• 著者: Zhiyun Wei, Arsen O. Batagov, Sergio Schinelli, Jintu Wang, Yang Wang, Rachid El Fatimy, Rosalia Rabinovsky, Leonora Balaj, Clark C. Chen, Fred Hochberg, Bob Carter, Xandra O. Breakefield, Anna M. Krichevsky
  • Corresponding author: Anna M. Krichevsky (Department of Neurology, Brigham and Women’s Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-10-26
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29074968

背景

腫瘍由来の細胞外RNA (exRNA) は、細胞間コミュニケーションの重要な媒体として機能し、液体生検におけるバイオマーカーとして大きな期待が寄せられている。しかし、マイクロベシクル (MV)、エクソソーム、およびリボ核タンパク質 (RNP) 複合体に含まれるexRNAの全スペクトラムを定量的かつ偏りなく解析する方法論は、これまで確立されていなかった。特に、miRNAへのアダプターライゲーション法は、tRNA、Y RNAフラグメント、長鎖ncRNAなどの他のexRNAクラスの分布を不明瞭にする偏りがあることが指摘されていた。例えば、Valadi et al. NatCellBiol 2007はエクソソームを介したmRNAおよびmiRNAの転送が細胞間遺伝子交換の新規メカニズムであることを報告したが、その後の研究では、他のRNA種も重要である可能性が示唆されていた。また、Skog et alは神経膠芽腫 (GBM) 由来のマイクロベシクルが腫瘍増殖を促進するRNAとタンパク質を輸送し、診断バイオマーカーとなる可能性を示したが、EV内のRNA量が実際に機能的な細胞間RNA転送を可能にするほど十分であるかという定量的評価が不足していた。

さらに、GBMは最も一般的で悪性度の高い脳腫瘍であり、その治療抵抗性が高いGBM幹細胞様集団 (GSC) が放出するexRNAの全体像は不明であった。GSCは腫瘍のコア細胞タイプと見なされており、そのexRNAプロファイルの理解は、腫瘍微小環境との相互作用を理解する上で重大な知識の空白を残していた。Tkach et al. Cell 2016は細胞外小胞によるコミュニケーションの現状と今後の課題を概説しているが、exRNAの多様な複合体における定量的かつ網羅的な解析は依然として不足していた。既存のexRNA分離プロトコルは、超遠心法や化学的沈殿法が一般的であったが、これらはEVの収量が低く、不均一な粒子混合物をもたらすという課題があった。また、RNAシーケンスにおけるアダプターライゲーションの偏りも、exRNAの真の組成を評価する上での障壁となっていた。このような背景から、exRNAの組成と機能的意義を包括的に理解するためには、より偏りの少ない解析方法論の開発と、各exRNA複合体の定量的評価が喫緊の課題であった。

目的

本研究の目的は、患者由来GBM幹細胞 (GSC) から放出されるMV、エクソソーム、およびRNP複合体のexRNAの全スペクトラムを定量的かつ偏りなく解析するための方法論を開発することである。具体的には、開発した方法論を用いて各画分のexRNA組成の特性を詳細に明らかにするとともに、細胞間における機能的RNA転送の定量的妥当性を評価することを目指した。さらに、GBM幹細胞由来exRNAの網羅的なカタログを作成し、液体生検バイオマーカーとしての応用可能性を検証することも目的とした。この目的を達成するために、逐次ろ過法とスパイクインRNAを用いた定量的RNAシーケンスを組み合わせることで、従来の解析における偏りを最小限に抑え、exRNAの多様なクラスと個々のRNA種の存在量を正確に評価することを目指した。また、脳微小環境の正常細胞におけるGBM由来miRNAの機能的影響を予測し、その標的経路を解析することで、腫瘍と微小環境間のコミュニケーションメカニズムの解明に貢献することも重要な目的であった。

結果

MVが細胞転写産物を最も忠実に反映: MV画分 (0.2-0.8 µm) のexRNAプロファイルは、全画分の中でGSC細胞のRNA組成を最も忠実に反映していた。この画分にはmRNAや長鎖ncRNAなどの大型RNA種が相対的に豊富に含まれていた (Fig. 4a)。ヒートマップクラスタリングおよびPCA解析 (PC1が46.7%を説明) では、MVが細胞と最も類似し、エクソソームとRNPは細胞から離れて独自のクラスターを形成することが示された (Fig. 7a, b)。mRNAの相関解析では、GBM4 MVは細胞のmRNAコンテンツをエクソソームやRNPよりもはるかに密接に反映しており (Fig. 7c)、トップ abundant なmRNAのクラスター分析でも同様の結果が得られた (Fig. 7d)。一方、エクソソームとRNPはMVとは質的に異なるRNAプロファイルを示した。

