• 著者: Angélique Bobrie, Marina Colombo, Sophie Krumeich, Graça Raposo, Clotilde Théry
  • Corresponding author: Clotilde Théry (Institut Curie, INSERM U932, Paris, France)
  • 雑誌: Journal of Extracellular Vesicles
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-04-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 24009879

背景

細胞は、細胞間コミュニケーションの重要な手段として、脂質二重膜に囲まれた細胞外小胞 (EV: Extracellular Vesicles) を分泌する。EVは、その起源と形成メカニズムに基づいて、主にエクソソームと微小小胞 (マイクロパーティクル) の2種類に大別される。エクソソームは直径50〜100 nmの小胞であり、多胞体 (MVB: Multivesicular Body) の内腔小胞が細胞膜との融合によって細胞外に放出されることで形成されると定義されてきた。この特殊な分泌経路は、1980年代に Harding et al. JCellBiol 1983Pan et al. JCellBiol 1985 によって最初に記載され、差速超遠心法 (逐次遠心) によって単離されることが一般的である。一方、微小小胞は細胞膜の外向き出芽によって直接放出される、より大型の膜小胞であるとされている (Cocucci et al. TrendsCellBiol 2009)。

これらのEVは、免疫応答のメディエーターとして (Raposo et al. JExpMed 1996Zitvogel et al. NatMed 1998Thery et al. NatRevImmunol 2009) や腫瘍抗原のキャリアとして (Wolfers et al. NatMed 2001) 注目されてきた。Théry et al. (2006) が確立したエクソソーム単離プロトコルは、CD63、CD9、Alix、TSG101、Hsc70、Mfge8といった一連のマーカーによってエクソソームを特徴づけるものであり、多くの研究室で広く採用されてきた (Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006)。また、Thery et al. JImmunol 2001 では、樹状細胞由来エクソソームのプロテオーム解析により、特定の細胞内タンパク質が選択的に濃縮されることが示されている。

しかし、差速超遠心法で得られる「エクソソーム」調製物が本当に均一な集団であるのか、あるいは複数の起源を持つ異なるEVが共精製されているのかについては、直接的な証拠が不足しており、その不均一性は未解明であった。エクソソームのサイズは30〜100 nmと報告されているが、このサイズ範囲の変動がMVBの内腔小胞の不均一性に起因するのか、あるいは異なる起源のEVが混在しているためなのかは不明であった。また、小GTPaseであるRAB27AおよびRAB27BがヒトHeLa細胞株でのエクソソーム分泌に必要であることが Ostrowski et al. NatCellBiol 2010 によって示されていたが、このRab27a依存性がさまざまなエクソソームマーカーの分泌にどう影響するかは手薄であった。特に、CD9やMfge8 (milk fat globule-epidermal growth factor factor 8) といった広く用いられるエクソソームマーカーの特異性についても、他のEV集団との比較検討が十分に実施されておらず、その信頼性には知識ギャップが残されていた。本研究が行われた2012年時点では、エクソソームの不均一性についての直接的なin vitro実証が存在しておらず、これらのギャップを埋める必要があった。

目的

本研究の目的は、マウス乳がん4T1細胞においてRab27a (ras-related protein Rab27a) の機能を阻害することで、差速超遠心法によって単離される「エクソソーム調製物」の中に、異なる細胞内分泌機序を持つ複数のEVサブポピュレーションが共存することを直接的に実証することである。具体的には、Rab27aのノックダウンが、CD63、TSG101 (tumor susceptibility gene 101)、Alix (ALG-2-interacting protein X)、Hsc70 (heat shock protein cognate 70) といった古典的エクソソームマーカーの分泌に与える影響と、CD9、Mfge8といった他のエクソソームマーカーの分泌に与える影響を比較解析する。さらに、ショ糖密度勾配浮遊および免疫電子顕微鏡解析を通じて、これらのEVサブポピュレーションの生化学的特性と形態学的差異を詳細に評価し、各エクソソームマーカーのEVサブポピュレーションに対する特異性を再評価することも目的とした。これにより、エクソソームの定義と特性評価に関する理解を深め、将来的なEV研究の基盤を確立することを目指す。

