研究の観察結果に機能的な裏付けを与えるものである。

先行研究との違い: これまでのWarburg効果の概念は、主に腫瘍細胞自律的な代謝変化に焦点を当てていた。しかし、本研究は、腫瘍細胞がmiR-122を介して転移先臓器のグルコース利用を事前に「奪取」し、転移がん細胞の栄養獲得に有利な代謝微小環境を形成するという、より広範なシステム生物学的視点からの転移支持機構を提示した点で、これまでの報告とは対照的である。Zhou et al. CancerCell 2014Peinado et al. NatMed 2012といった研究がエクソソームによる転移前ニッチ形成への関与を示唆していたが、代謝リプログラミングという観点からの転移支持機構は、本研究で初めて詳細に解明された。

新規性: 本研究で初めて、がん細胞由来の細胞外miR-122が、遠隔臓器の非腫瘍細胞(肺線維芽細胞や脳星状細胞)のグルコース代謝を抑制することで、転移がん細胞の栄養利用を促進するというメカニズムを新規に同定した。特に、miR-122がPKM2およびGLUT1の発現を抑制し、ニッチ細胞のグルコース取り込みを低下させるという具体的な分子経路を明らかにした点は、極めて新規性が高い。MCFDCIS/miR-122モデルにおいて、原発腫瘍の増殖抑制と転移の増加が同時に観察されたことは、miR-122が原発腫瘍と転移前ニッチで異なる役割を果たすという二相性の機能を示唆しており、これもまた新たな知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、乳がんの転移予防および治療における臨床応用に直結する。循環miR-122が乳がん転移リスクのバイオマーカーとして機能する可能性がin vivoで裏付けられたことは重要な臨床的意義を持つ。さらに、アンチセンスLNA-miR-122による転移抑制効果は、細胞外miRNAを標的とした転移予防戦略の実現可能性を初めて示した。miR-122アンタゴニストはC型肝炎治療薬として臨床試験が進んでおり、良好な忍容性と低い薬物相互作用が報告されているため、がん患者へのmiR-122標的治療は非常に実現可能性が高いと考えられる。非侵襲的な血液検査による循環miR-122の測定は、この治療から恩恵を受ける患者の正確な選択を可能にするだろう。

残された課題: 今後の検討課題として、miR-122以外のエクソソーム由来miRNAが転移前ニッチの代謝に与える影響や、原発腫瘍微小環境におけるmiR-122の役割についてさらに詳細な解析が必要である。また、miR-122の全身的な阻害が、がん細胞以外の正常細胞の代謝に与える長期的な影響についても評価する必要がある。Limitationとしては、本研究で用いたin vivoモデルが免疫不全マウスであるため、ヒトの免疫応答が関与する複雑な転移プロセスを完全に再現しているとは言えない点が挙げられる。

方法

本研究では、乳がん細胞株(MDA-MB-231、MDA-MB-231-HM、MCFDCIS/vec、MCFDCIS/miR-122)および正常乳腺上皮細胞株(MCF10A/vec、MCF10A/miR-122)を用いた。細胞外小胞(EVs)は、培養上清を110,000 gで60〜90分間超遠心分離することで精製されたペレットから得られた。EVsのサイズと形態は電子顕微鏡およびNTA(nanoparticle tracking analysis)で確認された(n=25〜94ベシクル)。miR-122がタンパク質ではなく小胞画分に存在することを絶対定量で確認するため、AF4(Asymmetrical Flow Field-Flow Fractionation)を用い、8〜11分のタンパク質画分と18〜25分のベシクル画分を比較した(n=6抽出)。さらに、ショ糖密度勾配遠心分離により、miR-122およびmiR-16がフラクション5〜6(1.10〜1.21 g/mL)の小胞画分に存在することを確認した(n=6)。

細胞の代謝状態は、NMRスペクトロスコピー(グルコース、乳酸、グリコーゲン、アミノ酸、n=3生物学的複製)による細胞内代謝物定量、培地中のグルコース消費量定量、およびBrdU取り込み(フローサイトメトリー、n=6)によって評価された。遺伝子発現はRT-PCRおよびWestern blotを用いて、PKM1/PKM2アイソフォーム(NcoI/PstI制限酵素消化)、PKM2、CS、GLUT1、IDH1/2 mRNAレベルで定量された(n=6)。miR-122の標的遺伝子結合は、PKMおよびCSの3’UTR野生型および変異体結合部位を用いたルシフェラーゼアッセイ(各n=6)で検証された。PKM2およびCSのcDNA(3’UTR欠失)強制発現によるrescue実験も実施された。グルコース取り込みは、蛍光グルコースアナログである2-NBDGの取り込みアッセイ(n=5〜6)で測定された。

受容細胞実験では、初代肺線維芽細胞およびマウス脳星状細胞が用いられ、高miR-122 EVまたは低miR-122 EV処理後のPKM2、GLUT1、miR-122発現、PKM活性、グルコース取り込みが定量された。RNAポリメラーゼII阻害薬DRB(10 μM)による前処理を行い、内因性miR-122誘導の可能性を除外した。

in vivoモデルとして、NSGマウスにMCFDCIS/vec、MCF10A/miR-122、MDA-MB-231由来EVsを2週間おきに3.5週間尾静脈投与し、脳および肺における2-NBDG取り込みを定量した(n=20視野/4 mice)。また、ルシフェラーゼ標識MDA-MB-231-HM細胞を心臓内注射するモデルを用いて、転移の生物発光を定量した(n=15〜24抽出)。アンチセンスLNA-miR-122治療モデルでは、MDA-MB-231-HM乳腺脂肪体移植NSGマウス(n=8/群)にPBS、anti-miR-122、またはミスマッチ対照を投与し、原発腫瘍サイズ、脳/肺転移(生物発光およびルシフェラーゼqPCR)、組織内グルコース取り込み、PKM2/GLUT1の免疫組織化学(IHC)を評価した。

乳がん患者血清由来EVsの機能的影響を評価するため、低/高miR-122乳がん患者血清EVで処理した線維芽細胞の2-NBDG取り込みを比較した(n=8)。統計解析にはKruskal-Wallis検定が用いられ、P値が0.05未満を有意とした。