各画分固有のRNA種の濃縮: エクソソーム画分ではmiRNAが他の画分に比べて相対的に高い割合を占めた (Fig. 4a)。MVとRNPの両画分では、精密にプロセシングされたtRNAフラグメント (GluCTC、GlyGCCなど、5’末端フラグメントが優勢) およびY RNA (Y1、Y3、Y4、Y5) の5’フラグメントが濃縮されており、特定ループ構造でのエンドヌクレアーゼ切断が示唆された (Fig. 6a-d)。Y RNA/tRNA全長はMVに多く、フラグメントはエクソソームとRNPに濃縮されるという段階的分布が観察された。EVに封入されたmRNAの大部分はフラグメント化されており、3’-UTRが相対的に濃縮されていた (CDS比で有意に高い、p<0.05-0.001) (Fig. 4d)。RT-PCRでは、短鎖mRNAは全細胞および全EV画分で検出されたが、>1,000 ntの長鎖mRNAは細胞とMVのみで検出された (Fig. 4b)。exRNA組成の不均一性はRNA種間でより顕著であり (evenness factorが細胞より低い)、選択的RNA取り込み機構の存在が支持された (Fig. 5a)。

EV1個あたりのRNA量は機能的転送に不十分: スパイクイン定量により、GBM GSCのEVは平均8.9 ng RNA/mlの条件培地を含有することが判明した。EV濃度2×10^9 EV/mlから、1 EV当たり約4.45 agの全RNA、うち非rRNAは0.445 ag、すなわち約836ヌクレオチドと算出された (Table 1)。rRNAとsnRNAのみがEV1個当たり1コピー以上存在した。Y RNA、tRNAフラグメント、miRNA、lncRNA、mRNAフラグメントはおおよそ1コピー/1EV程度であった。最も豊富なmiRNA種 (let-7b、miR-21) は約10 EVに1コピー、mRNAは約1,000 EVに1コピー、EGFR/IDH1/TP53/PTEN mRNAは約1,000,000 EVに1コピー程度という極めて低い存在量であった。これらのデータは、機能的なRNA転送が成立するためには、大量かつ持続的なEV取り込みが必要であることを示唆している。

機能的に重要なGBM miRNAの予測と脳微小環境伝達: GSC exRNA画分と正常脳細胞 (ヒトおよびマウスのアストロサイト、ニューロン、ミクログリア、内皮細胞) のトランスクリプトームを比較した結果、log fold change >1.7 (50倍以上) かつp<0.05を満たす「機能的インパクトが最大のmiRNA」候補としてmiR-182-5p、miR-196a-5p、miR-10b-5pなどが同定された (Fig. 8a, b)。これらのmiRNAはTCGA GBMデータでも正常脳と比較して高発現しており、臨床的関連性が支持された。miR-21欠損マウスアストロサイトとGBM8ニューロスフェアの共培養系において、GBM8由来miR-21がアストロサイトに転送され、miR-21標的mRNA (PDCD4など) の発現抑制が誘導されることが確認され、低コピー数での機能的miRNA転送の実証が得られた (Fig. 8d, e)。この実験では、miR-21欠損アストロサイトをn=4 wellsで共培養し、miR-21のCq値がモノカルチャーの45 (検出限界以下) から共培養後には約30まで低下した。これにより、miR-21の標的であるPDCD4 mRNAの発現が有意に抑制された (p<0.05)。CSF 4例でもMVとエクソソームのexRNAプロファイルがGSC培養系と一致し、CSFへの応用可能性が示された (Fig. 7g)。

exRNAレパートリーの不均一性の増加: GSCの遺伝的多様性にもかかわらず、細胞RNAのクラス組成は4つの異なるGSC培養株間で類似していた。しかし、細胞外画分のRNAレパートリーは、細胞と比較してGSC培養株間でより不均一であった。RNA組成の多様性を評価するために、各RNAカテゴリー内のリード総数で正規化した後の二乗誤差の合計 (χ^2値) を算出した。その結果、細胞外画分は細胞RNAと比較して、長鎖および小RNAライブラリーの両方において、また特定のRNAクラスの大部分において、全体的に組成の不均一性が高かった (Fig. 5b)。Venn図分析も、細胞RNAと比較してエクソソームおよびRNPにおけるmRNAの共通性が低いこと (または不均一性が高いこと) を示した (Fig. 5c)。これらの結果は、GSC培養株がexRNA放出のために様々な選別メカニズムを利用している可能性を示唆している。

考察/結論

本研究は、偏りの少ないexRNA解析パイプラインを確立し、GBM幹細胞から放出されるexRNAがMV、エクソソーム、RNP間で質的に異なることを実証した。MVが細胞転写産物を最も忠実に反映するという発見は、MVが腫瘍特異的mRNAや長鎖ncRNAの液体生検源として他のEV画分より優れていることを示唆する。これは、従来主流だった100,000×g超遠心ペレット (エクソソーム) に偏った液体生検研究に対し、MV画分を別途解析すべきという重要な方法論的提言を提供するものであり、Haraszti et al. JExtracellVesicles 2016のプロテオミクス解析結果とも一致する。