結果

Rab27a阻害がエクソソームマーカー分泌に非均一な影響を与える: shRab27aを発現する4T1細胞では、Rab27aタンパク質発現がScr対照細胞と比較して約70%減少した (Figure 1B)。このRab27a阻害は、100,000 g画分に回収されるEV中のCD63、TSG101、Alix、Hsc70の分泌に有意な影響を与えた。ウエスタンブロット解析 (Figure 2A) および定量解析 (Figure 2B) の結果、CD63シグナルはScr対照の約20〜30%まで低下し、TSG101、Alix、Hsc70も同様に有意な減少を示した (いずれもp≤0.05〜0.01、paired t-test、n=5独立実験)。これらのマーカーはRab27a依存性エクソソームの代表的な指標であると考えられた。驚くべきことに、CD9とMfge8は100,000 g画分においてRab27a阻害後も統計的に有意な変化を示さなかった (p>0.05、paired t-test、n=5独立実験)。この結果は、同一の「エクソソーム調製物」内でもマーカーによってRab27aへの依存性が異なることを示しており、少なくとも2種類の生物学的に異なるEVサブポピュレーションが共精製されていることの直接的な証拠である。陰性対照として使用したgp96は100,000 g画分では検出されず、小胞体の汚染がないことが確認された。

ショ糖密度勾配浮遊解析でEVサブポピュレーションの生化学的差異が示される: Scr細胞の100,000 g画分をショ糖密度勾配 (2.0 Mから0.4 Mの15層) で浮遊させると、Mfge8、CD9、CD63の3つのマーカーで異なる分布パターンが観察された (Figure 3A)。CD9は1.09〜1.29 g/mlの広範な密度域に分布し、古典的エクソソーム密度とされる1.11 g/mlおよび1.14 g/mlの画分と、より高密度な1.26 g/mlおよび1.29 g/mlの画分の両方に濃縮が認められた。CD63は高密度域 (1.26〜1.29 g/ml) に優先的に濃縮され、低密度画分 (1.11〜1.14 g/ml) には相対的に少なかった。Mfge8は1.09〜1.14 g/mlの低密度域に主に集積し、高密度画分には少量しか存在しなかった。この3マーカーの分布の非一致性は、超遠心法で得られる「エクソソーム」画分の不均一性をさらに裏付けるものである。shRab27a細胞由来のEVを同様に解析すると (Figure 3B)、CD63は検出限界以下に減少し、CD9とMfge8の分布パターンは維持されたものの、両タンパク質の優勢画分が1.14 g/mlから1.11 g/mlにシフトした。この観察から、1.14 g/ml画分のCD9含有小胞はRab27a依存性であるのに対し、1.11 g/ml画分の小胞はRab27a非依存性であることが示唆された。高密度画分 (>1.26 g/ml) にはCD63とCD9が豊富に存在し、Mfge8は少量であった。これらの結果は、Escola et al. JBiolChem 1998 がB細胞由来エクソソームで報告したテトラスパニンとMHCクラスII分子の異なる密度分布パターンと類似しており、EVの不均一性が普遍的な現象であることを示唆する。

免疫電子顕微鏡によりRab27aが50 nm超のEV分泌に必須であることが判明: 免疫電子顕微鏡 (immuno-EM) 解析では、100,000 g画分に古典的なカップ型形態 (50〜100 nm) の小胞と、非カップ型の小型小胞 (30〜50 nm) が混在し、一部には150 nm以上の大型小胞も認められた (Figure 4A)。CD9金粒子はすべてのサイズの小胞に検出され、1小胞あたり平均2.0〜2.1個の金粒子が結合していた (Figure 4C, 4D)。shRab27a細胞由来の調製物では、51〜100 nmおよびそれ以上のサイズの小胞数がScr対照と比較して有意に減少したが (p≤0.001、Student’s t-test、n=5 fields of EM pictures)、50 nm未満の最小小胞数はほぼ変化しなかった (Figure 4B)。この結果は、Rab27aが50 nm超の小胞の分泌に必要であり、最小の小胞 (<50 nm) はRab27a非依存性の経路で産生されることを示唆する。200個の孤立小胞を系統的に計測した結果、Rab27a依存性集団が中型〜大型サイズ (50〜150 nm) に主に対応することが定量的に確認された。

