• 著者: David Teis, Suraj Saksena, Scott D. Emr
  • Corresponding author: Scott D. Emr (Weill Institute for Cell and Molecular Biology, Cornell University, Ithaca, New York)
  • 雑誌: Developmental Cell
  • 発行年: 2008
  • Epub日: 2008-10-13
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 18854142

背景

MVB (multivesicular body、多胞体) 経路は、ユビキチン化された膜貫通タンパク質をエンドソーム内腔に取り込み、最終的にリソソームで分解するための細胞内輸送経路である。この経路はEGFR (epidermal growth factor receptor) などの細胞表面受容体のダウンレギュレーション、HIV (human immunodeficiency virus) 出芽、抗原提示、細胞分裂など多様な細胞機能に必須であり、その破綻はがんや神経変性疾患と関連する。さらにMVB経路はEV (extracellular vesicle、細胞外小胞) としてのエクソソーム生合成にも直結し、EV生物学の中心的な分子機構を担う。

酵母S. cerevisiaeの遺伝学的解析により同定されたESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 機構は、エンドソーム上でのタンパク質ソーティングを担うESCRTs (endosomal sorting complexes required for transport) の総称であり、なかでもESCRT-III (endosomal sorting complex required for transport three) が膜内陥・小胞出芽の実行機構として中心的役割を果たす。本機構はVps27 (vacuolar protein sorting 27) 複合体、ESCRT-I (endosomal sorting complex required I), ESCRT-II (endosomal sorting complex required), ESCRT-III、Vps4 (vacuolar protein sorting 4) 複合体の5つのサブ複合体から構成される。先行研究として、Katzmann et al. (2001) はESCRT機構とMVBソーティングの基本的枠組みを確立し、Babst et al. (2002) はESCRT-IIIのコアサブユニット (Vps20 (vacuolar protein sorting 20)・Snf7 (sucrose non-fermenting 7)・Vps24 (vacuolar protein sorting 24)・Vps2 (vacuolar protein sorting 2)) を同定し、これらがエンドソーム上でのみ複合体を形成するという独自の特性を報告した。Saksena et al. (2009) はESCRT機構がヒト疾患に関わる機序をレビューし、がん・HIV・神経変性疾患への関連を整理した。

しかし、エンドソーム上でのESCRT-IIIの分子アーキテクチャ、化学量論、アセンブリ順序は未解明であった。ヒトVps24ホモログであるCHMP3 (conserved helical multivesicular-body protein 3) のC末端切断型結晶構造からは非対称逆平行4ヘリックスバンドル構造が明らかになっており、C末端酸性領域が自己阻害領域として機能し、ESCRT-IIIサブユニットを細胞質中で「クローズド」モノマーとして維持することが示唆されていたが、エンドソーム上でのアセンブリ機序は不明であった。何が足りなかったか:エンドソーム上での4サブユニットの厳密なアセンブリ順序と機能的役割、Snf7ホモオリゴマー化とカーゴ隔離の因果関係、複合体の定量的化学量論がいずれも未実証であった。

目的

酵母を用いたin vivo実験系において、(1) ESCRT-IIIサブユニットがエンドソーム上にアセンブリする順序と経路、(2) ESCRT-III複合体の分子量・化学量論・サブユニット相対量、(3) Snf7オリゴマー化のMVBカーゴ隔離への機能的役割、を明らかにすること。

結果

ESCRT-IIIのエンドソーム上での順次アセンブリ経路の解明

4サブユニット全てのGFP融合体のライブセル顕微鏡解析と各欠失変異株での局在変化の系統的解析から、ESCRT-IIIアセンブリの順序が明確に決定された。Vps20-GFP (vacuolar green fluorescent protein 20) はvps27/snf7/vps24/vps2のいずれの欠失株でも独立してエンドソームに局在した (核形成因子として機能)。Snf7はvps20欠失株でのみエンドソーム局在が消失し細胞質に再配置された (95%、n=100; Figure 1B)。Vps24のエンドソーム局在はSnf7に依存した (snf7欠失で消失; Figure 1C)。Vps2のエンドソーム局在はVps24に依存した (vps24欠失で消失; Figure 1D)。これらの結果から「Vps20 → Snf7 → Vps24 → Vps2」という厳密な順序のアセンブリ経路が確立された (Figure 1F)。

Snf7のVps20依存的ホモオリゴマー化とFRETによる直接検証

Snf7-Flag (Snf7 Flag-epitope fusion) とSnf7を共発現する二倍体酵母での免疫沈降実験において、Snf7-Flagは膜分画からのみSnf7を特異的に共免疫沈降させた (細胞質からは共免疫沈降なし; Figure 2A)。GFP/mCherry融合Snf7の共局在解析ではPearson r = 0.81 ± 0.06 (n=15 samples) と高い共局在が確認された (Figure 2B)。

