- 著者: Dengke Li, Yuan Tian, Yan Hu, Yingjiao Qi, Ningyu Tian, Shanshan Li, Peishan Hu, Fan Wu, Qunfang Wei, Zhizhong Wei, Shanshan Wang, Bin Yin, Tao Jiang, Jiangang Yuan, Boqin Qiang, Wei Han, Xiaozhong Peng
- Corresponding author: Wei Han (hanwei2012@ibms.pumc.edu.cn, Institute of Basic Medical Sciences/Chinese Academy of Medical Sciences, China); Xiaozhong Peng (pengxiaozhong@pumc.edu.cn, Institute of Basic Medical Sciences/Chinese Academy of Medical Sciences, China)
- 雑誌: Oncogene
- 発行年: 2019
- Epub日: 2019-08-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 31399645
背景
神経膠芽腫 (GBM) は、ヒトの脳腫瘍の中で最も悪性度が高く、標準的な治療を最大限に施しても中央生存期間は12〜15ヶ月と極めて予後不良である。その治療抵抗性や再発の主要な原因として、腫瘍形成能と自己複製能を持つ神経膠腫幹細胞 (GSC) の存在が挙げられる。GSCは主に血管周囲ニッチに局在し、ここで腫瘍関連血管内皮細胞 (EC) と密接に接触・相互作用することで幹細胞性を維持することが知られている (Calabrese et al. 2007)。これまでの研究では、血管内皮細胞由来の可溶性因子(例えばIL-8、一酸化窒素、Hedgehogリガンドなど)や、ECとGSC間の直接的な物理的接触がGSCの維持に寄与することが示されてきた (Galan-Moya et al. 2011, Jeon et al. 2014, Infanger et al. 2013, Yan et al. 2014)。しかし、細胞外小胞 (EV) を介した内皮細胞からGSCへの分子移送が、GSCの腫瘍形成能に与える影響とその詳細な分子機構については、これまでほとんど未解明な状態であった。この領域には大きな知識のギャップが残されている。
細胞外小胞 (EV) は、細胞間シグナル伝達の重要なメディエーターとして近年注目を集めている。EVは、そのサイズに基づいてエクソソーム(通常直径100 nm未満)とマイクロベシクル(直径100 nmから1000 nm)に大別され、特定の脂質、タンパク質、核酸因子を内包し、近隣または遠隔の細胞に取り込まれることで、様々な生理的・病理的プロセスに関与する (Xu et al. 2016, Yanez-Mo et al. 2015, Mathivanan et al. 2010)。がんにおいては、腫瘍細胞と非がん細胞がEVを介して相互に作用し、腫瘍の進行を促進または抑制することが報告されている (Atay et al. 2014, Di Modica et al. 2017, Skog et al. NatCellBiol 2008, Boelens et al. Cell 2014)。特に、グリオーマ細胞と非グリオーマ細胞間のEVを介したコミュニケーションに関する報告はいくつか存在するが、腫瘍関連血管内皮細胞由来EV (GhEC-EV) がGSCの機能に与える影響とその分子機構に焦点を当てた研究は、これまでほとんど存在せず、この領域には大きな知識のギャップが残されていた。EC由来EVが乳がん治療における抗腫瘍応答に寄与することや、オリゴデンドロサイト前駆細胞の生存、増殖、運動性を促進することは示されているものの (Bovy et al. 2015, Kurachi et al. 2016)、グリオーマにおけるGhEC-EVとGSC間の相互作用の役割は未開拓であった。本研究は、この不足している知見を補完し、GhEC-EVがGSCの生物学に与える影響とその根底にある分子メカニズムを解明することを目的とした。
目的
