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  • 著者: Johannes Schöneberg, Il-Hyung Lee, Janet H. Iwasa, James H. Hurley
  • Corresponding author: James H. Hurley (jimhurley@berkeley.edu, University of California, Berkeley / Lawrence Berkeley National Laboratory, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Molecular Cell Biology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2016-10-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 27703243

背景

真核細胞の小胞輸送には「通常トポロジー (conventional topology)」と「リバーストポロジー (reverse topology)」の2方向の出芽が存在する。通常トポロジーではクラスリン・COPI (Coat Protein I)・COPII (Coat Protein II) 被覆小胞が細胞質に向かって出芽し、被覆タンパク質が膜ネック (membrane neck) の外表面に作用してくびれを切断する (Schekman & Orci Science 1996、Bonifacino & Glick Cell 2004)。これに対しリバーストポロジーでは小胞が細胞質から離れる方向 (エンドソーム内腔・細胞外・娘細胞間橋) に出芽するため、膜ネック内表面 — すなわち細胞質に接する側のみ — から切断を駆動する必要がある。この幾何学的反転を担うのが ESCRT (Endosomal Sorting Complexes Required for Transport) タンパク質群である。Katzmann et al. Cell 2001 が ESCRT-I を酵母多胞体 (MVB; Multivesicular Body) 生合成必須因子として同定して以降、ESCRT は MVB 管腔内小胞 (ILV; Intraluminal Vesicle) 生成にとどまらず、HIV-1 等エンベロープウイルス出芽・細胞質分裂のアブシジョン・核膜再形成・形質膜傷害修復・神経剪定・欠陥核膜孔複合体除去・オートファゴソーム閉鎖など広範な過程で機能することが判明した (Hurley EMBOJ 2015、Olmos & Carlton CurrOpinCellBiol 2016)。先行研究では ESCRT-III が膜切断の直接エフェクターであること (Wollert et al. Nature 2009) と階層的リクルートメントの大枠 (Henne DevCell 2011) は確立していたが、3つの点で統合的理解が不足していた。第一に、ESCRT-III が形成するスパイラル・チューブ・コーン・コイルという多形ポリマーと膜変形機能との対応づけが手薄であった。第二に、閉鎖⇒開放コンフォメーション変化の原子分解能の構造的根拠と、VPS4 (Vacuolar Protein Sorting 4) によるサブユニット解離の分子機構が未解明であった。第三に、ドーム・逆ドーム・バックリングという競合する膜切断モデルのいずれが実験データと整合するかが決着していなかった (gap in knowledge)。本総説は 2014–2016 年に登場した cryo-EM (cryo-electron microscopy)・DEEM (Deep-Etch Electron Microscopy)・AFM (Atomic Force Microscopy)・分子動力学シミュレーション・水素重水素交換質量分析の知見を体系的に統合し、これらのギャップを埋めることを目的とする。

目的

ESCRT-I/II/III・ALIX・VPS4 の構造とタンパク質相互作用ネットワークを整理し、ESCRT-III が形成するスパイラル・チューブ・コーン・コイル各ポリマーの形態的特徴と膜変形への力学的関与を解析する。さらに VPS4 による ESCRT-III サブユニットの解離・translocation 機構を概説し、MVB/ILV 生成・HIV-1 出芽・細胞質分裂・核膜再形成という4つの生物学的過程での ESCRT 機能を比較したうえで、リバーストポロジー切断に関する競合3モデル (ドーム・逆ドーム・バックリング) と未解決問題を批判的に提示することを目的とする。