FRET解析では野生型細胞のエンドソーム上でSnf7-GFP (Snf7 green fluorescent protein fusion)/Snf7-mCherry間にFRET比 = 1.78 ± 0.29 (n=27 samples) という明確なFRETが検出され、Snf7ホモオリゴマー化が確認された (Figure 2C)。vps20欠失二倍体変異株ではSnf7が細胞質に再配置され、FRET比は1.12 ± 0.29 (n=29 samples) まで低下した。全ESCRT-IIIサブユニット間の全FRETペア (各n ≥49) を解析した結果、有意なFRETはSnf7-Snf7間 (self-association ratio = 1.9 ± 0.22) のみで確認され、Vps24-Vps24やVps2-Vps2 (vacuolar protein 2 homo-complex) のホモFRET、および異なるサブユニット間のヘテロFRETはいずれも低値であった (Figure 2, panels D and E)。

Snf7は最も豊富なESCRT-IIIサブユニットであり一過性450 kDa複合体を形成する

各ESCRT-IIIサブユニットを3xFlagタグで標識したウエスタンブロットの密度計測解析では、Snf7が膜分画・全細胞溶解物ともに最も豊富で、Vps20の約10倍の量が検出された (Figure 3A-B)。定量蛍光解析による細胞あたりの分子数は: Vps20 = 700 ± 250、Snf7 = 6,400 ± 1,840、Vps24 = 2,500 ± 960、Vps2 = 2,500 ± 600と算出された (Figure 3D)。この化学量論から1つのVps20が約10-15個のSnf7を核形成することが示唆された。

速度沈降遠心法では、5 μM DSP・15分架橋処理後の膜分画で約450 kDa (17.6S) の安定な複合体バンドが検出された (細胞質のSnf7はDSPでも架橋されなかった; Figure 4A)。vps4欠失変異株では450 kDa以上の高分子量ESCRT-III複合体が蓄積し、Vps20・Vps24・Snf7が同一複合体内に共沈降した (Figure 4D)。ESCRT-I (Vps23 (vacuolar protein sorting 23) を含む複合体) とESCRT-II (Vps36 (vacuolar protein sorting 36) を含む複合体) は< 156 kDa画分に検出され、ESCRT-IIIとは会合しないことが確認された。

Vps24-Vps2 (vacuolar protein 24-2 sub-complex) によるSnf7オリゴマー化の終結機構

vps24欠失・vps2欠失変異株では沈降実験で > 500 kDaの高分子量複合体が蓄積し、Snf7オリゴマー化が終結されないことが示された (Figure 5A)。DSP架橋実験の比較: WT細胞では約450 kDa、vps20欠失ではSnf7架橋なし (Vps20がオリゴマー化の核形成に必須)、vps24欠失では > 670 kDaへの高分子量化 (Vps24がオリゴマー化の終結に必須; Figure 5B)。Vps4とVps2の相互作用に必須なMIM (motif interacting with Vps4) ドメインのR224D (residue 224 aspartate substitution) 点変異では450 kDa複合体が蓄積し、ESCRT-III解離が不完全に阻害された。Bro1 (budding-related one scaffold protein) 欠失はESCRT-IIIアセンブリに影響を与えず、Snf7オリゴマーがBro1のドッキングプラットフォームとして機能することが示唆された。

Snf7オリゴマー化はMVBカーゴのエンドソーム隔離に必須である

Mup1-GFP (methionine permease 1, green fluorescent protein fusion) を用いた定量解析 (n > 25/各変異株) でESCRT変異株が2クラスに分類された (Figure 7B)。Class I変異株 (Snf7オリゴマー化が障害される変異: vps36欠失・vps22欠失・vps20欠失・snf7欠失など) では蛍光強度比が低く、Mup1-GFPがE区画と形質膜の両方に分布した。Class 2変異株 (Snf7オリゴマー化の終結が障害される変異: vps24欠失・vps2欠失・vps4欠失) では蛍光強度比が高く、Mup1-GFPはほぼ排他的にE区画に蓄積した (Figure 7A)。snf7-190 (自己阻害解除型変異体) ではMup1がE区画に捕捉されたが (蛍光強度比高値、n=30)、snf7-110 (エンドソーム局在不能型) では捕捉されなかった (Figure 7D)。

考察/結論

本研究はESCRT-IIIがエンドソーム上で「Vps20による核形成 → Snf7のホモオリゴマー化 (10-15コピー) → Vps24によるキャッピングと終結 → Vps2によるVps4動員 → Vps4依存的複合体解離」という精密に制御された順序アセンブリにより一過性450 kDa複合体を形成することを、複数の直交する実験手法 (免疫沈降・FRET・定量蛍光・速度沈降・in vivo架橋) によって初めて定量的に実証した。

先行研究との差異:DevCell (Developmental Cell誌) に発表されたEscrt-III (endosomal intraluminal sorting complex required) に関するBabst et al. 2002 はESCRT-IIIコアサブユニットを同定しエンドソーム上での特異的複合体形成を示したが、4サブユニットのアセンブリ順序・化学量論・機能的役割は未解明のままであった。Pegtel et al. AnnuRevBiochem 2019 のレビューが示すように、先行研究ではESCRT-IIIが2つのサブ複合体 (Vps20とSnf7のサブ複合体、Vps24とVps2のサブ複合体) から成ることが知られていたが、そのアセンブリ順序・化学量論・機能的役割は解明されておらず、これまでのESCRT-IIIの理解とは異なる定量的枠組みを提供した。本研究はSnf7が細胞あたり約6,400分子と他のサブユニットを大きく上回る存在量を持ち、複合体の主要構成要素として機能することを初めて示した。Saksena et al. BiochemSocTrans 2009 が示したようにESCRT機構はヒト疾患に広く関与し、本研究で確立されたESCRT-IIIアセンブリの枠組みはがん・HIV・神経変性疾患の病態理解に直接貢献する。

