- 著者: Haiying Zhang, David Lyden
- Corresponding author: Haiying Zhang; David Lyden (Weill Cornell Medicine, New York, NY, USA)
- 雑誌: Nature Protocols
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-03-04
- Article種別: Protocol
- PMID: 30833697
背景
細胞はエクソソーム (50〜150 nm)、マイクロベシクル (150〜500 nm超)、大型オンコソーム (0.5〜10 µm) 等の細胞外小胞 (EV) に加え、非膜性の新規ナノ粒子であるエクソメア (約35 nm) を分泌する。これら細胞外ナノ粒子 (ENP) の生物学的機能、分子組成、臨床応用への理解は急速に進展しているが、ENPサブポピュレーションを高純度・高解像度で分離する技術的方法論が課題であった。差次遠心法 (dUC)、免疫親和性捕捉 (IAC)、限外ろ過 (UF)、サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) 等の既存手法は、純度、収率、再現性に限界があり、特に近接したサイズの粒子群 (エクソメアと小型エクソソーム (Exo-S) 等) の分離には困難を伴うことがThery et al. CurrProtocCellBiol 2006で報告されている。これらの技術的限界により、ENPの不均一性に関する詳細な解析が不足している。例えば、エクソソームはエンドソーム起源の膜小胞として定義されるが、既存の分離法では他のEVや非EV性ナノ粒子との混入が避けられず、その純粋な機能解析が困難であったとRaposo et al. JCellBiol 2013は指摘する。また、エクソメアのような新規の非膜性ナノ粒子は、その物理的特性から既存の分離法では特に分離が難しく、その存在と機能の解明が未解明なままであったとZhang et al. NatCellBiol 2018は報告している。
目的
非対称フロー場流分画法 (AF4) を用いてENP (特にエクソメアとエクソソームサブポピュレーション) をラベルフリー、迅速、高解像度で分離するプロトコルを開発・最適化すること。具体的には、クロスフロー、チャネル高、サンプルフォーカス、膜種、サンプル量等の重要パラメータを系統的に評価し、最適な分離条件を確立することを目的とする。これにより、ENPの不均一性をより詳細に解析するための基盤技術を提供することを目指した。
結果
AF4最適条件の確立: 線形クロスフロー勾配Vx=0.5→0 mL/min、45分が最適分離条件として選択された (Fig. 2a)。0.3 mL/minでは粒子保持が不十分で早期溶出が観察され、1.0 mL/minでは大型粒子の不完全溶出 (P5ピーク増大) が生じた (Fig. 2b)。勾配時間15分では主ピークが一つに収束し分離不十分であったが、45分では3主ピーク (P2:エクソメア、P3:Exo-S、P4:Exo-L) が明確に分離された (Fig. 2c)。勾配時間が長いほどピーク幅が広がるが、解像度は向上した。この条件におけるエクソメアの平均流体力学径は約35 nmであった。
チャネル高とフォーカス時間の影響: チャネル高490 µmは350 µmと比較して、より遅い溶出時間でピーク幅が広く、分離解像度が向上した (Fig. 3)。これは、より厚いチャネルがより大きなサンプル量を処理できるため、下流解析に必要な十分なサンプル回収に寄与することを示唆する。フォーカス時間については、2分間が最適であり、5分および10分ではピーク形状や解像度に大きな影響はなかったが、P5シグナル強度が約1.5x増加し、粒子凝集の可能性が示唆された (Fig. 4)。
膜種とサンプル入力量の評価: 再生セルロース (RC) 膜は、ポリエーテルスルホン (PES) 膜と比較して、サンプル溶出の遅延やピークの広がりが少なく、非特異的相互作用が低いことが示されたため、RC膜が選択された (Fig. 5)。サンプル入力量は15 µgから165 µgの範囲で評価され、40 µgと100 µgの入力でほぼ同一の分画プロファイルと流体力学径が得られ、良好な分離解像度と堅牢なシグナル検出が示された (Fig. 6)。15 µgではノイズレベルが高く、165 µgではピーク溶出が遅延し、分離が不完全であった。