結果

ESCRT コア複合体の階層構造と二経路リクルートメント:ESCRT pathway は ESCRT-I・ESCRT-II・ESCRT-III の3複合体に ALIX と VPS4–LIP5 を加えた機能ユニットから構成される。ESCRT-I は棒状ヘテロ四量体 (TSG101 (Tumour Susceptibility Gene 101)・VPS28・VPS37A-D のいずれか・MVB12A/B または UBAP1 (Ubiquitin-Associated Protein 1)) で、VPS28 の C 末端ドメインが ESCRT-II の VPS36 サブユニットと連結する。酵母 ESCRT-I と ESCRT-II は溶液中で 1:1 超複合体を形成し、折り畳まれると 210 Å、伸長すると 380 Å にわたる柔軟性を示す (Boura Structure 2012)。ESCRT-II は Y 字型ヘテロ四量体 (VPS22・VPS36 各1分子と VPS25 ×2分子) で、Y の2本腕末端の VPS25 WH2 (2nd Winged-Helix) ドメインがそれぞれ ESCRT-III ヌクレエーターである CHMP6 (Charged Multivesicular body Protein 6) の結合部位を提供する。ESCRT-I-II と ALIX は ESCRT-III をリクルートする2本の部分冗長 (partially redundant) な経路を構成し、ESCRT-II 単独ノックダウンが細胞質分裂や HIV-1 放出に影響しないのはこの冗長性に起因する (Christ JCellBiol 2016)。ALIX は BRO1 ドメイン・V ドメイン・PRD (Proline-Rich Domain) からなるホモ二量体で、湾曲した BRO1 ドメインが CHMP4 の C 末端ヘリックスに結合して ESCRT-II を迂回する第二経路を担う。

ESCRT-III の閉鎖⇒開放コンフォメーション変化:ヒト ESCRT-III は IST1 と11種の CHMP タンパク質 (CHMP1A/1B・2A/2B・3・4A/4B/4C・5・6・7) からなる。各サブユニットの N 末端側 約100 残基は電気陽性で剛直な2ヘリックス・ヘアピン (α1-α2) を形成し主要な膜接触部位となる一方、続く短い α3-α6 は電気陰性で調節的役割をもつ。α5 が α1-α4 コアに折り返された「閉鎖 (closed)」状態から、α2 と α3 が単一の長ヘリックスに融合し α4 が大きく伸長した「開放 (open)」状態への遷移が活性化の本質である。IST1-CHMP1B の cryo-EM では IST1 がチューブ外側で閉鎖型、CHMP1B が内側で開放型をとり、開放した CHMP1B は IST1 分子5個分にまたがるほど伸長していた (McCullough Science 2015)。開放はモノマー構造の約半分の完全な再編成を伴い、想定以上に大きい構造変化であった (Fig 4)。

ESCRT-III ポリマーの4形態とその力学的性質:ESCRT-III は EM でスパイラル・チューブ・コーン/ドーム・コイルの多様な形態に重合する (Fig 5)。(i) スパイラル: CHMP4/Snf7 が形成し、フィラメント径は約 4.2 nm、好ましい曲率半径は 21-32 nm で、最内環は 18 nm に overbent、外環は underbent となる。persistence length は MD で 800 nm、AFM で 260 nm と算出され、CHMP4 フィラメントは DNA より約 5-fold 硬く、アクチンより約 15-fold 柔らかい — すなわち機械的バネとして働きうる剛性をもつ (Shen JCellBiol 2014、Chiaruttini Cell 2015)。(ii) チューブ: CHMP2A-CHMP3 共重合体は径 約50 nm・約 4 nm リピート、IST1-CHMP1B は径 24 nm・5.1 nm リピートを示す。後者は外表面が電気陰性・内腔が電気陽性という驚くべき極性をもち、正曲率管状膜を BAR ドメインタンパク質のように「通常トポロジー」で被覆して切断しうる。(iii) コーン/ドーム: CHMP2A-CHMP3 チューブ端部に高さ 25 nm のドーム、より広いものは径 150 nm から 50 nm へテーパーする。細胞質分裂のフィラメントは径 17 nm でフィラメント間距離 35 nm と、CHMP2-CHMP3 チューブの 3.5 nm 間隔より大きく疎に充填される (Guizetti Science 2011)。(iv) コイル (slinky): CHMP2-CHMP3 が脂質共存下で形成する大きな間隙をもつヘリカル構造。

