- 著者: D. M. Pegtel, K. Cosmopoulos, D. A. Thorley-Lawson, M. A. J. van Eijndhoven, E. S. Hopmans, J. L. Lindenberg, T. D. de Gruijl, T. Würdinger, J. M. Middeldorp
- Corresponding author: D. M. Pegtel (Department of Pathology, Cancer Center Amsterdam, Vrije Universiteit University Medical Center)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences USA
- 発行年: 2010
- Epub日: 2010-03-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 20304794
背景
マイクロRNA (miRNA) は翻訳抑制を通じて遺伝子発現を制御するノンコーディングRNAであり、がんやウイルス感染において脱制御される。EBV (エプスタイン・バーウイルス) はmiRNAをコードする最初のウイルスとして同定され、BART (BamHI Antisense Rightward Transcripts) クラスター1・2およびBHRF1 (BamHI H Rightward Frame 1) の3クラスターに分類されるEBV-miRNAをEBV関連腫瘍や形質転換B細胞であるLCL (lymphoblastoid cell line, リンパ芽球様細胞株) で高発現させる (Skog et al. NatCellBiol 2008)。
エクソソームはMVE (multivesicular endosome) の限界膜が内腔方向に出芽して形成される30〜100 nmの小胞で、B細胞などが大量に分泌し免疫応答を調節する。Valadi ら (Valadi et al. NatCellBiol 2007) はエクソソームがmRNAおよびmiRNAを細胞間で輸送する新規機構を示し、Skog らはグリオブラストーマ由来マイクロベシクルが腫瘍促進性シグナルを転送することを報告した。一方でHunter ら (Hunter et al. PLoSONE 2008) はヒト末梢血マイクロベシクル中のmiRNA発現を示しており、エクソソームを介したmiRNAの全身的な輸送が示唆されていた。
しかし、エクソソームに内包されたmiRNAが受容細胞内で実際に機能するか、すなわちRISC (RNA-induced silencing complex) と会合して標的mRNAを抑制できるかどうかは不明であり、とりわけウイルス起源のmiRNAが非感染細胞において免疫調節遺伝子を標的とする可能性は未検証であった。EBVがエクソソームを利用してmiRNAを非感染免疫細胞へ伝播させることで免疫回避を達成するという仮説を検証するモデルが求められており、こうした細胞間核酸輸送の機能的意義はいまだ不明確であった。
目的
EBV感染LCLが分泌するエクソソームにEBVコードmiRNAが内包されているか、またそれらが非感染の受容細胞であるMoDC (monocyte-derived dendritic cells, 単球由来樹状細胞) に移送されて免疫調節遺伝子を機能的に抑制するかどうかを検証する。さらにHIV感染患者末梢血でのin vivoにおけるEBV-miRNA細胞間移送の証拠を得ることを目的とした。
結果
LCL由来エクソソームへのEBV-miRNA内包: EBV感染LCL (B95-8株) 培養上清から差次的超遠心法 (differential ultracentrifugation; 70,000 × gで1時間、2回) で精製したエクソソームは、HLA-DR陽性・CD63陽性・シトクロムC陰性の特徴を示し (Fig. 1C)、Bioanalyzer解析では細胞RNA比較で小分子RNA種 (19〜22 ntのmiRNAクラスを含む) が著明に濃縮されていた (Fig. 1D)。幹ループ型RTプライマーを用いた多重定量RT-PCR (multiplexed quantitative RT-PCR) による絶対定量では、0.5 ng エクソソームRNAあたりBHRF1およびクラスター1 BART EBV-miRNAが10²〜10⁵コピー検出された (Fig. 1E)。哺乳類細胞でmiRNA依存性mRNA抑制が生じるのに必要な最低閾値は約100コピーと推定されており、この絶対量は生理的に有意な水準である。一方、別のLCL株ではクラスター2 BART miRNAが細胞内発現レベルに比べてエクソソーム中に約1,000倍少なく (Fig. 1G)、EBV-miRNAのエクソソームへの選択的積載機構が示唆された (n=3の独立したエクソソーム精製で再現)。
