• 著者: Marie-Eve Wedge, Victoria A. Jennings, Mathieu J. F. Crupi, Joanna Poutou, Taylor Jamieson, Adrian Pelin, Giuseppe Pugliese, Christiano Tanese de Souza, Julia Petryk, Brian J. Laight, et al.
  • Corresponding author: Carolina S. Ilkow (Centre for Innovative Cancer Therapeutics, Ottawa Hospital Research Institute; Department of Biochemistry, Microbiology and Immunology, University of Ottawa, Ottawa, Ontario, Canada)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-04-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35393414

背景

腫瘍溶解性ウイルス (OV) はがん細胞に選択的に感染し、免疫応答を活性化する有望な治療薬である。しかし、多くのがん細胞はOV複製に対する内在的な抵抗性を持つことが知られている。先行研究では、エピゲノム修飾薬との併用によりOVの殺傷効果が増強されることが示されていた (Bridle et al. 2013)。一方、細胞外小胞 (EV) はmiRNAなどの機能的分子を細胞間で水平伝達するキャリアとして機能することが知られており (Kahlert & Kalluri 2013; Maia et al. 2018)、感染細胞から放出されたEVが隣接する非感染細胞を「プライミング」し、OV感受性を高める可能性は未解明であった。また、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットであるARID1Aが抗ウイルス免疫応答に関与するかどうかも不明であった。これらの課題を解決するため、OVの治療効果を増強する新たな戦略の開発が求められていた。

目的

本研究の目的は、人工miRNA (amiRNA) のスクリーニングによりOVの複製および殺傷効果を増強するamiRNAを同定し、その標的と作用機序を解明することである。さらに、amiRNAを搭載した小型細胞外小胞 (SEV) を介した非感染細胞へのバイスタンダー効果の分子基盤を確立し、in vivoモデルにおける治療効果を評価することを目的とした。

結果

amiRNAスクリーニングによるamiR-4の同定とOV増強効果: SV-amiRNAライブラリーを用いたスクリーニングにより、上位5つのamiRNA候補が同定された。これらのうち、amiR-4を搭載したVSVΔ51は、786-0、BxPC-3、HPAF-IIなどの多様ながん細胞株およびCAFにおいて、対照ウイルスと比較して有意に高い細胞死を誘導した (p=0.0048〜p<0.0001)。しかし、正常線維芽細胞GM38ではVSVΔ51による殺傷効果の有意な増強は認められなかった (Supplementary Fig. 1f)。さらに、患者由来膵がんex vivoコアモデル (PDX) においても、VSVΔ51-amiR-4は対照ウイルスと比較して有意に高いウイルス力価を示した (p=0.0392〜0.0013)。これらの結果は、amiR-4ががん細胞選択的にOVの抗腫瘍効果を増強することを示唆する (Fig. 1c, d)。amiRNAスクリーニングは5回の生物学的繰り返しで実施され、その結果は平均±SEMで示されている。

ARID1Aの同定と抗ウイルス機能の解明: 計算的miRNA標的予測 (TargetScanHuman、BLAST) により、amiR-4の標的候補としてARID1A、PLEC、HDAC4、MCM2が予測された。RT-qPCRおよびウエスタンブロット解析の結果、VSVΔ51-amiR-4感染によりARID1A、PLEC、HDAC4のmRNAおよびタンパク質レベルが選択的に低下することが確認された (MCM2は変化なし) (Fig. 2a, b)。CRISPR-Cas9によりARID1Aを欠失させた786-0およびPANC1細胞は、野生型細胞と比較してVSVΔ51感染に対して有意に高い感受性を示し (p<0.0001 at all MOIs)、VSVΔ51-amiR-4はARID1A欠失細胞において追加的な殺傷効果を示さなかった。このことは、amiR-4がARID1A mRNAを主要な標的とすることを示唆する (Fig. 2c, d)。ARID1A欠失細胞は、ワクシニアウイルス (VV-TK⁻VGF⁻)、腫瘍溶解性ヘルペスウイルス1型 (oHSV-1)、レオウイルス、SVなど、他のOVプラットフォームに対しても感受性が高かった (Fig. 2e-h)。RNA-seq解析により、ARID1A欠失細胞ではType I/IIインターフェロンシグナル経路が転写的に抑制されていることが明らかになった (Fig. 2k, l)。これらの実験は5回の生物学的繰り返しで実施され、結果は平均±SEMで示されている。

OV-amiR-4とEZH2阻害剤GSK126の合成致死効果: ARID1A欠失がEZH2阻害剤GSK126に対する合成致死感受性を与えることが知られている。本研究では、amiR-4発現OV (低MOI) とGSK126の併用が、HPAF-II、BxPC-3、786-0などの多様ながん細胞株およびスフェロイドにおいて著明な細胞死増強効果を示した (p<0.0001) (Fig. 3a, b)。ARID1A欠失SKOV3卵巣がん細胞では、GSK126との併用効果が消失し、ARID1A依存性が確認された (Supplementary Fig. 3b)。GSK126単独ではウイルス力価や感染細胞数に影響がなく、直接的な抗ウイルス作用がないことが示された (Supplementary Fig. 3c-i)。細胞生存率は生物学的4連で評価された。