集合の時間的 choreography と負曲率ヌクレエーション:HIV-1 出芽では Gag が約10分間蓄積したのちにくびれ切断が起こり、ESCRT-I は Gag と並行して動員されるのに対し、CHMP4B と VPS4 は最終フェーズに短時間バーストで動員される — ESCRT-I の存在だけでは CHMP4B を動員できない (Jouvenet NatCellBiol 2011)。細胞質分裂では全過程が約120分続き、CEP55 (Centrosomal Protein of 55 kDa) が 0-40 分、ESCRT-I が 40-80 分に局在し、CHMP4B は 40-80 分と 80-120 分の2パルスで動員され、第2パルスがアブシジョンに対応する (Elia PNAS 2011)。ESCRT は細胞質分裂ネックを 1.5 μm からゼロまで狭める。in vitro では CHMP4B のヌクレエーションが負曲率膜上で平坦膜より大幅に速く、ESCRT-II と CHMP6 でさらに加速されるのに対し、伸長は曲率にも上流活性化因子にも非依存的であった (Lee PNAS 2015)。ヌクレエーション障壁を超えた CHMP4 は供給が尽きるまで無制限に伸長し、CHMP2・CHMP3 によるキャッピングがこの暴走を抑制すると考えられる。

VPS4 によるサブユニット完全アンフォールディングとリサイクル:VPS4 は N 末端 MIT (Microtubule Interaction and Trafficking) ドメインと触媒 AAA+ (ATPases Associated with diverse cellular Activities) ATPase ドメインからなり、hexamer として機能する (Fig 6)。MIT ドメインが ESCRT-III の MIM (MIT-Interacting Motif) を認識し、MIM1 はコンセンサス (D/E)XXLXXRLXXL(K/R) をとって約1–10 μM の低親和性で結合する一方、CHMP4 と CHMP5 は MIM2 を介し約100–500 μM のより弱い親和性で結合し、CHMP3 は VPS4 結合 MIM をもたない。活性型 Vps4 hexamer の結晶構造は中央孔の存在を確認し、ADP は1高親和性・5低親和性部位を占めた (Caillat NatCommun 2015)。HDX と site-directed crosslinking により、ESCRT-III サブユニットは完全にアンフォールディングされて中央孔を通って translocate することが直接実証された (Yang NSMB 2015)。CHMP3-CHMP2 キメラフィラメントでは約50%のサブユニットを引き抜くだけで全体が崩壊し、補助因子 LIP5 は2つの MIT ドメインで弱結合サブユニットへのアビディティと活性化を高める。

4プロセスの統一原理と3つの切断モデル:ESCRT は MVB/ILV 生成 (ESCRT-0 がユビキチン化カーゴをクラスター化し、ESCRT-I-II が ESCRT-III リング内に封じ込める concentric circle モデル)・HIV-1 出芽 (Gag p6 の PTAP が TSG101 を、YPXL が ALIX を直接リクルート)・細胞質分裂 (CEP55 が ESCRT-I/ALIX を開始)・核膜再形成 (CHMP7 が IST1 経由でスパスチンを動員) という4過程を、いずれも「内表面からの切断」という共通原理で執行する。切断機構には3つの競合モデルがある (Fig 7)。ドームモデルは ESCRT-III が小胞内でヌクレエートしコンストリクションでくびれを閉じるが、VPS4 が切断前から存在する事実を説明できず、DEEM が示す funnel の向き (狭端が芽側・広端が細胞質側) とも矛盾する (Cashikar eLife 2014)。逆ドームモデルは DEEM と整合するが、成長途中での円錐方向の反転を要し物理機序が不明である。バックリングモデルでは CHMP4 スパイラルが負曲率部位でヌクレエートし underbent のまま外側へ同心円状に成長して機械的張力を蓄え、VPS4 による CHMP2 選択的除去がフィラメントを平坦スパイラルへ弛緩させた際の弾性エネルギー解放が膜キンクを生み切断を駆動する。著者らはこのモデルが DEEM の funnel 形状・CHMP4 の負曲率ヌクレエーション・スパイラルの力学挙動すべてと整合し、円錐方向の反転を要さず ESCRT の細胞質側放出も予測する点で最も妥当な候補だと結論する。