MoDCへのエクソソーム取り込みとEBV-miRNA移送: PKH67 (脂溶性蛍光膜標識色素) で標識したLCL由来エクソソームをMoDCと共培養したところ、フローサイトメトリー解析でMFI (平均蛍光強度) は添加量と線形関係を示し、24時間後には70%超のMoDCが蛍光陽性となった (Fig. 2I)。重要なことに、トランスウェル共培養系においても24〜48時間のコーカルチャーで、MoDC (n≒2×10⁴細胞) 中にEBV-miRNA BART1-5pが約2×10³コピー検出され (Fig. 2K)、さらに24時間追加培養すると4倍に増加した (Fig. 2L)。サイトカリシンB処理によるアクチン線維破壊がエクソソーム取り込みを阻害し、成熟MoDCでは未成熟MoDCと比べて取り込みが低下したことから、エクソソームの能動的な内在化機構が確認された (n=3で再現)。
受容細胞での機能的遺伝子サイレンシング: EBVがコードするBHRF1クラスターmiRNAの標的として知られるCXCL11 (免疫刺激性ケモカイン、EBV関連リンパ腫で下方制御) の3’UTRを組み込んだルシフェラーゼレポーターを用いた機能解析では、精製LCLエクソソームの添加によりHeLa細胞でのルシフェラーゼ活性が80%減少した (two-tailed Student’s t-test: p<0.001、Fig. 3C)。BHRF1-3結合部位を変異させたコンストラクトとの比較から、この抑制効果の約60%がBHRF1-3の移送に直接帰属することが示された (Fig. 3D)。また初代MoDCへのエクソソーム添加では用量依存的にCXCL11レポーター活性を最大50%抑制し (Fig. 3E)、24時間の直接共培養でもCXCL11の有意な抑制 (~20%、p<0.01) が再現された (Fig. 3F; n=3の三連実験)。さらにBARTクラスター1 miRNAの標的であるEBVのLMP1 (latent membrane protein 1、潜在膜タンパク質1) の3’UTRレポーターも、LCLエクソソームにより用量依存的に抑制されたが、EBV陰性B細胞由来エクソソームでは抑制されず (Fig. 3L; p<0.02)、EBV特異的なmiRNA依存性の遺伝子制御が非感染細胞に伝播することが明確に示された。
HIV患者末梢血でのin vivo EBV-miRNA移送の示唆: EBV高負荷の無症候性HIV感染患者 (n=197) からPBMCを採取し、T細胞・B細胞・非B細胞に細胞ソーティングで分画した。定量DNA-PCRにより、EBV-DNAはB細胞分画にのみ検出され (Fig. 4A)、非B細胞分画は約97%の純度であった。しかし、患者の約60% (n=15例でEBV-miRNA検出) において非B細胞分画でもBART miRNA (BART1-5p、BART2-p、BART3*) が検出された (Fig. 4B)。B細胞と非B細胞間で細胞数当たりのmiRNAコピー数が類似していたこと (Fig. 4C) から、B細胞の混入では説明できず、EBVゲノムを持たない非B細胞へのin vivoでのmiRNA移送が強く示唆された。これはエクソソームを介したウイルスmiRNAのin vivo伝播を支持する最初の直接的証拠であり、EBVによる免疫回避の新たな生体内メカニズムを示す重要知見である。
考察/結論