本研究の目的は、グリオーマ患者由来の腫瘍関連ヒト血管内皮細胞 (GhEC) から分泌される細胞外小胞 (EV) を単離・特性評価し、それらがグリオーマ幹細胞 (GSC) の腫瘍形成能に与える影響をin vitroおよびin vivoで詳細に検討することである。さらに、EVカーゴの網羅的解析を通じて、GSCの選択的活性化を担う主要分子(CD9)とその下流シグナル経路(BMX/STAT3)を同定することを目的とした。具体的には、GhEC-EVがGSCの増殖、自己複製能、腫瘍スフィア形成を促進するかどうかを評価し、その効果が非GSCのバルクグリオーマ細胞 (GC) と比較してGSCに特異的であるかを検証する。最終的に、GhEC-EVによるCD9のGSCへの移行が、GSCの悪性度を高める分子メカニズムを解明し、グリオーマの新たな治療標的の可能性を探索することを目指した。
結果
GhEC-EVの生物物理学的特性とGSCへの選択的取り込み: グリオーマ組織から単離・精製したGhEC由来のEVは、クライオ電子顕微鏡により膜包被小胞として可視化され、平均径は167 nmであった (Fig. 1d, e)。ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) により、タンパク質1 μgあたりの粒子数はGhEC-EVで1.01×10⁷個、NhEC-EVで1.38×10⁷個、GC-EVで0.84×10⁷個、GSC-EVで0.70×10⁷個と定量された (Supplementary Fig. 1e)。ウエスタンブロットでは、全てのEVサンプルでEVマーカーであるflotillin-1、CD81、CD63、syntenin-1が陽性であり、ミトコンドリアマーカー (VDAC1) および小胞体マーカー (Calnexin、Calreticulin) はほとんど検出されず、高純度なEVが精製されたことが示された (Fig. 1f)。PKH-26標識GhEC-EVをGSCに添加すると、GSC細胞質内に取り込まれることが共焦点顕微鏡で確認された (Fig. 1g)。
GSC選択的なニューロスフィア形成促進と増殖亢進: GhEC-EV (3×10³ EVs/target cell) 処置により、GSC2、GSC5、U251-SLC細胞のニューロスフィア数および直径が有意に増加した (p<0.01、Dunnett検定) (Fig. 2b-d)。限界希釈アッセイにおいても、GhEC-EV処置GSCの自己複製能が有意に増加することが示された (Fig. 2e)。EdU取り込みアッセイでは、GhEC-EV処置によりGSCのEdU陽性率が有意に上昇し (p<0.01)、MTSアッセイでは用量依存的な細胞増殖促進効果が確認された (2×10³および1×10⁴ EVs/target cell) (Fig. 2h)。重要なことに、GC-EVやGSC-EVではこれらの効果は認められず、NhEC-EVはGhEC-EVと同様の効果を示した。一方、バルクグリオーマ細胞 (T98G、U251) に対しては、GhEC-EVは増殖を抑制し、GSCとGCで逆の表現型が誘導されることが明らかになった (Supplementary Fig. 2a, b)。ウエスタンブロット解析では、GhEC-EV処置GSCにおいて幹細胞マーカーであるNestin、リン酸化STAT3 (pSTAT3、Y705)、OCT4、SOX2の発現が顕著に増加したが、分化マーカーであるGFAPの発現には変化がなかった (Fig. 2i)。
質量分析によるCD9の特定とEV内高発現: GhEC-EV、NhEC-EV、GC-EV、GSC-EVの4種類のEVについてLC-MS/MS解析を実施した結果、それぞれ1,683、1,716、1,674、1,735種のタンパク質が同定された。hEC-EVでGC-EVおよびGSC-EVと比較して2倍以上高発現する116種のタンパク質の中から、幹細胞性維持に関与すると報告されている6種(NOS3、CD9、FZD4、PLAT、CD151、Thymosin beta 4)を選別した (Fig. 4a)。その結果、NOS3、FZD4、PLAT、CD151、Thymosin beta 4は親細胞では検出されるもののEV中にはほとんど検出されず、CD9のみがEC-EV全般で高発現し、GC-EVおよびGSC-EVでは低発現であることが確認された (Fig. 4b)。ウエスタンブロットによるCD9/Flotillin-1比、CD9/CD63比、CD9/CD81比の比較でも、GhEC-EVおよびNhEC-EVにおいてCD9がGC-EVおよびGSC-EVと比較して有意に高いことが示された (Supplementary Fig. 3e, f)。qRT-PCRの結果も、CD9 mRNA発現がEC(GhEC、NhEC)でGC、GSCよりも有意に高いことを示した (p<0.01) (Fig. 4c)。CGGA (Chinese Glioma Genome Atlas) データベース (325症例) の解析では、CD9 mRNA発現はグレードIVグリオーマでグレードIIと比較して有意に高く (p<0.01、unpaired t-test)、高CD9発現患者で生存期間が有意に短いことが示された (Mantel-Cox検定) (Fig. 4e, f)。さらに、GhEC-EVはGSCに取り込まれることでGSC内のCD9レベルを増加させることが確認された (Fig. 4g)。