AF4の利点の検証: AF4は、①ラベルフリー、②穏やか (EV構造を保持)、③迅速 (分画工程1時間)、④高い再現性、⑤高回収率、⑥1 nm解像度での粒子径分離という6つの優位性が実証された。また、数nmから数µmまでの広範囲のサイズに対応可能という柔軟性も示された。例えば、B16-F10細胞由来のsEV 100 µgの入力から、エクソメアは2.7 µg、Exo-Sは10.7 µg、Exo-Lは5.2 µgの収率が得られた (Supplementary Fig. 1)。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの差次遠心法やサイズ排除クロマトグラフィーでは、エクソソームとエクソメアのような近接したサイズのENPを明確に分離することは困難であった。本研究は、AF4の最適化により、これらのサブポピュレーションを1 nmという高い解像度で分離できることを初めて示した点で、既存の手法と対照的である。特に、従来の分離法ではエクソソーム画分に混入していた非膜性ナノ粒子であるエクソメアを約35 nmという明確なピークとして分離できた点は画期的である。
新規性: 本研究で初めて、B16-F10メラノーマ細胞由来の小型細胞外小胞 (sEV) から、エクソメア (~35 nm)、小型エクソソーム (Exo-S; 60-80 nm)、大型エクソソーム (Exo-L; 90-120 nm) の3つの主要なENPサブポピュレーションを、ラベルフリーかつ高再現性で分離するプロトコルを新規に確立した。このプロトコルは、クロスフロー勾配、チャネル高、フォーカス時間、膜種、サンプル入力量といったAF4の主要パラメータを系統的に最適化した結果である。
臨床応用: 本プロトコルは、がんを含む様々な疾患におけるENPベースの診断・予後バイオマーカーの同定、およびENPベースの治療戦略の開発に貢献する臨床的意義を持つ。高純度なENPサブポピュレーションの分離は、その分子カーゴのプロファイリングを可能にし、疾患進行に関連するシグネチャー分子の特定を促進する。例えば、特定の疾患特異的なエクソメアやエクソソームサブタイプを分離・解析することで、より精密な液性生検の実現に繋がる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、AF4単独では同じ流体力学径を持つが異なる形態や表面特性を持つ粒子を分離できない点が挙げられる。また、AF4は比較的小量のサンプル (40-100 µg) しか処理できないため、大規模な製薬生産における品質管理への応用には、さらなるスケールアップが必要となる。これらのlimitationを克服するためには、AF4と他の分離技術 (例:電気泳動による表面電荷に基づく分離) を組み合わせる研究が今後の方向性として考えられる。
方法
B16-F10マウスメラノーマ細胞株のコンディション培地を差次遠心法 (500 gで10分間、12,000 gで20分間、100,000 gで70分間) でENP濃縮後、AF4装置 (Eclipse 3+;Wyatt Technology社) に投入した。リアルタイム検出器としてUV吸光度 (280 nm) と準弾性動的光散乱 (QELS;100°) を搭載した。主要最適化パラメータを以下のように評価した。
1. クロスフロー (Vx): 線形勾配クロスフローを0.3、0.5、1.0 mL/minの開始流量と、15、30、45分の勾配時間で評価した。最適な分離条件として、Vx=0.5→0 mL/minの45分線形勾配を選択した。 2. チャネル高: 190、250、350、490 µmのスペーサーを評価し、490 µmを最終選択した。 3. サンプルフォーカス時間: 2、5、10分を評価し、2分間を最適とした。 4. 膜種: 再生セルロース (RC;10 kDa MWCO) とポリエーテルスルホン (PES) 膜を比較し、RC膜を選択した。 5. サンプル入力量: 15、40、100、150 µgの範囲で評価し、40〜100 µgを最適範囲とした。
分画後のポスト解析として、バッチモードでの動的光散乱 (DLS)、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA)、透過型電子顕微鏡 (TEM)、生化学/プロテオーム解析を実施した。統計解析には、各条件間の比較にStudent t-testを用いた。全操作はAF4分画に1時間 (細胞培養・前処理を含む総所要時間約3日) を要した。