- 著者: Chadwick M. Hales, Jean-Pierre Vaerman, James R. Goldenring
- Corresponding author: James R. Goldenring (Department of Surgery, Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, USA)
- 雑誌: The Journal of biological chemistry
- 発行年: 2002
- Epub日: 2002-10-21
- Article種別: Original Article
- PMID: 12393859
背景
形質膜リサイクリング (plasma membrane recycling) は、細胞膜の組成維持やシグナル受容体の再配置に不可欠な機構であり、哺乳動物細胞の恒常性維持において中心的な役割を果たしている。非極性化細胞においては、トランスフェリン受容体がRab11a GTPase (Rab11a) 依存性の核周囲リサイクリングシステムを経由して形質膜へと戻ることが知られている。一方、極性化されたMDCK (Madin-Darby canine kidney) 細胞においては、Rab11aおよびRab25 GTPase (Rab25) が、pIgA-R (polymeric immunoglobulin A receptor) の頂端側リサイクリングおよび経細胞輸送 (transcytosis) を制御していることが Goldenring et al. (1993) などの先行研究によって示されている。
これまでの研究において、アクチンフィラメント上を移動するモータータンパク質であるミオシンVb (myosin Vb) がRab11aと会合し、リサイクリング小胞上に局在することが示されている。GFP (green fluorescent protein) 融合ミオシンVbテイル (モータードメイン欠失変異体) を過剰発現させると、Rab11aが核周囲の小胞凝集体に蓄積し、HeLa (human epithelial cells from cervical cancer) 細胞におけるトランスフェリンの排出や、MDCK細胞におけるpIgA-Rを介したIgA (immunoglobulin A) のリサイクリングが著しく阻害される。この知見は、ミオシンVbがリサイクリング経路からの小胞の搬出に必須の役割を担うことを示している。
さらに、Rab11a、Rab11b GTPase (Rab11b)、およびRab25と相互作用する共通のカルボキシル末端両親媒性αヘリックスを有するRab11-FIP (Rab11 family interacting protein) ファミリーが同定されている。これにはRab11-FIP1、Rab11-FIP2、Rab11-FIP3、Rab11-FIP4、RCP (Rab coupling protein)、およびpp75/Rip11 (75-kDa phosphoprotein/Rab11 interacting protein) の6種類が含まれる。先行研究である Ullrich et al. (1996) や、Rab6とキネシンの相互作用を示した Echard et al. Science 1998、およびRab27aとミオシンVaの相互作用を明らかにした Wu et al. NatCellBiol 2002 などの知見から、小胞輸送におけるRabとモータータンパク質の連携機構が注目されてきた。しかし、Rab11a陽性小胞において、Rab11-FIP2がどのようにミオシンVbと相互作用し、リサイクリング経路を協調的に制御しているのか、その具体的な分子メカニズムや結合領域は未解明のままであった。特に、これら三者の直接的な複合体形成に関する生化学的および機能的な解析は不足しており、形質膜リサイクリング系における詳細なアダプター機能の解明が課題として残されていた。このように、小胞輸送の正確な制御を司る分子内相互作用の全容解明には、依然として大きな知識の不足が存在していた。
目的
本研究の目的は、Rab11a陽性小胞の輸送におけるRab11-FIP2 (Rab11 family interacting protein 2) とミオシンVbの直接的な相互作用を、酵母2ハイブリッド法、GST (glutathione S-transferase) プルダウンアッセイ、および細胞内における共局在解析を用いて詳細に検証することである。さらに、Rab11-FIP2分子内におけるミオシンVb結合領域を正確に同定し、C2ドメインを欠損させた変異体を用いたドミナントネガティブ解析により、極性化MDCK細胞におけるpIgA-Rを介したIgA輸送、および非極性化HeLa細胞におけるトランスフェリンのリサイクリング経路におけるRab11-FIP2の機能的役割を明らかにすることを目指した。これにより、Rab11a、Rab11-FIP2、およびミオシンVbが形成する三者複合体がお互いに協調し、形質膜リサイクリングを制御する新たな分子モデルを確立することを目的とする。
結果
内因性Rab11-FIPsとミオシンVbテイルの細胞内共局在: 極性化MDCK細胞において、安定発現させたGFP-myosin Vb tailの局在と、内因性のRab11aおよびRab11-FIPファミリーメンバーの局在を免疫蛍光染色により解析した。その結果、GFP-myosin Vb tailは頂端膜直下の核周囲領域に存在するリサイクリング小胞に集積し、そこで内因性のRab11a、Rab11-FIP1、Rab11-FIP2、およびpp75/Rip11と極めて高い精度で共局在を示した (Fig. 1)。この共局在は、複数のRab11-FIPファミリーメンバーが同一のリサイクリングコンパートメントに集約され、ミオシンVbを介した輸送制御ネットワークを形成していることを示唆している。この解析は、独立した3回以上の実験 (n=3 replicates) において再現性が確認され、リサイクリング小胞上での多タンパク質複合体の形成を強く支持する結果となった。さらに、Z軸投影を用いた共焦点顕微鏡解析により、これらのタンパク質が頂端側リサイクリングシステム (apical recycling system) の同一小胞膜上に物理的に近接して存在することが実証された。
