- 著者: Sol Shin, Hyewon Ko, Chan Ho Kim, Bo Kyeong Yoon, Soyoung Son, Jae Ah Lee, Jung Min Shin, Jeongjin Lee, Seok Ho Song, Joshua A. Jackman, Jae Hyung Park
- Corresponding author: Joshua A. Jackman (School of Chemical Engineering, Sungkyunkwan University, Suwon, Republic of Korea); Jae Hyung Park (School of Chemical Engineering and SAIHST, Sungkyunkwan University, Suwon, Republic of Korea)
- 雑誌: Nature Materials
- 発行年: 2023
- Epub日: 2023-03-23
- Article種別: Original Article
- PMID: 36959501
背景
PD-1/PD-L1軸を標的とする免疫チェックポイント阻害 (ICB) 療法は、一部の患者で著効するものの、全体応答率が低いことが課題である Ribas et al. Science 2018。腫瘍由来エクソソーム (T-EXO) 表面のPD-L1 (PD-L1EXO) はT細胞を直接抑制し、PD-1阻害療法への抵抗性を付与する免疫抑制因子として機能することが報告されている Chen et al. Nature 2018。臨床報告では、治療前の高PD-L1EXOレベルがICB療法への低応答と関連することが示されており、PD-L1EXOレベルを減少させる薬理学的戦略が求められていた Poggio et al. Cell 2019。これまでの研究では、T-EXO生合成の阻止(例えばGW4869など)が試みられてきたが、非がん細胞にも影響を及ぼすため、臨床応用が困難であるという課題が残されている。T-EXOと多くのウイルス粒子が同様の膜曲率(300 nm未満)を持つ膜エンベロープを有するという共通点に着目し、膜エンベロープウイルスを破壊する抗ウイルス曲率感知ペプチドの転用が着想された。このアプローチは、特定のEV分泌経路に依存せず、広範な癌種に適用可能な直接的なT-EXO破壊戦略として期待されるが、その生物物理学的機序やin vivoでの効果は未解明である。
目的
本研究の目的は、27アミノ酸両親媒性αヘリックスペプチド (AH-D) を多様な癌種のT-EXO破壊に適用し、腫瘍微小環境 (TME) の酸性条件下でのAH-DのT-EXO膜破壊増強効果の生物物理学的機序を解析することである。さらに、AH-Dが免疫チェックポイント阻害 (ICB) 療法との相乗的な抗腫瘍効果を発揮し、前転移ニッチ形成を阻止することをin vitroおよびin vivoで検証することを目指した。
結果
AH-Dペプチドによる広範なT-EXO破壊とpH増強効果の生物物理学的解析: NTA解析の結果、AH-D (1 µM、10分間) はWM-266、MDA-MB-231、B16F10、4T1由来の全てのT-EXOにおいて広範な破壊を誘導したが、NH-Dは効果を示さなかった (Fig. 1b)。特にB16F10 T-EXOでは、AH-Dは5〜10分以内に急速な破壊を引き起こし、pH 6.5および6.8の酸性条件下ではpH 7.4と比較して有意に高い破壊効率を示した (1-way ANOVA, p<0.05)。QCM-D実験 (n=4 biological replicates) では、AH-Dがリポソーム層に高度な周波数およびエネルギー散逸変化を誘導し、完全な破裂を示唆した。この変化はpH 6.5/6.8でpH 7.4よりも顕著であり、pH 6.5ではAH-Dの結合協同性が増加した (最小二乗回帰)。ギブズ自由エネルギー計算により、pH 6.5では中性Asp残基の増加により膜分配自由エネルギーがpH 7.4と比較して約1 kcal/mol有利となり、pH増強効果の熱力学的根拠が裏付けられた (Fig. 1h)。プロテアーゼKアッセイでは、AH-D処理により内腔タンパク質が放出され、膜の完全破壊が確認された。
