- 著者: Fangyu Wang, Richard A. Cerione, Marc A. Antonyak
- Corresponding author: Fangyu Wang (fw266@cornell.edu, Cornell University); Richard A. Cerione (rac1@cornell.edu, Cornell University)
- 雑誌: STAR Protocols
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-22
- Article種別: Protocol
- PMID: 33532740
背景
細胞は、多胞体由来のエクソソーム (30-150 nm) と形質膜から直接出芽するMV (マイクロベシクル) (200-1,000 nm) という2種類の主要なEV (細胞外小胞) を産生する。これらのEVは、細胞間コミュニケーションのメディエーターとして機能し、内包するタンパク質、RNA、DNAなどの内容物を介して標的細胞の表現型変化を誘導することが知られている。また、EVは疾患の診断マーカーとしても注目される。EVの生化学的および機能的特性を正確に解明するためには、信頼性の高いEV精製法の確立が不可欠である。しかし、細胞株からエクソソームとMVを効率的かつ標準化された方法で分離するプロトコルは、これまで十分に確立されておらず、その信頼性や再現性に関して課題が残されていた。特に、異なるEVサブポピュレーションがそれぞれ異なる分子特性と生物学的機能を持つという認識が深まる中で (Willms et al. SciRep 2016)、高純度なEVサブタイプを分離する技術の不足が指摘されていた。また、EV研究の標準化を推進するMISEV (Minimal Information for Studies of Extracellular Vesicles) ガイドライン (Thery et al. JExtracellVesicles 2018) に準拠した、詳細で再現性の高いプロトコルが求められていた。本研究は、先行研究 (Latifkar et al. DevCell 2019) で示された知見を基盤とし、この未解明な部分を補完することを目的とする。
目的
本研究の目的は、接着細胞株のコンディション培地からエクソソームとMVを差次超遠心法で精製し、ウェスタンブロットによるマーカータンパク質の解析およびNTA (ナノ粒子トラッキング解析) による粒径・濃度定量を通じて特性評価を行うための最適化されたプロトコルを提供することである。具体的には、MDA-MB-231乳がん細胞をモデルとして詳細な手順を例示し、このプロトコルが懸濁培養細胞にも応用可能であることを示す。これにより、EVの生化学的・機能的特性の解明に資する、高純度なEVサブポピュレーションの分離法を確立することを目指す。
結果
最適化されたプロトコルによるEVサブポピュレーションの効率的な分離:
本プロトコルは、MDA-MB-231乳がん細胞を用いた実験において、エクソソームとMVの再現性の高い分離を可能にすることが確認された。具体的には、2枚の150 mm皿のMDA-MB-231細胞 (約4.0 x 10^7細胞) から、MVライセート約15-20 µg、エクソソームライセート約40-50 µgのタンパク質が得られ、これは複数のウェスタンブロット、プロテオミクス解析、および生物学的アッセイに十分な量であると示された。
ウェスタンブロットによるEVマーカーの特異的検出: ウェスタンブロット解析により、EVサブポピュレーションの特異的なマーカー発現が確認された (Figure 6)。エクソソーム画分では、エクソソームマーカーであるCD63が明確に検出された。一方、MV画分では、MVマーカーであるアネキシンIが特異的に確認された。一般的なEVマーカーであるHSP90およびFlotillin-2は、WCL、エクソソーム画分、MV画分の全てで検出された。細胞性コンタミネーションの指標となるIκBαは、WCLでは検出されたものの、エクソソームおよびMV画分ではほとんど検出されず、精製されたEV画分が細胞質タンパク質による汚染が少ないことが示された。
NTAによるEVの粒径と濃度の定量:
NTAにより、分離されたEVの粒径分布と粒子濃度が定量的に評価された (Figure 7)。部分的に清澄化されたコンディション培地では、エクソソーム (<200 nm) とMV (>200 nm) の両方を含む幅広い粒径分布が観察された。この解析は、EVの分離効率と純度を評価するための重要な指標となる。NTAは、ブラウン運動するEVのデジタル動画を60秒間捕捉し、その動きから粒子のサイズと濃度を決定する。
プロトコルの汎用性とスケール調整:
本プロトコルは接着細胞用に最適化されているが、懸濁細胞への適用も可能であると示された。また、少なくとも2枚の約80%コンフルエントな150 mm皿の細胞が最小推奨量として設定されており、実験目的に応じてスケールの調整が可能である。例えば、より多くのEVが必要な場合は、細胞培養皿の数を増やすことで対応できる。
考察/結論
先行研究との違い: これまでの多くのEV分離プロトコルは、エクソソームとMVを明確に区別せず、あるいは一方のみに焦点を当てていた。本研究のプロトコルは、MDA-MB-231細胞をモデルとして詳細に最適化されており、差次超遠心法とフィルター処理を組み合わせることで、エクソソームとMVという2つの主要なEVサブポピュレーションを効率的かつ高純度に分離できる点で、既存のプロトコルと異なり、より包括的なEV研究を可能にする。特に、ウェスタンブロットによるマーカータンパク質の明確な分離と、NTAによる粒径・濃度評価を組み合わせることで、分離の信頼性を高めている。
