- 著者: Weiying Zhou, Miranda Y. Fong, Yongfen Min, George Somlo, Liang Liu, Melanie R. Palomares, Yang Yu, Amy Chow, Sean Timothy Francis O’Connor, Andrew R. Chin, Yun Yen, Yafan Wang, Eric G. Marcusson, Peiguo Chu, Jun Wu, Xiwei Wu, Arthur Xuejun Li, Zhuo Li, Hanlin Gao, Xiubao Ren, Mark P. Boldin, Pengnian Charles Lin, Shizhen Emily Wang
- Corresponding author: Shizhen Emily Wang (City of Hope Beckman Research Institute and Medical Center, Duarte, CA, USA)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-04-14
- Article種別: Original Article
- PMID: 24735924
背景
乳がん患者の死亡の主因は遠隔転移であり、化学療法やホルモン療法を受けた患者の約50%が遠隔転移を発症し、診断後5年生存率は約20%にとどまる。このため、転移の予測または早期診断マーカーの開発と、効率的な治療選択肢を可能にする転移の分子メカニズムの解明が喫緊の課題である。Pagetの「seed and soil」仮説(Paget, 1889)に基づく前転移ニッチ (pre-metastatic niche: PMN) 概念は、原発腫瘍が可溶性因子やエクソソームを介して遠隔臓器を事前に「耕す」ことで、転移細胞の播種・定着を可能にすることを示してきた。例えば、Kaplan et al. Nature 2005 は、VEGFR1陽性の造血幹細胞がPMN形成を開始することを示し、Psaila et al. NatRevCancer 2009 は、転移ニッチがどのように「異質な土壌」に適応するかを概説している。
microRNA (miRNA) は3’UTRへの結合を介して遺伝子発現を抑制する小RNAであり、エクソソームを介して細胞外へ分泌され、受容細胞の遺伝子ネットワークを全ゲノム的に再編成しうる。Valadi et al. NatCellBiol 2007 は、エクソソームを介したmRNAおよびmiRNAの転送が細胞間の遺伝子交換の新規メカニズムであることを報告した。また、Skog et al. NatCellBiol 2008 は、グリオブラストーマ由来のマイクロベシクルが腫瘍増殖を促進するRNAやタンパク質を輸送し、診断バイオマーカーとなることを示した。循環miRNAは乳がん患者で異常発現パターンを示し、診断マーカーとしての可能性が議論されてきた(Mitchell et al., 2008; Taylor and Gercel-Taylor, 2008)。しかし、どのmiRNAが機能的に”cancer-host crosstalk”を媒介し、ニッチ細胞を改変するかは未解明であった。特に、血管内皮バリアは転移細胞の血管外漏出 (extravasation) を制限する物理的障壁であり、この障壁の腫瘍性破綻機序の解明が不足している。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指す。
目的
本研究の目的は、転移性乳がん細胞が分泌する特異的miRNAを同定し、それがエクソソームを介して内皮細胞のタイトジャンクション (TJ) を破壊することで血管透過性亢進と遠隔転移を促進するかを明らかにすることである。さらに、循環miRNAが早期転移診断のバイオマーカーおよび治療標的として有用となりうるかを検証することも目的とする。具体的には、転移性乳がん細胞由来エクソソームに含まれるmiRNAが、血管内皮細胞のタイトジャンクション構成タンパク質であるZO-1 (zonula occludens 1) を標的とし、その発現を抑制することで内皮バリア機能を障害し、結果的に転移を促進するという仮説を検証する。このメカニズムをin vitroおよびin vivoモデルで詳細に解析し、最終的にヒト乳がん患者検体での臨床的相関を評価する。
結果
MBC特異的miR-105の同定とエクソソーム輸送: Solexaシーケンスにより、転移性MDA-MB-231細胞由来エクソソームと非悪性MCF-10A細胞由来エクソソーム間で差次的に分泌されるmiRNAのリストが同定された。その中で、miR-105がTJP1/ZO-1を標的として予測された。成熟miR-105の細胞内発現とエクソソーム分泌は、胸水由来の高転移性乳がん株に特異的に高く、pri-/pre-miR-105はエクソソームには含まれず成熟体のみが輸送されることが示された (Figure 2A, 2B)。MCF-10AエクソソームとMDA-MB-231エクソソームのHMVECへの取り込み効率は同等で、24時間後に90%以上のHMVECがDiI陽性となった (Figure 1C)。しかし、MDA-MB-231エクソソーム処理群でのみ受容細胞内miR-105レベルが顕著に上昇し (4時間から、24時間でピーク)、RNAポリメラーゼII阻害下でも上昇したことから、内因性発現誘導ではなくエクソソーム由来miRNAの直接輸送であると確認された (Figure 2C, 2D, 2E)。この実験では、n=3 replicatesのHMVECが用いられた。