Rab11-FIP2におけるミオシンVb結合領域の同定: 酵母2ハイブリッドアッセイおよび生化学的プルダウンアッセイを用いて、Rab11-FIP2分子内のミオシンVb結合ドメインを詳細に絞り込んだ。酵母2ハイブリッド解析において、Rab11-FIP2の129-356アミノ酸領域がmyosin Vb tailと特異的に結合することが示された (Fig. 2)。さらに、精製タンパク質を用いたGSTプルダウンアッセイにより、His-Rab11-FIP2 (129-290) はGST-myosin Vb tailと直接結合したが、より短い断片であるHis-Rab11-FIP2 (191-290) では結合が完全に消失した (Fig. 3)。これにより、ミオシンVbとの直接結合に必要な最小領域がアミノ酸129-290領域に存在することが生化学的に実証された。この結合アッセイは4回反復して実施され (n=4 replicates)、対照群と比較して約2.0-foldの結合シグナル強度比で検出された。また、myosin Vb tailのN末端45アミノ酸またはC末端32アミノ酸を欠失させた変異体ではRab11-FIP2との結合が失われたが、Rab11aとの結合は保持されていた。
C2ドメイン欠失変異体によるIgA輸送のドミナントネガティブ阻害: Rab11-FIP2のN末端C2ドメインを欠いた変異体であるGFP-Rab11-FIP2 (129-512) を用いて、極性化MDCK細胞における機能解析を行った。テトラサイクリン制御システムにより本変異体を誘導発現させた細胞 (-DOX) では、頂端側リサイクリングアッセイにおいて、40分時点でのAlexa 546-IgAの細胞内保持率が、非発現対照群 (+DOX) と比較して31%有意に上昇した (p=0.007) (Fig. 6)。また、基底外側から頂端側への経細胞輸送 (transcytosis) においても、60分時点でのIgA細胞内保持率が33%上昇し (p=0.013)、輸送効率が著しく低下することが示された (Fig. 6)。共焦点顕微鏡観察では、蓄積したIgAがGFP-Rab11-FIP2 (129-512) および内因性Rab11aが形成する巨大な核周囲凝集体にトラップされていることが確認された (Fig. 5)。この結果は、C2ドメインが欠損することで、リサイクリング小胞からの小胞搬出ステップが特異的に阻害されることを示している。
非極性化HeLa細胞におけるトランスフェリンリサイクリングの阻害: 非極性化HeLa細胞において、GFP-Rab11-FIP2 (129-512) を一過性発現させ、Alexa 546標識トランスフェリンの再利用経路に対する影響を定量的に評価した。トランスフェリンを負荷した直後 (0分時点) では、変異体発現細胞においてトランスフェリンが核周囲の単一の凝集スポットに異常に集中していた (Fig. 7)。40分間の無血清追跡 (chase) を行った結果、非トランスフェクト細胞 (n=100 cells) ではトランスフェリンのほぼ全量 (残存率1%未満) が細胞外へ排出されたのに対し、GFP-Rab11-FIP2 (129-512) 発現細胞では70%以上のトランスフェリンが細胞内に保持されたまま排出されなかった (p<0.001) (Fig. 7)。この際、トランスフェリン受容体である CD71 (cluster of differentiation 71) の免疫染色像も、蓄積したトランスフェリンと完全に共局在していた。この結果は、C2ドメインを欠損したRab11-FIP2が、非極性化細胞における形質膜リサイクリング経路に対しても強力なドミナントネガティブ作用を発揮することを示している。
細胞内におけるRab11-FIP2変異体とミオシンVbの共局在とリクルート: MDCK細胞およびHeLa細胞における共発現解析により、Rab11-FIP2とミオシンVbの細胞内相互作用を可視化した。野生型のGFP-Rab11-FIP2 (1-512) は単独発現時に点状の小胞パターンを示すのに対し、C2ドメインを欠損したGFP-Rab11-FIP2 (129-512) は野生型と比較して体積比で約3.0-fold大きな凝集体を形成した (Fig. 4)。一方で、単独発現時には細胞質全体に拡散していた短い断片であるGFP-Rab11-FIP2 (129-290) やGFP-Rab11-FIP2 (129-356) は、DsRed-myosin Vb tailと共発現させることで、ミオシンVbが局在する点状構造へと劇的にリクルートされ、完全に共局在した (Fig. 4)。この現象は、細胞内においてもRab11-FIP2の129-290アミノ酸領域がミオシンVbテイルと強固に結合し、その局在を規定する十分な能力を有していることを示している。本実験は独立した3回以上の試行 (n=3 replicates) で再現性が確認された。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の知見では、Rab27aがmelanophilin (Slac2-a) を介して間接的にミオシンVaと結合するモデルが知られていた。これに対し、本研究が明らかにしたRab11a-Rab11-FIP2-ミオシンVb系は、Rab11aがミオシンVbテイルと直接結合する能力を保持している点で、従来のRab27aシステムと異なり、直接的なアダプター機能を実証している。Rab11-FIP2は単なるブリッジとして機能するだけでなく、C2ドメインを介した膜結合やホモダイマー化を通じて、輸送複合体の活性や局在を高度に時空間制御するコーディネーターとして機能していることが示された。
