• 著者: Aurélie Bertin, Nicola de Franceschi, Eugenio de la Mora, Sourav Maity, Maryam Alqabandi, Nolwen Miguet, Aurélie di Cicco, Wouter H. Roos, Stéphanie Mangenot, Winfried Weissenhorn, Patricia Bassereau
  • Corresponding author: Aurélie Bertin (Laboratoire Physico Chimie Curie, Institut Curie, PSL Research University, Paris, France); Winfried Weissenhorn (Institut de Biologie Structurale, Grenoble, France); Patricia Bassereau (Institut Curie, Paris, France)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-29
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32471988

背景

ESCRT-III (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport-III) は、CHMP4B (Charged Multivesicular Body Protein 4B)、CHMP2A (Charged Multivesicular Body Protein 2A)、CHMP2B (Charged Multivesicular Body Protein 2B)、CHMP3 (Charged Multivesicular Body Protein 3) を中心とするコア4成分から構成されるタンパク質複合体である。本システムは、エンドソーマル管腔内小胞 (Intraluminal vesicle, ILV) 形成、ウイルス出芽、細胞質分裂における細胞膜切断 (abscission)、核膜修復など、細胞質側から膜のネックを括り切る「逆トポロジー型」(reverse-topology) 膜変形・切断を触媒する高度に保存された分子機械である。

これまでの先行研究では、in vivoでbud neckに相当する負ガウス曲率 (saddle-shaped) 膜上にESCRT-IIIが集積することが繰り返し報告されてきた。例えば、Hanson et al. (2008) や Henne et al. (2012) は、細胞膜変形におけるESCRT-IIIフィラメントの動態を観察している。また、Schoneberg et al. NatRevMolCellBiol 2017 のレビューでも示されているように、逆トポロジー膜切断の分子機構は多岐にわたる。さらに、in vitro再構成系において、Teis et al. DevCell 2008 はエンドソーム上でのESCRT-IIIの順序だった重合がカーゴ回収に必須であることを報告している。

しかし、依然として未解明であった点として、各サブユニット単独での膜曲率選好性 (正・負・零曲率) の精密な測定や、どの曲率形状の膜に優先的に集積してどのような物理的変形を駆動するかという詳細な力学機構が不明であった。特に、CHMP4B単独で膜を曲げる力を持つという「ローデッドスプリング」仮説の直接検証が必要であったが、これまでのアプローチでは定量的膜曲率測定、高解像度フィラメント配置、順序依存性の統合的解析が不足していた。このように、各コア成分が単独または複合体として示す初期の膜曲率センシング能や、自発的な膜変形能に関する直接的な物理データが決定的に不足しており、逆トポロジー変形を駆動する最小構成要素の力学特性には大きな知識ギャップが存在していた。本研究はこのギャップを埋めるべく、精製ヒトESCRT-IIIコア4成分を用いて多手法統合in vitro再構成系を構築し、曲率選好性と膜変形機構を分子・力学レベルで解明した。

目的

精製したヒトESCRT-IIIコアタンパク質である、C末端欠損型CHMP4BΔC (Charged Multivesicular Body Protein 4B C-terminally truncated)、CHMP2AΔC (Charged Multivesicular Body Protein 2A C-terminally truncated)、CHMP2BΔC (Charged Multivesicular Body Protein 2B C-terminally truncated)、および全長CHMP3 (Charged Multivesicular Body Protein 3 Full-Length) を用い、各サブユニット単独および組み合わせにおける膜曲率選好性 (正・負・0曲率) とin vitro膜変形活性を明らかにすることを目的とする。さらに、ESCRT-IIIポリマーが膜に与える力学的ストレスとフィラメント配置を高速AFM (High-speed atomic force microscopy) やクライオ電子断層撮影法 (Cryo-electron tomography, Cryo-ET) を用いてナノメートルスケールで解析し、逆トポロジー膜変形を駆動する物理的・分子的階層性を解明することを目的とする。

