- 著者: Subhash B. Arya, Song Chen, Fatima Jordan-Javed, Carole A. Parent
- Corresponding author: Carole A. Parent (Department of Pharmacology and Department of Cell and Developmental Biology, University of Michigan, Ann Arbor, MI, USA)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-06-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 35739317
背景
好中球は、感染や損傷部位において防御の最前線として機能する細胞である。一次走化誘引物質であるfMLF (formyl-Met-Leu-Phe) への曝露後、好中球は速やかに二次走化誘引物質であるロイコトリエンB4 (LTB4) を分泌し、一次走化誘引シグナルに対する堅牢性と感受性を維持し、遊走範囲と持続性を劇的に増加させる。LTB4の合成は、細胞質ホスホリパーゼA2 (cPLA2) の核膜 (NE) への転座によって媒介されるリン脂質加水分解を介したアラキドン酸 (AA) の放出から開始される。NE関連膜タンパク質である5-リポキシゲナーゼ活性化タンパク質 (FLAP) は、放出されたAAを5-リポキシゲナーゼ (5-LO) に提示し、LTB4の前駆体であるロイコトリエンA4 (LTA4) を生成する。LTA4はその後、LTA4ヒドロラーゼ (LTA4H) によってLTB4に迅速に加水分解される。これまでの研究により、LTB4合成酵素群 (5-LO、FLAP、LTA4H) がマクロファージ、樹状細胞、および走化誘引物質で活性化された好中球から分泌されるエクソソームにパッケージ化されて放出されることが報告されていた (Majumdar et al. PLoS Biol 2021)。
エクソソームは、多胞体 (MVB) 内の腔内小胞 (ILV) として合成され、MVBが細胞膜と融合することで分泌される。ILVにパッケージ化されるカーゴの選別は、テトラスパニンCD63、ESCRT (Endosomal Sorting Complex Required for Transport) 複合体、または中性スフィンゴミエリナーゼ (nSMase) 依存性のセラミド濃縮脂質マイクロドメインへの親和性によって媒介されることが知られている (Trajkovic et al. Science 2008, vanNiel et al. NatRevMolCellBiol 2018)。LTB4合成の主要サイトである核膜 (NE) は、5-LOとFLAPが活性化時に集積する場でもあるが、NE出芽がエクソソーム生合成に関与するという機序はこれまで報告されていなかった。
LTB4合成の阻害は、in vitroおよびin vivoでの好中球動員を減少させ、エクソソーム放出の阻害も同様の効果を示すことから、LTB4をエクソソームにパッケージ化するメカニズムは、過酷な細胞外環境における細胞間シグナル伝達をサポートする上で重要であると考えられる。しかし、LTB4含有エクソソームの生合成経路、特にその核膜起源と、nSMase1 (neutral sphingomyelinase 1) 依存的なセラミド濃縮脂質秩序ドメインがNE形成およびFLAP/5-LO動員に果たす役割については、これまで詳細な分子機序が未解明であった。また、このNE由来エクソソームが、従来のCD63陽性MVB由来エクソソームとは独立した非典型的生合成経路であるかどうかも不明であった。本研究は、この知識ギャップを埋めるべく、好中球活性化時のNE出芽過程を高解像度イメージングと膜脂質生化学で統合解析し、非典型的エクソソーム形成経路を解明することを目的とした。この分野におけるNE由来エクソソームの機能と生合成経路に関する理解は、依然として不足している状況であった。
目的