CD9 siRNAノックダウンによる機能消失とBMX/STAT3シグナル経路の同定: GhECにCD9 siRNA (siCD9-1#、siCD9-2#) を導入すると、EC内のCD9発現が低下し、GhEC-EV内のCD9含有量も有意に減少した (両siRNA、p<0.01) (Fig. 5a, b)。このCD9ノックダウンEV (siCD9-EVs) をGSCに処置すると、ニューロスフィア数および直径の促進効果が完全に消失し、Nestin、pSTAT3、OCT4、SOX2の上昇も消失した (Fig. 5c-f)。また、GhEC-EVとBMX/STAT3阻害剤であるibrutinib (1 μM) を同時投与すると、ニューロスフィア形成促進が有意に抑制され (p<0.01)、pBMXおよびpSTAT3の増加も消失した (Fig. 5i, j)。これらの結果は、GhEC-EVがCD9の移送を介してBMXを活性化し、その結果STAT3 (Y705) のリン酸化を誘導することでGSCの幹細胞性転写プログラムを強化するという線形シグナル軸を確立するものであった。CD9過剰発現GSC2細胞では、ニューロスフィア形成が促進され、pBMXおよびpSTAT3の発現が増加したが、ibrutinibによりこれらの効果は有意に減弱した (Fig. 5k, l, m)。
In vivo頭蓋内腫瘍モデルでの腫瘍形成促進: GhEC-EV前処置GSC2細胞を頭蓋内に移植したヌードマウス (n=5 mice/群) の4週後のMRI解析では、GhEC-EV処置群の腫瘍体積がNhEC-EV、GC-EV、GSC-EV処置群および無処置対照群と比較して有意に大きかった (p<0.05) (Fig. 3a, b)。DAB染色によるCD133陽性細胞(GSCマーカー)の比率もGhEC-EV処置群で有意に高かった (Fig. 3c)。CD9ノックダウンGhEC-EV (siCD9-EVs) 処置群では腫瘍体積がNC-EV群と比較して有意に小さく (p<0.05)、ibrutinib (25 mg/kg、ip、7日間) 投与群でもCD133陽性細胞比率が有意に低下した (Fig. 6b-d)。これらのin vivo結果は、in vitroで得られた機能的データを強力に裏付けるものであった。
考察/結論
本研究は、腫瘍関連血管内皮細胞由来EV (GhEC-EV) がグリオーマ幹細胞 (GSC) のCD9受容体を介してBMX/STAT3シグナルを活性化し、幹細胞性および腫瘍形成能を特異的に促進することを示した、血管内皮細胞からGSCへのEV介在性通信に関する初の機構的研究である。
先行研究との違い: これまでのGBM研究では、血管周囲ニッチのECがGSCの維持に寄与することが知られていたが (Calabrese et al. 2007, Jeon et al. 2014)、そのメカニズムは主にIL-8、Notch、Hedgehogなどの分泌性サイトカインを介したものとされてきた。本研究は、EVという新たな細胞間通信モードを介してCD9という膜タンパク質が移送され、受容側のGSCでBMX/STAT3経路を活性化するという明確な分子カスケードを初めて示した点で、これまでの研究とは異なる新規な知見を提供する。また、GhEC-EVがGSCの増殖を促進する一方で、バルクグリオーマ細胞 (GC) の増殖を抑制するという対照的な効果は、CD9がGSCではBMX/STAT3を活性化し、GCではEGFRシグナルを減弱させるという細胞種依存的な経路選択に起因すると考えられる。これは、血管周囲ニッチがGSCには「増殖支持環境」を、GCには「増殖抑制環境」を同時に提供することで、GSCが優先的にニッチを占有できるという生態学的意義を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、GhEC-EVがGSCの腫瘍形成能を特異的に促進する主要なEVカーゴとしてCD9を同定した。EC内で高発現しGSCでは低発現であるCD9が、EVを介してGSCに移行することで機能的に意味を持つというメカニズムはこれまで報告されていない。CD9ノックダウンEVが機能を失い、CD9過剰発現GSCが腫瘍球形成能を増加させる実験結果は、CD9移送が必要十分条件であることを実証している。さらに、ibrutinibがGhEC-EV誘発腫瘍形成を抑制したことは、BMX/STAT3軸が薬理学的標的として有望であることを示す新規な発見である。