考察/結論

本総説は、ESCRT 機械が MVB 生成・ウイルス出芽・細胞質分裂・核膜再形成という多様な過程を「細胞質に接する内表面からの膜切断」という単一原理で統一的に執行することを、構造・力学・動態データを横断統合して体系化した参照論文である。これまでの研究である Hurley & Hanson (NatRevMolCellBiol 2010) のレビューと対照的に、本総説は (i) IST1-CHMP1B の高分解能 cryo-EM (McCullough Science 2015)、(ii) ESCRT-III スパイラルの spiral-spring 力学 (Chiaruttini Cell 2015、Shen JCellBiol 2014)、(iii) VPS4 によるサブユニット完全アンフォールディング/processive translocation の直接実証 (Yang NSMB 2015) という 2014–2016 年の3つのブレークスルーを取り込んだ点に新規な統合価値がある。とりわけ、ドーム/逆ドーム中心であった既報の理解に対し、バックリングモデルを「実験データ群すべてと整合する最有力候補」として明確に位置づけたのは本レビューの概念的に新規の貢献である。IST1-CHMP1B が「通常トポロジー」切断を担うという発見は、ESCRT-III が単一の幾何学に縛られないことを示し、リバースと通常トポロジーの関係という新たな問いを提起した。臨床応用の観点では、ALIX・TSG101 を標的とした HIV-1 出芽阻害剤開発の前臨床基盤 (bench-to-bedside の橋渡し) を与えるとともに、ESCRT 経路が ILV 生成を通じてエクソソーム産生の基本機構を規定することから、腫瘍由来 EV 抑制戦略 (Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008Keklikoglou et al. NatCellBiol 2019) の機構的根拠となる点に臨床的意義がある。最大の残された課題は膜切断の最終分子機構の確定であり、VPS4 によるサブユニット引き抜きとスパイラルのバックリング弾性のいずれが切断を直接駆動するかは本レビュー時点で未決着であった。今後の研究としては、(i) 膜共存条件での原子分解能 cryo-ET 解析、(ii) 生細胞での実時間 ESCRT 動態の高分解能イメージング (limitation の克服)、(iii) 核膜出芽など非典型的 ESCRT-III 挙動の統合 (Arya et al. NatCellBiol 2022Bertin et al. NatCommun 2020)、(iv) サブユニット選択的 ESCRT 阻害剤の開発、が挙げられる。本総説はその後も EV biogenesis 研究の standing reference として引用され続けている。

方法

本論文は原著実験を含まない narrative review (物語的総説) であり、PubMed 収載の構造・生物物理・細胞生物学文献を一次資料として統合的に検討する。検討対象の手法は以下の通りである。構造解析: X 線結晶構造解析と cryo-EM。中核となるのは IST1-CHMP1B 共重合体チューブの高分解能 cryo-EM 再構成 (McCullough Science 2015) と、開放コンフォメーションの CHMP4 (Snf7) α1-α4 結晶構造 (Tang eLife 2015)、閉鎖型 CHMP3 結晶構造 (Muziol DevCell 2006) である。低分解能溶液構造: 小角 X 線散乱 (SAXS; Small-Angle X-ray Scattering) が ESCRT-III の溶液中コンフォメーション変化を初めて物理的に捉えた (Bajorek NSMB 2009)。形態観察: DEEM が HIV-1 Gag 出芽部位および CHMP4 過剰発現細胞の形質膜上スパイラル/チューブ/funnel を可視化した (Cashikar eLife 2014、Hanson JCellBiol 2008)。力学計測: AFM はフィラメントの可視化に加えて力を加えて切断する能力をもち、persistence length 計測に用いられた (Chiaruttini Cell 2015)。分子動力学 (MD; Molecular Dynamics) シミュレーションが CHMP4 スパイラルの力学パラメータを算出した (Shen JCellBiol 2014)。動態イメージング: HIV-1 出芽・細胞質分裂の生細胞蛍光イメージングで ESCRT 動員のタイムコースを測定 (Jouvenet NatCellBiol 2011、Elia PNAS 2011)、ナノ加工した負曲率支持脂質二重層上での実時間ヌクレエーション計測 (Lee PNAS 2015) を含む。解離機構の同定: 水素重水素交換 (HDX) と site-directed crosslinking により VPS4 がサブユニットを完全アンフォールディングして translocate させることを実証した研究 (Yang NSMB 2015) と、活性型 Vps4 hexamer の結晶構造 (Caillat NatCommun 2015) を統合する。これらの定量・構造データを横断比較し、競合切断モデルとの整合性を評価する枠組みを採る。