- 著者: Angelique Bobrie, Sophie Krumeich, Fabien Reyal, Chiara Recchi, Luis F. Moita, Miguel C. Seabra, Matias Ostrowski, Clotilde Thery
- Corresponding author: Clotilde Thery (Institut Curie, INSERM U932, Paris, France)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-08-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 22865453
背景
腫瘍細胞は、増殖、浸潤、転移といった悪性形質を獲得するだけでなく、周囲の微小環境を積極的に改変することで、腫瘍の進行を促進することが知られている Hanahan et al. Cell 2011。この細胞間コミュニケーションには、可溶性分子だけでなく、エクソソームを含む様々な細胞外小胞が重要な役割を果たす Thery et al. NatRevImmunol 2009。エクソソームは、直径50〜100 nmの脂質二重膜小胞であり、細胞内の多胞体(MVB: multivesicular body)に由来し、CD63、Tsg101、Alix、Hsc70などの内エンドソームマーカーを発現する。腫瘍細胞から分泌されるエクソソームは、免疫抑制能(T細胞活性化抑制、NK細胞抑制、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の誘導など)や転移促進能をin vitroで示すことが多数報告されてきた Peinado et al. NatMed 2012。しかし、これらの機能がin vivoの生理的条件下で、どの程度腫瘍の進行に寄与するのか、その特異的な役割については依然として未解明な点が多かった。
エクソソームの分泌経路には、小GTPaseであるRabファミリータンパク質が関与することが示されている。特に、Rab27aとRab27bは、HeLa細胞においてエクソソーム分泌に必須であることが先行研究 Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 で報告されていた。しかし、このメカニズムが他の細胞タイプ、特に腫瘍細胞において普遍的に適用されるのか、また、in vivoでの腫瘍の進行におけるエクソソーム分泌の役割は、細胞タイプや腫瘍のコンテキストによって異なるのかという疑問が残されていた。エクソソームの機能がすべての腫瘍に普遍的に適用できるのかという問いは、個別化治療の観点から重要な検討課題であり、この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な目的の一つであった。
本研究では、同一組織起源でありながら異なる転移能を持つ2種類のマウス乳癌細胞株、すなわち転移性の4T1細胞と非転移性のTS/A細胞を用いることで、エクソソーム分泌の腫瘍特異的な生理機能をin vivoで比較検討することが可能となった。両細胞株はin vitroで免疫抑制性エクソソームを分泌することが既報であり、これらの細胞株はエクソソームのin vivoでの機能的有意性を比較する理想的な対照モデルを提供する。特に、Rab27aの機能がエクソソーム分泌のみに限定されるのか、あるいは他の分泌経路にも関与するのかという点も、そのin vivoでの役割を正確に評価する上で不足していた情報である。これらの疑問を解決し、エクソソームの腫瘍進行における役割をより詳細に理解することが、新たな治療戦略の開発に繋がるものと考えられた。
目的
本研究の目的は、マウス乳癌細胞株(転移性4T1および非転移性TS/A)においてRab27aをshRNA(short hairpin RNA)で抑制し、エクソソーム分泌の低下が腫瘍増殖、転移、および免疫微小環境に与える影響をin vivoで検証することである。さらに、Rab27aが制御するエクソソーム非依存性の分泌成分(特にMMP9やサイトカイン)の腫瘍進行への寄与を評価し、エクソソームの腫瘍コンテキスト依存的な役割を明らかにすることを目指した。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。