miR-105によるZO-1抑制とタイトジャンクション崩壊: ZO-1 3’UTRの4つの予測結合部位のうち、site Iとsite IIがmiR-105応答性を示し、ルシフェラーゼレポーター活性を50-65%抑制した。両部位が存在するとさらに抑制効果が増強された (Figure S2A)。HMVECへのmiR-105導入または高miR-105エクソソーム処理により、ZO-1 mRNAおよびタンパク質レベルが有意に減少した (Figure 3A, 3B, 3C)。この効果はanti-miR-105により回復した。免疫蛍光染色では、ZO-1の喪失とオクルディンの細胞内在化が観察されたが、VE-カドヘリンは変化せず、タイトジャンクションの選択的破壊が示唆された (Figure 3D)。in vitro permeabilityアッセイでは、rhodamine-dextranの透過がVEGFと同等レベルに増加し (約3倍の増加、p<0.005) (Figure 3E)、TEERは低下した (Figure 3F)。3D vascular sproutingアッセイでは血管構造の破壊が観察され (Figure 3G)、transendothelial invasionアッセイではGFP-MDA-231-HM細胞の浸潤が増加した (Figure 3I)。これらの効果はすべてanti-miR-105またはZO-1の再導入により消失した。各in vitro実験はn=3 replicatesで実施された。
in vivo血管透過性と転移促進: NSGマウス (n=3 mice) の尾静脈に高miR-105エクソソームを投与すると、肺および脳のmiR-105レベルが有意に上昇し (Figure 4A)、CD31陽性内皮細胞におけるZO-1の減少とrhodamine-dextran漏出による血管透過性の亢進が認められた (Figure 4B, 4C; Figure S3)。intracardiac injectionモデルにおいて、MDA-MB-231エクソソーム前処置群は肺および脳への転移が有意に増加した (p<0.05) (Figure 4D)。この転移実験にはn=6 miceが使用された。
miR-105過剰発現による転移誘発: MCFDCIS/miR-105細胞のorthotopic xenograftモデルでは、miR-105過剰発現は原発腫瘍の成長には影響しなかったが、6週時点で肺および脳への自然転移が顕著に増加した (Figure 5A, 5B)。miR-105過剰発現腫瘍では、肺、肝臓、脳のpre-metastatic stage (転移陰性領域) でも血管透過性が上昇し、CD31陽性血管のZO-1が低下していた (Figure 5D, 5F)。この実験ではn=8 miceが各群に割り当てられた。
anti-miR-105治療効果: MDA-231-HM xenograftモデルにanti-miR-105 compoundを投与すると、原発腫瘍体積が縮小し (Figure 6B)、肺および脳への遠隔転移が抑制された (p<0.01) (Figure 6C)。治療された腫瘍はマージンが明瞭化し、cleaved caspase-3の上昇 (アポトーシス増加) が観察された (Figure 6D, 6E)。Rhodamine-dextran漏出は腫瘍のないマウスでは見られなかったが、腫瘍保有pre-metastatic段階で既に漏出が生じており、anti-miR-105治療により血管の完全性が回復した (Figure 6F)。CD31陽性血管におけるZO-1発現も肺および脳で再獲得された (Figure 6G)。この治療実験にはn=6 miceが各群に割り当てられた。
臨床相関: MDA-231-HM xenograft保有マウス (n=5-6 mice) の循環miR-105は、pre-metastatic (3週) およびmetastatic (6週) の両段階で有意に上昇した (Figure 7A)。ヒト乳がん患者血清では、循環miR-105はエクソソーム内に優先的に存在し、4.2年追跡で遠隔転移あり群 (n=16) はなし群 (n=22) より有意に高値を示した (p=0.02) (Figure 7B)。患者血清 (高miR-105) による3D vascular destruction効果はanti-miR-105で消失し、循環miR-105が機能的活性を持つことが示された (Figure 7C)。ペア検体解析では、循環 (exosomal) miR-105と腫瘍miR-105は強い正相関 (r=0.85, p<0.01) を示し、腫瘍miR-105とZO-1は負相関 (r=-0.48, p=0.03)、循環miR-105と腫瘍近傍血管ZO-1も負相関 (r=-0.49, p=0.04) を示した (Figure 7D, 7F)。これらの解析にはn=18-20 patientsのデータが用いられた。組織アレイ (n=75) では、遠隔/リンパ節転移ありの原発腫瘍は転移なしと比較してmiR-105が高値、ZO-1が低値を示し、miR-105とZO-1の負相関が全症例で維持された (r=-0.24, p=0.04) (Figure 7G)。
考察/結論
本研究は、転移性乳がん細胞が分泌するエクソソームmiR-105が、ZO-1を介して遠隔臓器の血管内皮バリアを破壊することで、前転移ニッチ形成と転移を促進するという新規のcancer-host crosstalkメカニズムを確立した。この発見は、Pagetの「seed and soil」仮説に分子基盤を与え、原発腫瘍から分泌されるナノ粒子が遠隔臓器の血管を「透過性可」に再プログラムするという概念を具体化したものである。