臨床応用: GBMでは、抗VEGF療法(ベバシズマブなど)が試みられているが、奏効は限定的であり、血管内皮細胞を介したGSCニッチ機能の理解が不足していた。本研究の知見は、GBM治療において、(1) 抗CD9抗体によるGhEC-EV取り込み阻害、(2) BMX阻害薬(ibrutinibなど)によるGSCシグナル遮断、(3) STAT3阻害薬との組み合わせ戦略という3つの新規な臨床応用アプローチを提案する。特に、ibrutinibは既に臨床使用されている薬剤であり、そのGBM治療への転用可能性は高い。また、EC-EVがGSC選択的であること(他がん種の幹細胞には効果なし)は、EV介在性通信が組織型依存的な特異性を持つことを示し、EV機能研究の臨床的意義を再認識させる。
残された課題: 本研究の主なlimitationとして、(1) 患者由来GhECを用いたものの、in vivo血管周囲ニッチ全体の複雑性(免疫細胞、ペリサイトなど)を完全に再現できていない点が挙げられる。 (2) なぜCD9がGSCではSTAT3を、GCではEGFRを選択的に活性化するのか、受容側の細胞種依存的な経路選択の分子基盤が未解明である。 (3) GhEC-EVに含まれるmiRNAや他のタンパク質の寄与の程度も、今後の検討課題である。 (4) ibrutinibの神経外科的応用に向けた血液脳関門透過性や毒性プロファイルのさらなる検討が必要である。GBMにおける血管周囲ニッチEV機構の解明は、難治性GBMに対する新たな幹細胞ニッチ標的療法の基盤となりうる。
方法
グリオーマ患者9名の外科手術検体から、CD105磁気ビーズ精製法を用いてGhECを単離した。対照として、正常ヒト脳微小血管内皮細胞 (NhEC) を使用した。GhECは、Weibel-Palade (W-P) 小体を持つことが透過型電子顕微鏡で確認された。EV-free培地で培養した細胞上清から、差分超遠心法 (500gで10分、16,500gで20分、110,000gで2時間) によりEVを精製した。精製されたEVは、クライオ電子顕微鏡による形態観察、ナノ粒子トラッキング解析 (NTA) (NanoSight NS300) による粒子径分布測定と粒子数定量、およびウエスタンブロット法(flotillin-1、CD81、CD63、syntenin-1などのEVマーカー、VDAC1などのミトコンドリアマーカー、Calnexin、Calreticulinなどの小胞体マーカー)により特性評価を行った。PKH-26標識GhEC-EVを用いて、GSCへのEV取り込みを共焦点顕微鏡で確認した。
GSC(GSC2、GSC5、U251-SLC細胞株)およびバルクグリオーマ細胞(T98G、U251、U87MG細胞株)に対するGhEC-EV(3×10³ EVs/target cell)の処置効果を、ニューロスフィア形成アッセイ、限界希釈アッセイ、EdU取り込みアッセイ、MTS細胞増殖アッセイで評価した。幹細胞マーカー(Nestin、pSTAT3、OCT4、SOX2)および分化マーカー(GFAP)の発現変化はウエスタンブロット法で測定した。
EVカーゴのプロテオミクス解析は、GhEC-EV、NhEC-EV、GC-EV、GSC-EVの各EVサンプルについてLC-MS/MS解析(MaxQuantソフトウェア使用、n=4サンプル)により実施した。合計1,600〜1,735種のタンパク質を同定し、hEC-EV/GC-EV比率>2かつhEC-EV/GSC-EV比率>2の基準で116種の候補タンパク質を絞り込んだ。これらの候補の中から、siRNAスクリーニングとウエスタンブロットにより、GSCの幹細胞性維持に寄与する主要分子としてCD9を同定した。CD9の機能的役割を検証するため、siRNAによるCD9ノックダウン、pcDNA-CD9による過剰発現実験を行った。また、BMX/STAT3シグナル経路の解析には、BMX/STAT3阻害剤であるibrutinib (1 μM) を用いた。
In vivo実験では、BALB/cヌードマウス(6週齢、n=5 mice/群)の右前頭葉に、GhEC-EV前処置GSC2細胞(1.5×10⁴細胞)を頭蓋内移植した。移植4週後にMRI(北京天壇病院)で腫瘍体積を計測し、DAB染色によりCD133陽性細胞(GSCマーカー)の比率を評価した。CD9ノックダウンGhEC-EV (siCD9-EVs) 処置群およびibrutinib (25 mg/kg、腹腔内投与、7日間) 投与群についても同様に評価した。統計解析には、多群比較にはDunnett検定、2群比較にはStudentのt検定、生存解析にはMantel-Cox検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。