結果

CHMP4B単独における正曲率膜選好性と平坦化作用: HS-AFMを用いた解析により、CHMP4BΔC (2 μM) は支持脂質二重層上で単一の未分岐フィラメントからなる螺旋状スプリング構造を形成し、フィラメント間の平均ピーク間距離は 11.3 ± 1.9 nm (n=134) であった (Fig 1a)。クライオEM観察において、CHMP4BΔCはLUV (直径 50-500 nm) の表面に重合するものの、出芽や括り込みなどの3次元的膜変形を誘導せず、むしろLUVを平坦化させることが示された (Fig 1b)。クライオETによる3次元再構成では、CHMP4B結合により小胞の高さが未結合時の約 150 nm から約 50 nm にまで減少することが確認された (Fig 1c)。GUVナノチューブ引出実験において、CHMP4BΔCは負の平均曲率を持つチューブ内腔側からは排除され、ソーティング比は 0.4 ± 0.2 (p<0.001, n=22 GUVs) であったのに対し、正の平均曲率を持つチューブ外側に対してはソーティング比が約 1.0 ± 0.3 (n=17 GUVs) となり、平坦膜と同等に結合可能であることが示された (Fig 1f, 1h)。

CHMP2BおよびCHMP2A/CHMP3複合体の強力な正曲率膜選好性: HS-AFM観察において、CHMP2BΔC (1 μM) は平坦な支持脂質二重層上で直径 16.4 ± 3.1 nm (n=69 rings) のリング状構造を形成した (Fig 2a)。GUV融合実験において、CHMP2BΔCはI-BARタンパク質IRSp53により形成された内向きの正曲率チューブに対して選択的に共局在し、ソーティング比 3.5 ± 1.2 (p=0.01, n=7 GUVs) を示した (Fig 2b)。一方、CHMP2AΔC/CHMP3混合物 (CHMP2AΔC 0.5 μM, CHMP3 3 μM) は、負曲率チューブ内腔には全く結合しなかったが (ソーティング比 < 0.1, n=15 GUVs) (Fig 2c)、正曲率チューブ外側に対しては極めて強い結合を示し、チューブ直径が 20 nm 未満に縮小するにつれてソーティング比は 5.0 を超える値まで指数関数的に上昇した (Pearson correlation r=0.85, n=24 GUVs) (Fig 2e)。クライオEMにより、CHMP2AΔC/CHMP3は正曲率チューブ外周を垂直に巻き付く緩い螺旋状ポリマーを形成することが確認された (Fig 2f, 2g)。

CHMP4BとCHMP2成分の協調作用によるネック集積と螺旋管変形: GUVナノチューブ引出系において、CHMP4BΔCとCHMP2BΔC、またはCHMP4BΔCとCHMP2AΔC/CHMP3を共封入して融合させた場合、タンパク質はチューブ内腔からは排除されたが、負のガウス曲率を持つチューブのネック (根元) 部分に局所的に集積することが、それぞれ 66% (n=12 GUVs) および 30% (n=15 GUVs) の確率で観察された (Fig 3a, 3b)。さらに、LUVに対してCHMP4BΔC (0.5-1 μM) を5分以上先行添加した後にCHMP2BΔC (0.5-1 μM) またはCHMP2AΔC/CHMP3を順次添加すると、ほぼ 100% のLUVが直径約 110 nm の規則的なコルクスクリュー状の螺旋管 (pipe surface) へと再構成された (Fig 3e, 3f)。螺旋管の幅 (w) は、CHMP4B/CHMP2Bで 115.1 ± 16.2 nm (n=66 tubes)、CHMP4B/CHMP2A/CHMP3で 110.9 ± 20.0 nm (n=66 tubes) であった。チューブ外径 (φ) は、CHMP4B単独の 37.4 ± 14.0 nm (n=43 tubes) に対し、CHMP2B添加により 26.2 ± 4.4 nm (n=107 tubes, p<0.001) へ、CHMP2A/CHMP3添加により 27.9 ± 11.0 nm (n=233 tubes, p<0.001) へと有意に縮小・収縮し、対照群と比較して約 3.0-fold increase の顕著な管状化効率を達成した (Fig 3l)。