先行研究との違い: 先行研究では、Huang et al. (2009) が肺PMNにおけるアンジオポエチン-2、MMP-3、MMP-10による血管不安定化を報告しているが、本研究で示されたmiR-105-ZO-1軸は、これらとは異なる独立した分子メカニズムを構成する可能性が高い。これまでの研究が主にタンパク質因子に焦点を当てていたのに対し、本研究はmiRNAという新たな調節因子が転移において果たす役割を明らかにした点で対照的である。
新規性: 本研究で初めて、転移性乳がん細胞が特異的にmiR-105をエクソソームを介して分泌し、これが血管内皮細胞のタイトジャンクション構成タンパク質ZO-1を直接標的とすることで、血管透過性を亢進させ、遠隔転移を促進するというメカニズムを新規に同定した。この発見は、エクソソームmiRNAが宿主細胞の遺伝子発現を全ゲノム的に再編成し、転移ニッチを形成するという、これまで報告されていない重要な機能を示唆する。
臨床応用: 本研究の知見は、臨床応用として3つの重要な含意を持つ。第一に、循環 (exosomal) miR-105は、早期 (stage II/III) 乳がん患者の血液バイオマーカーとして遠隔転移リスクを予測でき、補助療法の強化判断やモニタリング頻度設定の根拠となりうる。第二に、anti-miR-105 oligonucleotide治療は、腫瘍細胞自身の浸潤抑制 (tumor-intrinsic ZO-1低下解除) と宿主の血管バリア回復 (ニッチ適応阻害) の両面効果を示した。これは、従来の細胞毒性化学療法や分子標的薬と組み合わせて転移予防に応用できる可能性を示唆する。第三に、miR-105とZO-1の負相関が遠隔転移のみならずリンパ節転移でも再現されたことから、リンパ管バリアの崩壊にも同様の機序が関与しうる。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) 転移性乳がん細胞でのmiR-105の上流制御メカニズム(なぜ転移性細胞でのみ発現するか)、(2) 他のTJタンパク質(claudin-5、JAMなど)や他の臓器特異性(骨など)との関連、(3) 臨床でのanti-miR-105 compoundの薬物動態、標的指向性、副作用評価、(4) 他のエクソソームカーゴ(S100、インテグリンなど)との相互作用や他のmiRNAとの組み合わせ効果の解明が挙げられる。Peinado et al. NatMed 2012 が示したインテグリンコードによる臓器特異的ターゲティングとの統合的な理解が今後の研究の方向性となる。
方法
細胞モデルとエクソソーム調製: 転移性乳がん株MDA-MB-231 (MDA-231)、その親株および脳転移由来MDA-231-HM細胞、非悪性乳腺上皮MCF-10A細胞、および腫瘍形成性MCFDCIS細胞株を用いた。エクソソームは、細胞培養上清から超遠心分離により調製し、透過型電子顕微鏡 (TEM) で30-100 nmの典型的なカップ状形態を確認した。エクソソームのヒト微小血管内皮細胞 (HMVEC) への取り込みは、DiI/PKH67蛍光色素で標識して確認した。
miRNAプロファイリングと標的予測: MDA-MB-231とMCF-10A由来エクソソームの小RNAプロファイルをSolexa deep sequencingで比較し、差次的に発現するmiRNAを同定した。TargetScan、miRDB、PicTarなどの複数のアルゴリズムを用いて、TJP1 (tight junction protein 1) /ZO-1 3’UTRを標的とするmiRNAを予測した。
機能解析 (in vitro): HMVEC単層を用いて、transwell migrationアッセイ、rhodamine-dextranを用いたin vitro permeabilityアッセイ、TEER (transendothelial electrical resistance) 測定、3D vascular sproutingアッセイ、およびtransendothelial invasionアッセイを実施した。ZO-1の4つの予測結合部位に対するmiR-105の応答性は、ルシフェラーゼレポーターアッセイで評価した。
in vivoモデル: NSGマウスの尾静脈にエクソソームを週2回、計5回投与し、臓器別のRT-qPCRでmiR-105レベルを測定した。rhodamine-dextran漏出により血管透過性を評価し、CD31/ZO-1共染色免疫蛍光 (IF) で内皮細胞におけるZO-1発現を解析した。MCFDCIS/miR-105細胞のorthotopic xenograftモデル、およびMDA-231-HM由来細胞のintracardiac injectionモデルを用いて、転移促進効果を評価した。miR-105阻害剤 (anti-miR-105 oligonucleotide、Regulus Therapeutics提供) によるin vivo治療効果も検証した。
ヒト検体解析: Stage II/III乳がん患者38例の血清および腫瘍サンプルを収集した。平均4.2年の追跡期間で遠隔転移あり (n=16) となし (n=22) の群間で循環miR-105レベルを比較した。また、組織アレイ (遠隔/リンパ節転移あり n=15 vs なし n=60) を用いて、腫瘍miR-105とZO-1発現の相関を評価した。統計解析にはSAS 9.2ソフトウェアを使用し、Student’s t検定で群間の平均値を比較した。miR-105とZO-1の相関はPearsonの相関係数 (r) で評価し、p値が0.05未満を有意とした。