本研究の目的は、活性化好中球においてLTB4含有エクソソームの核膜 (NE) 起源を確立することである。具体的には、nSMase1 (neutral sphingomyelinase 1) 依存的なセラミド濃縮脂質秩序ドメインがNE上に形成され、LTB4合成酵素 (FLAPおよび5-LO) のNEへの動員およびNE出芽に果たす役割を解明する。さらに、このNE出芽を介して形成されるエクソソームが、従来のCD63陽性MVB由来エクソソームとは異なる組成とサイズを持ち、独立した非典型的生合成経路であることを実証することを目指す。この研究は、エクソソーム生合成の多様性を理解し、特に炎症反応における好中球の細胞間シグナル伝達の新たなメカニズムを明らかにすることを目的としている。
結果
fMLF活性化によるNE出芽とLBR陽性細胞質小胞の産生: fMLF 20 nM刺激15分後、PMNとdHL-60細胞の核膜 (NE) に、核内膜タンパク質であるLBR (Lamin B receptor) 陽性のFLAPおよび5-LO含有出芽構造が時間依存的に出現した (Fig 1a-c)。定量解析では、対照と比較して出芽構造が約4-fold増加し (p<0.001、n=3 independent experiments)、走化性活性化がNE由来出芽および細胞質小胞の生成に必要であることが示された。出芽から離脱したと考えられるLBR陽性細胞質小胞 (中央径約972.5 nm) もNE近傍で観察され、これらはラミンB1陰性であった (Fig 1d)。このことから、これらの小胞が微小核ではないことが確認された。LTA4H (leukotriene A4 hydrolase) も同様のLBR陽性NE出芽および細胞質小胞にFLAP/5-LOと共局在し、NE起源のLTB4合成エクソソームが完全形のLTB4合成複合体を内包することが示唆された (Fig 1e,f)。
nSMase1依存的セラミド富化脂質秩序ドメインのNE上形成: Di-4ANEPPDHQ GPライブイメージングにより、fMLF刺激時に核近傍 (NE側) でGP値が約0.2上昇し、脂質秩序 (Lo) ドメインの時空間的増大が観察された (Fig 2a,b、p=0.01)。nSMase (neutral sphingomyelinase) 阻害剤GW4869 3 μM処理により、このLoドメインの増加が完全に消失した (Fig 2c,d、p<0.001)。この結果は、nSMase1 (neutral sphingomyelinase 1) 依存的なセラミド産生がLoドメイン形成に不可欠であることを示している。核単離DRM (detergent-resistant membrane) 分画では、fMLF刺激によりFLAPモノマー、トリマー、および5-LOがDRM-H (セラミド/GM1濃縮重画分) に約3-fold増加した (Fig 2e,f)。nSMase1 KO dHL-60細胞では、DRM-LおよびDRM-H両画分におけるFLAP/5-LO濃縮が著明に減少し (Fig 2e,g、p<0.05)、3D体積レンダリングでもScr対照核内のFLAP高集積スポットがKO細胞で消失した (Fig 3a)。これらの結果は、nSMase1依存的にFLAP/5-LOがNEのセラミド濃縮脂質秩序ドメインに動員されることを強く示唆する。また、nSMase1はDRM-L画分にのみ濃縮されており、セラミド生成後にセラミド濃縮マイクロドメインから解離するという報告と一致した。
拡張顕微鏡によるNE出芽内の5-LO局在と構造特性の解明: 拡張顕微鏡 (約4倍拡大、実効解像度約60 nm) を用いて、fMLF走化PMNのLBR陽性NE出芽 (中央径=972.5 nm) 内に5-LO陽性スポット (中央径=200 nm) が明瞭に可視化された (Fig 5a,b)。NE出芽のサイズと内部の5-LOスポット数の間に正の相関 (Pearson r=0.7) が観察された (Fig 5c)。セラミドはLBR陽性小胞の外周膜に主に局在し、小規模なセラミド斑点も内部に見られた (Fig 5a,b)。一方、CD63陽性MVB (径350-420 nm) はfMLF刺激に関わらず数やサイズが変化せず (Extended Data Fig. 5d,e、p>0.5)、FLAP/5-LO陽性NE出芽とはサイズおよび局在において明確に区別された (Fig 5e,f)。このことから、LBR陽性MVBが5-LO陽性ILVを含み、従来のCD63陽性MVBとは組成およびサイズの両方で異なることが示唆された。