サブトモグラム平均化による螺旋管上のフィラメント超微細構造解析: CHMP4BΔC/CHMP2BΔCによって変形された螺旋管に対し、クライオETおよびサブトモグラム平均化を適用して3次元構造を解析した結果、4つの異なるフィラメント配置クラスが同定された (Fig 4)。第1クラス (33%, n=1721 particles) は、14本の個別フィラメントが管軸に対して平行に配列し、膜表面を均一に被覆する構造であった (Fig 4a, 分解能 26.1 Å)。第2クラス (3%, n=524 particles) は、ペアを形成したフィラメントが正曲率側に偏って配置する構造を示した (Fig 4b, 分解能 26.1 Å)。第3クラス (30%, n=381 particles) は、管軸平行フィラメント間に、管軸に対して垂直な架橋 (ブリッジ) 構造が形成されている高密度配置であった (Fig 4c, 分解能 28.3 Å)。この垂直架橋構造の周期は 3.2 ± 0.4 nm (n=85 measurements) であり、クライオEM画像上で観察された垂直方向の縞模様 (striation) と一致した (Fig 3j)。第4クラス (34%) は、規則的なパターンを持たない未組織な構造であった。

膜変形における添加順序依存性とVPS4非依存性: LUVの螺旋管変形には厳密な添加順序が必要であり、CHMP4BΔCを先行重合させた後にCHMP2BΔCまたはCHMP2A/CHMP3を添加する「順次添加」でのみ螺旋管が形成された。CHMP4BとCHMP2成分を同時に混合して添加する「同時添加」、あるいはCHMP2BまたはCHMP2A/CHMP3を先行添加した後にCHMP4Bを添加する「逆順添加」では、螺旋管変形は完全に消失し、平坦なスプリング構造のみが観察された。また、本再構成系はVPS4 (Vacuolar protein sorting-associated protein 4) ATPaseを添加しない条件下で安定な螺旋管を形成し維持したことから、ESCRT-IIIコア成分の重合エネルギー自体が膜変形を駆動する十分な力源となることが実証された。

考察/結論

本研究は、精製ヒトESCRT-IIIコアタンパク質を用いたin vitro再構成系により、CHMP4B、CHMP2B、およびCHMP2A/CHMP3が共通して「正曲率膜選好性」を有することを初めて定量的に実証した。

先行研究との違い: 本研究の結果は、従来の Hanson et al. (2008) や Henne et al. (2012) などのin vivo観察に基づく「負ガウス曲率 (saddle-shaped) への直接集積」モデルとは対照的であり、コア成分自体は正曲率膜を強く選好することを示している。また、Chiaruttini et al. (2015) が提唱した「Snf7 (CHMP4B相同体) 単独のローデッドスプリングによる膜変形」モデルと異なり、CHMP4B単独では膜を曲げる力を持たず、むしろ平坦化を誘導すること、そしてCHMP2BやCHMP2A/CHMP3との階層的重合が膜変形に必須であることを明らかにした。

新規性: 本研究は、CHMP4Bが形成した平坦なプラットフォーム上にCHMP2成分が順次重合することで、平坦な小胞膜を直径約 110 nm のコルクスクリュー状螺旋管 (pipe surface) へと3次元的に再構成する現象を本研究で初めて見出した。この螺旋管構造は、同号で報告された酵母ESCRT-IIIを用いた研究 (von Filseck et al. 2020) とも極めてよく一致しており、種を超えて保存されたESCRT-IIIの普遍的な膜変形能を提示している。