先行研究との違い: これまでの研究ではmiRNAに焦点が当てられることが多かったが、本研究ではtRNAおよびY RNAフラグメントがexRNAの主要な構成要素であり、特にRNP画分に濃縮されていることを示した点で、従来の知見と異なる。これらのフラグメントは特定の切断部位を持つことから、細胞外でのRNAプロセシング機構の存在が示唆される。

新規性: EV1個当たり非rRNAが平均1コピー未満という定量的評価は、機能的RNA転送が成立するためには大量・持続的なEV取り込みが必要という制約を定量的に裏付けた点で新規性がある。これはEV介在RNA転送の生物学的妥当性に関する議論に重要な数字を提供した。また、miR-21欠損アストロサイトでの実験は、低コピー数であっても機能的転送が成立することを示し、受容細胞側の文脈依存性が重要であることを提示した。本研究で初めて、GBM幹細胞由来のexRNAの全スペクトルを、定量的かつ偏りの少ない方法で網羅的に解析し、MV、エクソソーム、RNP複合体間の明確な組成の違いを明らかにした。

臨床応用: GSC由来exRNAの網羅的なカタログは、GBMのバイオマーカー探索の貴重な資源となる。CSFにおけるMVおよびエクソソームのexRNAプロファイルがGSC培養系と一致したことは、これらの知見が臨床応用、特に液体生検によるGBM診断や治療モニタリングに繋がる可能性を示すものである。特に、GBMで頻繁に変異するPTENやCOL1A2などのmRNAがCSF MVで検出されたことは、MVがmRNAバイオマーカーの優れた供給源となる可能性を強調している。

残された課題: 今後の検討課題として、tRNAおよびY RNAフラグメントの細胞外における具体的な機能メカニズム、特に受容細胞における影響を詳細に解析する必要がある。また、EVの取り込み効率や、低コピー数のRNAがどのようにして機能的な影響を及ぼすのかというメカニズムの解明も今後の研究で深掘りすべき点である。本研究のlimitationとしては、EVの回収がろ過膜から非効率である可能性や、機能的EV解析への本プロトコルの適用性についてさらなる評価が必要である点が挙げられる。さらに、循環型RNAなどの他のexRNA種についても、その定量的評価と機能的役割を解明する必要がある。

方法

本研究では、患者由来の低継代GBM幹細胞様培養4株 (GBM4、GBM8、20/3、MGG75) を使用した。これらの細胞は神経球として無血清培地で培養され、その腫瘍生物学をよりよく反映するように維持された。条件培地から、逐次ろ過法 (2.0 µm → 0.8 µm → 0.22 µm → 0.02 µm孔径) を用いてMV (0.2-0.8 µm)、エクソソーム (<0.22 µm)、およびRNP (<0.02 µm) を分離した (Fig. 1a)。この逐次ろ過法は、超遠心法と比較してEVの収量と再現性が高いことをナノ粒子トラッキング解析 (NTA) およびRiboGreen定量で確認した (超遠心法が20-40%の収量であるのに対し、ろ過法はより高収量であった)。透過型電子顕微鏡 (TEM) およびWestern blot (CD9、CD63などのマーカー) により、各画分の純度と細胞汚染の欠如を確認した (Fig. 2a, b)。

RNAシーケンスライブラリーは、小RNA (15-65 ntを選択し、TAP (Tobacco Acid Pyrophosphatase)/T4 PNK (T4 Polynucleotide Kinase) 処理により偏りを最小化、rRNA除去済み) および長RNA (>100 nt) の両方について作製した (Fig. 1d)。定量にはERCC RNA Spike-In Control MixesおよびmiRCURY Spike-in kitを用いたスパイクインRNA分子による半絶対定量 (fmol/µg total RNA) を行い、培地由来RNAの干渉を補正した (Fig. 3b, c)。脳微小環境細胞 (ヒトおよびマウスのアストロサイト、ニューロン、ミクログリア、内皮細胞) のトランスクリプトームとGSC exRNAを比較し、miRNAの機能的インパクトを予測した。EV1個あたりのRNA分子数は、NTAによるEV濃度 (2×10^9 EV/ml) と全RNA定量 (8.9 ng/ml) から算出した。miR-21欠損マウスアストロサイトとGBM8ニューロスフェアのトランスウェル共培養実験により、miRNA転送の機能的影響を検証した (Fig. 8d, e)。統計解析には、2群比較にunpaired two-sided t-testを用い、p<0.05を統計的有意差とした。最後に、GBM患者4例の脳脊髄液 (CSF) を用いて、exRNAバイオマーカーとしての実現可能性を検証した (Fig. 7g)。