AH-DによるT-EXO媒介性T細胞機能不全の抑制: AH-D処理したT-EXOは、B16F10腫瘍担持マウス血漿由来EXOのPD-1結合能を野生型 (WT) マウスのEXOレベルまで著しく低下させたが、NH-Dは効果がなかった (Fig. 2b、n=3 biological replicates)。共焦点顕微鏡観察では、AH-D処理T-EXOのCD8+T細胞による取り込みが有意に減少した (Fig. 2d)。CFSE希釈アッセイでは、AH-D処理T-EXOと共培養したCD8+T細胞は有意に高い増殖率を示し、未処理またはNH-D処理T-EXOによる増殖抑制が阻止された (Fig. 2f、n=4 biological replicates)。さらに、AH-D処理群ではGranzyme B陽性CD8+T細胞の割合が著明に増加し、IFN-γおよびTNF-αの産生も有意に高値であった (Fig. 2h、n=4 biological replicates)。IFN-γ ELISPOTアッセイにより、AH-D処理T-EXO断片への暴露はT細胞機能を阻害しないことが確認された。
in vivo AH-D単剤療法によるPD-L1EXO減少とTMEリモデリング: AH-D単剤の腫瘍内投与により、循環PD-L1EXOレベルが用量依存的に最大約76%減少した (食塩水群と比較してp<0.05、n=4 mice per group)。腫瘍内の免疫抑制性細胞であるTreg (CD4+CD25+) およびMDSC (CD11b+Gr-1+) の集団、ならびに腫瘍促進性サイトカインであるTGF-βが有意に減少した (Supplementary Fig. 25)。免疫蛍光染色により、α-SMA (活性化筋線維芽細胞)、Fibronectin (ECMリモデリング)、CD31 (血管) マーカーの腫瘍内変化が確認された (Fig. 3f)。複数回AH-D投与後も免疫原性や免疫記憶の誘導は認められず、安全性が示唆された。
AH-DとaPD-1併用療法による相乗的な抗腫瘍効果: B16F10担持マウス (n=7 mice per group) において、AH-DとaPD-1の併用療法群は、単剤群やコントロール群と比較して有意な腫瘍増殖抑制を示した (Day 12以降、p<0.001) (Fig. 3b)。切除腫瘍重量も併用群で最小であり、腫瘍内免疫細胞組成もaPD-1単剤群よりも有意に改善された (CD8+T細胞浸潤増加など) (Fig. 4c)。AH-D単剤とaPD-1の併用は、MDSCおよびTregを相乗的に減少し、免疫抑制的なTMEを解除した。AH-D単剤療法では腫瘍殺傷活性は認められず、その治療効果は主にT-EXO枯渇に関連することが示唆された。
前転移ニッチ形成の阻止: T-EXO前処理後に4T1乳がん細胞を投与するモデルにおいて、AH-D処理によりT-EXO媒介性の前転移ニッチ形成が阻止され、肺転移が有意に抑制された (Fig. 5c、p<0.001、n=4 mice per group)。S100A4、α-SMA、Fibronectinなどの前転移ニッチ形成関連マーカーの発現も、AH-D処理群では細胞単独群と同程度に低下した (Fig. 5e)。
考察/結論
本研究は、抗ウイルス曲率感知ペプチドAH-D (27-mer amphipathic, α-helical peptide) をがん治療に転用するという新規なコンセプトを確立し、AH-Dペプチドが腫瘍由来エクソソーム (T-EXO) 膜の物理的破壊によって免疫抑制的PD-L1EXOを除去し、CD8+T細胞機能を回復して免疫チェックポイント阻害 (ICB) 療法の応答率を向上させることを示した。AH-DのpH増強効果 (pH 6.5〜6.8) は、腫瘍微小環境 (TME) の酸性環境を逆利用してT-EXO破壊の腫瘍選択的増強を実現するという巧みな設計原理を提供する。