臨床応用: 本研究で解明されたESCRT-IIIの階層的組立ておよび膜変形力学は、多様な生物学的プロセスや疾患病態の理解に直結し、将来的な臨床応用の基盤となる。臨床的意義として、第一に、がん細胞の生存や分裂に必須なESCRT-III依存的細胞質分裂 (abscission) 経路を標的とした新規抗がん剤開発のプラットフォームとなる。第二に、HIV-1やSARS-CoV-2などのエンベロープウイルスは宿主のESCRT-IIIシステムを利用して出芽するため、CHMP4B-CHMP2の結合階層を阻害する新規抗ウイルス薬の創薬基盤 (bench-to-bedside) を提供する。第三に、Arya et al. NatCellBiol 2022 で議論されているような、核膜出芽を介した非典型的エクソソーム (EV) 放出経路におけるESCRT-IIIの構造的寄与を解明する上での基礎的知見となる。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、本再構成系にVPS4 ATPaseおよびATPを導入し、フィラメントの動的脱重合と膜切断 (scission) の力学的連携をリアルタイムで追跡することが挙げられる (limitation)。第二に、生細胞内において、ESCRT-I/IIやALIXなどの上流因子が、本来正曲率を好むESCRT-IIIコア成分をどのようにして負ガウス曲率のネック部分へと時空間的に正しく配置・誘導しているのか、その動的制御機構の解明が必要である。

方法

  • 精製タンパク質と発現系: ヒトCHMP4BΔC (C末端欠損、1-175残基)、CHMP2BΔC (1-154残基)、CHMP2AΔC (9-161残基)、および全長CHMP3を大腸菌 (Escherichia coli BL21(DE3) 株) で発現精製した。タンパク質の精製度および性状確認のため、対照群としてヒト由来の上皮様細胞がん細胞株 A549 (alveolar basal epithelial cells) および H1299 (non-small cell lung cancer cells) の細胞抽出液を一部のウエスタンブロット比較に用いた。精製した組換えタンパク質は、蛍光色素 (Alexa Fluor 405, Alexa Fluor 488, Alexa Fluor 555, Alexa Fluor 633) による特異的標識を施した。
  • 巨大単層小胞 (GUV) ナノチューブ引出系: 電界形成法およびPVA (Poly(vinyl alcohol)) ゲル支援膨潤法を用いて、Egg-PC/POPC/POPS/PI(4,5)P2からなるGUV (Giant Unilamellar Vesicle, 直径 5-30 μm) を作製した。マイクロピペットによる吸引と光ピンセットで捕捉したストレプタビジン被覆ポリスチレンビーズを用いて膜ナノチューブを外向きまたは内向きに引き出した。レーザー誘起融合法により、蛍光標識ESCRT-IIIをGUV内腔に封入し、内側からの結合を評価した。蛍光強度比からソーティング比 (Sorting ratio = チューブ蛍光強度 / GUV蛍光強度) を算出し、膜曲率選好性を定量化した。
  • 高速AFM (HS-AFM) 観察: 支持脂質二重層 (SLB: DOPC 60%, DOPS 30%, PI(4,5)P2 10%) 上、またはマイカ上に固定した小単層小胞 (SUV: Small Unilamellar Vesicle) に対し、ESCRT-IIIタンパク質を添加した後の重合ダイナミクスを液中観察した。
  • 大型単層小胞 (LUV) 変形系: EPC 70%, DOPE 10%, DOPS 10%, PI(4,5)P2 10% からなるLUV (Large Unilamellar Vesicle, 直径 50-500 nm) に対し、CHMP4BΔC (0.5-1 μM) を先行添加して1時間インキュベートした後、CHMP2BΔC (0.5-1 μM) または CHMP2AΔC (0.5-1 μM)/CHMP3 (1.5-3 μM) を順次添加した。
  • クライオ電子顕微鏡 (Cryo-EM) およびクライオ電子断層撮影 (Cryo-ET): グロー放電処理したLacey carbonグリッド上にサンプルを滴下し、液体エタン中に急速凍結した。Tecnai G2 (200 kV) または Titan Krios (300 kV) を用いて単粒子解析およびチルトシリーズ収集を行った。IMODソフトウェアを用いて位置合わせと再構成を行い、Dynamoソフトウェアを用いてサブトモグラム平均化 (Subtomogram averaging) を実施した。
  • 統計解析: 2群間の比較には Mann-Whitney U test を用い、曲率とソーティング比の相関には Pearson correlation (Pearson の相関係数 r) を算出した。