SEVを介したamiR-4の細胞間伝達とバイスタンダー効果: OVを含まないamiR-4搭載SEV (MRBΔGシステム) の調製に成功した。OV感染細胞はSEV分泌を増加させ (Fig. 4a, b)、amiR-4搭載SEVは非感染細胞に取り込まれ、amiR-4を伝達した (Fig. 4c, d)。amiR-4搭載SEVで処理されたナイーブ細胞において、GSK126との併用により細胞死が増強されるバイスタンダー効果が観察された (Fig. 4e, f)。Rab27a-KO 4T1細胞 (SEV分泌が著明に減少) を用いたtranswell共培養実験では、amiR-4の非感染細胞への移行が有意に減少し (p=0.0066)、VSVΔ51-amiR-4とGSK126の併用による細胞死増強効果が消失した (p=0.7193 vs p=0.0003) (Fig. 4h, i, j)。これらの結果は、SEVを介したamiR-4の伝達がバイスタンダー効果に必須であることを示唆する。amiR-4レベルはRT-qPCRにより3連で解析された。

in vivoにおける抗腫瘍効果: 免疫不全ヌードマウス (n=12 animals per group) のHPAF-II皮下腫瘍モデルにおいて、VSVΔ51-amiR-4は対照ウイルスと比較して48時間後の腫瘍内ウイルス力価を有意に増加させ (p=0.014)、腫瘍増殖を有意に抑制した (Fig. 5a, d)。免疫担全C57BL/6マウス (n=9-10 animals per group) のTH04膵臓オルソトピック腫瘍モデルおよびB16-F10メラノーマモデルでも、VSVΔ51-amiR-4は感染後24時間および48時間でウイルス力価の有意な増加を示した (Fig. 5b, c)。TH04オルソトピック膵臓腫瘍モデルでは、VSVΔ51-amiR-4処置群で有意な生存期間延長が確認された (p=0.0021) (Fig. 5e)。さらに、VSVΔ51-amiR-4とGSK126の併用療法は、HPAF-II皮下腫瘍モデルにおいて単独療法よりも効果的であり (Fig. 5f)、B16-F10オルソトピックおよび腹膜播種モデルでも持続的な腫瘍寛解をもたらした (Fig. 5g)。これらのin vivo実験は少なくとも2回繰り返され、結果は平均±SEMで示されている。

考察/結論

本研究は、腫瘍溶解性ウイルス (OV) がamiRNAライブラリースクリーニングの媒体および増幅装置として機能し、ARID1Aという新規の抗ウイルス因子を同定するという新規アプローチを確立した。ARID1AがSWI/SNF複合体を介して複数のOVプラットフォームに対する抵抗性を付与するという発見は、エピゲノム制御と抗ウイルス免疫の新たな接点を示すものであり、これまで報告されていない知見である。

先行研究と異なり、本研究ではOV-amiR-4とEZH2阻害剤GSK126の合成致死効果が、感染細胞だけでなく非感染細胞も標的とする多層的な機序を持つことを明らかにした。これは、単独OVの腫瘍標的化の限界 (感染がん細胞の限定性) を克服するものである。Rab27a依存的なSEVによるバイスタンダー効果は、「ウイルスに感染できないがん細胞も、隣接する感染細胞由来のEVによって抗がん状態にプログラムできる」という新規概念を確立した。Ostrowski et al. NatCellBiol 2010Bobrie et al. JExtracellVesicles 2012の報告と一致して、Rab27aがSEV分泌に重要であることを示し、Bobrie et al. CancerRes 2012の知見を補強する。

臨床応用の観点から、本戦略はin vivo腫瘍モデルにおいてOVの抗腫瘍効果を増強し、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) との併用療法も強化する可能性を示唆する。ARID1Aの不活性化がICIへの感受性を高めるという最近の報告 (Shen et al. 2018) と合わせ、OV-amiR-4、EZH2阻害剤、ICIの三重併用は将来的に有望な臨床応用戦略となり得る。さらに、PD-L1を標的とするshRNAを搭載したOVが、SEVを介してPD-L1発現を低下させ、抗腫瘍免疫を増強することも示された。これは、これまで報告されていない「undruggable」な標的をOV-SEVシステムで標的化できる可能性を示す。

残された課題としては、SEVのin vivoにおける安定性、腫瘍特異的なSEV送達の最適化、および免疫細胞への影響の詳細な解析が挙げられる。また、異なるがん種におけるamiR-4の有効性や、amiRNAの多重化による治療効果のさらなる向上についても今後の検討課題である。

方法

16,000の哺乳類遺伝子を標的とするSindbisウイルス (SV) amiRNAライブラリーを用いたスクリーニングを、ヒトおよびマウスのがん細胞株、がん関連線維芽細胞 (CAF)、正常線維芽細胞 (GM38) で実施した。継代後、次世代シーケンシング (NGS) によりヒット候補を同定した。同定されたamiRNA (amiR-1〜5) をVSVΔ51およびMarabaウイルスOVプラットフォームにクローニングし、786-0、BxPC-3、HPAF-II、MIA PaCa-2、PANC1など多様ながん細胞株における細胞生存率をalamarBlue®アッセイで評価した。CRISPR-Cas9システムを用いてARID1A欠失株 (786-0、PANC1) を作製し、RNA-seqによりインターフェロン関連遺伝子発現の変化を解析した。EZH2阻害剤GSK126との併用療法 (低MOI OV + GSK126) における細胞死を定量した。MRBΔGウイルス (Gタンパク質欠損により感染性ウイルスを産生しない) を用いてamiR-4搭載SEVを調製し、その機能を確認した。SEV分泌のRab27a依存性を確認するため、Rab27a-KO 4T1細胞を用いた。免疫不全マウス (HPAF-II皮下腫瘍) および免疫担全マウス (TH04膵臓オルソトピック腫瘍、B16-F10メラノーマ) を用いてin vivo治療実験を実施し、腫瘍増殖抑制効果および生存期間を評価した。統計解析にはStudent t-testおよびone-way ANOVAを用いた。