10,000 g画分にもCD9・Mfge8が存在し、細胞内局在が異なるEV起源を示唆: 10,000 g画分 (微小小胞) からはCD9とMfge8が検出されたが、CD63はわずかであり (Figure 5A)、Hsc70、TSG101、Alixは検出されなかった。Rab27a阻害はCD9とMfge8の微小小胞分泌レベルに統計的に有意な影響を与えなかった (p>0.05、n=4独立実験)。immuno-EMでは、200 nm以上の大型小胞にもCD9が確認された (Figure 5C)。また、エクソソームと比較して微小小胞ではCD9に対するMfge8の相対比が高かった。細胞内局在解析では、CD63は内腔区画 (MVB/エンドリソソーム) に蓄積し、CD9は細胞表面に散在するパッチ状に主に局在していた (Figure 6)。デコンボリューション蛍光顕微鏡による共局在解析でも、CD9とCD63の細胞内局在が明確に分離しており、これら2マーカーが異なる生合成経路に由来することを形態学的に支持する。これらの結果は、Caby et al. IntImmunol 2005 がヒト血漿中にエクソソーム様小胞が存在することを報告した際に、異なるマーカーの存在を示唆したことと整合する。

考察/結論

本研究の主要な結論は、差速超遠心法によって単離される「エクソソーム調製物」が均一な集団ではなく、少なくとも2種類の異なる細胞内機序によって産生されるEVを共精製することの直接的な実証である。Rab27a依存性集団はCD63、TSG101、Alix、Hsc70に富むエンドソーム由来の古典的エクソソームであり、Rab27a非依存性集団はCD9、Mfge8に富む小型小胞であって、細胞膜または異なる細胞内区画から由来する可能性が示唆された。

先行研究との違い: 従来の多くの研究では、CD9とMfge8が「エクソソームの特異的マーカー」として広く使用されてきた。しかし、本研究はこれらのタンパク質が10,000 g画分の微小小胞にも存在し、さらにRab27a依存性でもないことを示し、エクソソーム特異的マーカーとは言えないことを明確にした点で、従来の認識と異なり、エクソソーム研究におけるマーカーの選択と解釈に再考を促すものである。例えば、Mfge8を用いて抗原をエクソソームにターゲティングする戦略 (Zeelenberg et al. 2008; Hartman et al. 2011) においても、Mfge8が他のEV集団にも存在するため、その特異性に再評価が必要であることが指摘された。

新規性: 本研究で初めて、Rab27a阻害という分子生物学的手法と、生化学的・形態学的解析を組み合わせることで、差速超遠心法で得られるエクソソーム調製物の不均一性を直接的に実証した。特に、特定のマーカーの分泌がRab27aに依存し、他のマーカーが依存しないという発見は、EVの生合成経路の複雑性を明らかにする新規な知見であり、エクソソームの定義と特性評価に関する理解を深める上で極めて重要である。また、ショ糖密度勾配浮遊解析において、Rab27a阻害がCD9およびMfge8の優勢画分を1.14 g/mlから1.11 g/mlにシフトさせたことは、Rab27a依存性EVと非依存性EVが異なる密度を持つことを示唆するこれまで報告されていない知見である。

臨床応用: 本研究の発見は、EVの機能的異質性の理解に根本的な変革を促す。Rab27a依存的な古典的エクソソームと非依存的な小胞は、異なるタンパク質組成を持つことから、異なる生理機能を担うと考えられる。疾患診断バイオマーカーや治療標的としてのEVの臨床応用を検討する際には、より特異的なEVサブポピュレーションを正確に同定し、精製することが不可欠である。例えば、腫瘍由来エクソソームのバイオマーカー探索において、Rab27a非依存性EVが腫瘍の進行や転移に特異的な情報を持つ可能性も考えられる。本研究は、この目標達成に向けた基盤を提供し、EVベースの診断・治療法の開発に貢献する可能性を秘めている。

残された課題: ショ糖密度勾配による分離は、異なる密度に浮遊するEVを完全に分離しきれない限界があることが明らかになった。高密度画分 (>1.23 g/ml) に蓄積するCD9・CD63富化小胞は、Stoorvogelらの報告 (Aalberts et al. 2012) と一致するが、これらのEVの正確な起源 (細胞内区画由来か、脂質ラフトに富む細胞膜由来か) は今後の検討課題である。また、Nanosightやフローサイトメトリーなど単粒子解析技術の発展と組み合わせた、より特異的なEVサブポピュレーションの精製・機能解析のための今後の研究が必要である。現在用いられているエクソソーム単離プロトコルは、本研究で示されたような異なる起源のEVを分離するのに十分な解像度を持たないため、より高精度な分離技術の開発が残された課題である。これらの課題を克服することで、EV研究の精度と臨床的関連性をさらに高めることができるだろう。

