- 著者: Eduard Willms, Henrik J. Johansson, Imre Mäger, Yi Lee, K. Emelie M. Blomberg, Mariam Sadik, Amr Alaarg, C. I. Edvard Smith, Janne Lehtiö, Samir EL Andaloussi, Matthew J. A. Wood, Pieter Vader
- Corresponding author: Matthew J. A. Wood (matthew.wood@dpag.ox.ac.uk, University of Oxford)
- 雑誌: Scientific Reports
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-03-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 26931825
背景
細胞外小胞 (EV) はアポトーシス小体・マイクロベシクル・エクソソームの 3 大カテゴリに大別され、エクソソームは多小胞体 (MVB) の細胞膜融合により放出される 30–120 nm の小胞群と理解されてきた。先行研究はエクソソームがmRNA・microRNAを細胞間で水平伝達すること (Valadi et al. NatCellBiol 2007)、膠芽腫由来小胞がRNA・タンパク質を運び腫瘍増殖を促進すること (Skog et al. NatCellBiol 2008)、テトラスパニンCD63がメラノソーム形成でESCRT非依存・依存ソーティングを制御すること (vanNiel et al. DevCell 2011) を示してきた。エクソソームは「単一の均質集団」として扱われることが多く、ALIX・TSG101・CD9/CD63/CD81 などをマーカーに用いた一括解析が標準的だった。しかし MVB 内の管腔内小胞 (intraluminal vesicle, ILV) 形成は ESCRT (endosomal sorting complex required for transport) 依存・非依存経路が共存し、ceramide・テトラスパニン (CD63)・細胞活性化状態などにより subpopulation が異なる可能性が断片的に指摘されてきた。しかし単一細胞種が放出するエクソソームに分子組成・機能の異なるサブポピュレーションが存在するか否かは依然として未解明であり、proteomics + RNA + functional レベルで体系的に検証した研究は不足し、サブポピュレーション識別の手法は手薄であった。本研究はその仮説を多面的に検証する。
目的
(1) 単一細胞種が放出するエクソソームに、生物物理学的・分子組成的に異なる subpopulation が存在するかを scrose density gradient で分離して検証する。(2) 各 subpopulation のタンパク質・RNA プロファイルを定量し、特異的マーカーを同定する。(3) レシピエント細胞遺伝子発現への影響に subpopulation 差異があるかを評価する。
結果
2つのサブポピュレーションの同定とサイズ・形態・ceramide依存性:B16F10 P110 を bottom-loading sucrose gradient で 16 h 浮上させると、Fraction 3–5 (密度 1.12–1.19 g/mL, 低密度LD-Exo) と Fraction 8–9 (密度 1.26–1.29 g/mL, 高密度HD-Exo) に粒子と ALIX/TSG101 が二峰性に分布した (Fig. 1)。72 h 浮上では両者とも 1.12–1.19 g/mL に等密度化し、HD-Exo は単に flotation が遅延しているが終局的には同密度であることが判明した。Top-loading では fraction 3–5 単一ピーク、Nycodenz 勾配および UF-SEC 後でも 2 subpopulation が再現され、超遠心 artefact は否定された。TEM では両者とも cup-shaped・膜被包性で典型的エクソソーム形態を示したが、NTA 上 LD-Exo は mode 117 nm (75–200 nm 主体)、HD-Exo は mode 66 nm (< 100 nm 主体) と明らかにサイズが異なった。中性スフィンゴミエリナーゼ阻害剤GW4869 (7.5 μM) 処理で両 subpopulation の release (粒子数・ALIX/TSG101) はほぼ完全に抑制され、両者とも nSMase / ceramide 依存的経路で形成されることが確認された。N2a・A431・H5V・hTERT-MSC・ヒト血漿でも flotation 挙動の微差はあるが LD/HD の 2 subpopulation が明瞭に再現された (Fig. 2)。
プロテオームの差異:全 EV から 4421 タンパク質を同定し (1% FDR, ≥ 2/3 replicate quantitation)、1540 が共通、533 が MV 特異、354 が LD-Exo 特異、110 が HD-Exo 特異であった (Fig. 3)。共通マーカー (ALIX・TSG101・CD9・CD81・CD63) は LD/HD 両方で MV より高濃度であった。LD-Exo に富化する ACTN4・cyclin Y (CCNY) と HD-Exo に富化する EPHA2 の差を Western blot および Sephacryl S-1000 size exclusion fractionation で確認した。GO 解析で MV は酸化還元酵素 / 呼吸鎖、LD-Exo は small GTPase regulatory / vesicle-mediated transport、HD-Exo は翻訳 / ribonucleoprotein / リボソームタンパク質が相対的に富化していた。ACTN4/CCNY 富化は H5V 由来 EV でも再現され、サブポピュレーション識別の普遍性が支持された。