新規性: 本研究で初めて、接着細胞株からエクソソームとMVを分離・特性評価するための、詳細かつ最適化された手順を提示した。このプロトコルは、MISEV (Thery et al. JExtracellVesicles 2018) ガイドラインに準拠した特性評価を含んでおり、EV研究の標準化に貢献する新規性を持つ。また、MDA-MB-231細胞から得られるMVライセート約15-20 µg、エクソソームライセート約40-50 µgという具体的な収量データは、今後の研究計画立案に有用な情報である。
臨床応用: 本プロトコルにより得られる高純度なEVサンプルは、EVが関与する疾患メカニズムの解明や、バイオマーカー探索、さらにはEVをベースとした治療法の開発といった臨床応用研究に直結する。特に、がん細胞由来EVの機能解析は、がんの診断、予後予測、治療標的の同定に臨床的意義を持つ。例えば、がん細胞由来EVが持つ特定のタンパク質や核酸を解析することで、非侵襲的なリキッドバイオプシーとしての応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、本プロトコルで分離されたエクソソームとMVのさらなるサブクラスの分離と特性評価が挙げられる。例えば、ショ糖密度勾配遠心法やヨージキサノール密度勾配分画法を用いることで、より均一なEV集団を得られる可能性がある (Jeppesen et al. Cell 2019)。また、本プロトコルは接着細胞に最適化されているため、懸濁細胞からのEV分離における最適化や、様々な細胞種におけるEV産生量の変動への対応も今後の研究方向性となる。Limitationとして、超遠心分離は時間とコストがかかること、また、フィルター処理の際に真空圧が強すぎるとMVがフィルターを通過してしまう可能性があることなどが挙げられる。
方法
細胞準備 (Day 1):
MDA-MB-231細胞を2枚の150 mm培養皿にそれぞれ2.0 x 10^6個播種し、72時間培養して約80%のコンフルエンシーに達するように調整した。EV分離に必要な十分な量のEVを確保するため、少なくとも2枚の約80%コンフルエントな150 mm皿の細胞を使用することが推奨された。
血清飢餓・コンディション培地回収 (Day 2):
約80%コンフルエントな細胞の培地を無血清培地(RPMI-1640)に交換し、6〜14時間培養した。この血清飢餓培養により、細胞が産生するEVのみを回収できる。培養後、コンディション培地を回収し、同時にWCL (全細胞溶解物) も回収した。WCLは、EV画分との比較対照として使用された。細胞はトリプシン処理後、500 x gで5分間遠心分離してペレット化し、5 mLの氷冷PBS (リン酸緩衝生理食塩水) で洗浄後、2.0 mLの氷冷溶解バッファー(1% Triton X-100を含む)で溶解し、15分間氷上でインキュベートした。その後、16,000 x gで10分間遠心分離してWCLを得た。
MV精製 (Day 2-3):
回収したコンディション培地を、まず1,000 x gで5分間遠心分離する操作を2回繰り返し、細胞デブリを除去した。その後、0.22 μm Steriflipフィルターユニットを用いて濾過し、濾液をエクソソームと可溶性因子を含む画分として収集した。このフィルター処理により、MVはフィルター上に保持される。フィルターへの真空圧は1滴/秒を超えないよう厳密に制御することが、MVのフィルター通過を防ぐ上で重要である。フィルター上に捕捉されたMVは、250 μLの氷冷溶解バッファー(1% Triton X-100を含む)で丁寧にリンスして回収し、15分間氷上でインキュベートした。その後、16,000 x gで10分間遠心分離してMVライセートを得た。
エクソソーム精製 (Day 2-3):
MV除去後の濾液を、Type 45 Tiローターを用いて100,000 x gで4時間、4℃で超遠心分離した。これにより、エクソソームがペレットとして回収される。超遠心チューブは70%エタノールで事前洗浄・乾燥し、ローターは4℃に冷却して使用した。ペレットはフィルター処理したPBS (0.22 μmフィルターを2回通過) 30 mLで洗浄後、再度100,000 x gで2時間超遠心分離した。その後、250 μLの氷冷溶解バッファーで再懸濁し、15分間氷上でインキュベートした。最後に、16,000 x gで10分間遠心分離してエクソソームライセートを得た。
特性解析: 精製されたEVの特性解析には、以下の手法を用いた。
- ウェスタンブロット: Bradfordアッセイでタンパク質濃度を定量後、SDS-PAGE (ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動) で分離した。分離後、
0.45 μm孔径のPVDF (ポリフッ化ビニリデン) メンブレンに1.5時間かけて転写した。メンブレンは5% BSAを含むTBSTで1時間ブロッキング後、エクソソームマーカーとしてCD63 (1:2,000希釈)、MVマーカーとしてアネキシンI (1:1,000希釈)、一般的なEVマーカーとしてFlotillin-2およびHSP90 (1:1,000希釈)、細胞質マーカーとしてIκBα (1:1,000希釈) の一次抗体と12時間(4℃) インキュベートした。二次抗体にはHRP (西洋ワサビペルオキシダーゼ) 結合体を使用し、ECL (化学発光) 試薬で1分間インキュベート後、検出した。これにより、各EV画分の特異的なマーカー発現と、WCLとの比較によるEVの富化、および細胞性コンタミネーションの有無を確認した (Figure 6)。 - NTA (ナノ粒子トラッキング解析): NanoSight NS300を用いて、各EV画分および部分的に清澄化されたコンディション培地の粒径分布と粒子濃度を定量した (Figure 7)。
532 nmの緑色レーザーを使用し、ブラウン運動するEVのデジタル動画を60秒間捕捉した。各サンプルにつき5回の動画を捕捉し、NTAソフトウェアで解析した。
重要な注意点:
RNA解析を目的とする場合は、全ステップで無ヌクレアーゼ水を使用し、試薬調製や洗浄、超遠心チューブの滅菌に用いる。EVサンプルは凝集や溶解を最小限に抑えるため、回収後48時間以内に解析することが重要である。