方法

細胞およびshRNA系: マウス乳がん4T1細胞に、Rab27aを特異的にノックダウンするshRNA (sh27a2) またはスクランブル配列を対照 (Scr: scrambled control) として発現するレンチウイルスを感染させ、ピューロマイシン選択により安定発現株を樹立した。sh27a2はRab27aタンパク質発現を約70%減少させたが、Rab27b (ras-related protein Rab27b) の発現には影響しなかった (Figure 1B)。細胞はレンチウイルス感染後1ヶ月以内に使用され、独立した実験は独立して感染させた細胞バッチで実施された。

エクソソーム単離: 血清由来エクソソームおよび微小小胞を除去した培地で細胞を48時間培養後、コンディショニング培地を回収した。その後、逐次遠心分離 (300 g×10分、1,000 g×20分、10,000 g×40分、100,000 g×90分) を行い、エクソソームおよび微小小胞を単離した。各ペレットはPBSで洗浄後再懸濁し、細胞数あたりのタンパク質量をMicro-BCA (Micro bicinchoninic acid assay) で定量した。このプロトコルは、Thery et al. CurrProtocCellBiol 2006 の方法に基づいている。

ウエスタンブロット解析: 6種類のエクソソームマーカー (CD63、CD9、Alix、Mfge8、Hsc70、TSG101) および陰性対照 (gp96: glycoprotein 96、小胞体マーカー) をNuPAGEゲルで分離し、HRP (horseradish peroxidase) 標識二次抗体を用いた化学発光検出後、ImageJまたはQuantityOneソフトウェアでバンド強度を定量した。定量解析は5つの独立した実験結果をプールして実施された。Rab27aの検出には、150 μgの細胞溶解液が還元条件下で解析された。

ショ糖密度勾配浮遊: 100,000 g画分のペレットを2 mlのPBS-2.5 Mショ糖溶液に再懸濁し、SW41チューブに充填した。その後、2.0 Mから0.4 Mに減少する15層のショ糖層 (各750 μl) を逐次オーバーレイし、200,000 gで16時間、4℃で遠心分離を行った。遠心後、1 mlずつ分画し、屈折計で各分画の密度 (g/ml) を測定した。各分画は3 mlのPBSで希釈後、100,000 gで1時間再遠心し、PBSに再懸濁してSDS-PAGEおよびウエスタンブロットで各マーカーの分布を解析した。

免疫電子顕微鏡 (immuno-EM): 精製エクソソームをFormvar/カーボン被覆グリッドに吸着させ、2% PFA (パラホルムアルデヒド) で固定した。その後、ラット抗マウスCD9抗体 (クローンKMC8, 10 μg/ml) で標識し、続いてウサギ抗ラット抗体、さらに10 nm金粒子標識プロテインAで標識した。グリッドは80 kVでCMV120 Twin Philipps電子顕微鏡で観察された。各エクソソーム調製物について10,000倍の5視野で個々の小胞のサイズをiTEMソフトウェアを用いて計測した。また、200個の孤立小胞についてCD9金粒子数を定量した。

免疫蛍光顕微鏡: 4T1細胞をガラスカバースリップ上に播種し、4%ホルムアルデヒドで固定した。その後、抗CD9抗体 (Alexa488) と抗CD63抗体 (Alexa568) で連続的に染色し、DAPI (4’,6-diamidino-2-phenylindole) で核を対比染色した。デコンボリューション顕微鏡 (Nikon Eclipse 90i) を用いて、CD9とCD63の細胞内局在を解析した。画像取得は100倍の油浸対物レンズと高感度CCDカメラで行われ、Z軸方向は0.2 μm間隔で画像が取得された。

統計解析: 各実験の定量データは、paired t-testまたはStudent’s t-testを用いて統計解析された。p値が0.05未満の場合を有意差ありと判断した。