- Rab27aおよびRab27bが、マウス乳癌細胞におけるエクソソーム分泌にどのように関与するかを評価する。
- Rab27aの抑制が、転移性4T1腫瘍と非転移性TS/A腫瘍のin vivoでの増殖および肺転移に与える影響を比較する。
- Rab27a依存的な腫瘍促進効果が、宿主の免疫細胞、特に好中球の動員とどのように関連するかを解析する。
- Rab27aがエクソソーム分泌とは独立して、MMP9(matrix metalloproteinase 9)やサイトカインなどの他の分泌因子に与える影響を評価し、それらが腫瘍進行にどのように寄与するかを検討する。
- エクソソームと可溶性因子が協調して骨髄由来細胞の分化を促進するメカニズムをin vitroおよびin vivoで検証し、腫瘍微小環境の形成におけるエクソソームの役割を解明する。これらの目的を達成することで、腫瘍エクソソームの生理的役割に関する知識ギャップを埋め、新たな治療標的の同定に貢献することを目指した。
結果
Rab27aはエクソソーム分泌を制御するが、Rab27bはマウス乳癌細胞では不要である: sh27a(Rab27a-shRNA)を導入した4T1およびTS/A細胞では、エクソソームタンパク質量がコントロール細胞と比較して約50%低下した(p<0.05、paired Student t検定、n=3-4独立実験)。特に、内エンドソームマーカーであるCD63、Tsg101、Alix、Hsc70の全4マーカーが有意に減少した(p<0.05、ANOVA、n=4-7独立実験)。これは、Rab27aがエンドソーム由来エクソソームの分泌に必須であることを示している (Figure 2)。一方、sh27b(Rab27b-shRNA)を導入した細胞では、エクソソーム量に有意な変化は認められなかった。この結果は、先行研究 Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 でHeLa細胞においてRab27aとRab27b双方がエクソソーム分泌に必要であったのと異なり、マウス乳癌細胞ではRab27aのみが機能的であることを示唆する。また、非エンドソームマーカー(Mfge8、CD9)を持つ小胞サブポピュレーションはRab27a抑制の影響を受けず、Rab27a非依存的な細胞外小胞分泌経路の存在も確認された。
4T1腫瘍の増殖と肺転移はRab27a依存的に制御されるが、TS/A腫瘍では影響がない: Balb/c雌マウス(n=3-4 mice per group)の乳腺脂肪組織に皮下注射した実験において、sh27a-4T1腫瘍はScr-4T1腫瘍と比較して有意に成長が遅く(p<0.001、Student t検定)、28日後の肺転移個数も有意に少なかった(p<0.05、One-way ANOVA、n=4独立実験) (Figure 3)。静脈内注射モデルでも同様の肺転移抑制効果が確認され、腫瘍サイズの差ではなく、真の転移抑制効果であることが示された。sh27aおよびScr両細胞のin vitro増殖速度は同等であり、in vivoでの腫瘍縮小効果が細胞内因性の増殖能の差によるものではないことを実証した。対照的に、TS/A腫瘍ではsh27aによる増殖や転移への有意な影響は認められなかった(p>0.05)。この4T1とTS/Aの対照的な結果は、エクソソームの腫瘍促進機能が腫瘍コンテキスト依存性を持つことを明確に示している。
好中球の全身動員がRab27a依存的腫瘍促進の主要なメカニズムである: Scr-4T1腫瘍に浸潤する免疫細胞の最大70%をCD11b+/Ly6C+/Ly6G+好中球が占めたが、sh27a-4T1腫瘍ではこの割合が最大25%以下に有意に低下した(p<0.001、One-way ANOVA) (Figure 4A)。この差は腫瘍サイズに依存せず維持された。脾臓および血液でも、Scr-4T1腫瘍を持つマウスにおいて全身性の好中球増加が特異的に観察された。T細胞、B細胞、NK細胞が欠損したRag2-/-/γc-/-マウス(n=3 mice per group)でも、sh27a-4T1のRab27a依存的な増殖抑制は維持され(p<0.001)、適応免疫系がこの腫瘍促進効果に必須ではないことが判明した。一方、抗Ly6G抗体による好中球除去により、Scr-4T1腫瘍の増殖はsh27a-4T1腫瘍と同等レベルまで有意に低下し(p<0.001)、好中球がScr-4T1腫瘍増殖に必須であることが直接証明された。TS/A腫瘍では好中球浸潤が免疫浸潤の最大12%と少なく、この相違が両細胞株の異なるRab27a依存性を説明する。