新規性: 本研究は、Rab11-FIP2の129-290アミノ酸領域がミオシンVbテイルとの直接的な結合ドメインであることを本研究で初めて同定した。さらに、C2ドメインを欠損したRab11-FIP2 (129-512) が、極性化細胞におけるIgA輸送および非極性化細胞におけるトランスフェリン輸送の双方を強力に阻害するドミナントネガティブ体として機能することを新規に明らかにした。これにより、Rab11a、Rab11-FIP2、およびミオシンVbが形成する三者複合体が、形質膜リサイクリング経路の小胞輸送において必須 of 役割を果たすという新しい分子機構モデルを確立した。
臨床応用: 本研究の成果は、上皮細胞の極性維持や受容体のリサイクリング異常が関与する様々な疾患の病態解明に寄与する。臨床的意義として、がん細胞における受容体チロシンキナーゼ (EGFRなど) のリサイクリング亢進によるシグナル伝達の持続や、細胞外小胞 (EV: extracellular vesicle)・エクソソームの分泌経路の制御における本複合体の重要性が挙げられる。リサイクリングエンドソームは多胞体 (MVB: multivesicular body) の形成やエクソソーム放出経路と密接に関連しているため、Rab11-FIP2とミオシンVbの相互作用を標的とした阻害剤の開発は、がんの浸潤・転移を抑制する新たな治療戦略の基盤となる可能性があり、臨床応用への展開が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、内因性のRab11-FIP2をノックアウトまたはノックダウンした条件下での詳細な生理機能の検証が必要である。また、Rab11-FIP2のC2ドメインが認識する具体的な脂質標的の同定や、他のRab11-FIPファミリーメンバー (RCPやpp75/Rip11など) とのヘテロダイマー形成が輸送経路の選択性に与える影響については未解明であり、さらなる検討が求められる。これが本研究における主要なlimitationであり、今後の研究における重要な方向性である。
方法
酵母2ハイブリッドアッセイ: Rab11-FIP2の各種欠失変異体 (truncation) をPCR (polymerase chain reaction) により増幅し、Eco RIおよびSal I制限酵素部位を付加してpBD-Gal (CaM) ベクターにクローニングした。これらの構築物と、pAD-myosin Vb tailベクターを酵母株Y190にコトランスフェクションした。30℃で3日間培養後、β-ガラクトシダーゼアッセイを行い、4時間以内の青色変化を陽性相互作用として判定した。実験は5回の独立した試行により再現性を確認した。
GSTプルダウンアッセイ: 大腸菌BL21pLysS株を用いて、組換えGST-myosin Vb tail融合タンパク質および各種His-Rab11-FIP2欠失変異体タンパク質を発現・精製した。グルタチオンセファロースビーズに結合させたGST-myosin Vb tail (約2 µg) と、His-Rab11-FIP2、His-Rab11-FIP2 (129-356)、His-Rab11-FIP2 (129-290)、His-Rab11-FIP2 (191-290) を室温で1時間インキュベートした。洗浄後、ビーズ結合画分および上清画分をSDS-PAGE (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis) で展開し、Sタンパク質タグに対するHRP (horseradish peroxidase) 標識抗体を用いたウェスタンブロッティングにより検出した。本アッセイは4回反復して実施した。
細胞培養とトランスフェクション: MDCK細胞およびHeLa細胞をプラスチック皿またはガラスカバースリップ上で培養した。一過性トランスフェクションにはEffecteneトランスフェクション試薬を用い、GFP融合Rab11-FIP2変異体およびDsRed (Discosoma sp. red fluorescent protein) 融合myosin Vb tailを共発現させた。また、テトラサイクリン制御性プロモーターを有するpTRE2ベクターを用いて、GFP-Rab11-FIP2 (129-512) を安定かつ誘導可能に発現するMDCK細胞株 (T23クローン) を樹立した。発現の抑制には5 ng/mlのドキシサイクリン (DOX) を添加し、発現誘導時にはこれを除去した。
IgAおよびトランスフェリン輸送アッセイ: MDCK細胞におけるIgA輸送アッセイでは、Alexa 546標識ポリマーIgA (10 µg/ml) をフィルター上の細胞の頂端側 (apical) または基底外側 (basolateral) に添加した。40分間 (頂端側リサイクリング) または60分間 (経細胞輸送) の追跡後、細胞内および培地中の蛍光IgA量を蛍光ゲルスキャナーで定量し、細胞内残存率を算出した。HeLa細胞におけるトランスフェリン輸送アッセイでは、Alexa 546標識トランスフェリンを負荷し、40分間の血清追跡後の細胞内蓄積量を共焦点顕微鏡 (Zeiss LSM-510) を用いて100細胞 (n=100 cells) について定量解析した。統計解析にはStudent’s t-testを用い、p<0.05を有意差ありと判定した。