新規性: 本研究で初めて、抗ウイルス曲率感知ペプチドをT-EXO破壊に応用し、ICB療法の効果を増強する戦略を新規に開発した。このTMEの酸性度を利用したpH増強効果は、これまでのT-EXO標的戦略では報告されていない新規なメカニズムである。
先行研究との違い: これまでの研究がT-EXOの生合成を阻害するアプローチに焦点を当てていたのに対し、本研究は既に分泌されたT-EXOを直接物理的に破壊するという点で対照的である。これにより、非がん細胞への影響を最小限に抑えつつ、広範な癌種に適用できる可能性を示した。Chen et al. Nature 2018やPoggio et al. Cell 2019がPD-L1EXOの免疫抑制機能やその抑制効果を示しているが、本研究はペプチドによる直接破壊という異なるアプローチでその効果を達成した。
臨床応用: 本知見は、既存のICB療法に対する抵抗性を克服し、治療効果を大幅に高める新たな併用療法の開発に繋がる臨床的意義を持つ。特に、TMEの酸性環境を利用した選択的T-EXO破壊は、腫瘍選択性を高める上で臨床応用上非常に有用である。Ribas et al. Science 2018が示すように、ICB療法はがん治療に革命をもたらしたが、その応答率の低さが課題であり、本研究はその課題解決に貢献する可能性を秘める。
残された課題: 今後の検討課題として、AH-Dの体内動態、ペプチド安定性 (プロテアーゼ耐性化など)、および他のICB (抗CTLA-4など) や化学療法との組み合わせが挙げられる。また、AH-Dペプチドの血液脳関門通過能力を利用した脳転移におけるT-EXO阻害の可能性も今後の研究方向性となる。Rodrigues et al. NatCellBiol 2019が脳転移におけるT-EXOの役割を示唆しており、AH-Dの応用が期待される。
方法
AH-D (27アミノ酸、3つのpH感受性Asp残基を持つ両親媒性αヘリックス) と、そのランダムコイル変異体であるNH-D (コントロール) を設計し、円二色性分光法およびQCM-D (quartz crystal microbalance-dissipation) 実験により特性を確認した。T-EXO破壊活性は、NTA (nanoparticle tracking analysis) を用いて、WM-266、MDA-MB-231、B16F10、4T1細胞株由来のT-EXO (直径約40〜215 nm) をAH-DまたはNH-D (1 µM) と5〜10分間インキュベートした後の粒子数変化を測定することで定量した。pH依存性破壊実験は、pH 7.4、6.8、6.5の条件下で実施した。QCM-Dにより、約70 nmの流動相リポソーム模倣膜層へのペプチド結合および破壊キネティクスをリアルタイムで解析し、結合協同性を計算した。AH-Dペプチドの膜分配ギブズ自由エネルギー変化は、Wimley-White界面疎水性スケールに基づく計算により推定した。抗体固定化SLB (supported lipid bilayer) にT-EXOを固定した後、AH-Dによる破壊をin situ QCM-Dで解析した。プロテアーゼ消化アッセイにより、AH-D処理T-EXOからの内腔タンパク質放出を評価し、膜破壊を検証した。in vitroでのCD8+T細胞機能アッセイでは、PD-1結合能 (ELISA)、T細胞によるT-EXO取り込み (共焦点顕微鏡)、増殖 (CFSE希釈)、およびGranzyme B/IFN-γ/TNF-α発現 (フローサイトメトリー) を評価した。IFN-γ ELISPOT (enzyme-linked immunospot) アッセイも実施した。in vivo実験では、B16F10腫瘍担持C57BL/6マウスにAH-D (7.5 mg/kg、腫瘍内投与) および抗PD-1抗体 (aPD-1、5 mg/kg、腹腔内投与) を単独または併用で投与した。各投与群における腫瘍体積、循環PD-L1EXO血中濃度 (ELISA)、腫瘍内免疫細胞プロファイル (Treg、MDSC、TGF-β、免疫蛍光)、および前転移ニッチ形成 (T-EXO前処理後の4T1乳がん細胞投与による肺転移評価) を測定した。免疫原性および免疫記憶の確認実験も実施した。