FLAP/5-LO陽性エクソソームはCD63陽性経路と独立しALIXに依存する: 共焦点免疫蛍光解析により、ALIX (Programmed cell death 6 interacting protein, PDCD6IP) がFLAPと核周囲および細胞質小胞で強く共局在することが確認された (Pearson r=0.72、Fig 5i)。一方、CD63とFLAP/5-LO陽性構造は共局在せず (Pearson r=0.15、p>0.5、Fig 5e,f)、CD63陽性ILVとFLAP/5-LO陽性NE由来小胞が独立して存在することが示された。GW4869 3 μM処理により、LBR/5-LO陽性NE出芽および細胞質小胞を持つ細胞の割合が約60%減少し (Fig 4e,f、p=0.01)、残存する出芽の多くがNEに付着したままで離脱できなかった (Fig 4g)。この結果は、nSMase1活性がNE出芽の脱落および小胞化に必要であることを示唆する。
分泌FLAP/5-LO陽性エクソソームと細胞内CD63プールの分離: 培養上清から差速遠心で単離したエクソソーム画分 (NTA (nanoparticle tracking analysis) による中央径100-150 nm) のWestern blot解析では、FLAP/5-LO陽性エクソソームとCD63/CD9陽性エクソソームが分離可能なサブセットとして検出された (Fig 5g,h)。Calnexin陰性によりエクソソーム純度が担保され (Thery et al. JExtracellVesicles 2018基準遵守)、NTAで濃度約3×10^9 particles/mLが確認された。密度勾配超遠心分離では、CD63、フロチリン2、TSG101などの古典的エクソソームマーカーは高密度画分9でピークを示したが、FLAPおよびALIXは画分4-9全体に均一に分布した (Extended Data Fig. 7a,b)。抗CD63抗体免疫沈降実験では、CD63陽性エクソソーム画分ではFLAP、5-LO、ALIXのレベルが減少し、フローフロー画分で濃縮された (Fig 5g,h)。これらの結果は、FLAP/5-LO含有エクソソームがCD63陽性古典的MVB-ILV経路とは独立したNE由来の非典型的経路で生合成・分泌されることを最終的に証明した。nSMase1 KO dHL-60細胞では、大型 (>180 nm) のエクソソーム粒子数が有意に減少し、5-LOおよびFLAPのレベルも低下した (Extended Data Fig. 6a-d)。
考察/結論
新規性: 本研究は、ロイコトリエンB4 (LTB4) 合成酵素 (FLAPおよび5-LO) を含有するエクソソームが核膜 (NE) から産生されるという、これまで報告されていない非典型的生合成経路を世界で初めて同定し、エクソソーム形成の多様性に新たな次元を加えた点で新規性がある。
先行研究との違い: Trajkovic et al. Science 2008が示したセラミド依存的MVB-ILV出芽機序と異なり、本研究はセラミド依存性を維持しつつも舞台をNEに移し、Larios et al. JCellBiol 2020やMatsui et al. EMBORep 2021のALIX-ESCRT依存経路とも対照的に独立した経路として確立した。nSMase1 (neutral sphingomyelinase 1) によるNE上のセラミド濃縮脂質秩序ドメイン形成が、FLAP/5-LOの動員を促進し、NE出芽を介したALIX関与小胞の産生に至るというシーケンシャルな機序を、Di-4ANEPPDHQライブイメージング、核DRM (detergent-resistant membrane) 分画、拡張顕微鏡という3つの独立した手法で多角的に立証した。セラミド富化脂質秩序ドメインが膜曲率変化のイニシエーターとして機能するという発見は新規であり、エクソソームバイオジェネシスにおける脂質の能動的役割を強調し、TrajkovicらのMVB側機序と相補的なメカニズムを提供する。