新規性:本研究で初めてSnf7ホモオリゴマー化がMVBカーゴをエンドソームに隔離するための必須の鍵事象であることが示された。Class I変異 (Snf7オリゴマー化阻害) ではカーゴが形質膜にリサイクルされ、Class 2変異 (オリゴマー化終結阻害) ではカーゴがE区画に過剰蓄積するという対称的な表現型は、Snf7オリゴマーがカーゴの「コミットメントポイント」を規定することを直接示している。ESCRT-III「内在タイマー」機構という概念は、オリゴマーのサイズとディスアセンブリのタイミングがアセンブリ機構そのものによって規定されるという重要な原理を提示している。

臨床応用・translational 意義:本研究のESCRT-IIIアセンブリ機序の解明は、がん・HIV感染・神経変性疾患におけるESCRT-III制御異常の分子基盤を理解する上で直接的に重要である。エクソソーム生物学の観点では、Colombo et al. AnnuRevCellDevBiol 2014 が包括的にレビューしたMVBを経由したエクソソーム産生の中心的分子機構を明確にするものであり、EV内包カーゴの選択性と産生効率を規定する分子基盤のtranslational研究に貢献する。哺乳類ではSnf7ホモログであるCHMP4 (conserved helical multivesicular-body protein 4) が複数のアイソフォームで存在し、腫瘍-免疫細胞間のEVを介した細胞間コミュニケーションへの関与が期待される。

残された課題・今後の展望:残された課題として、Snf7オリゴマーによる膜内陥・小胞出芽の物理化学的機構の解明、哺乳類複数Snf7ホモログ間の機能分担、および病的状態 (がん、HIV感染、神経変性) でのESCRT-III制御異常のメカニズム解明が挙げられる。Vps25 (vacuolar protein sorting 25) が1コピーか2コピーかでVps20依存的Snf7オリゴマー化がどう制御されるかも未解決の問いである。

方法

S. cerevisiae (出芽酵母) を主要な実験系として使用した。

顕微鏡・蛍光解析:ESCRT-IIIサブユニット (Vps20・Snf7・Vps24・Vps2) のC末端GFP融合体を染色体組込みで内在性発現させ、ライブセル共焦点顕微鏡でエンドソーム (FM4-64染色) への局在を観察した。各欠失変異株における局在変化を系統的に調べてアセンブリ順序を決定した (Figure 1)。

定量的蛍光解析:LacO (lactose operator sequence、128コピー) に結合するlacI-GFP (lacI-linked green fluorescent protein、256分子相当の内部標準) を基準として、各ESCRT-III-GFP融合サブユニットの蛍光強度を正規化し、細胞あたりの分子数を算出した。4サブユニット全てで同一の顕微鏡・カメラ設定 (露光時間0.4秒) を使用した (Figure 3)。

FRET (fluorescence resonance energy transfer) 解析:二倍体酵母に一方のSnf7アレルにGFP、もう一方にmCherryを染色体組込みで融合させ、エンドソーム上でSnf7間のホモFRETを測定した。FRET比 = mCherry channel蛍光 / spillover補正後のdirect GFP excitationとして算出し、FRET比 > 1をFRETあり (分子間距離 ≤88 A)、FRET比 = 1をFRETなしとした。全ESCRT-IIIサブユニット間の全homo/hetero FRETの組み合わせ (各n ≥49) も測定した (Figure 2)。

速度沈降遠心法:10%-40%グリセロール勾配上で100,000 × g 210分の超遠心を行い、ESCRT-IIIの膜上複合体の分子量を決定した。Aldolase (158 kDa)・Catalase (232 kDa)・Ferritin (440 kDa)・Thyroglobulin (670 kDa) を分子量マーカーとして使用した (Figure 4)。

in vivo架橋実験:スフェロプラスト化した酵母を膜透過性架橋剤DSP (dithiobis succinimidyl propionate; 12 A、cleavable) 5 μMで15分間処理し、細胞質と膜分画に分離後、速度沈降遠心で解析した (Figure 5)。

カーゴ追跡:Mup1 (methionine transporter/permease 1) のGFP融合体をMVBカーゴのモデルとして使用した。メチオニン添加 (60分) でMup1のエンドサイトーシスを誘発し、エンドソーム対形質膜蛍光強度比を指標に各ESCRT変異株のカーゴ分布を評価した (各変異株n > 25; Figure 7)。sec1-1温度感受性変異との組み合わせで形質膜への小胞融合をブロックしカーゴリサイクリングを確認した (Figure 7C)。