Rab27aはエクソソーム分泌に加えて、MMP9の非エクソソーム性分泌も制御する: sh27aを導入した4T1およびTS/A細胞の両方で、proMMP9の分泌が著明に低下した(ELISA確認、p<0.05、Student t検定) (Figure 5A)。proMMP9の大部分は100,000g超遠心後の可溶性画分に存在し、エクソソーム画分への結合は極少量であった。この結果は、Rab27aがエクソソーム非依存的な機序でMMP9分泌を制御することを示唆する。対照として、小胞結合タンパク質であるMfge8はエクソソーム画分と条件培地にほぼ等量で分布し、エクソソーム除去によりCMからの回収量が30%以上減少することが確認された。4T1におけるMMP9発現と転移能の関連は既知であり、Rab27a依存的なMMP9分泌抑制が転移減少の重要な一因であると考えられる。G-CSFはsh27a細胞でむしろ上昇していたため、好中球動員の減少はG-CSF抑制によるものではなく、エクソソームによる骨髄前駆細胞の好中球への方向付けが機能していないためと解釈された。
エクソソームと可溶性因子の協調による好中球分化促進: 骨髄細胞培養実験において、4T1の全CMは好中球(CD11b+/Ly6C+/Ly6G+)への分化を顕著に促進した。しかし、エクソソーム除去CM(depl-CM)では効果が減弱し、エクソソーム再添加(depl-CM + exosomes)により回復した(p<0.05、paired Student t検定) (Figure 6C)。この結果は、G-CSFなどの可溶性因子が骨髄前駆細胞の生存・増殖を促進しつつ、エクソソームがそれらを好中球へ方向付けるという相補的な二重シグナルモデルを支持する。TS/A条件培地では骨髄細胞への好中球分化促進効果は認められなかった。さらに、4T1由来エクソソーム(TS/A由来は無効)のsh27a-4T1腫瘍内局所注射実験(n=5 mice per group)では、腫瘍増殖の有意な回復(p<0.01)と脾臓での全身性好中球動員の回復(p<0.05)が確認され、エクソソームが腫瘍増殖と全身好中球動員の両方に直接寄与することが救済実験で実証された。この骨髄→好中球→腫瘍の三者連関は、腫瘍エクソソームが前転移ニッチの全身的形成においても重要な役割を担うことを示す知見であり、同時期に発表された Peinado et al. NatMed 2012 のメラノーマエクソソームによる骨髄前駆細胞の前転移表現型誘導の報告と軌を一にするものである。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、先行研究 Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 でHeLa細胞においてRab27aとRab27bがともにエクソソーム分泌に必須であったのと異なり、マウス乳癌細胞ではRab27aのみが機能的であることを明らかにし、エクソソーム分泌機序の細胞タイプ依存性を示した点で、これまでの知見と異なる。また、同一組織起源の4T1とTS/AでRab27aの機能的役割が全く異なることから、「腫瘍エクソソームは転移促進能を持つ」という単純な一般化が危険であることを強調している。
新規性: 本研究で初めて、Rab27aがエクソソーム分泌だけでなく、MMP9の非エクソソーム性分泌も制御するという新規の知見が示された。このことは、Rab27aの機能がエクソソーム分泌に限定されない多機能性を持つことを示唆する。さらに、エクソソームと可溶性因子(G-CSF)が協調して骨髄由来好中球の全身動員を促進し、腫瘍増殖と転移を誘導するメカニズムをin vivoで実証した点は、これまでに報告されていない重要な新規性である。
臨床応用: 本知見は、エクソソームを標的とした新規の癌治療戦略開発に繋がる臨床的意義を持つ。エクソソーム分泌を阻害することで、骨髄由来好中球の全身動員が抑制され、転移促進的な腫瘍微小環境の形成を予防できる可能性がある。特に、Rab27aを標的とすることで、エクソソームとMMP9の両方の分泌を抑制し、より効果的な抗腫瘍効果が期待できる。この「腫瘍コンテキスト依存性」の主張は、現在の個別化医療の基盤的考え方と一致し、エクソソームを標的とした治療開発においても腫瘍特異性の考慮が不可欠であることを示す。