RNAプロファイルの差異:MV と LD-Exo は Bioanalyzer 上で 18S/28S rRNA と 約60 nt の小 RNA peak を共有する一方、HD-Exo は rRNA を欠き 30–200 nt の broad な小 RNA を含むという顕著な相違を示した (Fig. 4)。この RNA 組成差は、両サブポピュレーションが RNA ソーティング機構の異なる別個の ILV 集団から派生することを示唆する。
機能差異 (レシピエント細胞遺伝子発現への影響):H5V 内皮細胞に LD-Exo / HD-Exo を 24 h 暴露する機能アッセイを n=3 の生物学的反復で実施したところ、PBS 対照に対し LD-Exo で 257 遺伝子、HD-Exo で 1116 遺伝子が q < 0.15 で有意に発現変動した (Fig. 5)。1.5 倍以上変動した 42 遺伝子のうち 11 が上昇・31 が低下した。HD-Exo は LD-Exo の約4.3倍の遺伝子数を変動させ、グルタミン輸送体 SLC38A1 は LD-Exo で約2倍以上上昇した (HD-Exo より顕著)。RT-qPCR で GPX1 上昇、Zfp101 / CENPQ 低下を確認し、グルタミン輸送体 SLC38A1 は LD-Exo で著明に上昇した (HD-Exo より顕著)。GO 統計的エンリッチメント (Mann-Whitney 検定) で「G-protein modulator」「ribosomal protein」「small GTPase regulator activity」「DNA replication」「protein-DNA complex」「extracellular region」が両 subpopulation 間で differentially regulated であった。「Empty」スクロース fraction は影響を与えず対照が validated された。
考察/結論
本研究はエクソソームが単一均質な集団ではなく、少なくとも 2 つのサブクラス (LD-Exo: 大型・rRNA含・ACTN4/CCNY rich・small GTPase関連 / HD-Exo: 小型・rRNA欠・EPHA2 rich・翻訳/ribonucleoprotein関連) に分けられ、両者とも ceramide 依存経路で生成されるエクソソーム由来でありながら異なる ILV 集団から派生することを示した。
先行研究との比較では、エクソソームを ALIX・CD63・CD9 等の共通マーカーで一括して扱う従来アプローチ (Valadi et al. NatCellBiol 2007) とは異なり、本研究は単一細胞種が同時に分子組成・サイズ・RNA・機能の異なる複数サブポピュレーションを放出することを proteomics + RNA + functional の3層で系統的に実証した点に新規性がある。CD63 が ESCRT 依存・非依存ソーティングを制御するという報告 (vanNiel et al. DevCell 2011) は、本研究のサブポピュレーションが異なる ILV 形成経路から派生するという解釈と整合する。これまで報告されていない HD-Exo の rRNA 欠損という RNA 組成の二分性は、サブポピュレーションが独立した RNA ソーティング機構を持つことを示す新規な知見である。
臨床応用の観点では、EPHA2 は VEGF-Eph シグナルを介した血管新生制御因子で癌における役割が確立しており、特定サブポピュレーションが腫瘍進展・転移に異なる寄与をする可能性があり、サブポピュレーション識別が診断バイオマーカー・治療キャリア開発にとって不可欠であることを示す。LD-Exo による SLC38A1 経由のグルタミン代謝改変は最近の大型EV観察とも整合し、EVベース治療への橋渡しに重要である。
残された課題 (limitation) として、(1) ESCRT / CD63 / CD9 依存性のサブポピュレーション別検証、(2) 取り込み・ターゲティング動態の差異、(3) in vivo 機能のサブポピュレーション別解析、(4) ヒト疾患検体での臨床的意義の検証が今後の課題として挙げられる。
方法
EV単離法 (ISEV基準対応): B16F10 マウスメラノーマ (およびマウス N2a / ヒト A431 / マウス H5V 内皮 / hTERT-MSC、ヒト血漿) の培養上清から differential ultracentrifugation (示差超遠心、2,000 → 10,000 → 110,000 × g) で MV と P110 (exosome pellet) を回収。P110 を 0.4–2.5 M の不連続スクロース密度勾配 (HEPES pH 7.4) で 200,000 × g, 16 h (または 72 h) で bottom-loading (upward flotation) し、10 fraction を分取。EV特性評価マーカー: NTA (粒子径・濃度)、Western blot (EVマーカー ALIX・TSG101・CD9・CD63・CD81、陰性対照 calnexin)、TEM (cup-shaped形態確認) を実施。組成解析は Bioanalyzer (RNA)、ラベルフリー nanoLC-MS/MS (Q Exactive, Sequest HT, 1% FDR) で行い GO 解析は PANTHER。subpopulation の機能評価は H5V 内皮細胞に LD-Exo / HD-Exo を 24 h 暴露し Mouse Gene ST 2.1 array (Affymetrix) で発現変動を q < 0.15 で抽出、選定遺伝子は RT-qPCR で検証。Ceramide 経路の関与は中性スフィンゴミエリナーゼ (nSMase) 阻害剤 GW4869 (7.5 μM) で評価し、UF-SEC (Sephacryl S-400, S-1000) と Nycodenz 勾配で artefact を除外した。統計手法: proteome 定量は ≥2/3 replicate で実施、機能アレイは q < 0.15 (FDR補正)、GO エンリッチメントは Mann-Whitney 検定で評価した。