① 先行研究との違い: Valadi ら (Valadi et al. NatCellBiol 2007) はエクソソームによるmiRNAの移送を報告していたが、移送されたmiRNAが受容細胞内で機能的に遺伝子抑制に働くかどうかは不明なままであった。本研究は、EBV-miRNAが受容細胞のRISC経路を利用して標的mRNAを実際に抑制することを初めてルシフェラーゼ reporter assay により定量的に示した点で、これまでの知見と異なり、エクソソームを介したmiRNAの細胞間シグナル伝達に機能的意義があることを証明した。先行研究がリコンビナントmiRNA製剤や過発現系を用いていたのに対し、本研究は生理的条件に近い共培養系および初代MoDCを用いた点でより生理的意義が高い。
② 新規性: 本研究で初めて、ウイルス由来miRNAがエクソソームを通じて非感染細胞へ移送され、免疫調節遺伝子を機能的に抑制できることを直接実証した。EBVがmiRNAを細胞外小胞に積載することで免疫回避シグナルを非感染免疫細胞へ伝播するという新規な免疫回避機構を提唱した点は画期的であり、さらにHIV患者末梢血での検証によりin vivoでの妥当性を示した。選択的miRNA積載の存在 (クラスター2 BARTの約1,000倍の選択的排除) も新規観察である。
③ 臨床応用: 本知見はEBV関連腫瘍 (バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌など) における免疫微小環境の理解に臨床的意義を持つ。EBVコードmiRNAが腫瘍細胞から樹状細胞や他の免疫細胞へ移送されてCXCL11などの免疫刺激遺伝子を抑制するならば、腫瘍免疫回避の新たな分子機序を標的にした治療開発が可能となる。また循環血中のエクソソームmiRNAはEBV関連疾患の液体生検バイオマーカーとしての臨床的応用も期待される。
④ 残された課題: in vivoでの機能的重要性はまだ完全には解明されておらず、今後の研究でウイルスmiRNAのエクソソームへの選択的積載機構の詳細、in vivoでのEBV-miRNA移送の機能的影響、およびEBV関連リンパ腫や鼻咽頭癌の腫瘍微小環境における免疫回避への寄与を明らかにする必要がある。さらにHIV患者以外の健常EBV保有者での検証も今後の検討課題である。
方法
研究デザイン: In vitro機能解析を主体とした基礎研究。EBVモデルを用いてウイルスコードmiRNAのエクソソームを介した細胞間移送と機能的遺伝子サイレンシングを検証し、HIV感染患者末梢血サンプル (n=197) を用いたex vivoおよびin vivo解析を組み合わせた。
細胞株: EBV感染LCL (B95-8、IM1)、EBV陰性B細胞株、HeLa細胞、ヒト末梢血単球由来初代樹状細胞 (MoDC)。
エクソソーム単離: 差次的超遠心法 (differential ultracentrifugation)。培養上清を70,000 × gで1時間遠心を2回繰り返してエクソソームをペレット化し、PBS 200 μLに再懸濁。ISEV2023準拠の基本指標として、HLA-DR、CD63 (非還元条件)、シトクロムC (除去確認) のWestern blotおよびTEM (transmission electron microscopy) で純度確認。
miRNA定量: 幹ループ型RTプライマーを用いた最大10種のEBV-miRNAを一反応で検出する多重定量RT-PCR法。化学合成オリゴヌクレオチドの希釈系列から標準曲線を作成し絶対定量。
エクソソーム移送実験: PKH67蛍光脂質色素でLCLを標識し、1.0 μm孔径の24ウェルトランスウェルデバイスを用いた共培養系。フローサイトメトリー (6〜24時間) およびMoDCからのRNA抽出によるmiRNA定量で追跡。
ルシフェラーゼレポーターアッセイ: CXCL11またはLMP1の3’UTR cDNAをpMir-Reportベクター (Ambion) に組み込んだコンストラクトをMoDCまたはHeLa細胞にNucleofectionで導入し、Gaussiaルシフェラーゼを内部対照として正規化。統計: 両側スチューデントt検定 (two-tailed Student’s t-test)、全グラフのエラーバーはSDで三連実験 (n=3 triplicates) に由来。
臨床検体: 2004〜2006年にスロッテルファールト病院 (アムステルダム) でルーチン検査を受けた無症候性HIV感染者 (n=197)。PBMCを細胞ソーティングでT細胞・B細胞・非B細胞に分画し、定量DNA-PCRによるEBV-DNA測定と多重RT-PCRによるBART miRNA検出を実施。