臨床応用: Lammermann et al. Nature 2013が示したLTB4依存的好中球swarm形成は感染防御に必須だが、過剰時にはARDSや慢性炎症性疾患を駆動するため、NE由来LTB4エクソソーム経路の選択的阻害は炎症性疾患の新規治療標的として臨床的意義を持つ。nSMase1欠損またはGW4869によるFLAP/5-LO含有エクソソーム産生抑制は、創薬戦略の前臨床基盤を提供する。また、Al-Nedawi et al. NatCellBiol 2008が報告した腫瘍EV-PMN軸との連携で、がん関連炎症におけるNE-EV経路の関与解明に向けた基盤も提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、(i) ALIXのNE出芽への具体的分子機構の解明、(ii) 他の細胞種 (上皮細胞、がん細胞、神経細胞など) におけるNE由来エクソソームの存在確認、(iii) 治療的nSMase1阻害のin vivo炎症モデルでの評価、(iv) ウイルス粒子 (例: HSV-1) の核膜出芽とNE由来EVの進化的・機構的関連性の解明が挙げられる。本研究はEV biogenesisの教科書を更新する基礎研究上の金字塔であり、その後のKeklikoglou et al. NatCellBiol 2019によるEV積荷組成変化研究と並び、EVの細胞種特異的生合成多様性の理解を一新した。
方法
細胞ソースと刺激: ヒト末梢血多核球 (PMN) およびDMSO誘導好中球様HL-60細胞 (dHL-60、5日分化) を使用した。細胞は20-100 nMのfMLF (formyl-Met-Leu-Phenylalanine) で均一に刺激するか、走化勾配下で刺激した。
遺伝子操作と薬理的阻害: CRISPR/pLentiCRISPR-v2システムを用いてnSMase1 (SMPD2遺伝子) ノックアウト (KO) dHL-60細胞を樹立し、Western blotでnSMase1タンパク質の消失を確認した。Scrambled sgRNAを対照として使用した。ライブイメージング用にmCherry-5-LO安定発現dHL-60細胞も作製した。薬理的阻害剤として、nSMase阻害剤GW4869を3 μMで30分間前処理した。
脂質秩序イメージング: 脂質秩序プローブであるDi-4ANEPPDHQを用いて細胞を標識し、Airyscan共焦点顕微鏡で全偏光 (GP) ライブイメージングを実施した。GP値に基づいて脂質秩序 (Lo) ドメインと脂質無秩序 (Ld) ドメインをリアルタイムで定量した。
核単離と界面活性剤抵抗性膜 (DRM) 分画: 細胞を窒素ボム破砕後、1,000×gで核ペレットを単離した。核ペレットを1% Triton X-100で4°C、30分間処理し、OptiPrep密度勾配遠心 (100,000×g、4時間) によりDRM-L (低密度・フロチリン2濃縮) とDRM-H (高密度・セラミド/GM1濃縮) を分離した。分画の純度はGAPDH (細胞質)、カルレティキュリン (ER)、LBR (NE)、ヒストンH3 (クロマチン) などのマーカーで確認した。
エクソソーム単離と解析: 培養上清から、Thery et al. JExtracellVesicles 2018のガイドラインに準拠した差速遠心法でエクソソームを単離した (300×g → 2,000×g → 16,500×g → 100,000×g)。単離されたエクソソームは、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) で粒子径と濃度を測定し、透過型電子顕微鏡 (TEM) で形態を確認した。Western blotでCD9、CD63、syntenin-1陽性およびカルネキシン陰性を検証し、エクソソームの純度を確保した。また、LTB4 ELISAキットを用いてエクソソーム中のLTB4レベルを定量した。
拡張顕微鏡 (Expansion Microscopy, ExM): 試料を約4倍に拡大するゲル化処理を施した後、Airyscan共焦点顕微鏡で撮像した。これにより、実効解像度約60 nmでの超解像イメージングが可能となり、NE出芽内の5-LO陽性スポットを定量した。
マーカー定量: Western blot (FLAPモノマー/トリマー、5-LO、nSMase1、CD63、ラミンB1、LBR)、ドットブロット (セラミド、GM1、フロチリン2、Cer-Ab/CTxB-FITC)、免疫蛍光 (FLAP、5-LO、LBR、CD63、ALIX) を用いて、タンパク質および脂質の局在と量を評価した。共焦点顕微鏡で3D体積レンダリングも実施した。
統計解析: 2群間の比較にはStudent t-testまたはMann-Whitney U-test (非正規分布の場合) を使用し、多群間の比較にはANOVAを用いた。p値が0.05未満を有意差ありと判断し、全ての実験は3回以上の独立した実験 (n≧3 independent experiments) で実施した。