残された課題: 今後の検討課題として、4T1とTS/Aの機能差をもたらすエクソソームカーゴ分子(タンパク質、miRNA、脂質)の同定と、その腫瘍特異性を規定する上流因子の解明が必須である。また、Rab27a依存的なMMP9分泌の分子機序(effector経路の特定)、in vivoでのエクソソーム阻害の実用的な戦略(Rab27a阻害薬の開発)、さらにヒト転移性乳癌でのRab27a-好中球軸の臨床的意義の検証が求められる。Rab27a抑制をエクソソーム機能の特異的プロキシーとして用いる際の解釈上の限界も示されており、今後Rab27a研究においては、エクソソーム成分と非エクソソーム性分泌成分(MMP9等)の寄与を個別に評価する実験設計が必要である。
方法
細胞株と遺伝子抑制: 転移性マウス乳癌細胞株4T1(Balb/cシンジェニック)と非転移性TS/A細胞株(より免疫原性が高い)を用いた。Rab27a特異的shRNA(sh27a2)、Rab27b特異的shRNA(sh27b1)、およびコントロールshRNA(Scr)をレンチウイルスベクターで安定的に導入した。ピューロマイシン選択後、独立した感染バッチから得られた細胞を用いて複数の実験を実施した。Rab27aおよびRab27bのmRNAおよびタンパク質発現レベルは、定量的RT-PCR(reverse transcriptase-PCR)およびウェスタンブロットで確認した。
エクソソームの精製と特性評価: 48時間培養した条件培地(CM: conditioned medium)から、差次遠心分離法(300g、2,000g、10,000g、100,000g)によりエクソソームを精製した Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006。エクソソームのタンパク質量はMicro-BCA(micro bicinchoninic acid)法で定量し、エクソソームマーカー(CD63、Tsg101、Alix、Hsc70)はウェスタンブロットで確認した(4〜7回の独立実験)。
in vivo腫瘍モデル: Balb/c雌マウスの乳腺脂肪組織に50,000個の腫瘍細胞を皮下注射した。腫瘍体積は「長さ×幅×[(長さ+幅)/2]」の式で週2回測定した。肺転移は、28日後に肺を固定し、手動で結節数を計数した。免疫不全マウス(Rag2-/-、Rag2-/-/γc-/-)を用いた実験も実施し、適応免疫系の関与を評価した。好中球除去モデルでは、抗Ly6G抗体を腹腔内投与した(day 3に50μg、day 4-15に25μg、day 16-18に1日2回50μg/マウス)。また、sh27a-4T1腫瘍内へのScr-4T1またはScr-TS/A由来エクソソームの局所注射(day 3に1μg、day 6に2μg、day 9以降に5μg)による救済実験も行った。各実験はn=3〜4 miceで実施された。
免疫細胞解析: 腫瘍、脾臓、血液中の免疫細胞は、フローサイトメトリー(CD11b/Ly6C/Ly6G抗体を用いて好中球、CD4+/Foxp3-抗体を用いてT細胞、NKp46抗体を用いてNK細胞を同定)により定量した。解析はFlowJoソフトウェアを用いて行った。
骨髄細胞のin vitro分化実験: Balb/cマウスの骨髄細胞を、4T1またはTS/AのCMで7日間培養し、造血細胞の分化を解析した。全CM、エクソソーム除去CM(depl-CM)、およびdepl-CMにエクソソームを再添加した条件の3群で比較し、エクソソームの好中球分化への寄与を分離評価した。細胞数はMacsQuantフローサイトメーターで絶対数を定量した。
分泌因子解析: 144種類のタンパク質を対象とした抗体マイクロアレイによるスクリーニングを実施後、ELISA(proMMP9、MMP3、MMP2、G-CSF(granulocyte colony-stimulating factor)、MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1)、RANTES(regulated on activation, normal T cell expressed and secreted))を用いて特定の分泌因子を定量した。また、超遠心分離(100,000g)により、分泌因子が可溶性画分に存在するか、あるいは小胞結合型として存在するかを分画比較した。統計解析にはStudent t検定およびANOVA(analysis of variance)を用いた。